作品タイトル不明
春編30話「森の仔」
嵐の前の静けさというか、騎士団到着後は森にこれといった異変はないまま。ただ、着実に準備は進んでいく。
どことなく落ち着かない雰囲気と緊張感は残っているけれど、少しずつ余裕は出て来た。この調子ならレオ兄さんやアグニスとも話せる時間も取れるかなと思っていた矢先。
森で保護された女性を切っ掛けに、また一つ動き始める。
◇──◇──◇──◇──◇
見回りをしていた冒険者によって、その人は保護された。何かを身振り手振りで伝えているが、話すことはなくよく分からなかったそうだ。
ただ、武装もしていない女性を森へ置き去りにするわけにも行かず連れ帰って来たと……。
騎士団ならこうはスムーズにいかなかったから、見つけたのが 冒険者(バカ) でよかったのかどうか。
現在は館で保護しているとのことなので向かう。
警戒のために騎士も同席しているらしいが、現在は館に務めている嬢たちがコミュニケーションをとろうとしている。
室内に入って来た俺を見て、その人はぱっと表情が明るくなった後に首を傾げる。
「話は聞けた?」
館はとりわけ高給な娼館。高ランクの冒険者だったり、稼ぎのある商人でもなければ気軽に遊びにいけない。たまに一月の稼ぎを棒に振ってでも会いに行きたがるやつはいる。館通いってだけで何らかのステータスになるらしいよ。
それはともかく、彼女たちは手練手管の猛者揃い。情報収集も話を聞くのもお手の物。
「何か大変なことがあって、伝えたいみたいだけど詳しいことは……あと何日か話してたら分かるかも?」
「とりあえず敵意はないわ」
そこまで分かれば上出来だろ。嬢たちが敵意なしと認定したんなら、その点は安心要素か。
こちらに何かを聞きたそうにちらちらと視線は感じるけども……俺の髪色って確か珍しいんじゃなかったっけ?
王女殿下……じゃない、エルシア様。なぜか名呼びをするよう求めてきたあの姫君とも同じだ。
うん、エルシア様に聞いてみよう。何か分かるかもしれないし。そのへんにいた騎士に取次を頼んで待つことしばらく。
早々にエルシア様の元へと案内された。……ほら、婚約者候補ってことになってるからこんな時はスムーズ。若干迷惑だなとは思っていたけど、こんな事もあるならいいかな。
「要件は何?」
挨拶をする間もなくそう問われる。何かエルシア様、俺には当たりが強くね?
今日も少しご機嫌斜めなのか。
「エルシア様の 御髪(おぐし) と同じ髪色の女性を保護しまして」
この時点でエルシア様の顔色が少し変わったことを見逃さない。何か、知っているな?
「何かを伝えようとはしているみたいなんですけど、身振り手振りで」
追加情報を口にしてみる。
「――……知りません。これで要件はお済みならもう帰ってくださる?」
ダメかー。何かいまいち信用してくんないんだよね、この人。たぶん第一印象が悪かったのを取り戻せていない。
『知ってるよ!』
精霊たちが勝手に喋りだしても今の俺は無反応がうまくなってる。
『さっきの子もお姫様も森の仔!』
「森の仔?」
思わず、小さく口にしたそれにエルシア様が立ち上がる。
「どこでその呼び名を知った?!やっぱり貴方、魔王なのでしょう!」
あ、何か面倒くさいことになっていると察した。
ルミちゃんがエルシア様を落ち着かせようとしている。
「この際です。もうこの魔王に話してみてください。王女殿下のお悩みも解決するかもしれませんよ?」
デタラメ言ってんじゃねぇよ、そこの王家の影。
エルシア様はルミちゃんと俺とを交互に何度か見てから、座って話を聞くよう指示してきたので従う。
◇──◇──◇──◇──◇
エルシア様が簡単に語った過去だが重い。こないだのルカもだし何だって訳アリがこんなに勢揃いしてんのと思う。俺が聞いていい話じゃねぇだろ、このレベルになると。
そしてルカから聞いた弟……マジでこのルミちゃんのことなのかなと思ってじっと見てみる。……ねぇな。兄様呼びで泣いたり笑ったりと忙しかったというあの弟じゃないはず。欠片も想像がつかない。
「リシアン、真面目に聞いてください」
そして怒られるし。森の民ねぇ……正式には「森の仔」だという隣国の少数民族らしい。
琥珀の髪色は森の仔の特徴だそうだ。
「俺は生まれも育ちもこの国なんだけど……」
「一つ、未確定事項があります。父はヴァルディリア子爵、母は平民で花屋の娘。祖父にあたる人物は元冒険者で、引退後に家業の花屋を継いでおります」
待って、何でルミちゃんが俺のことにそんな詳し……調べたな?誰の命令なのかは知らないけどまったく。探られたとこで何も出ねぇよ。
「祖母にあたる人物だけが不明です。リシアン、話は聞いてませんか?」
……最終的に本人に聞くんだ、そういうの。
「俺も詳しく知らねぇよ。母さんを産んで間もなく亡くなったとだけ。母さんも俺も祖父とは反りが合わないってか、わりと避けられてたんだよ」
ほら、領主と平民の間の子だし。そりゃあ扱いづらいよなと思う。ルミちゃんはしばらく何か考えているようだった。
「今はそれはいいです。さて、保護したという女性の元へ連れて行ってください。王女殿下、森の民だとしたら彼女が何と言っているかは分かるのでしょう?」
「えぇ、母から少し習っているから大丈夫よ」
それは頼もしいことで。仮に森の仔だというなら、エルシア様も言ってることだし一族丸ごと保護するしかねぇなと新たな問題に直面する。
まぁ、何とかなるだろうと思っていた。
エルシア様とその女性とは身振り手振りとで何か通じ合っている。やっぱ森の仔なんだと思いながら、何て言っているかは分からないが見守る。
少しずつ曇る、エルシア様の表情で状況はよくないなと思った。
「集団魔獣暴走の予兆が始まった。その事を前回と同じく、民を代表してこちらへ伝えに来たそうよ?」
前回の集団魔獣暴走から間もなく四十五年。頭の中でざっくり計算を始める。えーっと祖母にあたる人が生きてたら七十前後ってとこで、そこから四十五を引くと?
代表としてやって来たという女性と大体同じ年の頃だなと思った。……まさかね?
それはともかくとして予兆が見られたということは、ここからが正念場。