軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

43 本人が事実と思えば事実、とはならない

逆に旅の仲間達は、腹筋発言に謎の理解を示していた。

「たた、確かに、フィストさんの腹筋はすごいです……」

「垂涎ものの身体だものねぇ……」

「腹筋だけではありません。どれだけ魔族の攻撃を受けても、四肢が千切れる事なく戦い抜く丈夫な身体をしています……」

「力自慢の魔族と互角だったね」

闘牛同士の戦いみたいで面白かった、とリンジが笑う。

フィストは復讐の為に自分を鍛え上げた。十代の青春は全て修行に費やした。

結果、岩をも砕く肉体を手に入れた。つまり岩より硬度の高い鉱石みたいな身体になった。

ちなみに魔王戦では腹の子の魔力で保護され、鉱石で言えば硬度最強ダイヤモンド並みだったが、それはアイアリスしか知らない。

「ちなみに私も魔王戦後に妊娠に気付いた」

「本人も気付かないなどあるのですか!?」

「あるんだ」

あるんだ。

何せ本人が一番驚いた。

「そんな……ではフィストさんは妊娠に気付かぬまま愛する人と別れ、信念のまま戦い続け臨月なのに魔王と戦ったのですか……!」

「そう、だ」

セーラに雷が落ちたような衝撃が走る。まさかの事実に、セーラの持つ包丁が落ちた。ストンと地面に突き刺さる包丁。足に落ちたら指の一本は切断されていただろう。それだけ鋭い切れ味だった。

「そんな事が……こんなことがあり得るなんて……!」

慄いて一歩下がるセーラに、フィストはとても複雑そうな顔をした。

フィストが想定していたのはルミネの子が本当にアスターなのかと、父親を焦点に当てた論争。まさかフィストが産んだか否かでここまで疑われるとは思っていなかった。

だから、一切の嘘がない。

妊娠に気付かず相手とは別れたし、戦い続けたし、臨月のまま魔王戦に挑んだ。

多分だが、相手もフィストの妊娠には気付いていない。お互いそれどころではなかったし、本気で奪い合い、殺し合ったので。

――もしかしたら相手は戦闘中に、何か勘付いていたかもしれないが……フィスト本人が全く気付いていなかった。

思いがけない事実に混乱したセーラは、今までとは違う意味で目をぐるぐるさせながらフィストに詰め寄った。

「であれば、ルミネちゃんは、フィストさんの子……?」

「そうだ」

「フィストさんと、アスターさんの……」

「そうだ」

頷きながら、フィストが産んだ衝撃が強すぎて、父親に関しては疑われていない流れにむしろ引いた。

フィストとアスターが相思相愛運命の夫婦だと、本気で思っているらしい。ヴァーシプとリルスも、フィストの相手がアスターであると疑っていない。

それは村の人達が心の底からそうだと信じているのを受けての事か。それともアスターの宣言を受けての事か。

どちらでも構わないが、ヤンデレが納得するなら問題ない――はずだった。

「え、それは俺との子でしょ?」

この問題発言がなければ。

「は?」

思わず低い声が出たのは、フィストだけではなかった。

こいつ、今なんと言った。

全員の目が、指に付いた果汁を舐めとっているリンジに集まる。

リンジ本人は、きょとんと黒い目を瞬かせ、不思議そうにしていた。

「だから、それは俺との子でしょ?」

「違うが?」

即座に否定したが、リンジは仕方がないなと肩を竦めて見せた。

「誤魔化さなくて大丈夫だよ。それよりフィストも見付かったし、皆で王都に帰って楽しく暮そう」

「は?」

は?

フィストは本気で、リンジが何を言っているのかわからなかった。

フィストに詰め寄っていたセーラも完全に固まっている。ヴァーシプは瞬きしながらリンジの言葉に耳を傾け、リルスは口元に手を当てて目を丸くしていた。フィストの肩を抱いていたアスターが、リンジから距離をとるようにフィストを後ろに庇う。

そんなアスターを見て、リンジが不愉快そうに顔を歪めた。

「お前さぁ、面白くないよ。いきなり現われて、フィストの夫ですって面白くない。お前、旅の途中で全然出てこなかったじゃん。終わってから出てきても意味ないよ」

面白さなど求めていないし、意味など求めていない。

「だいたいさ、フィストが妊娠したなら、俺の子に決まってるじゃん。皆色々騒いでいておかしいよね。それもさ、産まれたなら認知しようかと思ったけど、俺に泣いてばっかじゃん。煩いからそれ、連れて帰るのは嫌だなぁ」

さっきからリンジの言う「それ」とは、フィストの愛する我が子、ルミネの事だろうか。

愛する我が子を「それ」呼ばわりされ、フィストの額に青筋が浮かぶ。しかしそれ以上に怖気がすごい。

「……ルミネは、リンジの子じゃねぇよ。何度も言っているし、そもそもお前とそういう関係じゃなかっただろ」

本当に、何度も言った。

全く聞いている素振りが見えなかったが、本当に聞いていなかったのだろうか。

「でも妊娠したんでしょ? なら俺の子じゃん」

違う。

聞いていても、信じていないのだ。認めていないのだ。

リンジは本気で、ルミネを……フィストが産んだ子を、自分の子だと思っている。

意味が分からない。

言葉が全く通じない感覚。

リンジと話していると、こちらの意見が全く通じない……話を聞き流されている感覚にはしょっちゅうなったが、それとはまた違うズレを感じる。

ぞわぞわと這う不快感。きょとんとしているルミネを抱き直し、フィストは冷静に言い返した。

「お前とそういう関係になった事なんか、一度もねぇだろ」

「でも俺は何回もフィストに出したから」

夢の中で。

リンジは当たり前のように、そう言った。

「だからフィストが妊娠したなら、それは俺の子でしょ?」

きっもちわる。

骨の随からそう思った。