作品タイトル不明
ビスケッパー・ティートル
「おお〜……!」
夕方にさしかかってきた辺りで、焼きガマが完成した!
まだそれほど大きなものではないが、はじめて作る焼きガマならこんなものだろう。
レンガでできていて、イメージするカマそのままだ。
下には薪を入れるスペースがあり、内部はほんのり暖かい。
こうして設備を作っていくと、やっぱり場所を取るなあ……なんて思ってしまうが、ひとつのガーデンでなんでもかんでもやろうとするとごちゃっとしてしまうのはもはや運命みたいなものだから……仕方ないよね。そのうちちゃんと見栄え向けに整えればよし!
「お菓子作り設備を庭に設置できるとはなあ」
拠点の小屋でしかできないと思っていたけれど、感慨深い話だ。
さて、カマの説明を確認すると、料理だけではなく焼き菓子類も作成できるらしい。ピザとかパンとかもいけるっぽい? 自家製のピザ……いいなあ。
「今はなにが作れるかな」
手持ちの素材一覧を開きながら考える。
「小麦粉はある。ミルックマのミルクもある。卵系もあるし……」
ただ、そこで私はうーんと悩む。
「お菓子作りか……」
料理用の素材は多い。集めてたからね。
でも、お菓子となると話は別だ。料理のシステムは拠点と同じだ。適当に材料っぽいものをいくつも放り込めばお菓子も作れそうだけど……お菓子って結構使う材料が多いから、簡単な材料だけでちゃんとできるか心配だ。
安定を取るなら、空中都市の食堂でお菓子を注文して何度か食べることでレシピの解放をする……とかになるかな。
「ケーキとかはまだ難しいかなあ」
「現状では簡易的な焼き菓子が中心になるかと思われます」
「クッキーくらいならいけるかな?」
そう呟いた瞬間だった。
「わふ!」
いつの間にか集まってきていたワルフルたちが、焼きガマの周囲をそわそわと歩き回っている。
「あ、みんな気になる?」
リボンを揺らしながら窯を覗き込むワルフル。尻尾をぶんぶん振っていて上機嫌そうだ。とても可愛い。焼き菓子を作れるカマだから興味があるのだろうか? 可愛いのでしゃがんで背中を撫でる。
「火の匂いが好きなの?」
「わふん、わふん〜」
だってワッフルだもんね、君たち。
そんなことを考えながら窯の前にしゃがみ込んでいると、来訪モンスターが来たという。鳥たちの通知がきて顔をあげた。えーと、どこかな?
「ん?」
なんとなくガサゴソと音がした気がして、そちらに視線を向ける。
そこにいたのは、恐らくビーバーだ。
「ビスケット……?」
ただし、尻尾の部分が可愛らしいビスケットになっているビーバーである。ただ、ビスケットはところどころヒビが入っていて、今にも崩れそうだ。バキベキウエハースの平原から来ている子だろうか?
こんがり焼けたような色合い。前歯で器用にビスケットらしきものをカリカリ削っている姿はちょっと可愛い。自分の尻尾を食うな。
ビーバーはのんびりとした顔のまま水辺のほうへ向かっていく。
そして、そのままびょん! っと、水の中に飛び込んだ。
「泳ぐんだ?」
さすがビーバーモチーフである。
彼は気持ちよさそうに水面から顔を出し、ぱしゃぱしゃと水をかいて遊び始めた。しかし……しばらくして、私は違和感に気づいた。気づいてしまった。
「……あれ?」
尻尾が、ビスケットの尻尾が……ふやけてる!?
しかも、元から割れかけだったからか、脆くなってボロボロと崩れ始めたではないか。
ビーバー本人もそれに気づいたらしく、慌てて水辺から飛び出してくる。
「キュイッ!?」
しょんぼりしている。自分の尻尾を抱いてめちゃくちゃしょんぼりしている。可愛い。
さらに。
「ユウ様。水質汚染が発生しております」
「え!?」
いやまあ、腐食モンスターだろうから仕方ないかもしれないけど……地上じゃなくて水辺の汚染かあ。
「水分によって崩壊した尻尾の一部が、汚染物質として判定された可能性があります」
溶けたビスケットが水を汚しちゃった……って、コト!?
ビーバーは驚きに染まる私を気にも留めず、濡れて崩れた尻尾を抱えたまま、とことこと焼きガマへ向かってきた。
「あっ」
そして当然のように私たちを無視してカマの前に座った。
「えっ、使うの!?」
人間が近くにいることも気にせず、ビーバーは器用に置いてある薪を押し込み、カマの熱を確認し始める。
慣れてる。めちゃくちゃ慣れてる。手慣れすぎではないですか?
「すご……」
やがて、ビーバーは自分の尻尾を焼きガマに突っ込んだ。思い切りが良すぎる。理屈は分かるけどさあ。
数秒後。
ビーバーが尻尾を引き出すと、こんがり焼き上がったビスケット部分が元通りになっていた。そうはならんやろ!
「キュイ〜!」
直った尻尾を見て、ビーバーのお顔が一気にキラキラになった。
そしてその直後、身体がぽわっと光に包まれる。
「あ」
ビスケット色の模様がついた可愛らしい卵に変化し、テンカウントのあとにパキパキと割れて住民化したビーバーが顔を出す。
「おお〜、ようこそ」
「キュイ〜!」
さっきまで器用に焼きガマを扱っていた小さなおててで、ビーバーは私に向かって手を挙げた。挨拶だ。可愛い。
「えーっと、ず 図鑑はっと」
――――――
No.015
名称【ビスケッパー】
・ 分類:焼き菓子
・ 原型食物:ビスケット
・ 原型生物:ビーバー
・ 危険度:D
・ レア度:R
・ 大きさ:2タイル(1×2)
・ 生息地域:バキベキウエハースの平原
・ 好物:ナッツ、小麦
・ 来訪条件:
10タイル分の汚染されていない草地がある。
10タイル分の汚染されていない水辺がある。
所属するビスケッパーが二匹に達していない。
・ 住民化条件:
10タイル分の汚染されていない草地がある。
10タイル分の汚染されていない水辺がある。
ガーデンに焼きガマがある。
ガーデンに樹木がある。
焼きガマで尻尾の成形をする。
・ 汚染タイル数: 陸上/水辺3
・ 能力:
小枝を拾い集め、巣を作って水辺をひと区画分ける。尾のビスケットを一日二回収穫することができる。材料を渡すと焼きガマでビスケットを生成する。
ビスケッパーが水中で一時間滞在すると水辺タイルの汚染が1進む。
・ 備考:水辺に入ると尻尾が溶けてしまうので注意が必要。
・ 公式生態観察:
水辺に定着する工作性の高いビーバー系モンスター。
小枝を集めて水域を区画化し、簡易的な仕切り(巣)を形成する。
尾部は焼き菓子成分で構成され、乾燥時に収穫資源として扱える。
一方で、水中滞在が長い場合は尾部成分の溶出により水質へ影響を与える。
焼きガマ環境下では加工補助行動が増え、安定した菓子生産に寄与する。
――――――
「なるほどねぇ……」
どうやらこの子にとって、焼きガマは重要な生活設備として必要だったらしい。早めに設置しておけば、深層解放前から住民にできていたのかもしれない。
……というか、自分の尻尾焼き直してるのすごくない? こんなこともあるんだなあ。
「ホホーウ」
「フィ」
新たな住民を歓迎していると、樹木の上のオリウルが鳴き声をあげ、コフィジョンが私の腕まで飛んできた。同時に視界の中にはじめて来訪するモンスターの通知が出現する。
腕を持ち上げてコフィジョンと目を合わせると、彼は翼を広げて手のように私の頬に添えて笑うと、翼をそのまま別の方向に向ける。えっ、なに紳士……? コフィジョンってなんかこう、本当にプレイヤー……ガーデンテイマーのことが好きだね? コーヒーの香りを纏った、ちょっと尻尾とかが豪華なハトって感じだけどメロってしまいそう。かっこいいいねえ。
「こっち?」
指示通りに視線を向ける。
そこにいたのは――甲羅が茶壷のように穴の空いた亀だった。
「ああ、探索で見かけた子かあ」
深層近くのお茶畑で見かけたモンスターだった。
あのとき一緒にいた、鹿のツノが生えた馬はまだきていないようだ。けれど、来訪条件を満たしていたとしても来るときと来ないときがあるから、まだ分からないな。
のそのそとゆっくりガーデンに入ってきたカメさんは、わずかだけど作ってある茶畑の近くで歩き回り、そして一番近い水場の水を確認しに行く。そしてなにやら歩き回った末に卵になった。
ちゃんと条件を満たしていたらしい。テンカウント後に無事住民となってその場で座り込んだ。落ち着いて甲羅干しをするらしい。
うちの庭がお気に召したのだろう。よかった!
「さて、図鑑はっと」
――――――
No.025
名称【ティートル】
・ 分類:飲料
・ 原型食物:お茶
・ 原型生物:カメ
・ 危険度:D
・ レア度:R
・ 大きさ:4タイル(2×2)
・ 生息地域:枯れ果てた草原
・ 好物:お茶の葉、水
・ 来訪条件:
深層浄化が完了した池が10タイル分ある。
所属するティートルがいない。
・ 住民化条件:
深層浄化が完了した池の水を飲む。
深層浄化が完了した畑が5タイル分ある。
お茶畑がある。
・ 汚染タイル数: 水辺5
・ 能力:
お茶畑の葉を食べて緑茶を甲羅に生産する。汲み上げられるのは半日に一回。
緑茶の茶葉を作る際、生産数が茶葉の缶1増加。
深層浄化の完了をした池に滞在している間、一時間1タイルずつ、隣接する土地の深層土壌回復効果を与える。
・ 備考:
茶葉ボーナス。茶葉を食べているとティートルが滞在していなくとも一時間分浄化効果が延長される。(一瞬入って出ても確定1タイル浄化可能)
・ 生態観察:
深層浄化済みの水域に定着し、甲羅にお茶を蓄える大型水棲モンスター。
滞在中は隣接地の深層土壌へ継続的な回復効果を与える。
お茶畑との相性が良く、茶葉生産を補助する存在として機能する。
動きは緩慢だが、環境整備における影響力は高い。
――――――
図鑑情報的には、第一ガーデンが浄化完了した今来るのはちょっと遅めかな。でも、私の進捗が早すぎるだけの可能性もあるのでなんとも言えない。
私が図鑑を読んでいると、腕からコフィジョンが飛び立っていき、カメの背中に乗った。
それから身を屈ませてなにやらおしゃべりしているようだった。同じ飲み物系のモンスター同士でなにか意気投合したりするのか、それともライバル意識なのか、どちらなのかは分からない。ただ、仲良くしてくれたらいいなあと思った。
そうしてニコニコと眺めていると、隣からシーちゃんの声がかかる。
「ユウ様」
「うん? どうしたの」
シーちゃんがジッと見ている地面に目をやる。
そこには長い影が差し込んでいた。ああ、そういえばなんか暗くなってきたなと思ったところだったけど……ガーデン全体に落ちる、その大きな影は細長くて見覚えのあるシルエットだ。
え、ということはもしかして。
振り返り、ゆっくり視線を上へ向ける。
ガーデンに入るか入らないか、ギリギリのところにいたのは……キリンだった。首元に、キャベツみたいな葉を巻きつけた、あの深層で挨拶をした巨大なキリンである。
「わっ、遊びに来てくれたの?」
ガーデンの外からこちらを覗いているけれど、入ってくるつもりはなさそうだ。こういうときは大抵、来訪条件を満たしていないときである。
「まだ条件不足ってことだよね」
「はい、来訪条件は未達成である可能性が高いです」
キリンはしばらくこちらを見つめたあと、ゆっくりと長い頭を下ろした。
その足はガーデンの外にいるのに、長い首を活かしてキリンさんの鼻先が近づいてくる。目の前にやってきたキリンさんの目は穏やかだ。キャベツの葉はところどころ枯れて茶色くなってしまっているが、モンスター本人はそこまで元気がないわけじゃなさそう。ガーデンに踏み入ってこないのも、自身が腐食モンスターだから遠慮している……なんて考えたくなるけど、さすがにそれはないか。来訪条件不足だけど、深層で仲良くなったから来てくれたのかな。
横になった瞳孔はキラキラしていて、目の前まで近づいた鼻先から吐き出される息がふうと私の髪を揺らす。そのまま首を傾げ、もう本当に、触れる直前の至近距離まで近づいてきた頭に驚いてしまう。
「わ」
けれど、どうやらその状態でキリンはなにかを待っているように静止している。
「触って、いい?」
キリンがニコリと笑う。
腕を上げ、恐る恐る触ってみると、その鼻先はもっちりしていた。
「……かわいい!!」
もちもちが気持ちいい。鼻先から顎先を触らせてもらって、ちょっと骨張っている部分こそあれど、皮膚の厚い部分はぷにぷにもちもちしていて夢中になって揉み込んでしまうほど。それでもキリンさんは逃げたりせずに、ニコニコ私を見ていた。ひええ、こんなの好きになっちゃう。
私が満足して手を離すと、キリンは満足そうに目を細めて顔を上げ、そのままゆっくり去っていった。本当に挨拶しにきただけらしい。そのためだけに来てくれたの……? 好き。
「絶対仲間にしたい……」
私は遠ざかる長い影を見送り、手を振りながらそう強く決意するのだった。
「ユウ様、そろそろ」
「うん。今日も図鑑を書かなきゃ!」
夕方になり、夜になる前に指示出しを完了させて拠点に入る。
さあて、今日は誰の図鑑を書こうかな?