軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十八話 彼女の選択

□【元始聖剣 アルター】について

【元始聖剣 アルター】。

それは、伝説に伝わる先々期文明……よりも さらに過去(・・・・・) から伝わる蒼き剣。

極めて強大な力を持ち、斬れぬものはないとさえ言われる超越の剣。

二千年前の先々期文明末期の動乱の中、一度は歴史から姿を消したその剣が再び現れたのは……今から五百と数十年前のことだ。

当時、大陸西方は今の天地のように戦国時代を迎えていた。

それは【龍帝】、【覇王】、【猫神】による絶対強者の時代が終焉を迎えた後のこと。

【龍帝】は天寿を全うし、【覇王】は【 天神(ジ・アトモス) 】、【 地神(ジ・アース) 】、【 海神(ジ・オーシャン) 】の三神によって封じられ、【猫神】は何処かへと去った。

かつて【覇王】が治め、既に空白となった広大な支配地域の西側。肥沃な土地を有する西方では小国家が乱立していた。

少しでも糧を得んとする者、かつての【覇王】の偉業の後を継ごうとする者、ただただ自身の周囲を守りたい者。

理由は様々であったが、大陸西部は混沌としていた。

それでも、長命な種族が治める南や、先々期文明信奉者の集まった北は安定していた。

だが、西方中央にはそれがなく、各々の思想によって動く小国家による戦乱が長く続いていた。

しかしあるとき、その戦乱において全ての小国家を平らげ、一つの国とする者が現れた。

彼の名は アズライト(・・・・・) 。

元々は一介の牧童であった彼は、その戦国時代を憂いていた。

そんな彼が、土中から偶然に見つけたのが【元始聖剣 アルター】だった。

彼は【アルター】に選ばれて【 聖剣王(キング・オブ・セイクリッド) 】となり、【アルター】を手に戦い抜き、遂には仲間と共に西方中央部を平定した。

彼こそが、アルター王国の初代国王アズライト・アルターである。

『【アルター】に選ばれて【聖剣王】となる』とは文字通りの意味だ。

【元始聖剣 アルター】は先々期文明崩壊後の長き時間の中で<UBM>へと変じたが、それでも元々の機能と役割を失ったわけではない。

その役割とは、自身を扱える適性を持つ者を見定め、【聖剣王】、あるいは【聖剣姫】という特殊超級職を与えることだった。

初代国王アズライトもまた、その適性を持っていたがゆえに【聖剣王】となり、【アルター】の力を振るうことができた。

超級職には大きく分けて二つタイプが存在する。

それは努力と才によって辿りつけるものと、それだけでは絶対に辿りつけないものだ。

例えとして【教皇】と【聖女】という超級職を例に挙げよう。

どちらも回復魔法を得手とする超級職であるが、この二つには大きな違いがある。

まず【教皇】の転職条件。

第一に、【司祭】や【教会騎士】、【僧兵】など聖職者に分類されるジョブで五〇〇レベルを埋めること。

第二に、【司祭】を最大レベルまで上げた一〇〇〇人から、自身の名と共に「【教皇】に推挙する」という署名を集め、署名を所持した状態で司祭系統のクリスタルに触れること。

第三に、転職のための特別なクエストを達成する、……とこのように三つの条件がある。

しかし、それらの条件はいずれも、努力と才があれば達成できる条件である。

では【聖女】の条件とは何か。

それはある特定の家系の血を引く女性が、ある特別なクエストを達成することで転職できる、というもの。

努力や才よりも、血筋こそが【聖女】の転職には重要だ。

このように、超級職には努力と才で成れる通常の超級職と、努力や才とは異なる適性等の特別な要因がなければ成れない特殊超級職がある。

即ち、【聖剣王】、そして【聖剣姫】とは【元始聖剣 アルター】に適性を持つ者だけが就ける……就かされる特殊超級職なのである。

初代国王アズライトは自らの剣の名であるアルターを国名とし、アルター王国を建国した。

アルター王家は、代々初代国王の剣であった【元始聖剣 アルター】も継承し続けている。

そして、【アルター】に適合した初代国王アズライトの血筋であるため、アルター王家には【アルター】に適性を持つ者が生まれてきた。

ただし、それも全員ではなく数代に一人というペースであり、事実、前国王であるエルドル・ゼオ・アルターには適性がなかった。

しかし、彼の娘……アルティミアにはそれがあった。

アルティミアが生まれたとき、父母共に金髪であったのに彼女の髪は藍色だった。

それは決して不義によるものではなく、隔世遺伝のようなものだ。

初代国王アズライトも藍色の髪をしていたため、王家には時折藍色の髪の子が生まれる。

それ自体は慶事であり、藍色の髪の子にはミドルネームに初代国王の名である「アズライト」を付ける慣わしがある。

だが、アルティミアはこれまでの髪色だけ似ていた先祖とは違い……【アルター】への適性までも初代国王と同等だった。

それは彼女が生まれた直後に宝物庫の【アルター】が蒼く輝き、赤子のアルティミアが【聖剣姫】に就いていたことでも証明されている。

ともあれ、そのような事情から、彼女が【アルター】を継ぐ【聖剣姫】であることを父エルドルもすぐに知った。

しかし、彼はこう考えたのだ。

――娘が【聖剣姫】だからといって、戦う生き方を強要したくはない、と。

後に<マスター>に対しても同様の考えをもつエルドルであるが、このときのその思いはひょっとするとそちらよりも強かったかもしれない。

生まれたばかりの赤子だというのに、古き時代から受け継がれた力に選ばれてしまったがために、必然その生き方を定められてしまう。

それが彼には許容できなかった。

ゆえに、彼はアルティミアが【聖剣姫】であると公表せず、宝物庫でのことやアルティミアのジョブについても隠蔽した。

公表すれば、他国へのカードにも、民衆の支持にも繋がっただろうが、彼はそれより娘の平穏を選んだ。

しかし、王族である以上は、そしてこの世界で生きる以上は戦いから完全に無縁でもいられない。

何より持っているだけでも危険な力が、彼女自身を傷つけないようにしたいとも考えた。

だからこそエルドルは、己の親友である【天騎士】ラングレイと、己の教師でもあった【大賢者】には真実を明かし、協力を仰いだ。

ラングレイはアルティミアに剣を教え、【大賢者】は彼女に理を教えた。

そのお陰もあって、アルティミアは自身の【聖剣姫】としての力を誤らず使えるように成長した。

ただし、ここに一つの誤算がある。

ラングレイに剣を教わったアルティミアは、単に【聖剣姫】の資格があるというだけでなく――純粋に剣術の才に秀でていたのである。

その才は師であるラングレイをも凌いでいた。

そう、彼女はこと剣において、技術も、扱う剣も……王国最強であった。

◇◆◇

□■カルチェラタン・都市部外縁

「――フッ」

迫る【アクラ】の突進をアルティミアは回避しない。

地に突き立つ幾十もの棘の如き脚の只中に飛び込み、その全てを紙一重で回避しながら――【アルター】の蒼刃を奔らせる。

ありとあらゆるものを斬り刻む【アルター】は、【アクラ】の周囲の固定化された空間も、ましてや【アクラ】自身の装甲さえも、まるで手応えなく切り裂いていく。

まだしも羽毛を振るう方が抵抗を感じ、常人には逆に扱い難いだろうその剣閃を……アルティミアはごく自然に使いこなす。

そして彼女の動きは速い。

正体を隠すために使っていた【剣聖】のジョブから【聖剣姫】に切り替えたことで、【聖剣姫】のパッシブスキルが発動し、今の彼女のステータスは比較にならないほどに上昇している。

パッシブスキル《聖剣の継承者》は、【元始聖剣 アルター】を使用しているときに限り、全ステータスを 十倍化(・・・) する。

特殊超級職【聖剣姫】の【聖剣姫】たる所以であり、五万をオーバーした彼女の速度を【アクラ】の脚は捉えきれない。

音速の五倍を超える彼女の速さに、《空間固定》と《相互補完修復機能》にリソースを割いた【アクラ】では対処できないのだ。

そう、【アクラ・ヴァスター】の機能は極めて強力であるが、それに全てのリソースを使っている。

ゆえに、【元始聖剣 アルター】のような――機能が全く意味を成さない 天敵(・・) に遭遇した時、その優位性は全て失われるのだ。

『――援護、要請』

そして天敵に相対した【アクラ】の判断は早い。

即座に上空の【ヴァスター】に、運動エネルギー爆撃の使用を要請した。

【ヴァスター】も交戦中であったが、その要請に即刻応じ、ヒレの一つを【アクラ】の真上に落下させた。

「……! 来たよ、王女様! 上からヒレが一つ!」

その様を、【ヴァスター】と周囲の監視に当たっていたトムがアルティミアに伝える。

そう、如何に特殊超級職といえども、アルティミアはあの運動エネルギー爆撃の直撃に耐えられるほど頑強ではない。

だからこそ、爆撃が来た際には即時離脱できるようにトムが【ヴァスター】を見張っていたのだ。

だが、

「一つなのね? ……それなら、退く必要はないわ」

「え?」

アルティミアの言葉を、トムは理解しきれない。

「これ以上落とされてカルチェラタンを壊されたくはないもの。それにここはもう都市部、今度は被害者が出るかもしれない」

「いや、そうは言ったってもう落ちてるから……!?」

八人の内の七人を逃がしながら、残ったトムが慌てたようにそう言う。

だが、そうしている間にもヒレは加速し、先刻の初撃のように音速の七倍近い速度で地上へと落下し――、

「私より少し速い程度の速度なら―― 合わせられるわ(・・・・・・・) 」

――ヒレの落下点を見極めていたアルティミアがそこに立っていた。

それは、単にAGIだけに依らない彼女の動体視力。

亜音速のステータスでありながら、超音速のトムの動きを正確に追い続けた彼女の力。

それは音速の七倍のヒレが自身の間合いに入るタイミングも正確に測り、

「――《カット》」

――ヒレに蒼刃を徹した。

直後に起きた現象を、何と表現すればいいか。

真っ二つに両断された巨大なヒレが…… ゆっくりと(・・・・) 地面に落下したのだ。

そこには、真空状態の自由落下による超音速など、どこにもなかった。

「……何したの、今」

引きつった顔で問うトムに対し、

「 運動エネルギーを(・・・・・・・・) 斬っただけよ(・・・・・・) 」

事も無げにいったそれは……決して 斬れていい(・・・・・) ものではない。

だが、【アルター】ならば斬れてしまう。

なぜなら【アルター】こそは、あらゆる物質、空間、そしてエネルギーまでも断ち切る刃。

形のないものを斬ることさえも【アルター】ならば造作もない。

ゆえに、それを知るトムが驚愕したのはむしろ、音速の七倍にタイミングを合わせて斬り捨てたアルティミアの技量であった。

最初にレイと相対したときは【アルター】を封じ、なおかつ再起不能で済ます……殺さないよう手加減していた。

しかし【アルター】と【聖剣姫】の力を解放し、斬ることに躊躇いのない彼女は……間違いなく個人戦闘型上位の<超級>に匹敵する力を発揮していた。

「…………」

そう、アルティミアには桁違いの力がある。

あの戦争に出ていれば、【魔将軍】を討ち取り、師を守れていたかもしれない。

あるいは、父であるエルドルをフランクリンから守りきれたかもしれない。

あのときに、王国のティアンで最も力のある自分が先頭に立っていれば、という思いと後悔がアルティミアには今もある。

しかし、戦争の前に参陣を申し出ようとしたアルティミアを制したのは、父エルドル自身の言葉だ。

――それにね、アルティミア

――私は……戦う力があるというだけで戦いを望むような真似は

――決してしたくないんだ

――だからね、アルティミア……

――君は、戦わなくていいんだ

それは優しい言葉だった。

娘に対する愛情に溢れた言葉でもある。

けれどきっと、今のアルティミアならば頷くだけでなく、別の言葉を返すことができる。

「お父様。どんな力を持っていようと、それだけを理由に戦いに身を投じなくても良いのだと、あなたは仰ってくれました。その優しさに、愛に、私は深く感謝しています。けれど……」

【アクラ】と相対し、その装甲と脚を断ち切りながら、アズライトは天に昇った父に告げる。

「私は今、私の意志で、 <マスター>(彼ら) と並んで、戦いに身を投じます」

それが、今の彼女の選んだ道。

「お父様の望んだ戦わない私ではなく、<マスター>を遠ざけて全てを自分で背負い込むかつての私でもない」

アルティミアは、一人の<マスター>の顔を思い浮かべる。

――全ての<マスター>は自分の意思で、自分がどうあるかを、自由に選ぶ

――俺という<マスター>が今選ぶのは

――アズライトとこのカルチェラタンを守ることだ

それは昨日の夜に、レイがアルティミアに告げた言葉。

彼自身の、自由の選択。

今はその言葉が、アルティミアの胸にある。

だからこそ、アルティミアもまた選ぶ。

「私はレイ達と共に先頭に立つ。そして、この国を脅かす存在に抗う」

彼が選んだように、アルティミアもまた選択したのだ。

「お父様。願わくば、天の高みより見届けてください。私の選んだ……戦いを」

そう言って、【アクラ】の胴を両断したアルティミアは空を見上げる。

空は高く、宙を走る閃光が、彼女の戦友もまた戦っていることを示していた。

To be continued