軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話 愛闘祭の一幕 平和

□【煌騎兵】レイ・スターリング

「……ちょッ!?」

フィガロさんの放った殺し文句(※物理)に動揺する。

夕食の誘いを断られ、式場の話をスルーされ、反対に相手から出てきた言葉は「決闘しよう」。

こんな話、普通の女性でも怒りそうなものだ。

そして伝え聞いている【狂王】ハンニャという人物像ならば、瞬時に爆発する。

ゆえに俺は、この瞬間に大破壊を伴う修羅場の発生を予感したが……。

「ええ。いいわよ」

ハンニャ女史は笑顔のまま、あっさりとフィガロさんの「決闘」の申し出を受けたのだった。

「ありがとう! 明日が楽しみだよ!」

「ふふふ、フィガロったら子供みたいに喜んで」

嬉しそうなフィガロさんとそれを微笑ましそうに見ているハンニャ女史。

……あれ、なんか事前情報と全く違う。

あまりにも想定外だったため、

「あの、いいんですか……決闘」

と、ついつい声に出して聞いてしまった。

けれど、ハンニャ女史はそれに気を悪くすることはなかったらしい。

「いいのよ。フィガロが決闘大好きなことは文通でよく知っているもの。フィガロが喜んでくれるなら私もうれしいわ」

そう言って、ハンニャ女史……ハンニャさんはフィガロさんを愛おしそうに見ていた。

……何だか兄達の話と印象違うな。

趣味に理解がある良いお嫁さんみたいな人だ。

「あなたもフィガロの決闘仲間なんでしょう? ありがとうね、彼と一緒に遊んでくれて」

「いえ、俺の方が教わってばかりで……。いつもお世話になってます」

「うふふ。何だか私がフィガロの保護者みたいね!」

『……対応が凄く柔らかいのぅ』

全くだ。

これは……兄達が物騒に考えすぎていたのか、出所するまでの間に丸くなったのか。

何にしろ、大惨事が起きそうにないので安心した。

決闘の問題さえクリアしてしまえば、この案件はもう不発だったようなものだ。

きっと爆発することはないだろう。

「……あら。リアルの方で電話の着信があったみたい」

ハンニャさんはアナウンスが表示されたのか、そう言ってウィンドウを操作した。

「とてもとても名残惜しいけれど、私はここでログアウトね。フィガロ、明日は本当に楽しみにしているわ。二人の未来のためにも、大事な一日なるはずだもの」

「うん。僕も楽しみだよ」

そう言って二人は和やかに言葉を交わし、もう一度ハグをして、ハンニャさんはログアウトした。

「……優しそうな人でしたね」

「うん。彼女はとても優しいよ。僕も彼女との文通で支えられたことは多いかな」

そう言うフィガロさんの顔はとても朗らかなものだ。

どうやら、フィガロさんの方も決闘だけでなく、良い友人としては彼女を認識しているらしい。

……これ、このまま平和的に二人が結ばれれば一番良いんだろうな。

『だが、それは難しいのであろうな』

まぁ、な。

フィガロさんはこちらでは王国最強の【超闘士】だが、リアルでは心臓の発作に悩まされている。フィガロさんが健康でいられるのは、このデンドロの中だけだ。

対して、ハンニャさんはフィガロさんにリアルも含めた恋愛を求めているように見えた。

二人の間にある壁が、今後どのように作用するのかは分からない。

けれど、叶うならばこのまま上手くいくことを願いたい。

あの後、フィガロさんとも別れて俺とネメシスは二人で祭りを見て回っていた。

俺はネメシスが今日も暴食の限りを尽くすのではないかと思ったが、意外にもネメシスはわたあめ(に似たお菓子)を一つ買ったきりだった。

「どうしたんだ?」

「なぜか食欲が湧いてこぬ」

「なん……だと……!?」

バカな……!

「おい、以前一度見たようなリアクションをするな」

「いやだってお前が……以前?」

そういえば、前にもこんなやりとりがあった気がする。

あれはたしか、トルネ村で……あ。

「……進化か?」

そう、あれはネメシスが第三形態に進化する直前のことだ。

あのときもネメシスは食欲がないと言っていた。

「まだわからぬ。というか、私の食欲がないことを進化と結び付けるな。まるでそれ以外で私が食欲をなくすことがないようではないか」

「だって……ネメシスなんだぜ?」

「それも二回目だ!」

今日のネメシスは使い回しに厳しかった。

食べ物控えめという俺達としては珍しい状態で祭りを巡っていたのだが、そうしている内に喉が渇いてきた。

「どこかで飲み物でも買うか?」

「うむ。私も空腹は感じないが、流石に喉は渇いた。お茶にしようではないか」

「そうだな。さて、どの店で……お」

飲み物の屋台を探していると、視界の中に周囲から少し浮いた屋台……というか小さな店が見えた。

それは一言で言えば和風の建物であった。こちらでは天地風と言うのかもしれないが、カルチェラタンで見た和風のような何かではなくてちゃんと和風だ。

それは木製の長椅子の上に座布団配置して、そこに腰掛けてお茶が飲めるスタイルだった。時代劇で見る団子屋が近いかもしれない。

「王国では珍しいな。あそこにするか」

「だの」

俺達はその店でお茶(普通に緑茶や煎茶だった)を購入して、長椅子に腰掛ける。

食欲がないネメシスも、「このくらいは大丈夫であろう」と団子を一皿だけ注文していた。

お茶を啜ると、実家で飲んだ日本のお茶と遜色ないか……それよりも美味しい気がした。

「良い茶葉だのぅ」

「そうだな」

「……しかしどこかで飲んだ気がするのぅ」

「そうか?」

「この茶葉は天地産の茶葉よ。以前に<月世の会>の信者さんから寄進されたものを 此(これ) が気に入ったから、月夜に頼んでグランバロア経由で取り寄せてもらっているの」

「それでか。たしかに、以前<月世の会>の本拠地で飲んだものと同じだの」

「俺もあそこで朝御飯食べたけど、こんなお茶飲んだっけ?」

「あなたが気絶している間に此とネメシスがお茶していた時のものだから」

「ああ。そうだったのぅ」

「そっか。でもこのお茶は本当に美味し……………………あぁ!?」

お茶を啜りながら呑気に会話をしていて、ようやく会話の内容が色々おかしいとか人数が増えていることに気づいた。

勢いよく後ろを振り返ると、そこには俺でもネメシスでもない第三者が座ってお茶を飲んでいた。

それは天女のような格好と月光のような髪をした、見知らぬ女性だった。

「カグヤではないか!?」

「ええ。お久しぶりね、ネメシス」

カグヤ!? それってつまり、彼女が女化生先輩の<超級エンブリオ>か!?

「ど、どうしてここに!?」

俺が驚きを口にすると、カグヤは微笑みながら店内の一点を指差した。

そこには『三日月と閉じた目』という……お馴染みな<月世の会>のシンボルがあった。

「ここ、< 月世の会(うち) >の出してるお店なのよ」

「気づかなかった……!」

しかし考えてみれば、ザ・洋風なこの王国でここまで和風を主張している団体は<月世の会>くらいのものだった。

気づけよ、俺。

「……待った、先輩の<エンブリオ>がいるってことは」

「ええ。月夜もギデオンに来ているわね」

マジかよ。

ハンニャさんの問題が平和的に片付きそうだと思った矢先にこれか。

……あの先輩は結構なトラブルメーカーではあるが、こういう街中でどうこうするタイプではないから、そこまで心配する必要もないかもしれない。

「お祭りですもの、月夜も観光くらいするわ。ほら、何という村だったかしら。風車が沢山ある村のお祭りにも行ったわ」

ああ、そういえばシジマ氏関連でトルネ村の風星祭にも出向いていたんだったか。

そうでなくても、あの女化生先輩はお祭りの類が好きなのかもしれない。

ほら、妖怪って東西問わずお祭り好きだし。

『……御主、本当にあやつには当たりきついのぅ』

ファーストコンタクトが 拉致監禁(あれ) だったからな。

『是非もないのぅ……』

そんな風に念話を交わす俺達だったが、女化生先輩の<エンブリオ>であるカグヤは何が面白いのか微笑みながらこちらを見ている。

何だろうか、先輩の笑顔が意地悪キツネだとすれば、こちらはそれこそお月様みたいな柔らかい微笑だ。

「どうかしたかの?」

「ふふふ。あれから少しは進展したのかしら」

「なふ……!?」

なふ?

「な、なななな、なにを……!?」

「愛闘祭を二人で巡っているのだもの、ね。此がアドバイスした甲斐はあったかしら」

「そ、そういう話ではない!」

ネメシスは何に対して動揺しているのだろうか。

「沢山食べるのも可愛いけれど、普段は沢山食べている子がデートでは少食になるのも可愛いわ」

「こ、これはたまたま食欲不振が重なっただけだ!!」

「あらあらうふふ……」

何だろう。ネメシス以外のメイデンは二人目だが、キューコの時とは雰囲気が違う。

ネメシスにとってキューコが同年代の友人とすれば、カグヤは年嵩の姉のような振る舞いだ。実際にメイデンとしては大先輩になるのだろうけど。

……ああ、俺とネメシス揃って後輩ってことか。

「まぁ、友達が増えるのは良いことだ」

女化生先輩と比べると良い人(?)そうだし。

俺はカグヤに優しくからかわれるネメシスという微笑ましい光景を見ながら、お茶を啜った。

「……美味い」

周囲ではネメシスとカグヤのやり取りの他に、愛闘祭ゆえの朗らかな空気がギデオンに漂っている。

平和だな、という感想が自然に湧いてくる。

戦争も近づいているという話だが、今はとても平和だ。

俺としても、いつものように事件に巻き込まれてはいない。

「こんな日が、長く続くといいんだけどな」

そんな風に呟いて、またお茶を啜った。

結局、その日はそれ以上何も起きる事はなく、俺はネメシスと祭りを楽しんでから宿で就寝した。

To be continued