軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九話 バルバロイの流儀

■<ソル・クライシス>

始まりは、ヴァーミンという<マスター>の<エンブリオ>だった。

彼の<エンブリオ>は、自分や所有物の名前を変える力を持ったアマノジャク。

“うりこひめとあまのじゃく”の民話を知らなかったヴァーミンは、「アマノジャクは反対のことを言う奴だろ? 何で偽名の<エンブリオ>なんだ?」と首を傾げたが、その能力は大変気に入った。

彼は自身の<エンブリオ>のスキルについて、「これは上手く使えば良い思いができるのではないか」と考えた。

システム的な変名が不可能なゲームにおいて、自身の名前を自由に変えられるというのは、 自分だけ得をする(・・・・・・・・) 分には非常に有用だった。

実際、彼はアマノジャクの力で<マスター>相手の寸借詐欺を繰り返した。ティアンに対しては“監獄”行きになるかもしれないと恐れて行わなかったが、<マスター>に対してはその制限もなかった。

そうしているうちに、奇襲による辻斬りPKを繰り返していたダムダムや、<エンブリオ>で機械を壊し続けた結果ドライフで指名手配されたブルースクリーンなど、彼同様に悪事を繰り返す<マスター>らと知り合う。

彼らは意気投合して――というよりもお互い利用できると踏んで――手を組んだ。

それが、<ソル・クライシス>というクランの始まりだった。

共犯者を得た彼は、“でかいこと”をやろうと考えた。

そして、あるアイディアを思いつく。

それは有名PKを騙ること。

恐れられる強豪PKの名を騙り、他者を威圧する。

本物かどうかを問われれば、アマノジャクで変名した自分の名前を見せればいい。

騙るPKが強ければ強いほど、その名を見た相手が震え上がるだろう。

アマノジャクは姿かたちまでは変えられないが、顔を出していないPKならば、それが可能だ。

また、騙る相手しか持っていないはずの特典武具にガワだけ似せた装備を用意し、変名し、本物と見せかけることも出来る。

それに、最初は名前だけだったアマノジャクも、第六形態に至ったことで見た目のステータス表示等も偽装できるようになっていた。

手段はあり、では誰の名を騙るかとヴァーミンが少し調べると……簡単に条件と合致するPKに行き当たった。

そのPKの名はバルバロイ・バッド・バーンと言った。

<超級殺し>が王国に腰を下ろすよりも前、王国では五人のPKが恐れられていた。

<超級>にしてPK、【犯罪王】ゼクス・ヴュルフェル。

<K&R>のオーナー、【抜刀神】カシミヤ。

<K&R>のサブオーナー、【伏姫】狼桜。

<ゴブリン・ストリート>のオーナー、【強奪王】エルドリッジ。

そして<凶城>のオーナーであり五人の中で唯一の上級職、【鎧巨人】バルバロイ・バッド・バーン。

王国内のPKでもこの五人は王国の<マスター>にとって――【犯罪王】についてはティアンも含めて――恐怖の対象だった。(【犯罪王】については早々に指名手配になってセーブポイントを制限されていたので、王国に属する<マスター>とは言えなかったが)

王国で名を騙るにあたり、この五人の誰かを語るのがもっとも効果的であるとヴァーミンは考えた。

この五人ほど王国で名の知れたPKはいないのだから。

しかし選択肢からは今も精力的に活動を続けるカシミヤ、狼桜、エルドリッジが除外される。(ヴァーミンは知らなかったが、エルドリッジはこの時点で既にその所属をグランバロアに移している)

そして、【犯罪王】もドライフとの戦争直前に、 正体不明の何者か(・・・・・・・・) と戦い、相打ちとなって“監獄”へと送られているので選択肢には入らなかった。

何より、【犯罪王】の名を騙ることは危険が大きすぎる。たとえ冗句であろうと、その名を聞けば確実に王国の官憲が動くからだ。

第三王女誘拐事件、フリーベル伯爵邸惨殺事件、聖女剥奪事件、……他にも【犯罪王】が王国内で起こした重大事件の数から、官憲の間で【犯罪王】は一種の禁句と化しているのだ。

ゆえにほぼ消去法の形ではあったが、バルバロイが残った。

しかし消去法で残ったにしては、バルバロイの現状は彼らの目論見にピタリと当てはまった。

【超闘士】フィガロに大敗したためにクランは解散し、本人もその後音沙汰がない。

敗戦のショックで引退したという噂も多数流れており、名を騙るにこれほど丁度良い相手もいない。

ゆえに、ヴァーミンはバルバロイの名を騙ることにした。

企みを実行した結果、ヴァーミンは《鑑定眼》でも《看破》でも紛れもなくバルバロイ・バッド・バーンであり……他の<マスター>への脅しも非常に上手くいった。

そして欺瞞のバルバロイ・バッド・バーンを看板に、僅かな期間で<ソル・クライシス>は注目のPKクランとなった。

加入希望者も増加し、彼らのクランはアンダーグラウンド界隈では一躍有名となった。

しかし問題も浮上する。

偽のバルバロイの仕組みを知らないメンバーが増えすぎた。

このままでは何かの拍子に欺瞞がバレて、クランが瓦解するかもしれない。

何か対策が必要と考えて……バルバロイ以外の看板を作ることにした。

それは、「<超級>でも倒せなかった」と有名になった<マスター>でありながら、格下のルーキーでもある“不屈”のレイ・スターリングをPKすること。

それを実現すれば、偽バルバロイという有名無実の看板ではなく、実体のある看板が出来る。

そうすればクランが崩壊する危険も去り、それどころかさらに大きくなる、と。

だが、彼の周囲にはほとんど常にランカーや、得体の知れない仲間、トドメにあの【破壊王】がいた。それらの戦力を恐れて中々手が出せずにいた。

恐らく、他にも“不屈”を狙っていたPKはいるが、同じ理由で諦めたのだろう。

しかし、ヴァーミンが王都の噴水傍でたまたま一人(と<エンブリオ>)だけだった彼を発見し、それを好機と捉える。

彼らの行き先は尾行に特化したダムダムの<エンブリオ>が探り当てた。

<ソル・クライシス>はメンバーを揃え、尾行し、隙を見てレイ・スターリングをPKしようと考えた。

しかし<ファドル山道>で襲撃をかけようと画策していたところ、偶然にも<K&R>のハンティングとかち合ってしまう。

彼らはその戦いで二名がデスペナルティになったが、結果としてはむしろ好都合だと考えた。

「あの王国最強のPKクランと恐れられる<K&R>でも倒せなかった“不屈”。それを倒せば俺達は<K&R>以上のビッグネームだ」、と。

そんな、ある意味ではポジティブで、決定的に誤った考えのまま、彼らは【モノクローム】の襲来に乗じてレイ・スターリングを襲った。

このタイミングなら、他の<マスター>の介入も最小限であろうという狙いもあった。

彼らは、事態が彼らの絵図面に沿って、この上なく順調に推移していると思い込んでいた。

ただし、彼らには三つ、失念していることがあった。

まず、いかに小細工を使い、他者を騙って<ソル・クライシス>の虚名を大きくしたところで、彼ら自身が強大になるわけではないということ。

次に、彼らが引退したと思い込み、名を騙っている相手が……本当に引退したのかということ。

そして、自分達の行いに対して本物がどれほど ブチ切れるか(・・・・・・) を想像していなかったこと。

それが彼らの失念。

かくして虚名のクラン<ソル・クライシス>は、王国第三位のPKの激怒をその身に受けることとなる。

◇◇◇

□【トルネ村】

<ソル・クライシス>の前には、巨大な鎧に身を包み、フルフェイスのヘルムを装着した本物のバルバロイ・バッド・バーンの姿があった。

兜を着けて、顔を隠すことが“スイッチ”だとバルバロイは言った。

それを聞いた<ソル・クライシス>のメンバーは怯えながらも「そんな漫画みたいなロールプレイを」と内心で失笑していた。

が、実際に兜を被ったバルバロイを前にして……そんな気持ちは吹き飛ぶ。

全く違う、と。

外見こそ、自分達が擁していた偽バルバロイと同一だが、伝わってくる威圧感と、姿が隠れたことで逆に露出した暴力の気配はまるで別物。

むしろこの本物を予め知っていれば、仮に偽名のスキルを使っていても容易く偽者だと気づけたのではないか、というレベルだ。

『さぁて、さっき言った通り、俺はこれからてめえらを全員ブチ殺す』

鎧で反響……以前に何らかの装備の効果か男性のようにも聞こえる声でバルバロイは言う。

『このままなら、俺はお前らを地面に縫いとめたままじっくりヤれる』

その言葉に、<ソル・クライシス>のメンバーは震える。

今現在、彼らは一人の例外もなくバルバロイを中心として展開された高重力結界に囚われている。

最低でも二百倍、近距離では五百倍の高重力環境に全員が捉えられ、身動きの一つもできない。

包囲網を敷いていたがゆえに、一網打尽とされた形だ。

結界の外縁部、二百倍ならば常人の二百倍のSTR……二〇〇〇もあれば動けるかもしれない。上級と下級のジョブを埋めた前衛ならば、対処できる重圧だ。

しかし外縁部――包囲の外周だったポジションに配置されていたのは遠距離攻撃に依ったものや支援職ばかり。魔法や弓、銃器など得てしてSTRが寄与しないため……STRの低さから二百倍でも脱出不可能だった。

そしてそれより近距離となると、三百倍、四百倍、五百倍+【拘束】の状態異常となり、カンストした前衛上級職に<エンブリオ>の補正を付けても脱出は困難である。

そして仮に動けたとしても、動きは鈍重極まるものとなり、まともに戦えるはずもない。

これはそれほどに恐ろしいスキルだった。

かつての王都包囲網の際、バルバロイはこの結界の最大重圧をフィガロに破られている。

逆に言えば……<超級>のフィガロに しか(・・) 破られていない。

超級職の狼桜とエルドリッジはこれと必殺スキルの併せ技でバルバロイに倒されている。

破ったフィガロにしても、戦闘時間比例強化と装備数反比例強化の両方を使った上で、特典武具の装備スキルを使用したから破れたのだ。

ゆえに<ソル・クライシス>にこれを破る手段はない。

重力に抗しきれずに身体が地面に押し付けられ、骨を折っている者までいる。

(せめて俺が外縁にいればなー)

<ソル・クライシス>のオーナー……【 襲撃者(ラプター) 】ダムダムは内心で叫ぶ。

それは、配置の後悔。もしも彼が内心でそうしておけばよかったと考える配置にしたならば、

(他の奴をやっているうちにMPが切れて、 俺は逃げられた(・・・・・・・) かもしれねーのに。運の悪い)

そう、彼の考えていた案……「他のメンバーを囮にして自分はデスペナルティを避ける」、が実行できた。

バルバロイの《天よ重石となれ》は強力な結界だがMPの消費も大きい。

ダムダムが《看破》で見る限りでは既に最大値の三割程度となっており、全員をPKする前にMPが尽きると予想していた。

だから外縁にいれば生き残れるとダムダムは考えたが……生憎と前衛である彼の位置は包囲の最前列だった。

ゆえにダムダムが諦観し、せめて高価なアイテムをドロップしないように祈っていると……。

『これからこの結界を解く』

ダムダムは、そして<ソル・クライシス>のメンバーは、バルバロイが何を言ったのか理解できなかった。

しかしバルバロイはそんな彼らの様子を気にする風も無く、言葉を続ける。

『お前らに「不意を突かれて動きを止められたから負けましたぁン」なんて言い訳を吹聴されたら、また腹が立つだろうからなぁ……お前らに 公平(・・) なチャンスをやるっつってんだ』

そう言って、バルバロイは結界の中をゆっくりと歩く。

その動作でかかる重力が減って少し楽になったものも、バルバロイが近づいたことで加重が増大して骨を数本折る者もいる。

だが、多少の余裕が出来たものも動かずに、バルバロイの動静をうかがっている。

『ルールは簡単だ。お前ら全員でかかって来い。その中で、五分以内に俺のHPを一割削った奴は見逃してやる』

「見逃してやる、とは?」

『今後一切俺から攻撃しない。何なら今この場で【契約書】を書いてやる。これから五分以内に俺のHPを一割削れた奴には今後攻撃を行わない、ってなぁ』

「ご、五分の理由は?」

『上の【モノクローム】が見えねえのか? それに俺は早いとこ可愛い後輩のところに行きたいんだよ』

【モノクローム】の攻撃再開まで概算で五分。

だから最長で五分なのだとバルバロイは言う。

『逃げ出してもいいが、俺はもう《看破》でお前らを見ているぜ? 名前もステータスも筒抜けだ。顔も覚えたからなぁ……俺は記憶力もいいぜ?』

つまり、ここで逃げてもどこかでやられるということだ。

それも、一度とは限らない。

だが、眼前のPKが余裕ぶっている今このときならば……。

「…………」

「…………」

ここにいる十五人の<ソル・クライシス>メンバーは互いに目配せする。

反目しあっていた騙した側と騙された側も、再度団結する。

「なぁ、一割っつったがよー」

その中で、オーナーであるダムダムが声をあげる。

「別に、倒してもいいんだよな?」

『ああ、そんときは全員見逃してやる』

言質は取った。

加えて、バルバロイは確かに【契約書】に記入を行った。

その様子に、<ソル・クライシス>のメンバーは内心でほくそ笑む。

それはオーナーであるダムダムも同様だ。

(MPの残りは三割。このままこっちのメンバー……十五人全員でかかれば、奴は必ず途中MP切れになる。そーなったらワンチャンあるな。他の奴を捨て石にして待っていれば、俺が本物のバルバロイを倒したPKになれるかねー)

ダムダムは内心で考えていることが他の者に悟られないよう、努めて真剣な表情を作る。

ダムダムと同じことを思い浮かべたものは他にもいたかもしれない。

だが……、

『ところでよぉ……俺がお前らに言い訳されないためだけにこのチャンスをくれてやったと思うか?』

彼らの内心の弛緩を知ってか知らずか、バルバロイはゾッとするような殺意を込めた声で言葉を紡ぐ。

「どういう……意味だ?」

『どういう意味かねぇ。ただ、――心が折れる覚悟はしておけ』

その言葉に、<ソル・クライシス>は一人の例外もなく背筋を凍らせた。

『それじゃ三秒後に解除するぜ。さーーーーーーん』

そうしてバルバロイはゆっくりと戦闘開始のカウントを始め、

『に、《ストロングホールド・プレッシャー》』

――カウントの途中で結界を解除し、両手に持った盾で<ソル・クライシス>の魔法職を二人同時に叩き潰した。

《ストロングホールド・プレッシャー》は防御力を攻撃力とする【盾巨人】の攻撃スキル。ジョブを【鎧巨人】に切り替えても、同種の武器――【盾】を使用しているためにそのまま使用でき……その威力は魔法職のHPとENDなら容易く致命傷を与える。

潰された二人は何が起こったかわからないという表情を、顔の 半分(・・) に浮かべていた。

頭蓋が半分砕け、それでもまだ彼らの意識が頭に残っていることを確認した上で――バルバロイはもう一度同じように叩きつける。

頭蓋が完全なミンチとなり、彼らはデスペナルティとなって消滅した。

その内の一人はクランの中心人物の一人であり、シルバーの動きを止めたグレムリンの<マスター>であるブルースクリーンだった。

「なぁ!?」

「ひ、卑怯だぞ!」

<ソル・クライシス>のメンバーは立ち上がり、飛び退きながら、口々にバルバロイを非難する。

しかし、当のバルバロイはどこ吹く風だ。

『あぁ? 三秒後(・・・) に解除って言っただろ? 何が卑怯だ?』

そう、結界はその発言のぴったり三秒後に解除された。

バルバロイは嘘をついていない。

ただし、バルバロイの行った“間延びした無意味なカウント”が終わった時が開始だと、<ソル・クライシス>のメンバーに意図的に誤認させはしたが。

加えて、態々自分に有利な結界を張っていたのに、それを解いて戦おうといった相手が……正々堂々と戦わないなどとは微塵も思わなかったのだ。

『第一、PKが卑怯で何が悪い。悪いのは不意を突く方じゃなくて、不意を突かれる方さ。正々堂々としたのがお望みならカシミヤにでも殺ってもらえ。クハハハハ』

狡猾さを滲ませた声音でバルバロイが嗤う。

そして、こう言うのだ。

『俺が結界を解除してお前らと戦うのはなぁ……』

彼女が、あえて屠殺から殺し合いに切り替えた理由は……。

『バルバロイの名を騙ったお前らに、バルバロイの 流儀(・・) を十二分に叩き込んでやるためだぁ!!』

それを成すためなら、圧倒的優位など捨ててやると、言わんばかりに、彼女はそう吼えた。

その咆哮に、<ソル・クライシス>のメンバー全員の脳裏からMP切れを待てば勝てる、という楽観は消え去った。

本気で挑まなければ、全員 殺される(PKされる) 、と気づかされた。

そして本気で戦うならば……今魔法職を二人失ったことの意味は大きい。

「……野郎! 真っ先に魔法攻撃職を潰しやがって!」

『誰が野郎だぁ?』

物理防御力に秀でる【鎧巨人】を叩くならば、魔法が最も有効だ。

バルバロイもそれを承知しているから、あの不意打ち同然の攻撃でまず魔法攻撃職を倒したのだ。

「 速度(AGI) 型は動いてかき回せ! 相手は 耐久(END) 型だ!」

魔法攻撃職がいなくなったことで、ダムダムは他に対抗できそうなものを動かそうとするが……。

「だ、ダメだ……さっきの結界に押さえられているうちに、あ、足の骨が折れた」

「お、俺は腰が……」

そう言ったのは、先刻バルバロイが結界を展開しながら歩いたときに骨を折っていたもの。

一人は足と肋骨が、もう一人は腰骨が折れており、動き回れる身体ではない。

二人とも、AGIこそ高いがSTRやENDには難がある典型的な速度特化の前衛だった。

「戦う前に速度型まで潰していやがったのか……!」

「《看破》で名前もステータスも筒抜けだ」、と彼女が自分の口で言っていたこと。

話している最中に<ソル・クライシス>のステータスやジョブによる戦力分析は完了しており、どれからどう潰すかの戦術は完成していた。

《天よ重石となれ》でバルバロイのMPが減っているとダムダムは考えたが、高重力結界に晒されたことで<ソル・クライシス>側もダメージを負っているのだ。

「【司教】の奴に回復を……」

ダムダムが言いかけたところで、何かがダムダムの視界を遮って飛んでいった。

それは盾。

バルバロイが持っていた盾の一つを、《シールド・フライヤー》で投擲したのだ。

狙いはもちろん【司教】。

盾の直撃を受け、さほどHPもENDも高くはなかった【司教】は身体を真っ二つにする。

『さっきから行動判断がワン……ツーテンポ遅ぇ。それに、うちの後輩がレベルじゃ格下だからって舐めてただろ。これまで一人も【ブローチ】すら着けてねえじゃねえか。それとも金がねえのか?』

『もう一つ欲を言えば、支援職くらいカンストで配備しろ』とバルバロイは追加で駄目だしする。

実際、レベルカンストの【司教】ならば、《シールド・フライヤー》一発程度なら耐えることもできていただろう。……そうであれば別の攻撃手段で潰していただろうが。

「ちっ……」

瞬く間に、三人。行動不能の速度型を含めれば五人が倒されている。

しかもそれらを成したのは、ステータスの閾値が元々異なる超級職ではない。

彼らと同じ土俵の、上級職一人の……的確且つ容赦のない戦術によるものだ。

それこそがバルバロイの流儀。

粗野で粗暴で殺気と敵意を撒き散らすPKをロールプレイしながら、相手のジョブ構成と心理の隙を突いた理詰めの戦術を駆使する者。

五人のPKの中で唯一、上級職でありながら超級職の面々と同列に目されていたのは、彼女のその戦術ゆえだ。

『プレイヤーの戦いは、レベルとステータスの多寡が全てではない。如何に相手の力を出させず、自分の切り札をぶつけるか』、という彼女のセオリーとも呼べるもの。

その言葉通り、彼女は【伏姫】狼桜と【強奪王】エルドリッジに力を出させず、切り札を叩き込み、破り、王国におけるPKの第三位に位置していたのだから。

何より、今の彼女は 当時よりも強い(・・・・・・・) 。

「……ッ、いや! 勝てるぞ! そいつのMPは二割も残っちゃいない! SPだって似たようなもんだ! このまま攻めれば勝てる! 休ませるな!」

ダムダムはあえて普段より語気を強めて、メンバーに指示を出す。

そうでなければ、このままメンバーの心が折れると悟ったからだ。

騙されていた側のメンバーにはダムダムの指示に対して反感を持つ者もいた。

だが、彼の言っていることは正しい。

MPとSPさえなくなればバルバロイはスキルが使えなくなり、<ソル・クライシス>側が有利になるのは事実だった。

「やるしかねえ!」

「くたばりやがれぇ!!」

【剛剣士】と【剛槍士】の二人がステータス上昇スキルを併用しながら己の武器をバルバロイに振るい、突き立てる。

前衛でもSTRに秀でた両者による攻撃は、直撃すれば鎧越しにもダメージを負うだろう。

だが、

『《アストロガード》』

――結果として、両者の攻撃は鎧の表面で弾かれ、バルバロイに一ポイントのダメージも与えられなかった。

「ァア!?」

「な、馬鹿な!」

攻撃した二人は驚愕に包まれるが、対するバルバロイにとっては完全に読みどおりのことだ。

《看破》と《鑑定眼》で相手のステータスもジョブも、装備だって分かっているのだから、どの程度のダメージを出せるかはバルバロイも既に計算済みだ。

加えて、今のバルバロイはフィガロと戦ったときよりも堅い。

バルバロイは、フィガロに敗北してからジョブを習得しなおしたからだ。

サブの上級職に【盾巨人】を選択したことで防御力は三千台から五千へと上昇していた。

その場から動けなくなる代わりに防御力を五倍化する《アストロガード》を用いれば、防御力は二万五千に達する。

そもそも、<凶城>を率いていたときの彼女はクランを指揮する都合から、二つ取得できる上級職の一つにパーティやクランのステータスを向上させる【司令官】のジョブを割り当てていた。

ゆえに、単騎戦力として見た場合の彼女は完全ではなかったのだ(それでも<エンブリオ>とのシナジーによって非超級職の中では破格の戦闘力を誇っていたが)。

だが、今は違う。<凶城>が解散したあとの彼女は、自身の戦力をクランオーナーから一つの戦力へとビルドを練り直した。

もうメンバーを指揮する必要がなく……同時に自身を破ったフィガロのような相手に対抗すべく地力を上げるためだ。

それこそ、データを手に入れるために扶桑月夜の誘いに乗るほど、彼女は自身のビルドを見つめなおした。

その結果が【盾巨人】の取得による各種戦闘スキルの充実、そしてステータスの向上だ。

なおかつ、練り直す前からあった《ダメージ減少》と《ダメージ軽減》のスキルも健在。

ゆえに、《アストロガード》使用中の彼女へとダメージを通すには、二万五千の防御を突破し、二割の減少を経た上で、五〇〇以上のダメージを叩き出す必要がある。

バルバロイの計算上、純粋なステータスとジョブスキルでこれを抜けるのは二人いた五〇〇レベルカンストの魔法攻撃職くらいのものだったが……戦闘開始時点で潰している。

ゆえに<ソル・クライシス>がバルバロイにダメージを通す方法はバルバロイのMPが尽きて《アストロガード》が消えるか、彼らの<エンブリオ>のスキル次第だったのが……。

バルバロイはこの後に敵が打ってくる手について思考しつつ、即座に敵の数を減らすことを決定していた。

『――《 解放されし巨人(アトラス) 》』

そうして行われたのは、必殺スキルの発動。

十秒間だけ発動時の防御力を十倍化した上で攻撃力へと変換する、彼女の切り札。

彼女は《解放されし巨人》の発動とコンマ一秒の差で《アストロガード》を解除。

発揮値二十五万を越える攻撃力をもって、眼前で隙だらけとなっている【剛剣士】と【剛槍士】をそれぞれ一撃で粉砕する。

(残数、八)

彼女が思考したその数字は相手の人数か、あるいは必殺スキルの残り秒数か。

《解放されし巨人》は効果を終了すれば、あとは一時間のクールタイムを必要とする。

ゆえに、バルバロイは残時間を無駄にはしなかった。

《シールド・フライヤー》を連続で発動させ、二十五万の攻撃力を乗せて盾を投擲し続ける。

ほんの十秒だが、あの【破壊王】にも匹敵する攻撃力。

破壊の使者となった無数の盾は周囲一帯を粉砕しながら、同時に<ソル・クライシス>のメンバーも微塵に変えた。

絶叫を上げる間もない、圧倒的な“蹂躙”。

そうして十秒が経過するまでに……、その場にいた人間の数はバルバロイを含めて 三人(・・) にまで減っていた。

To be continued