作品タイトル不明
第十二話 力と力 前編
□???
『――《 両舷五連装自在砲塔(ツイン・クインティブルカノン) 》と弾薬庫をリンク』
『――全砲門に【DD弾】装填』
『――《 七十七連装誘導(スターダスト・) 飛翔体発射機構(ジェノサイダー) 》、【F弾頭】装着』
『――発射口展開』
『――攻撃準備、完了』
『あいつの再構成が終わる前に……叩き込め』
『―― 了解(ラージャ) 』
『――【戦神艦 バルドル】、戦闘行動を開始します』
◇◆◇
□■アルター王国・<ノヴェスト峡谷>
月夜が二本角の首と刺し違えた後、【グローリア】は身動き一つせずに蹲っていた。
それは《聖者の帰還》によって半分以上が消し飛んだ体の再構成のためであると同時に、【グローリア】自身の内面の整理のためであった。
『…………』
一本角に続き、二本角の頭部も消滅した。
もはや【グローリア】には三本角の頭部しか残っていない。
それは三本角の頭部……【グローリア】にとって生まれて初めての孤独であった。
加えて、【グローリア】は感覚までも先刻と大きく異なっている。
常に展開し続けてきた《絶死結界》までも、二本角の頭部の消滅に伴って消失している。
結界内を把握する力をなくし、結界外からの攻撃を防ぐ力も今はない。
一〇〇〇年を超える生で初めての感覚に、<SUBM>である【グローリア】でも戸惑いを感じていた。
――ゆえに 彼(・) は、その瞬間を狙い澄ましていたのだろう。
風を切る音と共に、無数の ミサイル(・・・・) が【グローリア】へと飛来した。
だが、その弾速はあまりに遅い。
今のグローリアの残HPは、約一七〇〇万。最大値の四分の一以下しかない。
しかしそれを対価として、《起死回生》によってステータスは四倍以上に変化している。
一六万に達したSTRを筆頭に、桁違いのステータス。
AGIにおいても音速の四倍を獲得した現在の【グローリア】に対して、飛来するミサイルは遅すぎる。
そして一二万を優に超えるENDはミサイルの爆発程度でダメージを受けることもないだろう。
ゆえに【グローリア】は余裕をもってミサイルを払い落とし、
―― 炸裂した光(・・・・・) に目を奪われた。
ミサイルに積まれていたのは爆薬ではない。
極めて強力な……人体であれば失明も免れないほどに強烈な光を発する閃光弾、【 F(フラッシュ) 弾頭】。
自らも光のブレスを発する都合から光への耐性は高い【グローリア】であったが、不意をついたその閃光に一瞬目を焼かれる。
すぐに瞼を下ろすものの、閃光弾を積んだミサイルは次々と間隔をあけて飛来してくる。
瞼を開けても視界は光に塗り潰されてゼロとなっている。
そうして出来た隙を突くように――砲弾が【グローリア】へと突き刺さる。
それは一二万を超える【グローリア】のENDを無視するように、そのHPを削っていく。
砲弾はいずれもスキルで生成されたものであり、効果は<月世の会>が使用していた魔法と同質――相手の防御力に関わりない固定ダメージを与える【 DD(ダイレクト・ダメージ) 弾】であった。
二度の戦いを経て、一七〇〇万にまで減少していた【グローリア】のHPが、さらに削られていく。
『GULUUUOOOOO!!』
音速を超えた今の【グローリア】であれば、砲弾を見て回避することは容易かっただろう。
だが、今はその視力が潰されている。目を開けても、入ってくるのは閃光弾の光のみ。
先刻までの【グローリア】であれば、結界外の長距離砲撃など効きはしなかっただろうが、今の【グローリア】は二本角の首を喪い、防御能力も兼ねていた《絶死結界》も消失した。
放たれる砲弾の雨はその身で受けるより他にない。
何より、《絶死結界》を失ったばかりの【グローリア】は、結界なしで周囲の気配を掴むことが致命的に不慣れだった。
この敵手はそれを熟知した上で、今この瞬間に攻撃を仕掛けてきているのだと【グローリア】にも十二分に理解できた。
『Gooo……!』
この砲弾から逃げることは容易い。
一秒あれば一キロメテルは移動できる。すぐに有効射程から脱出できるだろう。
だが、それは出来ない。
【グローリア】には回避は許されても、逃げるという行為が 許されていない(・・・・・・・) 。
『直進して王都へと到達すること』と『敵と戦うこと』。
それが【グローリア】に刻まれた命令であり、千年前に【天竜王】の追手から自分を救い、<UBM>としての力を与えた 存在(ジャバウォック) との契約だ。
己の命を長らえるためだけに逃げることは、【グローリア】にはできない。
そして、仮にその命令がなかったとしても、【グローリア】は逃走を選択しない。
それは自負ゆえ。
己こそが最強の生物であるという自負。
父よりも、母よりも、己は強く……父母を殺した【天竜王】にも勝利できる力があると信じているが故の誇り。
眼前にいかなる生物が立ち塞がろうとも、倒して突き進む以外の道は不要と断じた信念である。
あるいは、一本角や二本角が健在であれば違ったかもしれない。
一本角は己の光で他者を蹂躙することを望む首であったし、二本角は己の身を守るために他の生物を抹殺する臆病な首だった。
だが、唯一残った三本角はそうではない。
望むのはただ純粋に力を高めること。力を振るうこと。そして、力を証明すること。
ゆえに、三本角だけになった今の【グローリア】は……撤退など選ばない。
『…………』
【グローリア】はあえて棒立ちとなり、全身でその砲弾を受け止めた。
次々に炸裂する【DD弾】の威力は凄まじく、百発も命中した頃にはHPが一五〇〇万を下回る。
『……GAAAAA!!』
そのダメージを対価に、己の体に叩き込まれる砲弾の角度から砲撃の方角を割り出した。
直後に、【グローリア】は視力のないまま砲撃を行なっている相手へと疾走する。
ただ真っ直ぐに、降り注ぐ砲弾にも構わずに。
首を二つなくし、HPがレッドゾーンにまで突入したことで純粋な力の化身へと変じた【グローリア】は一心不乱に己の敵へと突き進む。
一歩踏み出すたびに地揺れを起こし、道を阻む峡谷すらその力で粉砕して駆け抜ける。
この勢いならば障害物があったとしても数十秒で敵手へと到達し、それを屠った後はそのまま王都まで侵攻するだろう。
超級職ですら比較対象にならないほどのステータスを誇る【グローリア】を止められる者は、いない。
―― 今は(・・) 、 まだ(・・) 。
◇
【グローリア】の接近を、砲撃を行なっていた戦艦――バルドルの中で【破壊王】シュウ・スターリングも察していた。
『来るか』
『――敵性対象、【三極竜 グローリア】』
『――< 峡谷(障害物) >での減速を盛り込んで計算』
『――接触まで概算三十二秒』
『想定より速い。……首一本になったらステータス上がりやがったな』
己の計算より相手の戦力を上方修正しながら……シュウは着ぐるみを脱いだ。
インナーだけになり、引き締まりながら筋肉を圧縮したような肉体と長い髪を揺らす美丈夫の顔が露わになる。
「【DD弾】はもう弾切れか?」
『――残弾、十五発』
「固定ダメージ以外の弾じゃもう徹らないだろうな。野郎はファトゥムの《山岳人形》や《超硬神器》より硬そうだ」
バルドルは自前で弾薬の生成が可能な戦艦であり、素材を必要とする代わりに高度の殲滅能力も保有している。
しかしそれでも、今の【グローリア】に通じる武器は光で視界を潰す【F弾頭】と、固定ダメージの【DD弾】しかない。焼夷弾や徹甲弾が効く相手ではない。
そして、砲弾が通じないと言うならば……。
「なら、 殴り合い(・・・・) でケリをつけてやる」
彼のもう一つの武器、<マスター>最大のSTRで戦うほかはない。
だが、彼の八万、装備補正込みで一〇万以上という破格のSTRをしても、今の【グローリア】にはまともに攻撃が徹らない。
まして、音速の数倍に達した相手を捉える術もない。
逆に、一撃でも受ければシュウは光の塵となる。
それが分かっているから、シュウは着ぐるみを脱いだ。
その三つの問題を一気に片付ける、 最強の装備(・・・・・) を身に纏う為に。
「あれをやるぞ、バルドル」
『―― 迫撃決戦形態(フル・オフェンスモード) 、現時点で六七分の連続使用可能』
「十分だ」
己の<エンブリオ>の言葉にシュウは口角を上げて笑い、
「――《 無双之戦神(バルドル) 》」
己の<エンブリオ>の銘を、唱えた。
◇◆
【グローリア】は、敵手へと直進するうちに己の目を潰していた光がなくなったことを目蓋越しに察した。
目を見開けば、おぼろげながらも視界が回復している。
そうして気づく。
己の視界の中に、既に敵手が収まっていることを。
そこには一つの巨影だけがあった。
それは両舷に一対の五連装砲を備え、甲板に無数のミサイル発射口を備えた巨大な戦艦、あるいは巨大戦車とも言うべき兵器。
陸上を大海とするが如く鎮座するその陸上戦艦は、今も【グローリア】に砲撃を続けている。
だが、最早砲撃に命中することはない。
視界が回復した【グローリア】は超音速機動でその砲弾を容易く回避する。
同時に、陸上戦艦へと突撃する。
『GUOOOOAAAAAA!!』
この一撃で叩き潰さんと、陸上戦艦のブリッジ目掛けて己の右腕を振り下ろす。
【グローリア】は陸上戦艦のブリッジが叩き潰される光景を…… 幻視した(・・・・) 。
『…………?』
だが、現実は違う。
現実には、【グローリア】の右腕はブリッジを叩き潰せていない。
ブリッジを叩き潰すはずだったその右腕は―― 掴まれていた(・・・・・・) 。
【グローリア】には三重に理解できない。
腕を掴まれた記憶がないゆえの混乱。
己の攻撃を受け止める存在への衝撃。
そして……疑問。
――何者が、己の攻撃を止めたのか。
【グローリア】が己の右腕を見れば、そこにあったのは…… 鋼色の五指(・・・・・) 。
先刻まで砲撃を行なっていたバルドルの五連装砲の砲身が曲がり、まるで人の指の如く【グローリア】の腕を掴み取っている。
『……!?』
【グローリア】の驚愕と共に……鋼の戦艦は 起き上がる(・・・・・) 。
艦体の前部を足に、
両舷の五連装自在砲塔を腕に、
ブリッジの内側から顔が現れ、
最後には……巨大な人型となった。
まるで人か――あるいは神のように。
それは誤りではない。
北欧の神話は、幾つもの物語は、バルドルのモチーフについてこう伝える。
バルドルとは世界最大の船であるフリングホルニを所有し、
――最強にして無双の五体を持った神である、と。
『――戦神艦、迫撃決戦形態変形完了』
バルドルは……TYPE:ガーディアン・フォートレス・ギア・ウェポンの<エンブリオ>は淡々と己の工程完了を告げた。
世にも珍しき 四重複合型(クアドラプル・ハイブリッド) の<エンブリオ>、その真の姿。
その威容を喩える言葉は無数にある。
立ち上がった人型。
機械仕掛けの神。
空想の決戦兵器。
見る者によって言葉を変えるのが今のバルドルだ。
『Gu、OO……!』
しかし【グローリア】にはそれを表現する言葉の持ち合わせがなかった。
ゆえに、【グローリア】の脳裏に生じた思いを人の言葉に直すとすれば――“正体不明”、以外にない。
奇しくもそれは一致する。
それこそが、彼の……シュウ・スターリングの最も呼ばれる二つ名なのだから。
『ギリギリだったな。一手遅ければ頭を潰されて終わりだった』
『――否定します。 現在の強度(・・・・・) ならば一撃程度もらったところで問題はありません』
『そうか。ま、耐久テストをする気はないな』
バルドルの言葉にシュウはそう述べて、
『――速度テストをする気はあるが、な』
我を取り戻した【グローリア】が振り下ろした左腕を、 超音速機動(・・・・・) で回避した。
『!?』
己と同等かそれ以上の速度で動いたバルドルを【グローリア】が視線で追った直後、
『―― 木断(コダチ) 』
全長一〇〇メートル超の 機械巨神(バルドル) は、 最強竜(【グローリア】) の頸に己の<マスター>の十八番である回し蹴りを叩き込んだ。
『…………Gu!?』
その一撃に、【グローリア】は僅かによろめく。
それこそがバルドルの……シュウの一撃が徹った証左。
これこそは、《 無双之戦神(バルドル) 》。
シュウの莫大なSTRを基準に、HP、STR、END、AGIの全てを爆発的に高める 鎧(・) へとバルドルを変じさせる必殺スキル。
そして鎧であるがゆえに、この機械巨神を動かすのはシュウ自身に他ならない。
『フゥゥ……!』
バルドルの内部、ブリッジが変じたコクピットでシュウは息を吐く。
そして彼が息を吐きながら構えを取ると同時に、バルドルも寸分違わぬ速度で連動する。
一〇〇メートル超の機械巨神が己の<マスター>の武術の動きを完璧に再現していた。
当然と言えば、当然だ。
バルドルはシュウの<エンブリオ>なのだから。
人機一体を成すに、これ以上の組み合わせはない。
『…………』
その様を見て、【グローリア】もまた確信する。
これまでの、如何なる相手とも違う、と。
蹂躙して来た弱者とは違う。
数を頼りにした者達とは違う。
特殊な力で挑んできた他の<UBM>や、心臓と翼と一本角の右目を奪った男とも違う。
そして、己の首を落とした二人とも違う。
己の首を落とした二人は、総合性能ではどちらも【グローリア】に大きく劣っていたが、突き抜けた一点で首をもぎ取っていった。
だが、眼前の相手は違う。
これは今の自分と同等である、と。
攻勢と守勢のスキルをなくし、ただ 身体能力(ステータス) だけが残った己と、真正面から互角に殴り合える相手である、と。
そんな相手も、こんな戦いも……【グローリア】にとっては初めてだった。
『GUAHAHA……!』
その体験に、【グローリア】は笑う。
初めて闘争を楽しみに思いながら、笑う。
こんなに 楽しい(・・・) ことは初めてだ、と。
『ハハッ……!』
そして、シュウもまた、笑う。
己が後のない戦いを挑んでいることを熟知しながら。
己の敗北が王国の滅亡に繋がることも覚えていながら。
それでもほんの少し……ほんの少しだけ、この戦いは 面白い(・・・) 、と。
まるで学生の頃に、武術に励んだ日々を思い出すようだ、と。
『GUHAHAHAHAHAHAHA!!』
『ハハハハハハハハハハハハハ!!』
そうして笑いながら……両雄は向かい合う。
【破壊王】シュウ・スターリング、 戦神艦迫撃決戦形態(フル・オフェンスモード) 。
【三極竜 グローリア】、 単独首最大戦闘形態(マックス・バトルモード) 。
人類最大のSTRとモンスター最大のSTRを持つ者達。
彼らはひとしきり笑って、
――お互いの頭部を粉砕せんと拳を振るった。
周囲に衝撃波を撒き散らしながら、機械巨神と最強竜の拳が激突する。
それが最大の力と力の激突。
王国の<超級>と【三極竜 グローリア】、その最終戦の……真のゴングだった。
To be continued