軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十六話 双方向の信

□【猫神】トム・キャット

「ハァ、ハァ……フラグマンの奴。劣化はあるにしてもレドキングの能力を兵器転用するとか無茶苦茶だよもう……」

質量爆撃の爆心地から少し離れた山中で、僕は荒く息を吐きながら【アクラ・ヴァスター】の製作者であるフラグマンに悪態を吐いた。

あいつの兵器に手を焼かされるのはこれで何度目か。

……大体は僕が被害被ってるんだよなー。あいつらももっと遭遇すればいいのに。

「六百年前に壊した奴とは完成度が段違いだ。やっぱり自動開発の兵器は放置しちゃいけないなー。……あれが<UBM>になれれば、多少はジャバウォックが方向性を付けられそうなものだけど、それも出来ないだろうし」

【アクラ・ヴァスター】は<UBM>になれない。

同じフラグマンの兵器である【エデルバルサ】は過去に<UBM>化させているけど、今回は事情が違う。

スタンドアローンで人の指示を仰ぐことなく活動することが前提だった半生体兵器の【エデルバルサ】とは違い、【アクラ・ヴァスター】は多脚戦車や空中戦艦。

本来なら人が搭乗して動かす兵器が、 正常に(・・・) オートで稼動し続けているだけだ。

多分、専用のコードさえあれば、【アクラ・ヴァスター】はすぐに人に従順な兵器に戻るだろう。まぁ、そのコードはフラグマンの頭の中にしかなかったのだろうけど。

そんな訳で、人の所有物でなければ動かない煌玉人と同様に、未だ人に使われる機械である【アクラ・ヴァスター】は、<UBM>……モンスターには認定されない。

ジャバウォック自身が彼の<マスター>から掛けられたセーフティだから、これはどうしようもない。

「これから、どうすべきかなー……」

基本的なスタンスは<遺跡>の中で考えていたとおり、いずれ相性のいい<超級>に撃破してもらう、というものだ。

実際、《空間固定》も《空間希釈》も相性の良い<超級>が二人いれば、……いや、空間跳躍攻撃が可能な迅羽ならば単騎でも対処できる。

ただし、先刻とは【アクラ・ヴァスター】の戦力評価が大きく変わっている。

このまま質量爆撃を続けながら南進されれば、王国の地図がまた変わってしまう。

「……まぁ、レドキングの攻撃能力まで模倣できてなくて良かった、と言うべきかなー。ほんと良かったよ……模倣されたのが防御能力だけで」

「そっちだと地図が変わるどころじゃなかったからねー……」、と心底安堵しながら息を吐く。

「<超級>が来るまで待っていたら王国北部は壊滅するだろう。けど、現状で打てる手も……一つだけあるかな」

僕――チェシャは空間操作のオリジナルを知るがゆえに、対処法も見当がつく。

そして、このカルチェラタンにその対処法を実行できる力があるのを知っている。

奇跡的に、<超級>ならざる身で、あの【アクラ・ヴァスター】に太刀打ちできる存在。

可能性は限りなく低いけど、【アクラ】の絶対防御と【ヴァスター】の広大な真空を突破し、破壊できる 者達(・・) はいる。

「実際にやるとなると木綿糸で綱渡りするようなものだろうけど、手はある。そのためにも彼らと合流しないと……。けど、どうやって知らせればいいかなー」

彼らの持つ力が、【アクラ・ヴァスター】に対処できると僕は知っている。

彼らの力も、【アクラ・ヴァスター】の力も、僕は把握しているのだから。

だが、把握していてはいけないのだ。

「僕がそれを知っているのは不自然に過ぎる。さっきの警告だってギリギリだ」

質量爆撃が始まった時、それが《空間希釈》を利用した攻撃だと僕は察した。

これだけならまだ、結界の内側にいたことと、八年も決闘王者の座に就いていた“経験”という体で誤魔化せる。だけど、【アクラ・ヴァスター】の詳細や彼らの……彼女の能力までも把握しているのは異常だ。

あのフランクリンによって手の内が周知されている彼と違い、 彼女(・・) の力は国家機密どころではないのだから。

「……彼らが自分であいつの能力に気づいて、対処できると分かってくれればそれが一番手っ取り早いのだけど」

「それは無理だろうなー」と、僕は途方に暮れた。

◇◇◇

□【煌騎兵】レイ・スターリング

「俺の推測だけど、鯨の方は距離……空間を見た目以上に広げる能力だと思う」

衝撃波を凌いだ後、俺達は距離を取りながらあの攻撃の正体を掴むために相談していた。

何も分からないままに迂闊に近づけば、鯨がまたヒレを落とすかもしれないからだ。

俺達よりも爆心地に近かったトムさんや、逃げる際に空にいるのが見えたマリオ先生のことは心配だ。

けれど、あれの正体を掴んで対策を打てなければ、カルチェラタン全てがクレーターに変わるかもしれない。

それはあまりにも……後味が悪い。

だから俺は知恵を絞り、自分が見聞きした情報から……あのヒレの正体を推測した。

「……距離と、空間?」

「どういうことだ?」

しかし、ネメシスとアズライトにはうまく伝わらなかったらしい。

「どうしてそう思ったの?」

「理由は幾つかある。一つは対空砲が届かなくなったこと。遠目だったけど、自然に放物線を描いて落ちていた。砲弾が何かにぶつかって弾頭が潰れた様子もなかったから、壁にぶつかったり、他のエネルギーの干渉を受けたりしたわけでもない。あれは本当に届かなかったんだ。だったら、この時点で考えられるのは対空砲の有効射程が短くなったか、鯨がもっと届かないくらい上昇したかの二択」

先日の【モノクローム】との戦いを思い出す。

あのときも、地上の<マスター>の攻撃で届かずに落ちたものがあんな風だった。

「他には?」

「あのヒレの落下だ。あれは俺達から見てすごくゆっくりと落ちていた。だけど、あの威力だ。仮にあのヒレが何十トン、何百トンあったって、あの速度であれだけの衝撃波を起こす運動エネルギーはありえない」

「だったら爆薬でも満載しておったのではないかの?」

「かもしれないけど、爆炎もなかったし、聞こえてきたのも爆発音とは違う。ああ、でもそういう魔法の爆弾、ってケースもあるのか……」

衝撃だけを撒き散らす爆弾は、普通にあるかもしれない。

基本はファンタジーだから、地球の物理法則が当てはまらないこともあるよな。

「いえ、今はレイの推測を続けて」

「分かった。俺があれについてもう一つ気づいたのは、あれの落下音もまるでしなかったことだ」

「したではないか、それはもうズドーンと」

「それは地面に激突した時だろう? 俺が言っているのは落下の最中だ。ヒレみたいな形でそれなりに大きさもあったのに、落下中が無音だった。風を切る音すら全くない。それは先の推測どおり見た目以上の距離があったからかもしれないし、……あるいは真空だったのかもしれない」

「真空……」

真空なら、もう一つ納得できることがある。

「真空なら、あれが落下中に加熱していなかったことにも納得がいくんだ」

「加熱?」

「ああ、物体は大気圏中で高速移動すると空気との摩擦熱が生じる。それが限度を超すと、空気の分子が圧縮してプラズマ化する。……分かるか?」

「……超々音速機動する金属系モンスターのような輝き、なら私も近いものを知っているわ」

「それでいい。だけどあれが俺の推測どおり、あれだけの破壊力を撒き散らす速度にまで加速していたのなら、摩擦で加熱・赤熱化して光るはずなんだ。それがないってことは、あいつの周囲は真空だった可能性が高い」

「真空だと、何が変わるのだ?」

「普通の自由落下だと空気抵抗があるから、そう大した速度まで加速できない。しかし、真空なら違う。加速の限度がない」

空気抵抗がなく重力加速度は存在する中での自由落下。

そんな実験映像を昔、学校の授業の余録で見た覚えがある。

空気を抜いて真空状態にした筒の中で鉄球を落下させるというもので、鉄球の落下速度は空気があるときよりも速かった。

……当時は「へー」くらいにしか思わなかったが、ここに来てあの授業が役に立つとは思わなかった。

「それと、あいつが真空を作ってる件についてはもう一つ根拠がある」

「それは?」

「レーザーだよ。あいつ、飛ぶ人形の迎撃にレーザーしか使ってなかった。煌玉兵を見れば、他にミサイルなりガトリングなり幾らでも武装はあるのに、レーザーだけしか使わない。でも、それが距離を広げる能力と真空を作る能力を前提に考えると、ひどく納得がいく」

広大な真空を前提とすれば、レーザー以外は使う意味がない。

なぜなら、

「レーザーは、 距離では(・・・・) 威力が減衰しない(・・・・・・・・) 」

それこそが、光の特性。

「レーザーは通過する分子によってのみ、その威力を減衰させる。だから仮に何百キロ、何千キロの距離だろうと……それが真空ならば威力は減衰しないんだ」

あの【モノクローム】の射程は一万五千メテル程度だった。

しかしそれは空気分子の充満した大気中だったからだ。仮に真空ならば、あれのレーザーはどこまでも届いただろう。

「加えて、レーザーは光速。距離を広げても、目標を外さない」

光速。即ち秒間三億メートルの移動距離。

相手との距離が百メートルだろうと一万メートルだろうと大差はない。

つまりはレーザーこそが、広大な真空を作る前後で遜色なく使用できる唯一の武器。

鯨がレーザーとあのヒレしか積んでいないことが、俺の推測を補強する。

「つまり、レイの推測をまとめるとどうなるのだ?」

「あの鯨は見た目には分からないが、周りにかなり広い真空の空間を作ってる。だから攻撃は届かないし、あいつが落としたものは莫大な加速を得て、運動エネルギーを地上に叩きつける。そう考えればあいつの引き起こした現象全てが説明できる」

中々に絶望的な能力だ。

あの【モノクローム】とは別種の、天の覇者と言っていいだろう

だが……。

「そんな相手をどうすれば……」

「……いや、倒せる」

「え?」

振り返るアズライトに頷きながら、人差し指を立てる。

それは「一回」という意思表示。

「多分俺は、 一回だけなら(・・・・・・) ……あの鯨を倒せる」

それはきっと綱渡りになるだろう。

アレ(・・) が俺の考えているとおりの威力を発揮するか。

鯨に一度しか使えない アレ(・・) を当てられるか。

そして攻撃を終えるまで生きていられるか。

賭けの要素は強いが、 アレ(・・) があのときの半分でも威力を保っていれば、トムさん達の戦いのときのあれの強度から考えて破壊できるはずだ。

だが……、

「一回だけ破壊しても、駄目ではないかのぅ……?」

「……ああ」

そう、ネメシスの言うとおり、あの鯨はトムさん達がこれでもかと破壊したのに何事もなかったかのように修復し、浮上していった。

あれは地上の兜蟹の防御力と同様に、超修復能力を標準装備しているのかもしれない。

俺が破壊しても、すぐに復活する可能性が……。

「いや、そんなことはないよー」

「トムさん!」

心なし格好がボロボロになっているトムさんは横の路地から現れて、シルバーに並走しはじめた。

「無事だったんですね!」

「八分の六はやられたけどねー。でも、こうして話しているってことは大丈夫さ。今も一人はあいつの傍で監視してるよ」

……本当に生存能力が高い<エンブリオ>だ。

トムさんを走らせたままでもいられないので、俺達は物陰に移動してシルバーを降りた。

「あの、マリオ先生は……?」

「マリオ……ああ、人形を使っていた彼はちょっと分からない。生きているのか死んでいるのかもね」

「そう、ですか……」

……生きていることを信じよう。

あの人も、特務兵だというならステータス……生存能力は高いはずだ。

「さっきの、そんなことはない、というのは?」

「あいつの修復能力さ。あれは《相互補完修復機能》といってね、たまに<遺跡>の機械が持っているんだよ」

「《相互補完修復機能》……?」

「簡単に言えば、機械Aと機械Bがお互いを修復しあう機能さ。そして一方が残っていれば、もう一方が粉微塵になっていようと直してしまう。つまり、二機を同時に倒せばもう修復しない」

「そういう機能ですか、…………待ってください」

それを、あの兜蟹と鯨がやっているのだとすれば……。

「……倒せないんじゃ、ないか?」

俺には鯨を、綱渡りにはなるが倒す手がある。

だけど、兜蟹を同時に倒す手段はない。

《復讐するは我にあり》が効けば兜蟹を倒せるが、……地上からは鯨にアレを当てられない。目視どおりの距離ではないのだから、一センチのズレで見当違いの方向に飛んでいくだろう。

だから鯨を倒すにしても、兜蟹を倒すにしても接近の必要はあり……、俺が倒せるとしてもどちらか一方だけだ。

「ちなみにあの多脚戦車には、君のスキルは効かないと思うよ」

「え?」

「あー、ほら、例のギデオンの事件の中継で、僕も君のカウンター攻撃のスキルは知ってるけどさ。あの多脚戦車はそもそも触れられないんだ。戦車に触れる前に、手前の空間で阻まれてしまう」

「そんな……」

触れられないのでは、ネメシスの《復讐するは我にあり》も使えない。

トムさんやマリオ先生で兜蟹を倒せないのは、さっきまでの戦闘で分かっている。

そして兜蟹が残っている限り、鯨は不死身。

……詰んでいる。

「のぅ、クマニーサン達に援軍を要請すればいいのではないか? うむ! ワープ攻撃が出来る迅羽を呼べば……」

「どうやって連絡する? 兄貴には繋がらなかったし、迅羽の連絡先は知らない。それに、二人を呼べたとしても来るまでに……」

このカルチェラタンは、壊滅する。

……そんな、結末は真っ平御免だ。

「まだ、何か手はないのか……? 他に、あの兜蟹に対処できる王国の<マスター>が残っていないのか?」

「<遺跡>に入った王国の<マスター>は僕以外全滅だよ。それに、他の<マスター>も昨晩のうちに削られてる」

万事休す。

俺は全てを賭けて、あの鯨討伐に挑むことはできる。

だが、それだけでは足りない。

せめて、もう一人……あの兜蟹を倒せる可能性を持つ誰かがいれば……!

「トム・キャット。一つ尋ねたいのだけれど」

望む可能性の小数点が増えるのを実感しながら、懊悩していた俺の耳に……もはや聞き慣れた声が届く。

それは……アズライトの声だった。

「なんだい、仮面のお嬢さん」

「地上の兵器の防御手段は、空間に阻まれる、でいいのよね?」

「そうだよ。でも、僕らの集中攻撃でも駄目だった。それに鯨の爆撃でも無傷だから、ただの攻撃では絶対に超えられない防御だと思うよ」

「そう」

絶望的なトムさんの回答に、アズライトは頷き、

「――それなら、私がアレを倒すわ」

当たり前のように、そう言った。

「な!? アズライト、御主……正気か!?」

「正気よ。私が、地上の兵器を討つ」

アズライトはそう言って、俺の目を見る。

その目には一切の迷いがなく、ただ互いの意思を通すような視線の交わりがあった。

「レイ、アナタは一度だけなら空の兵器を討てるのよね?」

「……ああ、必ず倒してみせる」

「嘘のないアナタを信じるわ。だから……」

アズライトはそう言って、左手で腰に佩いた蒼い剣を握りながら……言葉を述べる。

「アナタも信じて。私は――必ず地上の兵器を斬る、と」

その目には強い意志と、自信と、覚悟と、俺が鯨を倒すことへの信頼があった。

彼女は本当に、あの兜蟹を倒す手を持っているのだろう。

それは俺同様に綱渡りかもしれないが、彼女は俺の綱渡りが成功すると信じてくれている。

ならば、俺の答えも決まっている。

「ああ――アズライトを信じる」

アズライトの決意と選択を、受け止める。

彼女がティアンだから近づけないという選択はしない。

それは彼女を支えたいと思った俺の選択じゃない。

彼女が兜蟹を討つことを信じ、俺も自身の全てで鯨を討つ。

それが今この場での、彼女を支えるということだろう。

「やりましょう、レイ。<遺跡>に纏わるこの事件……私とアナタで幕を引きましょう」

宣言の後、アズライトは仮面を外して微笑んだ。

その微笑みに、俺も笑みを返す。

「――応!」

そうして、天と地の兵器を倒すための……最終ラウンドが始まる。

To be continued