軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 愛闘祭の一幕 小さく、けれど大きなお見合い

□ギデオン四番街

その日、ギデオン忍軍は忙しかった。

『こちらB班。四番街マーケット周辺を監視中、周辺に不審人物は皆無でござる』

「こちらC班。対象を尾行中。周囲に怪しい人影は……あの三人のみでござる」

彼らは複数の班に分かれ、とあるグループを尾行していた。

なぜ尾行するのか。それはそのグループ……エリザベートとツァンロンのお見合いデートを護衛するためである。

愛闘祭は建国王とその妃の婚姻に由来する祭りであるため、その逸話にあやかって愛闘祭の時期にお見合いを行う家も多い。

それらの多くは裕福な商家や職人だったが、時折貴族もお見合いをする。現ギデオン伯爵の父母もそうしてお見合いで縁を結んだ。

しかしその愛闘祭にしても、王族同士のお見合いなどそうそうあることではない。

アルター王国第二王女エリザベートと黄河帝国第三皇子ツァンロン。

この二人のお見合いが行われるに際し、ギデオン伯爵はギデオン忍軍による警備の殆どを二人の周囲に集中することに決めた。(元々ギデオン忍軍のいくらかはエリザベートの護衛、及び脱走防止にあてられた人員であったが)

なお、騎士団は警備についていない。

闇と影に紛れる忍者と違い、騎士の姿は目立ちすぎるからだ。

「ここに守るべき要人がいますよ」と喧伝するようなものなので、彼らは別の警備に回っている。

「やっぱりきょうはおまつりだからカッキがあるのじゃー。コウガのおまつりはどんなふうなのじゃ?」

「すみません。僕はこんな風に市井を歩けるのは王国に来てからなので……。大祭のときはいつも壇上から見下ろすだけでしたから」

「なんだかたいくつそうなのじゃ」

「そうですね。そうかもしれません」

幼い二人は並んで言葉を交わしながら、お祭りで賑わう路地を歩いている。

ギデオン忍軍が確認する限り、二人の周囲に不審人物はいない。

……否、正確には身元不明の不審人物はいない。

身元が判明している不審人物達はいた。

エリザベートとツァンロンの後方一〇メテル。

そこには、建物の影から顔を出して二人の様子を見るトーテムポール……もとい三人の人物がいた。

リリアーナ、迅羽、マリーの三人である。

騎士として、友人として、そして姉(偽)として二人のお見合いを見守る三人組であった。

「彼女達、あれで目立っていないつもりでござろうか?」

「……まぁ、各自変装はしているでござるな」

リリアーナは近衛騎士団の鎧を脱いで私服。

ただし、元が美人なのでそれはそれで逆に人目を惹く。

迅羽は手足や大符を取り外して年齢相応の服装をしている。

ただし、顔と肌の青白いアンデッド色は変わらない。

マリーはサングラスを外している。

ただしも何もなく、以上。

「……他は仕方ないにしてもマリーは」

「言わぬが花でござる。きっとテンパっておるのでござる。……いや、あやつ昔から『色眼鏡外せばそれで変装完了』と思っている節があったでござるな」

ちなみに、彼女はかつて連載していた漫画でも『新キャラの美人かと思ったらサングラス外しただけの 主人公(マリー) だったよ』という展開をやっている。

当時も「いや、服装見たら一発で分かるよ」と読者に突っ込まれていた。あるいはそういうギャグだと思われていたが本人は大真面目である。

さて、幼いカップル&不審人物三人組であるが、カップルの方は素直にこのお祭りを楽しんでいる。

エリザベートがお祭りの屋台(どこかの誰かのように食べ物オンリーではなく玩具や民芸品の屋台)に目を輝かせ、それをツァンロンが微笑んで見ているという構図だった。

「……祭りに夢中の妹と見守る兄、みたいな構図だな」

「わ、悪くはないと思いますよ?」

「お見合いっぽくはないですよねー。……あれならボク達も一緒に楽しんでも」

「「 やめとけ(よしましょう) 」」

『エリザベートの隣でお祭り楽しみたい欲』が出てきたマリーを、他の二人が制止する。

「どこに友達と保護者と変態同伴でお見合いする奴がいるんだよ?」

「ぐぬぬ、それはそうですが……ウェイト、その友達と保護者と変態はそれぞれ誰なのか聞かせてもらえますかね?」

「わざわざ聞くまでもないだろう」と、その場にいた者だけでなく隠れているギデオン忍軍の面々も思った。

そんなやりとりをしている内に、カップルはお面の屋台を見つけていた。

祭りの大本である出来事のヒロインが仮面を被っていたことと、身分を隠して異性と遊びたい令息や令嬢が多いことから、この祭りではお面を被る者も多い。

エリザベートは笑顔で色々なお面を手に取りながら、どれを買おうか悩んでいる様子だった。

「最初に会った時も着けてましたし、お面好きなんですかねー。……あ、エリちゃんダメ。そのクマのお面はダメ」

「……血は争えないのかもしれませんね」

「建国王のお妃が仮面の剣闘士なんですよね。ご先祖様譲りでしょうか?」

「…………いえ、そちらではなくもっと近しい人が」

「?」

「あー」

少し表情を曇らせたリリアーナの言葉に、マリーは首を傾げ、ギデオンまでの旅路でその“近しい人”の仮面剣士バージョンを見ていた迅羽は納得した。

「むむむー、やはりここはクマにすべきか、それともこのネコにすべきか」

「…………」

二つのお面のどちらを購入しようか悩むエリザベートの隣で、ツァンロンも一つのお面を見ていた。

それはドラゴン……それも東側に住まう【龍】を模したお面であり、西方ではなく東方のお祭りでよく見られるようなデザインだ。

ツァンロンはそれを、まるで“何か”と見比べるようにジッと見ていた。

「ツァンロンも選んだのじゃ? む、なんだか怖いお面じゃのぅ」

エリザベートがそう言うと、お面屋の店主が笑いながらお面についての説明を始める。

「お嬢ちゃん。これはめずらしーいお面なんだよ。東方の黄河の決闘王者である【龍帝】が、決闘に出る時に着けるお面を模したものさ。東方の商人から仕入れた品だが、よく売れてるよ。お嬢ちゃん達もどうだい?」

「わらわはクマかネコにするのじゃ」

「お、それならこんなのがあるぞ。これも東方から仕入れたものなんだが……クマとネコの合体、 大熊猫(パンダ) のお面だ!」

「なんじゃこのすてきアニマル!」

エリザベートは店主がアイテムボックスから取り出したパンダのお面に目を輝かせる。

ツァンロンはその光景に微笑みながら、そっと龍のお面を元の場所に戻した。

その際に一言、「【 字伏龍面(ズーフーロンミィエン) 】」と呟いたが……それは誰の耳にも入らなかった。

それから、パンダのお面を被ったエリザベートとツァンロンは四番街のマーケットを歩き回った。

傍から見るとお見合いというよりは友人同士で遊んでいる、といった雰囲気だった。

そんな風に幼いカップルがお祭りを楽しみ、数時間も経った頃。

二人は木陰に座り込み、屋台で買った飲み物を飲んでいた。

「むー。ツァンは体力がなさすぎるのじゃ」

「すみません……。こんな風に歩き回ることに慣れていなくて」

歩き続けて体温が上がったのか、ツァンロンは頬を赤くして汗を浮かべていた。

普通の子供は天気のいい日に何時間も歩き続ければこうなる。ジョブにも就いていないのにまだ元気一杯のエリザベートの方がどこかずれているのである。

「ふぅ……」

暑かったのか、ツァンロンは上着のボタンを外し団扇で自身を扇いでいる。

エリザベートがそちらを見ると、上着の隙間からツァンロンの服の内側が見えた。

「……?」

それをチラリと見て、エリザベートは目を瞬かせる。

ツァンロンの服の内側は、素肌が見えないほど黒い包帯に覆われていた。

「ツァンロン、それはなんじゃ?」

「え? ……あ」

自身の失敗に気付いたのか、ツァンロンはすぐに上着のボタンを閉じた。

「…………」

「それはケガか、ビョウキなのか?」

「そう、ですね。病のようなものです。この黒い包帯は、生まれもったハンデを抑えるための処置です」

エリザベートはその言葉に、彼が生まれながらに病を抱えているのだと理解した。

エリザベートの妹、第三王女テレジアと同じように。

「……すみません。お見苦しいものをお見せしてしまいました」

「あやまることではないのじゃ! ビョウキのなにがみぐるしい!」

つい謝ったツァンロンに対し、エリザベートは憤慨したようにそう言った。

「生まれもったビョウキが、なんだと言うのじゃ! そんなことをわたしがいやがると思ったらおおまちがいなのじゃ」

それはあるいはツァンロンに向けた言葉ではなかったかもしれない。

生まれながらに病弱だった彼女の妹、テレジアを重ねたがゆえの言葉だったかもしれない。

だが、それでも彼女の言葉は本気であったし、ツァンロンにもそれが理解できた。

「……殿下は、優しい人なんですね」

「あねうえやリリアーナだって、きっと同じことを言うのじゃ」

「そうなんですか……」

ツァンロンは「きっと優しい人に育てられたから、優しい人になったんですね」と内心で思い、……彼女をそんな家族から引き離すことに胸が痛んだ。

その痛みと共に、「天真爛漫なエリザベート殿下に関わっていると、他の人に接するようには接せられないな」とも思った。

それから暫し、二人の間に無言の時間が過ぎた。

沈黙の後、先に話を切り出したのはエリザベートだった。

「わらわは、コウガには行きたくないのじゃ」

「……存じています」

「あねうえやテレジアをおいて……このくにをはなれたくないのじゃ。わらわは、ふたりをささえたいし、まもりたいのじゃ」

エリザベートは才覚こそあっても、特殊なジョブについているわけでもない……ただの子供だ。

そんな彼女が、これから戦争に突入するだろう王国に残っても出来ることはほとんどない。

それでも彼女の心は姉を支えたかったし、妹を守りたかった。

「わらわは、あねうえがすきじゃ。いっしょうけんめいで、このくにやわらわたちをまもるためにだれよりもがんばってる。そんなあねうえを、わらわはささえたい。それに……」

エリザベートは言葉を切って、北の方角を……街壁と山の向こうにあるはずの王都へと視線を向けた。

「わらわは、テレジアもすきじゃ。わらわのかわいいいもうとで、ずっとずっとしろの中にいるテレジアが、すこしでもわらっていられるように、わらわはまもってあげたいのじゃ」

どうすればそれができるのか、それはエリザベート自身には分からない。

「わらわはこどもで、よわいから、わらわではふたりをささえることもまもることも、できない」

エリザベートはただの子供だ。

亡国の危機にある王国で、家族を救う方策などあるわけもない。

「けれど……」

しかし、一つだけ示されている方策があった。

「けれど、ツァンロンとともにコウガに行けば、わらわはあねうえをささえられるし、テレジアをまもれるかもしれないのじゃ」

黄河からの支援を得る対価に黄河に向かえば、それが王国を……家族を守ることに繋がると。

エリザベートは、彼女なりに自身の立場と二国の間の交渉を理解していた。

昨晩、姉からの宣告にショックを受けて家出をした後も、彼女は考えていた。

そうして、エリザベートは決心していたのだ。

泣きながら考えて、落ち着いて考えて……結局それしか方策はないと心を決めていた。

エリザベートは、国のためにツァンロンと結婚することを選択していた。

まだ恋や愛など知らない彼女が、既に己の生涯の伴侶を決めていた。

お見合いとしては、それで終わりだ。

「…………」

けれど、ツァンロンはそれに応える言葉を発することが出来なかった。

否定は出来ない。それは皇帝である父の意に反するから。

肯定は出来ない。それは……己の心に反するから。

この天真爛漫で太陽のような少女を、対価のように得ることは……己の妻にすることはあってはならないのだと、ツァンロンの心と胸の痛みが訴えていた。

「だからわらわは、ツァンロンと」

「……まだ、私の帰国まで時間はあります。だから、お返事はその時までに」

ツァンロンは、エリザベートの選択を遮った。

それは否定ではなく、肯定でもなく、ただの先延ばしであっただろう。

「そのときまでに、私も……自分の心を定めます」

「……わかったのじゃ」

そうして、二人のお見合いは終わった。

端的に言えば、「お時間をいただけますでしょうか?」と……普通のお見合いのように結論は先へと伸ばされた。

◇◇◇

「よう。おつかれさマ」

「迅羽様。影ながらの護衛、ありがとうございました」

「まぁ、それもオレの仕事だからナ。けど、いいのカ?」

「何が、ですか?」

「お前、最初に会ったときからエリザベートに一目惚れしてただロ」

「…………」

「けれど、さっきのあいつの選択は受け入れなかっタ。気持ちは分かるけどナ。強制的に結婚したって、それは愛を手に入れたことにはならねーかラ」

「迅羽様……」

「それが分かってたから、お見合いを勧めたんだヨ。あっちもお前を好きになってくれれば、それは普通に恋愛なんだかラ。そうはならなかったみたいだけどヨ」

「…………」

「お前、自分を隠そうとばっかりしてただロ。あいつはあいつらしく振る舞ったが、お前はお前らしくなかっタ。第三皇子蒼龍としてのお前でもなければ、 もう一方のお前(・・・・・・・) でもなイ。臆病に自分を隠していただけのお前ダ。それじゃ、好きな相手にアピールの一つもできねーヨ」

「……耳が、痛いです」

「分かってるなら、今度は自分らしさと……好きな相手への本気のアピールってのを考えるんだナ。まだ、日にちはあるんダ。できるだロ?」

「……はい!」

「いい返事ダ。次は頑張れヨ」

To be continued