軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話 風星の村へ

□<ファドル山道>【聖騎士】レイ・スターリング

<K&R>の面々が去り、俺達は再びトルネ村目指して馬車を走らせていた。

すっかり日も落ちており、今は馬車に搭載された灯りのマジックアイテムで前方を照らしながら、ゆっくりシルバーを進ませている。

俺達以外でも生き残った<マスター>や、元々対象外だったティアンのグループもトルネ村に向かっているようだ。

ただ、俺達の後方にいたパーティからは二名程度の犠牲者が出てしまったらしく、それは「巻き込んでしまって悪かったなぁ」という思いがある。まぁ、悪いのは<K&R>……ていうか狼桜なのだろうが。

それと、リューイは一連の騒動で疲れてしまったのか、今は馬車の中で寝息を立てている。

今回の件がなくとも朝早く馬車で王都に来て、またトルネ村に取って返す強行軍。子供にはきついだろう。

俺も大分気を張っていたのか、かなり疲れている。

……昨日の誘拐騒動からこちら、中々気が休まるタイミングがない。

「早くトルネ村に到着して、ゆっくり休みたいところだのぅ」

御者台で俺の右隣に座るネメシスがそう言ってぼやくが……同感だ。

『それにしても、ビースリーは先ほどから何も言わぬのぅ』

ついで、念話で伝えられたネメシスの言葉に、俺はちらりと左隣に座るビースリー先輩を見る。

「…………」

先輩はさっきのカシミヤ達との会話から、一言も発さずにいる。

十中八九、狼桜が去り際に発した「今度はまた一緒にPKしようじゃないか」という言葉が原因だ。

あの後、カシミヤが狼桜を何やら諫めていたようだが、それで口から出した言葉が消えるわけでもない。

狼桜の言葉は二つの事実を示している。

一つは、やはり先輩は<K&R>の面々と顔見知りであり、必ずしも敵対関係ではなかったということ。

そしてもう一つが、ビースリー先輩もPKであるということだ。

俺に対してそれを隠していたのは、知られたくなかったということだろう。

さて、隠されていた俺自身がその事実に対して何を思うかと言えば……、

「……やはり、気になりますよね」

そのとき、ずっと沈黙していた先輩が俺に話しかけてきた。

「既にお察しとは思いますが、私はPKです。それも、<K&R>と並び称される程度には悪名の知れ渡ったPKです」

「…………」

「最近は活動を休止してはいましたが、それまでにデスペナルティに追い込んだ人数は四桁に達します」

「千人以上とは凄まじいのぅ」

今日の<K&R>との戦いぶりを見ていると納得するほかない。

相手の分析にも長けているようだったし。

「本来は、最初に一言言っておくべきだったのでしょう。ですが出来たばかりの後輩に……レイ君に避けられまいと隠してしまいました。……隠していて、すみませんでした」

そこまで言って、先輩は俺の目を真っ直ぐ見てから深々と頭を下げた。

それは本心から、自分のしていた隠し事に対しての謝意なのだろう。

けれど、俺は……。

「あの……俺……別に何とも思ってないんですけど」

最初から、先輩がPKとかどうとかは本当に気にしていないのだ。

「……………………え?」

「だから、別に先輩がPKでも避けたりはしませんよ? さっきの<K&R>みたいに狙われたら、「迷惑だなー」とはもちろん思いますけど」

どこぞの白衣のようにティアン巻き込んでテロやるわけでもなければ、敵対してないPKに思うところは何もない。

そもそも、俺を襲った上にデスペナした某殺し屋がパーティにいるのだ。

PKなんていまさらというものだろう。

「…………」

先輩は俺の目をジーっと見て、俺の言葉が本音であることがわかったのか、「ふぅ」と安堵するように息をついてから……クスリと小さく笑ったのだった。

「懐が大きいのか、お人好しなのか、……あるいは考えが甘いだけなのでしょうか」

「はは、まぁ、否定は出来ませんけどね。でも、PKでもそうでなくても、先輩は信頼できる人だと思いましたから」

マリーが倒したという【疫病王】や、兄から聞かされた【 犯罪王(キング・オブ・クライム) 】、それと俺が相対したフランクリンのように、ティアンをも虐殺する<マスター>はいる。

けれど先輩はきっとそうじゃない。

それは狼桜との戦いで、自分の盾を犠牲にしてまでもリューイを護ったことから分かっている。

まぁ、それがなかったとしても、この人が優しく気配りの出来る人だとはとっくに知っていたのだし。

「最初から言われてても、多分俺は気にしませんでしたよ。それこそ、大学のカフェで話している時でもね」

俺がそう言うと、先輩はどこか明後日に目を逸らしながら、

「……いえ、あのタイミングでは絶対に話さなかったと思います」

と言った。

「どうしてです?」

「……あそこで『私は悪名の知れた○○というPKです』と言ったら、レイ君はそれをネット等で調べてからログインするでしょう?」

「それはしな……あー、どうだろう」

ひょっとしたらするかもしれない。

「そうなると、その、恥ずかしいもので」

「はぁ、恥ずかしい、というと?」

「私、PKの最中は人が変わってしまいまして……その、リアルの知り合いにはお見せできない有り様で……」

そう言う先輩は赤らめた顔を手で押さえている。

これまでの沈着冷静さとのギャップで……ちょっとかわいく感じた。

「ハッ!? 今なぜか猛烈な危機感を覚えてしまったのだ! っと、そうは言うがビースリーよ。御主、さっきの<かある>との戦いでは特に変わった様子もなかったではないか。あれもPKといえばPKなのではないか?」

「あのときは……まだスイッチを入れていなかったので」

「「スイッチ?」」

スイッチって……頭の後ろに電源みたいなスイッチでも付いているのだろうか?

その辺のことについてもう少し聞いてみようと思ったのだが、

「うー、うん、あれ……」

馬車の中からリューイが起きたらしい声が聞こえた。

「起きたか。そろそろ着くころだぞ」

「うん、音が聞こえるからわかるよ」

「音?」

リューイの言葉を受け、俺も少し耳を澄ませてみる。

すると、前方の緩い勾配の坂の向こうから、幽かな音が幾つも重なって聞こえてきた。

シルバーが坂を上り、その先の景色が明らかになると……、

「……綺麗」

ネメシスが、感嘆のこもった言葉でそう呟いた。

トルネ村に至る道にはガードレールのように柵があったが……その柵が見物だった。

柵の上いっぱいに 風車(かざぐるま) が並べられ、夜風に吹かれてカラカラと回っている。

風車には塗料か何かが塗られているのか、夜でも仄かに明るくその姿を見せている。

夜闇の中で灯火の如く光る風車が、クルクルと回りながら……トルネ村までの道を案内していた。

どこか幻想的な雰囲気で、このお祭り目当てにこの村を訪れるというのも「なるほど」と納得させられる。

「本番は明日だけど、もう風星は飾り付けてあるんだ」

「フウセイ?」

風車ではないのだろうか?

と、よく見るとその風車は羽が五枚だった。正面から見ると五芒星にも見える。

「この地方の昔話になぞらえてるんだって。むかし、風が吹いたときに降ってきたお星さまが、コクテンさまって悪い怪物を土の中に封じこめたお話だよ」

ふむ、土着信仰か何かだろうか。

信仰というとまずあの女化生を連想するが、それ以外にも当然宗教はあるのだろうし。

「あ! 柵に飾ってある風星はとったらダメだよ!」

ふと視線を移せば、ネメシスが柵に手を伸ばした姿勢でギクリと動きを止めていた。

「……ネメシス」

「そ、その……カラカラ回るのを見ていたらつい……」

ネコじゃあるまいし何だその理由。

「風星がほしいなら、これあげるよ」

リューイはそう言って、小さなアイテムボックスから風車を取り出し、ネメシスに手渡した。

「良いのか?」

「うん! お守りの風星だけど、村に帰ればまだあるから!」

「そうか……ありがとう」

リューイから風車をもらったネメシスは、ニコニコと嬉しそうに手の中の風星を見つめている。

「スイーツを食べてるとき以外には初めて見たな、ネメシスの見た目相応な顔」

「む! 失礼だのぅ! 私はレディだからそうそう甘えた顔は見せぬだけだ!」

……甘えた顔を見せないのってレディっつーか、武人じゃないか?

喋り方とか。

……まぁ、いいか。

何はともあれ、道中で多少の厄介事には遭ったがトルネ村まではあとわずか。

早くリューイを家まで送り届けて、明日からはシジマ氏のリアルに繋がる情報を集めよう。

今回は、ここからが本番だ。

◇◇◇

□<K&R>本拠地

「…………」

<K&R>本拠地の最奥、オーナールームではカシミヤが座布団に正座しながら紐を通して纏められた書類を確認していた。

それは書士系統のスキルで作成したものであり、天地産のジョブであるためか装丁も昔の絵草子のようになっていた。

ペラペラと捲りながら、ある一点でわずかに眉を顰める。

「ダーリン、何を読んでるんだい?」

そんなカシミヤの傍らでは、両手と頭に水入りバケツを装備した狼桜が立っていた。

有言実行のおしおきである。

なお、最初は廊下でやっていたのだが、カシミヤがいないとすぐさぼるため、カシミヤの部屋でおしおきを受けている。

ひょっとするとそれを狙ってさぼったのかもしれない。

「今日のハンティングもどきの報告書です」

「……げ」

そう、狼桜の発令で行われた今日の勘違い私怨ハンティングの、メンバーからの報告書だ。

<K&R>ではハンティングの実行者以外に状況の推移を記録する<マスター>もおり、カシミヤと狼桜にその報告が上げられる。

これから初心者への補償も含め、いなかった二ヶ月間の情報を洗い直さなければならないカシミヤは、まず直近の問題について再検証していた。

「あたしが悪かったからさぁ、もう許してほしいんだけど……」

「今回、集団戦闘グループから数名、そして部隊戦闘グループが一つ倒されています」

狼桜の弁明は、カシミヤの口にした言葉の内容によって遮られた。

「…………何だって?」

集団戦闘グループのデスペナルティは、ビースリーの《シールドフライヤー》での反撃によるものだ。

集団戦闘グループはまだレベルが高くないメンバーばかりなので、ビースリークラスの相手には鎧袖一触されても不思議はない。

だが、部隊戦闘グループは違う。

部隊戦闘グループは……上級職までの500レベルをカンストした者達でパーティを組んでいる。それはイコールで、同じく500レベルカンストのパーティを相手にしても数字上は拮抗できる戦力ということだ。

今回、主目的はレイとビースリーの襲撃であったが、同時に本日開催予定だったハンティングでもある。ゆえに、牽制の集団戦闘グループと主力の狼桜以外……四つある部隊戦闘グループは通常のハンティングを行っていた。

その一つがカシミヤの撤退命令が下されるまでの間に、ハンティング開始から数分の間に全滅しているというのは……些か不可思議な事態だった。

「事前のサーチには、超級職はいなかったはずだよ」

レベルをチェックする《生体探査陣》なら、500レベルをオーバーしている超級職がいればすぐにわかる。

しかし、それはいなかった。狼桜を除けば、あの狩り場は500レベルが上限だった。

「そうですね。報告書にも書いてあります」

「なら……」

「どうやら、数に圧されたようです。戦いは単騎あたりの戦力だけで決まるわけではありませんからね」

「…………」

狼桜は内心、「ダーリンがそれ言うのかい?」と思った。

目の前のカシミヤこそ、戦いを決する単騎戦力の権化。

比喩でなく一騎当千。千人分、順番に首を斬って終わらせるだろう。

「けど、相手の動きが変なんです」

全滅した戦闘グループは、サーチした中でもレベルの高いパーティを襲撃した。

パーティ同士の対決で、開始当初は拮抗していたらしい。

だが、戦闘開始から一分程度で近い位置にいた複数のパーティがそこに結集。

即座に連携を開始したその集団に、部隊戦闘グループは包囲殲滅される形になった。

その際に二名は道連れでデスペナルティにしていた、とも報告書には書いてある。

「早すぎるし、即興にしては連携が上手すぎます。これは……」

「元から一つの集団だった連中が、何らかの理由でパーティ単位に分かれて移動してたんじゃないか、だよね?」

「そうですね。それで間違いないと思います」

狼桜の推察を、カシミヤも肯定する。

狼桜は考えなしの駄犬ではあったが、<K&R>以前からPK集団を率いていただけあって戦術面ではカシミヤより詳しい部分もある。

ゆえに、クランの運営方針はカシミヤが主動し、ハンティングでの戦術は狼桜が考案するというのが<K&R>の本来のスタイルだった。

未熟なメンバーに火力を集中させやすい遠距離攻撃職をとらせ、数十人分の攻撃スキルを同時使用する集団戦術も、狼桜の発案によるものだ。

「でも、不思議ですよね。この時期にトルネ村方面に向かっていたってことは、目的は風星祭の観光でしょう? それなら、仲間で一緒に道行きした方が自然なんですけど、何で分散して……」

「観光目当てじゃないんだろうさ。そいつら、きっと ご同業(PK) だ」

「どうしてわかるんです?」

「天地にいたころのあたしや、解散前のビースリーがよくやってた手だからさ。多人数が一塊だとそれだけで目立ちすぎて、いざ なにか(・・・) しようとしたときにすぐ察知される。だからさも別口のようにパーティ単位で動いて、関心をもたれないまま……獲物を捉えて包囲殲滅、ってね」

狼桜は「野生動物の狩りでもたまに見る手さね」と笑った。なお、笑った拍子にバランス崩して頭のバケツの中身をひっかぶった。

「うわぁ、びしょびしょだよもぅ……ま、そんなわけだから多分そいつらは何某かの 獲物(・・) を尾行中だったんだろうさ。それでダーリン、他にそいつらが何者かわかる情報はないかい?」

「最初に襲撃したパーティに、こんなマークをつけた人がいたらしいです」

そう言ってカシミヤはある図形を見せる。

それは赤い丸と黒い丸を重ねたような……見ようによっては日食のようにも見えるマークだった。

そのマークに、狼桜は見覚えがあった。

「……<ソル・クライシス>だね」

「そる・くらいしす?」

「ああ、ダーリンは知らないだろうね。あたしらが起こした例の初心者狩り以降に伸びてきたPKクランさ。<凶城>や<ゴブスト>がいなくなった後釜に座ろうとしてる、って連中さね。スタイルとしては……<ゴブスト>寄りか」

要するに、今回の件は新興のPKクランに<K&R>の一部隊が敗北したというわけだ。

狼桜は「雪辱戦したいなー」と思っていたが、同時に「でもダーリンがどう言うかなー」と少しは考えていた。

で、そのカシミヤはと言えば、

「そうなんですか。やっぱり二ヶ月も経つと色々変わってしまいますね……」

何か思うところがあるのか、憂い顔でふぅと溜め息をついた。

彼の言うとおり、この二ヶ月は<Infinite Dendrogram>内で大きな事件や動きが複数あった。

それらに一切参加できず関知もできなかったカシミヤは、しばらくログインしていない間に、周囲から置いていかれたような寂しさを少し感じていた。

なお、そんなカシミヤの憂い顔に狼桜が興奮しかけたが……ギリギリで沈静化して話を切り替えた。

「そ、そういえば<ソル・クライシス>の連中にはおかしな噂もあるのさ!」

「噂?」

「ああ、<ソル・クライシス>に一人、目立つPKがいてね。……というよりもそいつが身に着けている装備が目立つ、と言うべきかね」

「装備って、どんな?」

「鎧だよ。あるPKの使っていた鎧……」

狼桜はそこで言葉を切り……ある人物を思い浮かべながら、続く言葉を発した。

「バルバロイ・バッド・バーンが使う特典装備の全身鎧、【撃鉄鎧 マグナム・コロッサス】を<ソル・クライシス>で見た、って噂さ」

To be continued