軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話 クラン集合

□【聖騎士】レイ・スターリング

日が暮れた頃、ようやくギデオンに着いた。

「……思ったより遅れたな」

「まぁ、途中であんなことがあればのぅ」

王都を出た俺達は、シルバーに乗って真っすぐギデオンに向かった。

飛行という移動手段の最も良い点は、道を無視して真っすぐ目的地に向かえることだ。

それもこの世界の飛行手段は騎獣や風属性魔法など、離陸にも着陸にもスペースを取らないものが多い。

であれば、もっと航空網が発展していていいとは前から思っていた。

しかし今日、そうなっていない理由を体感したのである。

「……まさか、空中で野良の純竜と遭遇するとは」

「久しぶりの空中戦でちょっとやばかったのぅ」

そう、ギデオンに向かって飛んでいる最中に、偶然に天竜種の純竜と鉢合わせたのである。

何とか単独で撃退できたものの、かなりしんどかった。

「アウトレンジからブレスばっかり吐いてきたからな……」

「おかげで《地獄瘴気》も届かなんだしのぅ」

状態異常で弱らせたり、近接戦でカウンターを叩き込むといういつもの戦い方ができなかったのである。フランクリンの事件の少し後に純竜クラスのワームをソロで倒したことはあるが、あれよりも余程に厄介だった。

そして今回の一件で理解した。あんなのがあちこち飛んでる世界で航空網なんて発展しない。

鍛えた戦闘職ならばともかく、一般の人だと戦闘に巻き込まれて死にかねない。

「……あ、思い出した」

「何をだ?」

「フランクリンの事件の前、ユーゴーと喫茶店で話した時のことだよ」

「……ああ、あれか」

ゴゥズメイズ山賊団の事件の翌日、まだ敵対していなかったユーゴーと世間話をしていた時のこと。

ユーゴーから<マジンギア>など皇国の科学技術について聞いていた。

「<マジンギア>の種類は、ユーゴーの乗る人型ロボットと、パワードスーツ、それと戦車の三種類しかないのか?」

「ああ。そもそも、オーナー達が【マーシャルⅡ】を作るまでは二種類だったそうだ」

「…………」

「どうかしたかな?」

「いや、船はグランバロアの専売特許だから分かるんだけどさ。……飛行機はないのか?」

俺がそう尋ねると、ユーゴーは難しい顔をした。

「……ないね。そうだな、喩えると……猛禽の空で小雀は羽ばたけないということさ」

「ああ。飛行機関連の技術が未熟すぎて、飛行能力持ちのモンスターに負けるのか」

「そういうことだ。飛行速度、旋回性能、攻撃能力。全ての面で今の飛行機は空で生き残れない。なにせ、超音速で飛び回る生物も珍しくないからね。それを相手にするには、生半可な飛行機では話にもならない」

「……翼とか傷つくと墜落しそうだしな」

少なくとも、純竜と競い合うのは難しいだろう。一発の被弾で飛行能力が落ち、そこから先は一方的になりかねない。

「であれば、同じく天竜種の純竜に乗る方がいいのか」

「そもそもテイムされた純竜の絶対数が少ないけれどね。ともあれ、そんな訳で飛行機は存在しない」

「そっか。飛行機があれば遠くの国にも行きやすくなると思ったんだけどな」

「そうだな。現状、東側の国に渡るにはグランバロアの海路を使うか、あるいは砂漠を陸路で……徒歩で超えるしかない」

「砂漠を徒歩か……。中々厳しそうだな」

「ああ。……けれど、いつか遠くの国にも行ってみたいものだ」

「そうだな」

そんなユーゴーとの会話も、もう随分と前だったように感じる。

「あいつ、今頃どうしてるかな……」

「まだ皇国におるのではないか?」

「それだと、皇国との<戦争>が起きればまた出くわすかもしれないな」

だけど何となく、あいつはもう皇国にはいないような気がする。

……それこそ砂漠を徒歩で歩いていそうな気がするのは何故だろう?

「さて、待ち合わせ場所に行くか」

「うむ。予定外のことがあってかなりギリギリだからのぅ」

今夜はクランのみんなで集まって食事をとりながら、明日やる予定の本拠地探しと明後日からの“トーナメント”の話し合いをする手筈だ。

約束の時間まであと十分ほど。急げば間に合うだろう。

十分後、俺とネメシスは約束していた店に到着した。

店の予約は先にギデオンに戻ったルークに任せていたけど、店頭には『<デス・ピリオド>様貸し切り』という看板が掛かっていた。恐らく気を利かせて貸し切りにしてくれたのだろう。

「……なんだか物騒に見えるのぅ」

「クラン名だから仕方ない」

俺達がドアを開けると、ドアに取り付けられたベルがカランコロンと音を立てた。

店内には大きな丸テーブルがあり、それを囲って見知った顔ばかりがあった。

「お待たせ、みんな」

「レイさーん、ギリギリですよー?」

先んじて酒でも飲んでいたらしいマリーが、頬を赤らめながらそんなことを言ってきた。

「よし、まずはレイさんもワイン飲みま……あいたぁ!?」

「彼も私も、というかクランの大半が未成年なのだから自重しなさい」

そんなマリーの後頭部に、ビースリー先輩がチョップを入れていた。

言われてみれば、兄とレイレイさんとマリー以外は未成年である。

しかしいいところに入ったチョップが頭に来たのか、マリーが反撃を開始する。先輩もそれに応戦。流石に屋内なので武器と<エンブリオ>は使用していないが、ロックアップの取っ組み合いである。

そんな二人の様子を「師匠とビースリーさんは相変わらずですね」、「前に見たときもこんな感じだったよね!」、「と、止めなくていいの……」とふじのん達が話している。

……師匠とはマリーのことだろうか。

一体何の師匠なのか、聞くべきか少し悩む。

多分戦闘ではなく、以前スケッチブックに描いていたあれこれに関することだろうから。

「レイさん、ネメシスさん。こちらの椅子が空いてますよ」

「こっちー♪」

ルークとバビがそう言って、自分達の近くの席を引いてくれた。

「ありがとう。しかしやっぱ俺達が遅かったか。みんな揃って……あれ?」

大きな丸テーブルの席には、ほとんどのメンバーの姿がある。

しかし……。

「兄貴は?」

あの目立つクマの着ぐるみが店内のどこにも見えない。

レイレイさんの姿も見えないが、あの人はリアルがとても忙しいらしいので今回も欠席なのだろう。

「お兄さんはさっきまでここにいたのですが、誰かから連絡を受けた様子で、『迎えに行く』と言っていました」

「迎えにって誰を……?」

「分かりません。『内緒クマー。後でびっくりさせるクマー』と言っておられたので」

……びっくり?

「料理は先に食べていていいそうです」

「おいおい、そんなこと言っていいのかよ。うちの相棒が全部食っちまうぞ」

インテグラの菓子みたいに。

……インテグラの菓子みたいに!

「安心するがいい。久しぶりの会食だからのぅ。ちゃんとスローペースに抑えるとも」

なるほど、それなら安心だ……などとは言わない。

スローペースでも『食う量を抑える』とは全く言っていないから。

「孵化した日の歓迎会で、ログアウトしている間にクマニーサンにアラカルトを全部食われたことを忘れてはおらぬが……仕返しをしようとは思わぬ」

「……そんなこと覚えてる時点でかなり根に持ってないか?」

食べ物の恨みは恐ろしいというかなんというか……まぁ、精々他の人のことも考えて食べてくれよ。

そうして食事を楽しみつつ、俺達は話し合っていた。

みんなから本拠地の希望などを聞いていたが、大まかにまとめると『個室がある』(全員)、『大きな浴場がある』(女性陣)、『会議などでみんなが集まれる大部屋がある』(俺と先輩とルーク)、『大型のモンスターを放し飼いできるスペースがある』(ルークと霞)、『食堂がある』(ネメシス)、『プールがある』(マリーとバビ)といった条件だった。

何だか色々と条件が付いたが、そこまで特殊すぎる条件もない。これなら昨今の情勢で手放された商家の豪邸などはクリアしていそうだし、予算があればそう苦労せずに見つけられそうだ。……予算がないと不可能なレベルの条件だけど。

しばらくはこのギデオンで探すことになるだろう。

王都の方も見繕っていたが、首都だけあって良い立地の物件はかなり埋まっていた。というか、某宗教団体クランやファンクラブがあちこちの土地を買い占めたりしていた。

それと王都だとその宗教団体や王国最大のPKクランと近い場所に本拠地を構えることになり、何だかトラブルを呼び込みそうなので避けたいところだった。

……アズライトも『そういう事情では仕方ないわね』と納得していたのが、この理由の怖い所である。

そうこうして一時間近くが経った頃、ドアのベルが音を立てて、聞き慣れた声が聞こえた。

『よーっす。お待たせクマー』

「兄貴。待って……え?」

いつも通りクマの着ぐるみの兄が店内に入ってきて、俺達は驚いた。

さほど幅がある訳でもないドアだったが、あの大きな着ぐるみで器用に体をくねらせてドアをくぐっている。

ただ、俺達が驚いたのはそんな兄の入店方法ではなく、兄に続いて入ってきた人達に対してだ。

「やあ。お邪魔するよ」

「……ふふ、お久しぶりね」

兄に続いて――フィガロさんとハンニャさんが現れたのである。

「フィガロさん! 体調が良くなったんですか!」

あのハンニャさんの事件の直後、持病の悪化で入院していたフィガロさん。

あれから暫くログインもしていないようだったけれど……こうして今ここにいるということは……。

「ああ。もうすっかり良くなった……わけではないんだけどね。けれど、気分はとても優れているよ」

「?」

フィガロさんにしては珍しい曖昧とした返答と表情だった。

そして、隣のハンニャさんもちょっと困った様子だ。

……いや、困りながらも……照れてる?

「……実はリアルで彼女の顔を見る度にドキドキして心臓発作が起きてね。その連続で入院が長引いたんだ」

……なにそれ。

「愛しい君に触れることすらまだ満足にできない僕を許してほしい」

「ええ。けれどそれもあなたからの愛の証だって分かるから……。それにこちらなら、いくらでも見つめ合えるわ……」

「冬子……」

「ヴィンセント……」

……あの、急に二人の世界作ってません?

しかもリアルの名前で呼び合うのはどうかと思いますよ。ここ貸し切りだからまだいいけど。

「……しばらく見ないうちに恐ろしくバカップルになったのぅ」

「…………あれが今のフィガロですか」

ネメシスがどこか呆れた様子で、先輩がとても複雑な表情でそんなことを言っていた。

「……兄貴」

『俺も驚いたクマ。リアルで会ってたそうだから、そっちで仲が進展して……したのか? ……ま、とりあえずそんな訳でこいつらはこんな感じクマ』

「何と言ってみようもないけど……とりあえず……おめでとうございます?」

お祝いの言葉を述べて、とりあえず拍手を送った。

他のメンバーもどうしていいか分からない顔の人が多かったけど拍手している。

「ありがとう!」

「ありがとう。それで、僕達がここに来た理由なのだけど……」

ハンニャさんが満面の笑顔で拍手を受け取り、フィガロさんも会釈してから……ここに来た本題を口にし始めた。

「レイ君のクラン、<デス・ピリオド>に僕とハンニャも加入させてほしい」

「!」

以前、復帰したらフィガロさん達も入るかもしれないとは聞いていた。

そうして今、その時が来たようだ。

「構わないかな?」

「ええ、もちろん!」

フィガロさんが手を差し出して、俺がその手を握った。

そうして、<超級>であるフィガロさんとハンニャさんの、<デス・ピリオド>への加入が正式に決まった。

To be continued