軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拾話&三十二話 【一騎当千 グレイテスト・ワン】

□■とある特典武具について

<Infinite Dendrogram>の時間でサービス開始からちょうど一年、内部の時間で三年が経ったころ。

【獣王】ベヘモットが皇国の辺境で ソレ(・・) と会敵したのは全くの偶然だった。

当時から、ベヘモットはクラウディアと友人であった。

立場は弱くとも皇族の一人であるクラウディアと、<マスター>のベヘモットがどのように知り合ったかはまた別の話だが、その頃から二人の間には確かな友情があった。

それゆえ、友人であるクラウディア……その仮想人格であるラインハルトからの 頼み(クエスト) で、ベヘモットはドライフ皇国北東の辺境に調査に赴いていた。当時はまだラインハルトはクラウディアとの情報共有がなされていなかったので、正確には『ラインハルトに頼まれてクラウディアがベヘモットに依頼した』という形式だったが。

彼女が赴いた皇国辺境は、原因不明の大旱魃と<厳冬山脈>に程近いゆえの低温、そして環境変動に伴う強力なモンスターの跋扈によって数年前から無人の野と化していた。

モンスターを狩る<マスター>でさえ、ベースとする街がないために長くは滞在できず、結果として皇国辺境は人の住む世界ではなかった。(なお、そのように荒れ果てた環境は、現在も皇国内で拡大の一途にある。最終的に、皇国全土がそうなる可能性もあると現在のラインハルトは試算している)

ベヘモットが皇国辺境に調査に赴いた理由は二つ。

一つは、旱魃の原因究明。指定された数箇所で土壌を採取し、ラインハルトに届けること。

もう一つは……<遺跡>の調査である。

ラインハルトがとある筋から入手した古文書に、皇国辺境の<遺跡>が記録されていたのである。

それが真実であるかの確認もベヘモットの仕事だった。

然程に苦労するはずもないクエスト。ちょうど発売一周年のアニバーサリーイベントモンスターが各地に出現しており、調査ついでに人気のない辺境での狩りもできるのでベヘモットには好都合だった。

しかしその簡単なクエストの過程でベヘモットにとって、そして依頼をしたラインハルトにとっても想定外の事態が 二つ(・・) 発生した。

一つは、とある<マスター>との遭遇。

その名は【冥王】ベネトナシュ。

皇国辺境の滅んだ村に、供養と怨念の除去のために訪れていた流浪の<超級>がそこにいた。

そしてもう一つは――< SUBM(・・・・) >。

金と銀のどちらとも言えぬ光沢に身を包まれた、巨大なガーゴイル。

其の名は、【一騎当千 グレイテスト・ワン】。

皇国の辺境に出現し、南西へと……皇都ヴァンデルヘイムへと進軍せんとする<SUBM>の出現である。

それは全くの偶然だった。

<SUBM>のほとんどは投下される国の首都から離れたポイントからスタートし、<マスター>と会敵しながら首都を目指す。

それが基本であり、【グレイテスト・ワン】の後の四体も例外的な【五行滅尽 ホロビマル】を除けばそうしている。

ゆえに一体目の<SUBM>である【グレイテスト・ワン】は<Infinite Dendrogram>の開始から一周年の契機に辺境へと投下され、首都を目指すはずだった。

しかし、その投下は二人の<超級>に目撃されていた。

二人は、【グレイテスト・ワン】の進路から首都を目指していることを察した。

その時点で、二人の行動は決まった。

ベヘモットにしてみれば、友人の住まう街を襲うだろう怪物を見逃す理由はなく、

ベネトナシュにしてみれば、街々を蹂躙して怨念を生む怪物を止めぬ理由がない。

ここに二人の<超級>は共闘し、第一の<SUBM>との戦いに突入した。

その戦いは熾烈を極めた。

第一であるがゆえに、試金石。

【グレイテスト・ワン】はあらゆる攻撃を受け止める超硬度の超級金属を、あらゆる熱変化を遮断する熱量完全耐性を、あらゆる攻撃魔法を無効化する魔法攻撃完全耐性を有していた。

持ち合わせるのは防御力だけではない。重力のくびきから解き放たれた翼で飛翔し、超振動の尾を振るって万物を粉砕し、その口腔にはあらゆる生物を焼き尽くす 分子振動熱線砲(メーサーキャノン) が備わっている。

恐らくは最強の<SUBM>と謳われた【三極竜 グローリア】が相手でも、強化された《絶死結界》を使われない限りは勝利しうる。

特殊性を積み重ねて最強に至った【グローリア】の対。

純粋戦闘力を積み重ねて最高へと届いた存在が【 グレイテスト(最高の) ・ ワン(一) 】

それほどの大怪物である。

ゆえに、皇国を蹂躙すればその過程で数多の<マスター>と戦い、試し、<超級>への進化を促すかもしれない。

あるいはこの後にグランバロアに甚大な被害を与える【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】や、王国の戦力を半減させた【グローリア】よりも恐るべき災禍として……皇国を滅ぼしたかもしれない存在。

だが、この大怪物には……それができなかった。

投下の直後に……【獣王】と【冥王】に会敵してしまったのだから。

「《 冥導回帰門(ペルセポネ) 》――【■■】■■■■!!」

【冥王】ベネトナシュは死霊術の王にして、死者と共に歩む者。

彼と彼のメイデンたるペルセポネが蘇らせるは、この世で死に、しかし彼と共に歩むと決めた無数の霊魂。

その中の一つに、いたのだ。

恐るべき耐性を誇る【グレイテスト・ワン】を絡め、翼を封じ、さらには必殺の熱線すらも防いで見せた――ありえないほどの強者。

かつてのある国でその名を謳われ、そして今なおある国で語り継がれる存在が……一匹の“龍”が、【グレイテスト・ワン】の力を押さえ込んでしまった。

それが一つ目の要因。

そして、二つ目にして最大の要因は――。

『――《 ■■■■■■■■(レヴィアタン) 》』

【獣王】ベヘモットがそこにいたこと。

あるいは【冥王】だけであれば、時間稼ぎしか出来なかっただろう。

だが、そこには【獣王】ベヘモットがいたのだ。

【グレイテスト・ワン】は純粋戦闘に特化した<SUBM>。

あらゆる攻撃を受け止める超硬度の超級金属を、あらゆる熱変化を遮断する熱量完全耐性を、あらゆる攻撃魔法を無効化する魔法攻撃完全耐性を有していた。

だが、それは完全ではない。

一つだけ、完全ではない。

それは……超級金属。

あらゆる攻撃を受け止める。神話級金属をも上回る強度を誇る最高にして最硬の金属。

しかしそれは、何者にも 壊されない(・・・・・) ということではない。

そこにいたのが、神話級金属を容易く粉砕する存在であれば。

そこにいたのが、後に“物理最強”と謳われる存在であれば。

その存在は――最高にして最硬の金属さえも砕きうる。

それは、最強と最硬の戦い。

矛と盾の故事の如く【獣王】ベヘモットと【グレイテスト・ワン】は激突し、

――矛は盾を貫いたのである。

かくして、第一の<SUBM>は誰一人倒さぬうちに、誰一人試さぬうちに、討伐されたのであった。

◇◆

結局、【グレイテスト・ワン】のMVPにはベヘモットとベネトナシュの二人が揃って選ばれた。(複数人のMVPはそれが初めてのケースであるので、ベヘモットは少しだけ驚いた)

その後、ベヘモットとベネトナシュは、互いのメイデンの仲が悪いこともあってろくに挨拶も交わさぬうちに別れることとなった。

こうして未曾有の大惨事となりかねなかった【グレイテスト・ワン】の出現は、初期の段階でほとんど誰にも知られることがないまま終わりを迎えた。

しかし、この件でベヘモットには二つの問題が生じていた。

一つ目は、調査対象だった<遺跡>の調査が出来なかったこと。

情報通りに<遺跡>は存在したのだが、【グレイテスト・ワン】との戦闘の衝撃で内部に通じる地下道が完全に埋まってしまったのである。

ベヘモットやレヴィアタンの掘削作業でうっかり壊すわけにもいかず、結局そちらの調査は出来ないままに皇都へと帰還することになる。

この<遺跡>の発掘には人手が必要であったため、ラインハルト主導で人を集めるために発掘再開のタイミングは後に持ち越され、結局皇王即位後になった。(余談だが、【翡翠之大嵐】はこの<遺跡>から出土している)

二つ目は、<遺跡>と【グレイテスト・ワン】のことをラインハルトに報告したときのことだ。

報告を聞いたラインハルトは少し考えた後、ベヘモットにこう言った。

「この情報は秘密にしてください」

『?』

「その特殊な<UBM>……<SUBM>でしたか。同様の存在はきっと今後も出現するでしょう。ですが、それは恐らく管理者の息が掛かった者」

『管理AIの?』

「ええ。貴女達の言葉で『イベント』でしたか」

『…………』

ゲーマーでもあるベヘモットはそれを聞いて納得した。

巨大なボス相手のレイド戦、この<Infinite Dendrogram>ではあまり聞かなかったものだが、他のMMOでは定番とも言えるイベントではある。

一周年記念というには、物騒に過ぎたが。

「ですが、こちらの情報では他国にはそういった存在は現れていない。恐らくは、 これから(・・・・) 、間を置きながら現れるのでしょう」

『なるほどね』

「ですが、同じ国に立て続けに現れるとは限らない。むしろ、可能性は低いでしょう。次に出現するとしても、他の六ヶ国に出現し終えてからという可能性が高い」

『ルーティンだね』

「だから、この情報を公表するのは皇国にとっては不利益です。遊戯派の<マスター>は、そういった特別な<UBM>を狩る機会を、『イベント』に参加する機会を逃すことを良しとはしないでしょうから」

『納得。「まだここには出てないよ。これから来るかもしれないよ」って思わせるんだね』

出涸らし(・・・・) だと思われては人の足が遠のく。

旱魃による環境の変化やモンスターが増えている皇国にとって、対抗策となる<マスター>は有用なのだ。外に流出されても困る。

「はい。そうした方が、皇国は国力を保つことができます」

『わかった。じゃあ手に入れた特典武具も使わないほうがいいね』

「はい。モンスターの討伐ならばともかく、人目につく場所での使用は控えてください」

『わかった。約束するよ、クラウディア』

「……? 私はラインハルトですよ」

『……言いまちがえちゃった。約束するよ、ラインハルト』

このとき、ベヘモットとクラウディア・ラインハルト・ドライフは約束をした。

その約束をベヘモットは守り続け、何より破る必要が生じることすらなかった。

◆◆◆

だが時は流れて王国と皇国の講和会議の日、彼女は約束を破らねばならなくなった。

(……ごめんね、クラウディア)

眼前のレイ・スターリングを、その左手の【黒纏套 モノクローム】から放たれる集束レーザーを前に、ベヘモットは一つの決意をした。

このまま攻撃を受ければ、自分でもデスペナルティを免れない。

その結果から逃れるには、あの特典武具を使うしかない、と。

だから……友との約束を破ってでも、あの特典武具を使う、と。

約束よりも、クラウディアを守らねばならないのだから。

ゆえに彼女は、必殺の一撃が放たれる寸前に宣言する。

『 変身(チェンジ) ――――《 天翔ける一騎当千(グレイテスト・トップ) 》』

その瞬間、ベヘモットが首から提げた小袋――隠蔽用のカバーアイテムは内側から破れる。

中から現れたのは、 悪魔像(ガーゴイル) の上半身を象ったアクセサリー。

直後、黄金に似た輝きと共に――ベヘモットの全身を超級金属の装甲が包みこんだ。

To be continued