軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 歯車

■カルディナ・某所

地平線までも砂の丘が続く大砂漠。

真昼の超高温と夜の超低温、そして大気の乾燥で生命の営みを阻む世界の中心を……紅白に染められた一機の機械竜が疾走している。

その機体こそは【サードニクス】。【器神】ラスカル・ザ・ブラックオニキスが素材を集め、彼のパートナーであるマキナが制作した機動兵器である。

現在、【サードニクス】はラスカルとマキナを乗せて一路【エルトラーム号】へと向かっている。

ドライフ正統政府の部隊を殲滅してからの強行軍であり、既に長時間に亘りホバー移動を続けている。

胴体と背中で地竜型動力炉を二基搭載したこの機体であれば、乗り手のMPを消耗する<マジンギア>では不可能な長時間の連続活動も容易い。

ただしそれは……機体の話である。

「…………」

複座型コクピットの前部座席で、ラスカルは据わった目でモニターを凝視していた。

厳密に言えば、意識を保つことに集中しなければ意識が落ちる状態である。

休まずに乗り続けていれば無理もない。まして、【サードニクス】に乗りながらも通信機で各所への指示を出し続けていたのだから。

「ご主人様。船を漕いでますよー。寝ますかー? 寝ちゃいますかー? スーパープリティーなメイドの膝枕で寝ちゃいますかー? ばっちこーい!」

後部座席のマキナはペシペシと自分の膝を叩きながらそんなことをのたまった。

「……お前、言うほど……プリ……、……」

「あ。マジで眠そう。ツッコミが飛んできません! というか、ご主人様。【テトラ・グラマトン】ならもっと休みながらいけるのでは?」

<IF>の本拠地でもある三〇〇メテル級戦艦【テトラ・グラマトン】。

彼らの住居であり、操船の全てはマキナの制御であるため移動を任せつつラスカルは就寝することもできる。

「調整不十分の【サードニクス】はご主人様のジョブスキルで動作安定取る必要ありますけど、調整バッチリのあっちならもう私だけでいけちゃいますよ?」

「今は……使えない。グランバロア、レジェンダリア。情勢が混迷を増し、カルディナ全体の警戒レベルが上がっている。それを掻い潜るには……【テトラ・グラマトン】では目立ち過ぎる」

「ああ、そういう理由なんですね。でも体調不良になっちゃいますよ? ご主人様、肉体的にそんなに強いジョブじゃないですし」

「……問題ない。気にするな。向こうで……会社運営を俺なしで任せられるようにセッティングするまでは……このくらいの超過労働……日常茶飯事だった。今は、こちらと、<IF>と……アイツのことだけでいい。楽なものだ」

明らかに意識が不確かな状態でそんなことを言うラスカルに、マキナは少し呆れた。

「楽という割にはフラフラしてますよ、もう。意地はらずに寝ちゃってください。戦闘機動はソロだと無理ですけど、移動だけならいけますから。ほらほら」

マキナはコンソールを叩いて前部座席のシート角度と位置を調整し、ラスカルの頭が後部座席の自身の膝に乗るようにセットした。

「……おい」

「ねんねんーおねむりーねちゃってーねれー」

そんな子守歌とも言えぬ言葉と共にマキナはラスカルの頭を右手で撫でて、瞼をそっと閉じさせた。

同時に――機械の左手で首筋に無針式の注射器を叩き込んだ。

「てめ……………………」

「よし、寝ましたね」

亜竜でも瞬時に【強制睡眠】状態へと叩き込む薬物(市場価格三〇万リル)を三本ほど一気に叩き込み、マキナはラスカルを強引に眠らせた。永眠しかねない荒業である。

こんな無理やりな肉体の眠らせ方でも<マスター>なら意識は残るはずだが、何も出来なければもう意識も眠るしかない。

「ととと、ちょっと操作が面倒になってきましたね。やっぱりご主人様……兵器運用特化超級職のスキル影響って大きいなー」

マキナはそんなことを言いながら、右手でコンソールを叩きつつ難度の増した操縦を続行する。

「ま、どうせ私は疲れない人造人間ですしー。ご主人様はゆっくり休んでくださいねー。よい夢をー」

強引に主を寝かしつけたマキナは、そう言ってどこか微笑ましげにラスカルの寝顔を眺めた。

アバターの意識を落とされたラスカルは、真っ黒な空間にいた。レイ・スターリングも度々訪れている場所である。(彼のように特典武具が話しかけてくるようなことはないが)

マキナに対し、『あのバカ、起きられないクスリなんて使いやがって。俺が急用でログアウトする必要が生じたらどうするつもりなんだ』と腹を立てたものの、あれはあれで自身を気遣っているのだということは分かっている。

なので、一先ずその意を汲んで眠ることにした。起きた後に必ず仕置きを行うことだけは決意して。

そうしてラスカルの意識は眠りにつき、夢を見る。

それは、今から数ヵ月前……彼にとって<Infinite Dendrogram>でも指折りに印象深いある日の夢だった。

二〇四五年一月は、<Infinite Dendrogram>において多くのことがあった時期だ。

最たるものは王国と皇国の<戦争>。

天地における<SUBM>【五行滅尽 ホロビマル】の出現。

単純な催しとしては新年イベントもあった。

だが、知る人ぞ知る一大事も起きていた。

それは、【破壊王】と【犯罪王】の激突。そして【犯罪王】の収監である。

「そうか……。ゼクスが負けたか」

<IF>にとっての凶報を、ラスカルは探索中の<遺跡>の中で通信機越しに聞いた。

そうなる可能性を考慮しなかった訳ではない。

むしろ、そうなるかもしれない相手だからこそ、ゼクスは戦ったのだろうと思っている。

(さて。ゼクスもいずれは出てくるだろうが、今後しばらくの運営が問題だな。ゼタの奴は荒れるだろうし、エミリーの暴走に対処できるゼクスがいないのもまずい。エミリーは仲間に牙を剥く子ではないが、それでもセーフティは要る。精神面の安定成長から考えても、な)

自分達のオーナーであり、様々な面で組織に必要だったゼクスという存在。

それが一時的に離脱して、負担は全て運営を担当するラスカルにのしかかっている。

ある意味、ゼクスの収監で最も影響を受けたのが彼だった。

(五人目のラ・クリマは……元々俺が交渉していたし、問題はない。【死神】の一派も……同盟関係はなんとか継続できるだろう。問題は傘下か。睨みを利かせないと歯向かう連中もいるだろうな。……やはり主幹メンバーが足りない。どうにかして指名手配の<超級>を増やす必要がある)

結果、固有能力は超有能だが人格に問題がある< 超級(バカ) >をスカウトすることになるのだが、それは後の話である。

(あとは……せめてこの<遺跡>で目当ての物が見つかればいいんだが)

この時のラスカルが探しているのは【テトラ・グラマトン】の自動制御に使えるような超高性能演算機である。

彼が探索中のこの<遺跡>はこれまで潜った<遺跡>の中でも最大規模。

先々期文明末期に作られたプラントだと判明しており、ここならば目当ての物がある可能性は高い。

しかも、不完全ながら機能の一部が生きている。

「…………」

ラスカルは紋章から歯車――TYPE:アドバンス・カリキュレーター、【無尽連結 デウス・エクス・マキナ】を取り出し、壁の機械に押し当てる。

「《コネクト》」

触れた機械を伝って、内部の配線や設備の構造、そして生きている機械やそのエネルギー連結経路の情報がラスカルにも伝わる。

それによれば、地下に広大なスペースがあり、そこに生きているエネルギーや機械が集中している。

まるで巨大な何かを作っている最中のように。

「……まさか二〇〇〇年かけて兵器を開発中、ってこともないだろうが」

しかし、その「まさか」がありえるのが<Infinite Dendrogram>だと、ラスカルは理解している。

地下のスペースに辿り着いた瞬間に、目覚めた先々期文明兵器に襲われるという事態は最悪だった。

「本来なら全回収はもっと後にしたかったが、手遅れになっても仕方ない」

ゆえに、速やかに 無力化する(・・・・・) ことにした。

「――《 ジャンク・ボックス(ガラクタ箱) 》」

ラスカルがデウス・エクス・マキナの固有スキルを唱えた瞬間、部分的に生きていた<遺跡>は 死んだ(・・・) 。

生きていた光源は消え去り、地下で唸っていた機械音は止み、<遺跡>はまるで地中の墳墓の如き静寂と死の気配に包まれた。

なぜ、そうなってしまったのか。

それは、歯車の触れていた壁面の機械、そこから伸びたケーブル、配電設備、地下の作業機械、作業機械と繋がった巨大な何か。

その全てが――デウス・エクス・マキナに 収納された(・・・・・) からだ。

固有スキル、《ジャンク・ボックス》。

その名の通り、デウス・エクス・マキナが接触した機械――接触面と連結している機械を含む――をデウス・エクス・マキナの内部に収納するスキル。

機械であるならば、盗難防止機構が組み込まれているものや<UBM>などの例外を除けば即時収納できる。

あるいは地下で建造中だった何かは盗難防止機構も組み込むはずだったのかもしれないが、未完成であったゆえにまだ組み込まれていなかった。

そもそも、大型化するほどに『盗んでも入れられるアイテムボックスがない』などの理由で盗難防止機構を積まなくなるのだが。

「…………」

電灯が消えて暗闇になった室内で、ラスカルはデウス・エクス・マキナを振って収納した機械の一つ……サーチライトを有する護衛用ドローンを放出する。

「……相当デカいな、これは」

同時に<エンブリオ>関連のウィンドウを開き、今しがた収納したモノのサイズに僅かに驚いた。

なお、デウス・エクス・マキナにアイテムボックスのような収納限界があるかは不明だ。

ラスカル自身もその上限を確認したことはない。

これまでに何度もこうして<遺跡>の機械を一挙に収納しているし、以前は海底から三〇〇メテル級戦艦を回収したこともあるが……未だ満杯にはなっていない。

デウス・エクス・マキナは<超級エンブリオ>でありながら、必殺スキルを含めて三つしかスキルを持たない。

その上でスキルの一つを機械限定の収納に特化したため、デウス・エクス・マキナの容量は凄まじい。

「さて、大物は回収したが、まだ目当ての演算機が見つかっていない。……崩れる前にもう少し探すか」

崩れる、とはそのままの意味。インフラを含めて内部の機械を大量に収納したために<遺跡>自体の構造が脆くなり、崩れ落ちるということだ。

これが原因で幾つもの<遺跡>が失われ、ラスカルは“遺跡殺し”と呼ばれて指名手配されている。

彼が<遺跡>を探索するということは、根こそぎ奪って壊し尽くすのと同義である。

「施設内で生きている機械はあれだけだったろうから、壊れている機械で直せるものを探すことになるか。……アイツの仕事を横で眺めていた頃を思い出すな」

昔を……<Infinite Dendrogram>を始めるよりも前のことを懐かしむ言葉を呟きながら、ラスカルは<遺跡>の探索を続行する。

そうしてドローンで室内や通路を照らしながら幾つもの部屋を通りすぎていく。

次第にパラパラと土が天井から落ちてきているが、崩落まではまだ時間がある。

仮に崩落するとしても、別種のドローンや機械兵器を出して対応する心算だ。

そうして、両手の指を使い終わるくらいに部屋を巡って……。

「……ふん」

辿り着いた部屋で、それまではなかったものを見た。

それは、大量の人骨だった。

<遺跡>の年代を考えれば、先々期文明のもの。

空調が生きていたために風化が進み、崩れているものも多い。

しかし、痕跡でそれが人骨だと分かる。

「集団自殺でもしたのか?」

劣化が激しく、もはや死因の確かめようもないが……部屋が無事な状態でまとまって死んでいるのはその線が濃いように思えた。

サーチライトを回しながら、室内を探索していく。

「ッ……」

そのとき、死体にも物怖じしなかったラスカルが僅かにだが慄いた。

それは風化した人骨ばかりの室内で―― 人の顔(・・・) が見えたからだ。

数多の崩れた人骨の只中で…… ソレ(・・) は美しい人の姿を保っていた。

衣服はとうに風化していたが、その体は遺っている。

体は無謬ではない。額に傷があり、右目は失われ、左腕は欠落している。

それでもなお、ソレは美しい。

二〇〇〇年以上の時を、そのままで在り続けた存在がそこには在った。

「これは死体ではなく……機械。……そうか、これが煌玉人か」

煌玉人、そういうものがあると<遺跡>に遺された資料で見たことはあった。

名工フラグマンの創りだした至高の人造人間達。

壊れた状態であっても、実物を見るのは初めてだった。

「……収納できないな」

デウス・エクス・マキナを触れさせるが、収納はできない。

つまりは、盗難防止機構があるか、<UBM>化しているということ。

今回は前者だった。

「…………」

ラスカルは少し考え込んで、しかしすぐに結論を出す。

「繋ぐか」

ラスカルがデウス・エクス・マキナをくるりと回すと、歯車は一回り小さくなる。

それはあたかも、人間の目玉程度のサイズだった。

煌玉人の破損した右目の中、頭脳に近い部分に――差し込んだ。

「――《コネクト》」

ラスカルの宣言と同時に、デウス・エクス・マキナと壊れた煌玉人が繋がった。

固有スキル、《コネクト》。

対象の機械とデウス・エクス・マキナ内部の機械を連結するスキル。

それによって情報を取得し、あるいは機能を連結することもできる。

動力炉を失った機械があれば内部の動力炉と繋ぎ、電子頭脳を失った機械があれば内部の電子頭脳と繋ぎ、補って起動可能状態にする。

本来の部品形式の違いやコネクター規格の違いは関係ない。エネルギーやプログラムが同種であれば、用途別に繋ぐことができる。

不具合が発生することもあるが、それはラスカルの【器神】としてのジョブスキルで大半を抑え込むことができる。

結論から言えば、この煌玉人は額の動力コアが砕けたためにエネルギーが減少し、動作不能状態に陥っていた。

ゆえに、デウス・エクス・マキナの内部に格納された先々期文明の動力炉(本来は大型機械用のもの)と繋ぎ、エネルギーを補充したのである。

そうして、煌玉人は流れ始めたエネルギーにビクビクと全身を震わせたが、それも次第に収まり……左の瞼を開き、残っていた左目でラスカルを見る。

「…………」

「…………」

そうして、暫し無言のまま二人は見つめ合う。

やがて煌玉人は右手で自分の右目……そこに収まった歯車に触れて、何事かを悟る。

「なるほど。“化身”に鹵獲されたってことですね」

「……鹵獲?」

ラスカルは煌玉人がなぜそんな言葉を使ったのか分からなかった。

「先々期文明……アンタを作った文明が戦いの果てに滅んだのは知っているが、まさかその敵の一派だとでも思っているのか? だが、生憎と別口だ。二〇〇〇年も前のことは知らん」

嘘偽りなく、ラスカルは自身の考えを述べる。

だが、それに対して煌玉人は首を振った。

「いいえー。あなたは“化身”の一派ですよ。自覚はないのかもしれませんけど」

「なに?」

「それに、私があなたに不都合なこと……例えばあなたの首を取ろうとしたら、私また壊れますよね?」

「……そうだな」

今の煌玉人は、デウス・エクス・マキナ内部の動力炉から供給されるエネルギーで動いている。

サイズ的にデウス・エクス・マキナ内部に収めていなければ、煌玉人には積めない代物だ。

それをストップさせるか紋章に戻せば……あるいはラスカルがデスペナルティになって消えれば、煌玉人はまた動作を停止する。

「……ああ、やっぱりなくなってますね」

煌玉人は自分の額をコンコンと叩いた。

「超小型の動力コア。あれって素材が希少だから私達姉妹の分だけで、予備もないんですよね。だから、あなたの歯車がないと私はもう動けません」

「……そのようだな」

「あと、私の《アストラル・マニピュレーター》……左手がないんですけど、知りません?」

「俺が見つけたときから、コアも右目も左手もない」

「残念です。いつなくなったんでしょうね、左手。壊れる直前はあった気がするんですけど。……知りません?」

「……俺が知るわけないだろう」

ラスカルは優れた人物ではあるが、それでも二〇〇〇年の時を超えた名推理を披露できるような人外ではない。

「まぁ、分かりました。これが今の私ってことですね。じゃあ、これからよろしくお願いします」

「……アンタが何をどう納得したのか、即決すぎてこっちが理解しきれないんだが?」

「壊れる前の任務とかもうとっくに終わっちゃってますし、私の創造主……フラグマンのアホもきっと本人は生きてませんし、あなたの劣化“化身”がないと私また機能停止しますし、もう色々考えてあなたに従うのが一番良いかなーって」

「…………」

煌玉人は若干投げやりというか、「もうどうにでもなれー。テケトーだーい」というロボットらしからぬ雰囲気を放っていた。

「……アンタの話を聞いていると、俺はお前の敵と同種らしいがそれはいいのか?」

内心で“化身”に対する推論を幾つか立てつつも、ラスカルは聞くべきことを尋ねた。

それに対する煌玉人の回答は……。

「私はここで作ってた 四号(・・) みたいに“化身”討伐のために生まれたわけじゃないですからー。フラグマンに任されたこのプラントも完全に機能停止してますし。代行の上司もそこで骨になってますし……どれですかね?」

人骨の一つを指差そうとして、目当ての人物の骨がどれだか分からずに首を傾げていた。

「まぁ、何にしても昔のしがらみなんてもうどうでもいいので、私は私らしく生きるのです。という訳でこの歯車貸してください。代わりに演算能力とか技術とか知恵とかエロティックボディ!とか貸しますので」

「いや、四つ目は要らん」

ラスカルは突っ込みつつも、『それに言うほどエロティックでもないだろお前』という言葉はひとまず呑み込んだ。

相手がロボとはいえ、裸の女性相手に『魅力に欠ける』とバッサリ言わないだけの優しさはラスカルにもあった。

「……で、つまり お前(・・) は俺の物になるってことでいいんだな?」

呼び方が少し粗雑になっているあたり、この短時間でラスカルも煌玉人への接し方を考え直している気配があった。

「わぁい情熱的な言葉ー。それでいいですよ、 ご主人様(・・・・) !」

「…………」

しかし接し方云々は煌玉人も同様。

楽しげではあるが、忠誠や敬意は一切見えない『ご主人様』発言である。

それでも親しみは溢れているようだった。

「ご主人様、とりあえず服ください。右目の眼帯と義手もください。あ、やっぱり服はメイド服が良いです。その方が『ご主人様』って言うときにノれます!」

「…………」

この時点で『拾ったのは間違いだったかな』、とラスカルも内心で思った。

が、これが求めていた超高性能演算機である以上、拾わないという選択肢はやはりなかった。【テトラ・グラマトン】……そして何より<IF>のために彼女の力は必要である。

「……ともあれ、理解した。これからお前は俺の所有物だ」

「じゃ、所有者登録するのでお名前ください」

「…………」

『こいつ急にロボットアピールしてきたな』と思ったラスカルだったが、必要なことではあるので自己紹介はすることにした。

「俺はラスカル・ザ・ブラックオニキス。ジョブは【器神】。お前の右目に入っている歯車は俺の<エンブリオ>、デウス・エクス・マキナだ」

「登録しましたー。じゃあ改めて私も自己紹介です!」

煌玉人はビシッと(裸で)ポーズを決めながら、自らも名乗らんとする。

「私は【 瑪瑙之(アゲート) 】……ああ、もうコアも改変兵装もないんでした! それで元の名前を名乗るのも間が抜けてますねー……」

が、名乗る名前に何か問題があったのか、名乗りは途中で止まった。

「じゃあこれからはマキナってことで!」

そして投げやりに、「もうこれでいいやー」と新しい名前を自らにつけたのである。

「おい」

「今の私これと不可分ですし。どうせこれの半分はもう私のものじゃないですかー」

「……貸しているだけだ」

そんな脱力するやり取りではあったが、二人は互いの名を教え合い、契約した。

かくして先々期文明の最高傑作は、現代の【器神】のパートナーとなったのである。

そんな始まりの日を夢で思い返しながら、ラスカルは思う。

――こいつ、この頃が一番ポンコツ度合い控えめだったな。

まだ猫を被っていた時期である。

こと資産・資材の食い潰しにかけては恐ろしいポンコツぶりを発揮するなど、当時のラスカルに予想しろという方が無理な話である。

ラスカルの被った損害は、<超級>の平均散財金額と比してもいささか桁が違う。

しかしそれでも……とラスカルは思う。

――マキナがいて、良かったとは思うがな。

ゼクスが収監され、ゼタとの仲も良くはなく、エミリーは気がかりで、ラ・クリマは異常で、ガーベラはバカだった。

そんな状態の<IF>運営で、最もラスカルを支えたのはマキナである。

本拠地である【テトラ・グラマトン】の制御、隠蔽用のアクセサリーなど各種必須装備の開発、ラスカルの補佐。

かつて先々期文明において、最大の天才と謳われた男の助手を務めた煌玉人は、問題を多々抱えていても間違いなく優秀であり、大きな助けとなっていた。

そのことに、ラスカルは感謝を覚えもするのだが……。

――……いや、やっぱり礼を言うのは癪だな。

日頃の感謝を口にする前に、日頃の被害が脳裏をよぎるのである。

ともあれ、それもパートナーとしての一つの在り方。

<マスター>と<マスター>から生じた<エンブリオ>の在り方とは違うかもしれない。

それでも二人の関係は噛み合った歯車のように回っていたのである。

To be continued