軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編28話「顔合わせ」

「エルシア=フィル・ディオラスです」

「お目にかかれて光栄です。リシアン・ヴァルディリアと申します」

一切、目が合わない。え?何、そういう文化なの?

琥珀の髪に、儚げな容姿……もう顔も上手く思い出せないけど母さんに似ているなと思った。それもあってまじまじと見れない。

というか、隣に立つ侍女が気になる。耳横は真っ直ぐに切り揃えて、後ろ髪だけを纏めている珍しい髪型。

「ルミちゃんじゃん!」

「何でそういうことだけはすぐに気が付くんですか!」

ルミちゃん、仕舞ってたナイフが出てる出てる!影のジョークが過激すぎるな、おい。

「久しぶりじゃん、元気そうでぇ……っ!」

化粧映えするにも程があるだろと思って、笑いが堪えきれなかった。

「リシアン……」

しまった。ルイシン様もモンテディオス王国の第二王女殿下もいる。すっかりルミちゃんに気を取られていた。

「失礼しました」

取り澄ました顔をしても遅いことは分かっている。

「……いい。エルシア様このような男ですが、本当に悪いやつではないのでどうか……」

ごめん、ルイシン様。フォローしてくれているけど、ちょっと今はルミちゃんの侍女っぷりを我慢するだけでも俺は大変。迂闊にもう口は開けない。

「いえ、ヴァルディリア辺境伯はどのような方かと思っていましたが……その……」

黙らないでほしい。とりあえずめっちゃ困っていることは理解した。

「不束者ですが、末永くよろしくお願いします!」

「何がでしょうか?!」

いきなりすぎる王女殿下の発言に俺もついていけない。「あーあ……」という顔をして眺めているそこの主従、俺にもどういう事か説明してくれ。

◇──◇──◇──◇──◇

「弟がまた何か……?」

どうしようもない空気の中、レオ兄さんが呼ばれたらしくやって来た。

「……私です」

恥ずかしげに王女殿下がそっと手を挙げている。何でもあまりに予想外だったので、混乱をしたのだとか。

「いえ……弟のせいですね。申し訳ございません」

呼ばれた保護者が子供のかわりに謝ってる姿じゃん、これ。すげぇ気まずいし、居心地も悪い。

「こちらも無作法で申し訳ございませんでした」

ルミちゃんの方は見ない。視界に入れない。

「本題に入るぞ。リシアン、恨むなら叔父上を恨んでくれ」

そんな前置きでルイシン様が話し始める。待って、ギンさんまた何かやったの?

「エルシア様は隣国で色々とあってな……人為的集団魔獣暴走や魔獣改造実験のことは彼女からの情報だ。この事から我が国で保護することにした」

あぁ、そこまではそうなるよねと思いながら聞く。

「それで……その、我が国に迎えるにあたっての名目が必要でな。叔父上がリシアンの婚約者候補ということに……」

あの野郎、やりやがったな。

「候補だ!そしてあくまで名目上そうしただけであって、決して婚姻を強制するものではないからな?」

ルイシン様がそのあたりをすごく強調してきている。分かってる、こちらには何の罪もない。

悪いのはあの暴走王弟だけだ。

「エルシア様にも無理にとは言いません。この通り少々!育ちも特殊ゆえに距離を置かれてもいいのですが、リシアンは腕も立ちますが危害を加えるような者ではないので」

やろうと思えば貴族な感じも出来るんだけど……。ルイシン様にとって俺のイメージってどうなってんだろう。

「リシアン、頼むからギンケイ様に殴り込みとか行かないんだよ?いいね?」

心底、心配そうに言ってくるレオ兄さん。

「いや……さすがにそんな事はしませんけど。王弟殿下の御相手とするには年の差が、セイラン様は国内での婚約者がほぼ決定しておりますし。ルイシン様だとマズい理由があるのでしょう?」

じゃないと、名目上とはいえ俺が抜擢されることなんてないだろ。それはそうとて、何かしらやり返したくはあるよね。

向こうが思っていたより俺の反応が落ち着いているせいか、露骨にレオ兄さんもルイシン様も安堵していた。

❖──❖──❖──❖──❖

思ったよりも近い髪色をしていたので、まずそこに驚いた。森の民特有の琥珀色で、光指すこの部屋では金色にも見える。

ヴァルディリア辺境伯は生まれも育ちもグラティア王国だというのに?

続け様に即座にルミのことを見破ったところで、完全に混乱したのは私の失態だわ。まさかあんなにもあっさりと見破るとは思わないもの。

半年も……欠片も疑うことのなかった私は何だというの。

ルミの口ぶりからも随分と親しい仲だということは分かったけれど、それでも少し悔しいわ。

ルイシン様もレオナリス医官もしきりに変わっているけど、危害を加えることはしないとは言うのだけれど。

王族を前にして、これ程にも飄々とした態度の時点でおかしい。更には婚約者候補として仕立て上げられていたことも、自国の王族では何かしら事情があり不可能ということも勘付いている。

姉王女の邪魔が入らぬようにとの事だけれど、この伏せた事情も察しているのかしら?と少し警戒する。

「ヴァルディリア辺境伯は随分と王族の皆様とも親交が深いのですね?名目上とはいえ、婚約者候補の私とも気軽に話してくれるとうれしいわ」

せめて主導権はほしいと思った。

「いえ。そんな恐れ多いことは出来ませんよ」

何でそこは引くの?ギンケイ様と同じく、読めないタイプが苦手だということをこの日はっきりと自覚した。

こうしてヴァルディリア辺境伯との顔合わせが終わった。こちらの部屋へ……と案内されたのは元が領主館ということもあって、立派な家具が備え付けられていた。やっと一息つけるわ。柔らかなベッドにはしたないけれど、倒れ込む。

「王女殿下の部屋の前は護衛で固めているのでご安心ください。あと最後にお伝えしないといけないことが……」

ルミの淡々とした話し方が少し乱れている。

「実はここは……」

告げられた事に驚きのあまり悲鳴をあげたのは言うまでもない。