軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十一話 ビッグ・オア・スモール

□【聖騎士】レイ・スターリング

クランで集まった翌日、俺はギデオン伯爵邸に隣接した騎士団の詰所に来ていた。

しかし騎士団に用事がある訳ではなく、来た理由はこの詰所の奥にある施設だ。

俺がギデオンにいる間、定期的に暇を見て通っていた場所……呪われた武具の保管庫である。

その保管庫で俺は呪われた武具を解呪するバイトをしていた。【紫怨走甲】を装備して、呪われた武具の傍にいるだけでいいお手軽なバイトだ。

解呪すると装備は元の高性能な武具に戻る。稀に呪いの力で形を維持していて、解呪すると崩れるものもあったが、それは不可抗力なので仕方ないということらしい。

そのバイトによって王国には解呪された武具が残り、俺は【紫怨走甲】の怨念を溜められる。両方に得のあるバイトだった。

また、仕事の報酬としてアイテムボックスを一〇箱解呪するごとに一つ、好きな武具を持って行っていいことになっている。

かれこれ六〇箱は解呪したので、六個貰える計算だ。

解呪した武具は明日以降の“トーナメント”の副賞になるので、今日の内に俺の報酬分を受け取りに来た、というわけだ。

ちなみに今日はルーク、それと霞達三人も同行している。

というのも、俺はこれまで解呪中に貰う報酬を見繕っていたが、今まで一つも選んでいない。

レベルが不足していたり、ネメシスの反対にあったり、俺のスタイルと噛み合わなかったりで、一つも選べなかったという現状だ。

今日中にここから六個選ぶというのは、難しい。不要な物を適当に貰い、換金するか死蔵することになりかねない。市場に出回ることも稀な希少武具もあるのに、それでは勿体ない。

加えて、俺は今装備している特典武具や新しい【VDA】、それとスタイルの都合で外すことはない【ブローチ】、あとは【ストームフェイス】によって装備枠がかなり埋まっている。

今の俺は多くを選べないし、必要性も薄い。

そこで、四個分の枠はクランのオーナーとしてクランの戦力アップに使うことにした。

クランの中でも俺と同じルーキー(もうルーキーという時期は抜けているかもしれないが)の四人に、一つずつ装備を選んでもらう形だ。

クラン全体で見たときは、多分これが一番有効な報酬の使い道だと思う。

「レイさん、本当に良いんですか?」

「ああ。明日から“トーナメント”だし、今後も考えて戦力アップしときたいしな」

「イェーイ! オーナーってば太っ腹ー!」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます……」

それから少しして、厳重に封印された保管室の扉を職員さんに開放してもらい、俺達は中に入った。

コンテナ型のアイテムボックスが積み重なった部屋。かつては怨念の溜まり場とも言うべきドロドロとした圧迫感があったが、それらのほとんどは【紫怨走甲】に吸われたので今は骨董品の保管庫に近い空気である。

「そっちが解呪済みのアイテムボックスだから、その中から探してくれ。選んだら職員さんに申告頼む。あ、《鑑定眼》効果のある虫眼鏡は人数分借りてあるから」

「ハーイ‼」

狭い室内、一番声が大きいイオの返事だけ耳に入ったが、他のみんなも各々返事をして選び始めているようだった。

そしてそんなみんなとは少し離れ、俺は別積みのアイテムボックス……まだ解呪されていない武具の山に取り掛かる。

「これまで解呪したものの中にはなかったからのぅ。今日解呪する中に良いものがあればいいが……」

「ネメシス。とりあえず二つは選ばないとだから審査は緩めでな」

「む……だが、武器に対しては緩めんからな」

「はいはい」

ネメシスは同じようなことを何度も言っている。自分の代わりに俺を守る武器、というもののハードルをかなり高く設定しているらしい。

俺の方もネメシス以外を振るって戦う自分、というものは想像がつかないが。

「…………」

「どうしたネメシス、顔赤くして……」

「……察するがいい」

「?」

まぁ、いいか。

とりあえず解呪作業を進めていこう。

武具はともかく、アクセサリーなら何か良いものが見つかるかもしれない。

そんな風に解呪を続けて一時間ほどが経った頃、俺達はまだ選び続けていた。

イオだけはさっさと「これが良いです!」とアニマルな装いの鎧を選んでいたが、俺を含めて他はみんなまだ迷っている。

早々に決めたイオも、霞とふじのんの分を探しているようだ。

ルークは慎重に選別している。聞いてみると「アンデッドに有効な装備を探しています」とのことだった。どうやら“トーナメント”の先、<UBM>への挑戦を念頭に置いた装備選択をしているらしい。

ルークの今の従属キャパシティならばリズは普通に収まる。《ユニオン・ジャック》の合体時間さえ稼げれば、上位陣にも通用するだろう。

それとルークの推測では、ルークが挑むアンデッドは恐らく人気が薄いだろうということだった。行えることが明確に判明しているのにさほど特殊性がなく、それでいてランクも不明。今の王国の上位ランカーに状態異常を主体として戦う者も少ないので、恐らく勝ち上がれる可能性は高いということだった。

やはりルークは色々と考えているらしい。

ちなみに、ルークの相方であるバビは探すのに飽きたのか保管室の隅で寝ていた。

「むぅ、やはり見つからんものだのぅ」

「そうだな」

今日の解呪対象は武器が多い。

ネメシスの審査は厳しいが、それ以上に普通の武器だと俺のスタイルでは生かしきれない。

武器がネメシスでなければ、俺は基本のステータスが低く、持ち合わせたスキルもピーキーな前衛だ。

HPだけはかなり伸びたが、それを攻撃に活かせるのはやはりネメシスだけなので……代わりがいない。

「今更普通の武器を使ってもな。……お、久しぶりのアクセサリーだな」

次の解呪対象をアイテムボックスから取り出すと、それは腕輪型のアクセサリーだった。

そこまで重度の呪いではなかったのか、一分もすれば解呪された。

「……? 【 大小喚の輪(ビッグ・オア・スモール) 】?」

手にしていると、名前は分かる。

しかし、装備効果が『不明』になっている

これはあれだな、高レベルの《鑑定眼》じゃないと詳細が分からない類だ。借りてる虫眼鏡じゃ効果が読めない。

……まぁ、いいか。なんか物理じゃなくて魔法系に由来しそうな装備だし、俺が使うこともないだろう。

俺は【大小喚の輪】を解呪済みの箱に移し、次の解呪対象を取り出して……。

「…………うん?」

なぜだろうか。

俺はちゃんと【大小喚の輪】をアイテムボックスに入れたはずだが……なぜか俺の左手がまだそれを握っている。

いや、正確には……俺の 籠手(・・) が握っている。

「……ガルドランダか?」

俺の問いかけに応えるように左手の籠手は勝手に動き、【大小喚の輪】を俺の右手に嵌めようとしている。

こいつが独りでに動くのは珍しい。それほどにこの【大小喚の輪】がこいつにとって重要ってことか?

「……まぁ、試しに嵌めてみるか」

「だのぅ。既に解呪は済んでいるのだし、装備したら外れないということもなかろう」

ネメシスとそのように話し、俺は【大小喚の輪】を右手に装備した。

アクセサリーの枠が一つ、それで埋まる。

すると、再び左手の籠手が動き、指で床をなぞりはじめる。

その軌跡を目で追うと、『《極小》とつけて、私を召喚』と書いているように見えた。

「……いや、ここでお前呼んだら大惨事だろう」

具体的には、召喚後の俺がデメリットで大惨事だ。

三重状態異常か、人体発火か、あるいは肉体奪取か。いずれにしてもろくなことにはならない。

しかしそんな俺の危惧に対し、ガルドランダは『大丈夫だから、呼ぶ』と応える。

『それに前回は踏み倒された』

「…………」

そういえば、【獣王】との戦いでガルドランダを呼んだものの……デメリットが発生する前に俺はデスペナルティになった。

復帰した後も特にデメリットは生じなかったので、そういうものだと思っていたが……ガルドランダ自身はそれを根に持っていたらしい。

……いや、俺がデメリット受けてお前に何かメリットあるのか?

「……まぁ、分かったよ。あ、ルーク。俺が変なことになったら対処頼む」

「分かりました」

流石にルークは理解が早く、何が起きてもいいようにリズを構えている。

そうして用意が整ったところで、俺はガルドランダのリクエストに応える。

「《極小》・《 瘴焔姫(ガルドランダ) 》」

唱えてすぐに『そういえば召喚時間と消費MPを選択していなかった』と気づく。

しかし、どういう訳か召喚はできたらしく、【瘴焔手甲】は俺の手を離れる。

直後、【大小喚の輪】が発光し――【瘴焔手甲】が消えた。

そして……ガルドランダの姿もない。

「……………………はぁ!?」

俺はすぐには状況が理解できなかった。

《瘴焔姫》は、【瘴焔手甲】を召喚媒体としてガルドランダを召喚するスキルだ。

【瘴焔手甲】自体は召喚されたガルドランダに装備される。

しかし今、ガルドランダの姿はなく……【瘴焔手甲】もなくなっている。

「一体何が……まさか!」

まさかあの【大小喚の輪】は、召喚モンスターを解放する類のアクセサリーだったのだろうか。

だとすれば、ガルドランダは自由を得てどこかに……

「…………」

しかし焦る俺に対し、周りはどこか驚いたような顔でこちらを見ている。

というかその視線が俺ではなく……俺の頭の上に注がれているような……。

「レ、レイ……。頭の上……」

「……なんか、前にもこんな空気あったな」

ペンギンの格好したフランクリンに一服盛られた時、こんな感じだったような……。

そんなことを思い出しながら、俺が頭上に手をやると……妙な感触があった。

「……ッ」

その直後、指先に痺れを感じた。

痛覚オフのアバターでなければ、恐らく痛みを感じていただろう。

俺が恐る恐る痺れを感じる手を、目の前に持ってくると……。

――指先になんか変な生き物が噛みついていた。

その生き物はなんというか……SD体型の小人だった。

赤銅色の肌で、額には角を生やし、両手には見事にスモールサイジングされた見覚えのある手甲を装備している。

それは……偶然の一致でなければ……。

「…………ガルドランダ?」

指先に噛みついていた生き物を手のひらに下ろし、問いかける。

『キシャー』

……返事が人語ではなかったが肯定らしいことは分かった。

なぜこうなったのか。……まぁ、深く考えなくてもこの【大小喚の輪】のせいだと分かる。

「……ちょっとログアウトして調べてくるわ」

「そうした方が良さそうだのぅ……」

『キシャー』

……ガルドランダ、何言ってるか分からん。

結論から言えば、Wikiに詳細が載っていた。

【大小喚の輪】は大昔に作られたマジックアイテムで、希少品だがこれまでに四つほど見つかっているらしい。

装備効果は、『召喚時の出力調整』。

召喚時に《極小》、《縮小》と宣言すれば、召喚モンスターを弱体化する代わりに低コストで呼べる。

逆に《極大》、《拡大》と宣言すれば、コストが増加する代わりに召喚モンスターを強化できるらしい。

ただ、強化の方はコストが数倍・数十倍に増し、強化度合いは増大したコストの十分の一程度の比率でコストに見合わないため、あまり有用ではないらしい。

「で、《極小》で呼んだ場合はほとんど戦闘能力がない代わりに、コストも極めて小さくなるわけだ。それってお前のデメリットもか?」

ログアウト前に召喚解除した時は、特に何も起きなかったけど。

『キシャー』

「肯定と受け取っておくよ。……気軽に呼べるのは良いとして、会話もできないって少し問題だな」

「それでしたら、非人間範疇生物用の翻訳アイテムを購入すればいいのでは? ギデオンなら市場に出回っていると思いますよ」

「ああ、そんなもんあるんだな。探してみる。けど、ルークが使ってるの見ないけど」

「僕はそんなものなくても分かりますから」

なるほど。ルークならありえる。

「ともあれ、この分だと俺が貰うアイテムの一つはこれになりそうだな」

これ選ばないとガルドランダに恨まれそうだし、……?

「ガルドランダどこ行った?」

「御主の頭の上だ」

またか。

召喚した時といい、俺の頭の上が気に入ったんだろうか?

……ん?

「なぁ、ネメシス。なんか頭の上がちょっとしびしびするんだが……」

「ああ。小さいガルドランダがさっきから御主の頭を齧っておるな。髪の毛をモシャモシャと食べておる」

「止めろよ!?」

そういやコイツ人食い鬼だったな!?

まだ俺の体(の肉)を狙ってたのかよ‼

『キシャー』

「む、私でもなんとなく分かるぞ。きっと『美味しい』と言っておるのだろう。…………じゅる。のぅ、レイ。物は相談なのだが……」

「食わせねえよ!?」

カニバリズムが二人とか洒落にならねえから!!

To be continued