軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編22話「辺境伯は寝不足」

辺境の街が慌ただしい。とはいっても、まだこの冒険者が多い麓付近のみだけれど。

森の異変はいつから始まっていた?いつもより鹿が多かったのも例の改造魔獣とでもいうやつのせいだろう。

同種は襲わなかったと思われる。出没する熊が少なかったのもこいつを警戒していたのだろう。

あぁ、竜の墓場もいつもより今冬に力尽きた魔獣が多かったし 紅鱗鮭(ルージュイルサルモ) も熊が少ないせいか!

今更になって違和感が繋がっていく。そして薬草の生育が悪いのもあいつのせいだな。……これと熊のことに関しては、絶対に許さない。絶対にだ。

改造魔獣への殺意が確固になったが、今日は気にはなっても森へは行けない。

最悪、冬には異変は進んでいた可能性がある。ルカに聞いたモンテディオス側の浅層部に変異種が現れた時期と一致している。

この変異種が厄介だったらしく、春を待って別の地へ渡った冒険者もちらほらといるらしい。ただの変異種ではなく、改造魔獣の可能性が高い気がする。

考え込んでいたらもう昼過ぎか。仔蜘蛛たちのご飯の時間だと精霊たちが呼びに来た。

『遅いよ!ほら早くー』

相変わらずの過保護っぷりだけど、こいつらデカくなるの早くね?そろそろ手のひら大までなってんだけど。

白くて丸くてころころとして……3匹の見分けもつくようになってきた。とりあえず 白(しろ) 、 玉(たま) 、もちと名付けて面倒をみている。

気が付けば 籠(かご) も大きくなってるし、いつそんなことしてんの?俺の部屋が白玉もちに侵食されてきてる気がする。

あと俺が世話しなくても精霊たちがいるし……とか思っていたら『サボらないで!』と怒られた。

食ったら食っただけ大きくなるのか?そう思ってつついてみるけど、かまってもらえるのかと思ったのかじゃれてくる始末。……こいつら、森でやっていけるのかと不安になった。

「具合は?」

まだ薬店で看ている冒険者のところへも食事を届けに行く。まだ顔色は悪いが、危険は脱したところ。もう少し回復するまでいてもらう予定。

「リシアンか……」

身体を起こそうとする冒険者を止める。

「待て、ゆっくり起き上がれ」

声を掛け、ゆっくりと食事を終えるのを待つ。食欲も出てきたしいい傾向だな。あとは食後に増血剤と……傷跡こそ残らなかったが、足は完全回復とはいかないだろう。

「……なぁ、俺はまた立てるようになるのか?」

ポツリと言う冒険者にぐっと息が詰まる。ベッドに腰掛け、受傷していた足を上げるが……足先には力が入らないようにだらんと垂れ下がる。

「……分からない」

師匠もまだ日に一度は治癒魔法を施している。軟膏の種類も調合を変えながら、その日その日で試している。

「そうだよな、リシアンには分からないよな……冒険者を続けられないようになるかもしれない俺の気持ちなんてっ!」

体勢が崩れかけた冒険者を支える。

「おい……」

冒険者の目の前で揺れるのは俺の耳飾り。俺だってさすがに焦ったけどな、片側から音が消えたときには。方向感覚がなくてこの間も冷えたばっかりだよ。

「……悪い、言い過ぎた。一人にしてくれ……」

「いいよ、とりあえず休め。そして寝とけ」

部屋を出てから、ふぅ……とため息をつく。少し体調がよくなっただけに今は焦ってんだろうなと思うが、こればかりはどうしようもない。

不意に頬に触れる柔らかな毛並み。ぴょこっと勢いよく出てきたせいか、肩に重みを感じる。どっから出てきたんだこいつ。

「……もちか?いつから脱走してたの?帰るよ」

ふわふわと柔らかな手触りを堪能しながら籠へと連れて行った。

菓子工房への笛飴の増産依頼、このへんは得意分野だろうから細かく指定しなくても大丈夫なはず。

浅層部への立ち入りも猟師は冒険者の帯同を必須とすること。やることが多い!

あと第三騎士団の到着後は拠点をどこにするか。宿屋を改修したこの薬店でもいいけど、あいつらがここに来られても邪魔……じゃなくて馬もいるだろうし無理だな。

ここらで広いところ……心当たりはある。微妙に紹介はしづらいけども。

――旧領主館が、冒険者が住む麓付近の最奥にある。森に面しており古いが造りも堅牢。中は改修済で傷んでるなんてこともない通称「 館(やかた) 」はほぼ高ランク冒険者しか来ないし……最適ではあるな。

現在の館の主はまぁ、冒険者ギルドとも繋がりがあるし許可は取れるだろう。騎士団への説明は……クレメンテに全部投げよう。

ここまでの算段をつけてから、外へ向かう。

◇──◇──◇──◇──◇

夜のことだった。

『……きて……起き……ぇ!』

ペチペチと頬を叩かれるけど、疲れてんだよ。寝返りを打って避ける。

『…………!』

何か言ってるけど右を下にすれば何も聞こえな……あっぶねぇ!

よからぬ気配を感じて飛び起きたら、大きな水球が頭の前に浮かんでいた。一瞬で目が覚めた。

それが落とされたら俺の部屋が大惨事なんだよ。

「――……何?」

変な起こされ方をして今の俺は機嫌が悪い。くだらない用事で起こしてねぇだろうな。

『白玉もちがね、冒険者のとこ行くって!』

『リシアン、連れてって』

何でだよ。毎回思うが、精霊たちはまずは理由から説明してくれ。

そっと扉を開けても深く眠っているのか、冒険者は起きなかった。

『闇属性の子が眠らせてるから安心だよ!』

ドヤっているけれど、何も安心出来ねぇよ。用意周到すぎんだろ。あと俺の知らないとこで勝手に動くな。

もそもそとポケットから白玉もちが這い出て来る。月明かりでほのかに白銀色をしている。

冒険者を取り囲むように並ぶと、すーっと透明の糸が足に巻かれていく。

治癒魔法のような淡い光を纏っていて綺麗だなとそのまま見守る。

『終わったから、帰る!』

何が?自由過ぎるだろ。

「いや、あの糸どうすんの?ジジイにバレたら明日ヤバいって!」

まだ白玉もちの糸の分析は終わっていない。それどころじゃなくて、優先順位は低い。

『朝には融けて消えるから大丈夫!白玉もちに任せてあげて』

止められないことは分かった。眠いし害もないならもうそれでいいよ。こっちはまた明日も早いんだよな……眠気につられてもう引き返して寝ることにした。

翌朝。

「リシアン、来い!ちょっと来い!」

朝イチから見たくないもの、ジジイの顔(近い)

寝起き最悪過ぎんだろ……。昨日も精霊たちに起こされて……やっぱまずかったか?!と慌てて起きる。

向かって行く先はやはりあの冒険者がいる部屋のようで覚悟を決める。

「リシアン……」

泣き笑いのような顔をして、冒険者が 覚束(おぼつか) なくも立って出迎えてくれた。ぽかんとしてその様子を見つめる。

「すごいぞ、ここまで回復するとは!今まで使った薬も全て記録には取ってあるな?」

ジジイもうれしそうだけど言えない。一つ、記録していないことがある。そんな事より今は

「ありがとうな……」

それ以上はもう何も言えない冒険者の肩をぽんと叩いた。