軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十五話 伝説級

□【煌騎兵】レイ・スターリング

俺の前後に立ちはだかる、二体の【ギーガナイト】。

前門の虎、後門の狼。

いや、この場合はどちらも悪魔、か。

『レイ……!』

ネメシスの悲鳴にも似た警告の声。

それを耳にしながら、俺は必死に前後から襲い来る二体の伝説級悪魔への対応策を考える。

先刻はあった活路が、今は塞がれている。

一体ですら、手傷を負わせるのがやっとだった悪魔。

二体となれば、悪魔を潜り抜けて【魔将軍】を倒す可能性は、あまりにもか細い糸のようなもの。

「……それでも!!」

それでも、前に進む。

ここで絶望して諦めれば、そこには何の可能性もない。

どれほどに、見える活路が狭き門であろうと、足を止めること以上に活路を塞ぐ障害はない。

だから、竦まず動けと己の五体に呼びかける。

足を動かせ。

たとえ、前後から俺を挟み切ろうとする亜音速の刃が迫っていようと、俺は諦めない。

――可能性はいつだって、お前の意思と共にある。

――極僅かな、ゼロが幾つも並んだ小数点の彼方であろうと

「可能性は、必ずある!!」

かつて兄から聞いた、俺の心に根ざした言葉と共に、前へと踏み出す。

前に進もうとする俺と、俺を断とうとする二体の悪魔の刃が重なる瞬間に、

『――その言葉、私も大好き、かな?』

何かが激突する衝撃音と共に、そんな“声”が聞こえた。

◇◆◇

□■ある考察

<Infinite Dendrogram>においては、モンスターの強さはしばしば戦力の尺度となる。

最もよく使われるのが下級職一パーティ相当の亜竜クラス。

次いで、上級職一パーティ相当の純竜クラスであろう。

もっともそれはティアンでの換算なので、<マスター>ならば下級職一人で亜竜クラス、上級職一人で純竜クラスを倒すことも珍しくない。

レイにしても、下級職どころかレベル0で【亜竜甲蟲】を撃破している。

逆に、ごく限られた領域の存在にしか使われない尺度がある。

逸話級、伝説級、古代伝説級、神話級、超級。

いずれも<UBM>のランクであり、各<UBM>のランクは倒したときに手に入る特典武具から知ることが出来る。

<UBM>は<Infinite Dendrogram>の歴史の中でこれまでに幾度も出現し、大きな犠牲を払いつつも倒されてきた。

その甲斐もあって、ティアンは討伐前の<UBM>のランクを測る技術を構築した。(<マスター>も熟練ならば経験則でどの程度かを測ることは可能である)

その影響を最も強く受けたジョブがある。

そのジョブの名は【魔将軍】。

かつて、<UBM>の強さの尺度が明らかになった頃、当時の【魔将軍】が己のジョブスキルを見ていて気づいたのだ。

ジョブスキルの文面が変わっている、と。

それまでは「強大な悪魔を召喚する」と書かれていた文面が、「伝説級の悪魔を召喚する」に書き換わっていた。

まるで世界の常識の変化を、ジョブスキル自体が受け入れたかのように。

【魔将軍】のスキルは「強大な悪魔」や「極めて強大な悪魔」ではなく、「伝説級」や「神話級」の悪魔を呼び出すスキルになった。

それは名前だけの変化だが、たしかに起きた変化である。

ただし、この変化に一つの疑問を呈しよう。

それは「変化はなぜ起きたか」……ではない。

「呼び出される悪魔が本当に<UBM>の伝説級と同等か」、である。

変化した当時の【魔将軍】は生涯伝説級の悪魔を呼び出すことはなかったが、後年……<Infinite Dendrogram>のサービス開始後に【魔将軍】となったローガンは度々呼び出している。

そして彼は言う。「これぞ正に伝説級」、と。

実際、彼は伝説級の悪魔【ギーガナイト】で逸話級の<UBM>である【邪石竜 ヴォルトガイザル】を倒し、今も使っている大剣、【邪竜宝剣 ヴォルトガイザル】を入手している。

そのことから、伝説級悪魔は伝説級<UBM>に匹敵する性能を有しているのだと、ローガンは断言した。

もっとも、ある<超級>は異なる意見を持っていた。

「逸話級を倒しても、倒したものが逸話級より格上の伝説級である証明にはならないんだよねぇ。同じく逸話級かもしれないし」

「え? 【ギーガナイト】のステータスはたしかに伝説級と同じくらいだって? ハハハ、そりゃそうかもしれないけどさ。<UBM>で重要なのはステータス、じゃあないだろう?」

「そもそも【ギーガナイト】が倒した逸話級ってのは、<UBM>に成り立てで未知数なものさ。そこで止まるものと、より高みまで上るもののピンキリが過ぎる。個体差が大きいから逸話級って実は強さの尺度に向いてないんだよねぇ。実際、将軍閣下(笑)の【ギーガナイト】が伝説級なのって、逸話級が尺度として使えないからだと思うよ? 本当に伝説級の<UBM>と同等かは疑問が残るね」

「そう、大体の<UBM>は逸話級からステップアップしているみたいでねぇ。<遺跡>から出てきた大昔の遺物なんかは、出てきた直後にもっと高いランクに認定されたりもするけど」

「たまに「あれ? なんだか強くない?」って性能の武具になる逸話級もあるじゃない? そういうのって本当はもっと強く、もっと高いランクになるはずだったんだろうねぇ」

「将来強くなるものは、死んで特典になってもそれが顕れる。私も結構な数を倒しているけど、特典を見て「本来どうなるはずだったか」を考えるのは、少し楽しいねぇ」

「……「本来どうなるはずだったか」、ね」

「そういえば、ギデオンで入手した彼の装備データにはいくつも興味深いものがあった」

「オリジナルのはずなのにリストにない煌玉馬に、【RSK】を倒す契機になったMPタンクのブーツ」

「そして……篭手」

「あれは伝説級の<UBM>の特典だったらしいけど」

「―― 本来どうなる(・・・・・・) はずだったのかねぇ(・・・・・・・・・) 」

◇◇◇

□【煌騎兵】レイ・スターリング

衝撃音の発生源は、二体の悪魔が振るった大剣だった。

俺を前後から挟みきろうとした刃が、俺の体に触れる直前で何かに受け止められていた。

その何かは――【瘴焔手甲 ガルドランダ】。

前の刃を右手で捌き、背後の刃を左手で掴んで止めていた。

いつの間にか……独りでに俺の腕から外れて。

『な、これは……!?』

ネメシスは驚愕の声をあげるが、俺は悟っていた。

今、目の前で起きていることを為せる意思は一つしかない。

この現象は、『今がそのときだ』と告げる―― 彼女(・・) の意思そのものだと。

「……ああ! だったらお前に託す!」

ならば、俺も応えよう。

俺の活路を残してくれた彼女のために。

デスペナルティやそれ以上のリスクがあろうとも、俺はそれを……受け入れる!!

受け入れて……【魔将軍】を倒す!!

「ありったけを!! くれてやる!!」

吼えると共に、【紫怨走甲】に蓄積された怨念を全て、MPに変換。

あの【モノクローム】の事件と今このカルチェラタンで蓄積したそれは――あのフランクリンの事件に迫る四〇万以上もの莫大なMPへと変じる。

そうして生じた魔力の全てを【瘴焔手甲】に注ぎ込む。

「スキル発動時間設定…… 四〇〇秒(・・・・) !」

莫大なMPを糧に、

【瘴焔手甲】を媒体に、

――その 召喚(・・) スキルは実現する。

「来い……《 瘴焔姫(ガルドランダ) 》ァァ!!」

【瘴焔手甲】の第三スキルを宣言した直後、【瘴焔手甲】に爆発的な変化が起きる。

赤黒い炎と黒紫の瘴気が渦を巻き、それがやがて【瘴焔手甲】を起点に収束する。

手甲から繋がる赤銅色の腕が伸び、順に胴が、両足が、顔が形成される。

その額には、二本の角。

それはあの夢の中で見た姿そのままに――しかして莫大な殺気と闘気を振りまく鬼の姿。

『こ、こやつは……?』

突然の登場に、驚きを隠せないネメシスに答える。

「【ガルドランダ】だ」

『なっ!?』

そう、彼女こそが【ガルドランダ】。

かつて俺が倒した母体……不完全な<UBM>ではない。

あの戦いでも本来顕現するはずだった真の姿――【瘴焔姫 ガルドランダ】。

俺に討伐された今はもう、ありえなかったはずの姿。

それを成したのは【瘴焔手甲 ガルドランダ】の第三スキル。

《 瘴焔姫(ガルドランダ) 》――それは莫大なMPと あるデメリット(・・・・・・・) を引き換えに、【ガルドランダ】を完全な状態で召喚するスキルに他ならない。

「何だ、そいつは……! 【聖騎士】のお前が、召喚スキルだと!?」

【魔将軍】の狼狽する声が聞こえる。

それほど召喚までの動きは予想外であったのだろう。

だが、恐らく本当の予想外は――これからだ。

「――邪魔、かな?」

伝説級の悪魔である【ギーガナイト】を前に彼女は小首を傾げて、――そのまま細い足で前方にいた【ギーガナイト】の鎧を蹴り飛ばす。

直後、【ギーガナイト】は一〇メートル近くも後方まで吹き飛んだ。

『WOWOWOWO!?』

その鎧は砕けこそしないが、大きく歪曲していた。

次いで、【ガルドランダ】は目にも留まらぬ速さ――超音速機動で後方の【ギーガナイト】の懐に飛び込み、その両足を抱え込む。

その矮躯からすると冗談のように、【ギーガナイト】を抱え上げ――宙に放り投げた。

『――――!?』

いかに亜音速で動く悪魔であろうと、【ギーガナイト】に翼はない。

空中では身動きの取れない【ギーガナイト】に向けて、【ガルドランダ】は左手を――左の【瘴焔手甲】を向ける。

手の甲の鬼の口が開き、今まで見たことがないほど煌々とした赤い輝きを放つ。

「――《零式・煉獄火炎》」

その宣言と共に、【瘴焔手甲】から炎が放たれる。

だが、それは俺が先ほどまで使用していた炎とは全く違う威力。

かつて、【大瘴鬼 ガルドランダ】が使ったのと同等……否、それをも遥かに上回る。

あたかも迅羽が見せた【尸解仙】の奥義、《真火真灯爆龍覇》の如く――天へと昇る紅蓮の炎。

『WOWOWOOOOOOOOOOO!?』

【ギーガナイト】に、その炎を避ける手立てなどなかった。

炎はその中心に【ギーガナイト】を捉え、命中すると共にその火力の全てが【ギーガナイト】に収束。

直後――

「汚い、花火?」

小首を傾げながら放たれたその言葉のままに――爆散した。

木端微塵に吹き飛びながら燃え尽きた【ギーガナイト】が、光の塵へと変わる。

三十万オーバーと言われたHPをその一撃で削り切り、撃破せしめた。

……あの【ギーガナイト】は一体目の方で、《復讐》による五万ダメージも受けていたが、それにしても威力が馬鹿げている。

「焼けついちゃった……ね。しばらく使えない、かな?」

【ガルドランダ】は困ったような顔で、ブスブスと煙を上げる左手の【瘴焔手甲】をつつく。

対して、【魔将軍】は信じられないという表情を浮かべている。

付け加えれば、掌中のネメシスからもそれに似た感情の動きが伝わってくる。

突然現れた童女に、伝説級の悪魔が一撃で倒されればそうなる。

理不尽かつ、不思議に思って当然だ。

だが、俺は理不尽とは思わないし、不思議でもない。

なぜなら……彼女も 伝説級(・・・) 。

【ガルドランダ】は伝説級の鬼にして、<UBM>なのだから。

「仕方ないから、そっちは徒手空拳でやる、よ?」

そう言って、まるで武術家の如き構えを取る。

そして、彼女は宣言する。

「残り時間の三二〇秒で――片づける、ね?」

指を鳴らしながら―― 伝説級の鬼(【ガルドランダ】) は悪魔狩りを宣言した。

To be continued