軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

卵選び

シーちゃんが手をかざした空間に、五つの卵がホログラム表示されている。

左から順に、淡いレモン色の小さな卵。四角い模様が点々と入った、クリーム色の卵。他よりひとまわり大きい、ずっしりとしたクリーム色の卵。つるりとした透明感のある、オリーブ色の卵。そして、両側にピンク色の触角のようなものが三本ずつ生えた、茶色い卵。

……見た目だけだと、正直よく分からない。

少しでも近くで見ようと一歩踏み出しかけて、はっとした。

「これ、ホログラム……」

正直吟味するなら実物が見たいな。そう思って顎に手を寄せて考える。完全に見た目だけとなると――。

「検分をご希望でしたら、現物をお見せすることも可能ですよ」

現物。

その言葉に、海の底に沈みかけていた思考が戻ってくる。

「ただし、悪戯はせず直接触れないこと。それをお約束いただける場合に限ります」

同時に、視界の端にポップアップウィンドウが表示された。

――――――

警告内容

卵は非常に繊細です。

許可なく接触・衝撃を与えた場合、

選択不可となる可能性があります。

[ YES ] [ NO ]

――――――

……読むまでもない。私は即座に[YES]を選択した。

次の瞬間、ホログラムが消えてシーちゃんの前に、五つの卵が静かに並んだ。

これが実物。思わず息を整えながら、ひとつずつ眺める。

卵の大きさ、卵の色、殻の質感に形の微妙な歪み。卵だけとはいっても、調べられることはいくらでもある。

見るだけでは足りなくて、私はさらに顔を近づけた。

……あ。

「匂い、確認、いい?」

聞きながら、もうやっている。いつもの癖だ。VRのモンスター系ゲームは色形匂いまで全てチェックすることに決めている。

「触れない範囲でしたらお好きにどうぞ」

スン、と鼻を近づけてみると、卵からふわりと甘い香りが漂ってきた。

「いい香り。レモン?」

思わず、隣の卵にも顔を寄せて、順番に確かめていった。

最初のレモン色の卵は、一番小さい。柑橘みたいな、きゅっとした甘い香りがする。

二番目。中くらいの大きさで、表面に四角い模様。近づいた瞬間、焼き菓子みたいな香ばしさが鼻をくすぐった。

……パンケーキ? いや、これ、メロンパンみたいな模様……うーん、それよりももっと……もしかしてワッフル? お腹がすく香りだ。

三番目は一番大きい。美味しそうな濃厚な香りがする。

四番目は、つるつるしたオリーブ色。二番目のやつより小さいけど、レモン色よりは大きい。ほんのり青臭くて、油分を含んだみたいな匂い。これも嗅いだことがある気がする。パスタとかで。

最後の五番目。見た目だけだとウーパールーパーを連想するけど、色は茶色。これも、生地が焼けたみたいな甘い香りがする。なんだろう……見た目はサクサクしてそうだけど。

「…………」

うむむむむ。

五つの卵を前に、私は真剣に悩んだ。

視界の端で、シーちゃんは微動だにせず立っている。表情も、姿勢も、まったく変わらない。

どうやら本当に待つのが得意らしい。

もう、こうなったら今食べたくなったものを選ぼうか。ワッフルは好きだし。香りも、一番しっくり来た。本当にワッフルかどうかは分からないけど……答え合わせといこう。

「……これにする」

二番目のワッフルみたいな香りのする卵を指差した。

「かしこまりました」

シーちゃんの声と同時に、演出が入る。他の卵が淡く光に溶けて消え、二番目の卵だけが、その場に残った。

でも名残惜しくて、ついつい手が伸びそうになる。

「う……」

「真剣にお選びくださり、ありがとうございます」

シーちゃんが言った。

「目の色を変えておられたので、少々驚きました」

「……ちっとも驚いてなさそうな顔、してた」

「驚きましたよ」

なんだか思っていたよりもお茶目さんだ。てっきり返答しないで次にいくと思っていた。

「それでは、次の工程に移りますね。拠点内に孵卵器をご用意いたします。お手元のメニューから、ショップアイテムの項目を開いてください」

指示通りに操作すると孵卵器の項目が表示された。

初回無料。設置可能数はまだ一個。これも課金要素が入ったりするんだろうか。私は基本放置ゲーにしちゃいがちだから使わないかもしれないけど。

「取得」

「はい、拠点内の模様替えが可能になりました」

取得した孵卵器は、拠点アイテムの一覧に追加されていた。

私はそれを取り出して、ベッドの近くにそっと設置する。

「孵化まで、およそ三時間かかります。ただし、初回に限り――」

シーちゃんの説明に合わせて、孵化スキップチケットが表示された。

「これ、使う」

迷いはなかった。チュートリアルなんてそんなもんだ。

チケットを使用すると、卵に、ぴしり、と小さなヒビが入る。

「……さて」

私は息を詰めて、卵を見つめた。

「どんな子かな」

ひび割れがゆっくりと広がっていくのを見ながらしゃがむ。間近でしっかり観察できるようにと。