軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

はじめての防衛!

のっし、のっしとクマっぽいモンスターがガーデンの外を歩き回る。私がそいつを眺めていると、シーちゃんが静かな声で言った。

「住民化条件の不明なモンスターが現れましたね。そのような場合は、ガーデンを防衛する必要があります」

「防衛……」

そうか、そういう要素もあるんだ。

モンスターが来訪してきても、必ずしも住民化条件を満たしているとは限らない。ワームースもワルフルも来訪してきた時点で住民化できる要素は揃ってたけど、そうじゃない場合は好き放題歩き回られちゃうと、せっかく整えたガーデンが台無しになるもんね。

よく考えればワルフルの能力は防衛が云々って書いてあったし、これもそういうチュートリアルか。

「メニューをご覧ください。『任命』という項目があると思います」

言われた通りにメニューを開くと、任命の欄に触れる。

そうすると任命可能なモンスターの一覧が表示されるみたいだが、現在選択できるのはワルフルたちだけだった。

「……だよね」

まあ、でもワルフルたちは最速で五匹住民になったようなものだし、初めての防衛としてはかなり余裕を持ってあたれるのではないだろうか?

手のひらを使ってワルフルたちを一括選択して任命。

次の瞬間、ポップアップウインドウが表示された。

――――――

防衛行動を開始しますか?

[ YES] [ NO]

――――――

迷いなくYESに触れる。

すると、まるで私が防衛行動を選ぶのを待っていたかのようにクマ型モンスターが、ゆっくりとガーデンの中に足を踏み入れた。

うーん、チュートリアル感。ますます安心して見ていられるな。

「わふっ!!」

モンスターが足を踏み入れた瞬間、私の足元からワルフルたちがいっせいに飛び出した。

柴犬くらいの大きさの犬でも五頭も群れていれば十分脅威だ。数の暴力という言葉が頭をよぎる。

「防衛モンスターとして任命したあとは、行動を自由にすることも可能です」

ワルフルたちの健闘を見ている間、シーちゃんの解説がはじまる。

「自由を選択している場合、見知らぬモンスターに対してすべて撃退を試みます。ご注意ください」

「つまり、住民化させたくても撃退しちゃう?」

「はい、住民化を行いたい場合は防衛行動をマニュアルに切り替え、適宜指示を出すとよいでしょう」

なるほど。そうなると夜寝ている間とかは自由……オートにしておいて、プレイしているときはマニュアル。状況を見て防衛指示をするのがいいのかな。

そういえばこのゲーム、時間の流れがどうなっているのか全然調べてなかったな。空中都市っていうプレイヤーが集まる空間は現実の時間の流れと一緒らしいが……。

ワルフルたちの防衛戦を見つめつつ、片手でコンソールをいじり、時間を確認する。えーと、ああ。現実時間と、その隣にガーデン内時間っていうのがあるな。

現在は10時。ガーデン内時間は……18時くらいか。結構夕方だな。私がゲームをはじめたのが8時くらいだったから、2時間で夕方まで進んでる……? ってことは、ガーデン内は現実の大体6倍くらいの速さで時間が進んでることになるのかな。結構たっぷり遊べそうだ。

今日は休みだし、トイレ休憩とかご飯とかを挟むとしても、ガーデン内の時間を進めるだけ進めるなら4日くらいは……進められるかな。いや、切り詰めすぎか。3日くらいが一番かなあ。

「わふっ! わふん!」

「ぐうううう」

私が考えている間に、ワルフルたちに囲まれたクマのモンスターはしばらく抵抗していた。しかし、少し経つとうんざりしたように背を向けて、ガーデンの外へと駆け出して行った。ちょっと可哀想ではあるものの、追い払うことができたみたいだ。はじめての防衛成功である。

「……条件を探ってあげたいけどな」

できれば追い払わずに住民化させてあげたいところだけど、あのクマがどんなモチーフのモンスターか分からない以上どうもしてあげられない。

ワルフルたちの元へさくさくと歩いていくと、彼らはみんな顔を上げて、誇らしげに胸を張った。可愛い。偉い。

「わふー!」

「えらいえらい」

撫でようとしたところで、彼らがじっと私を見た。

うん? なんだろう……心なしかおめめがキラキラ。

……なるほど、もしかして撫でる以外のご褒美も欲しかったのかな?

「ごめんね」

ミルクはさっき全部飲ませちゃったから、ご褒美は用意できなさそうだ。

ものは試しとシーちゃんを見てみるが、横に首が振られる。

「初期配布食材には、限りがありますので」

「……ですよねー」

ばっさりと断られてしまったので、再度ワルフルたちに謝って全身を撫で回す。

「今度、ちゃんと用意するから……」

……それにしても。クマみたいな大きなモンスターなら、スコップで壊せなかった瓦礫も壊してくれるかな。

「……住民化条件、探ってみるか」

入ってきたということは、もちろん来訪条件は満たしている。あとは……食べ物? それとも浄化されたタイル数? はたまたもっと別の条件がある? うーん、分からない。

「次に来たら、

もう少し落ち着いて観察しよう」

腐食モンスター状態のとき、ワルフルたちは体が乾いてパキパキにひび割れていた。

ワームースは体内のムースが変色していた。

それぞれのモンスターは食品がダメになったような特徴を持っていた。なら、あのクマにもそれがあるはずだ。

それが分かれば予測も立てられるだろう。

「……痕跡、か」

ワルフルたちがおすわりをしている前に、クマがそこに踏み入れた痕跡がまだ残っている。放っておけばワームースがすぐに耕して土を綺麗にするだろう。だから、それは今しか調べることができない。

「んー、クリームのような……いや、もっとさらさらしてる……? うーん、若干酸っぱい匂いがする?」

どうやら現実ほど腐臭はひどくないらしいけど、わずかには感じる。これもこのゲームの好き嫌いが分かれそうなところだなあ。

「不快臭が気になるようでしたら、メニューの設定欄から感じる程度を変更することが可能です」

「おお、配慮されてる」

見てみると、匂い自体は吐き気を決して誘発しないようにそれっぽい香りしかしないようになっているみたいだけど、匂いを完全にシャットアウトする方法もある。その場合は、調べた際に文字でログが出てくるらしい。酸っぱい不快臭がする……みたいな感じで。

それはそれでいいけど、私はちゃんと匂い有りに設定しておこう。我慢できないほどの強い匂いが登場したらちょっとはそりゃあ考えるけど、今のところものすごい気を使って作られてるのは感じるし……全身でこのゲームを感じで遊んでいたい。

防衛成功をしたあとは特になにも来ることはなく、しばらく時間が進む。

その間に木の苗も順調に育っていたし、私はメニュー欄からとにかく設置物や増改築の欄を眺めて無料で設置可能なものがあったらひたすらレイアウトしてみることにしていた。

「……水飲み場がある。むしろ、なかったんだ。そりゃそっか」

無料で一個設置可能だが、二個目からは有料。と言ってもログボとかミッション達成で配られるお金で十分購入が可能そうだ。モンスターが増えてきたら適宜設置しよう。

続いて、生産物の保管庫。

小さいけど自動で回収・保管してくれるらしい優れものだ。

「便利!」

これで、ワームースの生産するムースは自動回収することができるようになった。いちいち瓶から採取しなくて済むならそれにこしたことはない。

他に面白そうなものは……。

「……ん?」

回転遊具?

円形のジャングルジムみたいなやつだ。まわしてくるくる遊ぶ、昔公園にあったらしいけど、今はない遊具。そんな知識しかないけど、創作物で見たことはある。

「これ、まさか私が遊ぶ用……?」

いや、たぶんモンスター用だよね? さすがにね?

なんのために使うんだろう……単にレイアウトとして楽しめるだけなのかな。それともモンスターがこれで遊ぶのかな。謎だ。

でも無料だし、せっかくだから設置しておこう。

最後にちらりとシーちゃんを見る。

「ねえ、シーちゃん」

「なんでしょうか」

「図鑑に、スケッチを載せることってできますか?」

「可能です」

即答だった。

「ですが、スケッチブックなどの娯楽用品は初期配布物には含まれていません。ショップに赴く必要がありますが、それでもよろしいでしょうか?」

私はもう描く気満々だ。

「行く!」

ちょくちょく図鑑を確認しているけど、ワームースは亜種情報が新たにない限りは埋まってるし、ワルフルも生息地以外は埋まっている。

そしてこれは書いてないけど……ガーデンで住民化できる数がマックスになると、どうやら生態観察という部分が全て開くみたいだった。

そしてこれは肝心なことだけど……この生態観察欄が全て開いている状態なら、プレイヤーのフレーバーテキストを記載することができるようになるらしい。

公式テキストの上に記入欄があって、そこを好きに書くことができて、しかもそれを『みんなのモンスター研究誌』という場所にアップすることが可能。つまり、ここでならいろんな人の書いた個性豊かなフレーバーテキストがいっぱい読める可能性があるということだ。

そんなのやるっきゃない! 人前に出るのも話すのも苦手だけど、こういうのでアップするのはSNSみたいに対面じゃないから平気だ。そういうのだったらなんの問題もない……んだけど。

「それでは、一度ワープゲートへ戻りましょう。防衛はオートに。生産品は問題なければ、自動で納品箱へ送る設定にするとよいでしょう」

ワープゲートってことは、要するに空中都市に行くってことだよね? 人が……多分いっぱいいるところに……。

「私は同行できませんが、ホログラム子機にてご案内いたします」

「え、シーちゃん来てくれないの……!?」

思わず声を上げた。NPCの彼女だからこそ、私は平気で喋ることができるのである。なのに人の群れなんかに放り出されたらと思うと恐ろしい。そんなの満員電車以外で経験したくもないし、ゲームしてるときまで気にしたくない。せめて彼女が隣にいてくれたら精神安定剤になるのになんでそんなこと言うのやだやだやだ……と、結構粘った。

みっともなく粘った。でも、ダメらしいね。さすがに本当に無理だと分かると引き下がるしかない。

普通の人なら引くほどわがままを言ったが、シーちゃんはなにひとつ動じてない。さすがである。

「それでは参りましょう――空中都市へ」

ゲート内に光が灯る。

ここを潜れば空中都市だ。汚れた星の大地を捨てて、空の上に逃げ出した人間たちの国。

そこに溢れかえっているだろうプレイヤーたちを想像して私の気分は一気に憂鬱になった。

いやだ〜。一生お庭に引きこもっていたい。空中都市の店と繋がったオンラインショップを実装してくれ。