軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14 逃げるか立ち向かうかの選択肢

「なんでそうなった」

あんまりな内容に、手紙を読んだフィストは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

簡潔な一枚目と違い、二枚目の手紙にはバレた経緯がしっかり書かれていた。

仲間による尋問(?)と、勇者によるフィスト大捜索開始の経緯が。

(というか、バレる経緯、お前かよ。何調子に乗って玩具を買いまくってるんだ。そりゃおかしいと思われるに決まってるだろ)

アイアリスが購入したベビーベッドに寝かされたルミネが、アイアリスが購入した布製の音が鳴る玩具(中に豆が入っているらしい)を握りながら、アイアリスが購入した天井から吊す揺れる遊具を見上げてきゃっきゃと楽しげな声を上げている。

実はこの家にあるルミネの玩具は、アイアリスが遠方から買い付けて転送魔法を駆使して送ってきた物ばかり。

そりゃばれる。

(なんでこんなに浮かれてんだ!)

ちなみにこちらからアイアリスへ手紙を送る手段はないので、フィストからやめろと苦言を叩き付けることもできない。なら何故アイアリスが色々送れるのかと言えば、奴が凄腕の僧侶(偽)だからとしか言えない。闇医者みたいな物だ。

(つーか、ヤンデレにバレたのも不味いが、なんだ国を挙げての大捜索って!)

魔王を倒した勇者の願いが、自らの意志で失踪した仲間の捜索とはどういう事だ。

仲間内でした雑談では「酒池肉林がしたい」などと最低な願いを零していたのに。

つまり、諦めたのだろうか。魔王を倒した報酬に元の世界に戻るではなく酒池肉林とほざいたあのリンジが?

ヤンデレ聖女が包丁両手に間女を追いかけ回しても姿勢を改めなかったあのリンジが?

信じられなくて顔を上げたフィストの下で、ふわりと手紙に文字が浮かぶ。

【PS.フィストを見付けて酒池肉林を完成させたいらしいぞい。子供についての言及はなしじゃ】

「嘘だろマジかよ」

思わず愕然としてしまった。

つまりあの男、酒池肉林のメンバーとしてフィストも欲しいと。

(参加するはずないが!?)

一度もそんな関係になったこともないと言うのに、何故当たり前のように組み込むつもりで居るのか。

しかもアイアリスの行動で、フィストが妊娠したことを察しているはずなのに、それについての言及はなし。

絶対見付けて問い詰めると刃物をちらつかせるヤンデレ聖女とは違った恐怖を覚える。

だいたい、魔王を倒した一人だからって、国を挙げての捜索になるとは思っていなかった。

というかならないように、自らの意志で失踪したと手紙まで残したのに。それなのに、討伐の褒賞まで消費してフィストを探そうとするなんて。

そこまでして探して、見付けてしたいことが酒池肉林ってなんだ?

(国単位で探されたんじゃ、すぐ見付かる。田舎だからって油断はできねぇ。ヤンデレの勘違いと妄想で母子共に処分される。なんとか回避できても勇者による酒池肉林ルート? 意味が分らん。ほんとそれだけは意味が分らん)

勇者の倫理どうなっているんだ。

異世界って、そうなの?

やばいな、異世界。

(せめて偽名で生活していれば、見付かるまで時間を稼げたか……? いや、陣痛でそれどころじゃなかったんだよな……思ったより臨月だったから)

フィストが妊娠に気付いたときには、いつ生まれてもおかしくない状態だった。自覚が薄かったとは言え、その状態で山奥まで移動できたのが奇跡だ。

その奇跡の子は、仰向けのまま元気に足をガンガン叩き付けて笑っている。あまりにも強い音が鳴るので、いつも踵が心配だ。あの柔らかい踵でこれだけでかい音を出すの何故?

とにかく、産まれた我が子をヤンデレと倫理なし男の所為で失いたくない。

(いっそ国外逃亡するか? でも六ヶ月のルミネを連れて旅は怖すぎるし、隣国の状態もよくわからないし……)

ぶっちゃけ魔物は蹴散らせるが、怖いのは世情である。魔王の脅威が去った今、警戒するのは人間同士の戦いだ。

(どこも復興で手一杯だけど、自国の疲弊を気にせず攻め込む国だってありそう。たとえば隣国の……)

がっしゃーんっ!

真面目に思案するフィストの背後で、派手にひっくり返る音がした。フィストは振り返りざまに叫んだ。

「現状報告!」

「拭き掃除しようとして棚の物を落としそうになって咄嗟に受け止めたら思った以上の軽さでうっかりバランスを崩して棚に突っ込みましたが棚は無事です! 俺も怪我はありません!」

フィストからの鋭い声に、アスターによる報告が飛ぶ。何故か上官へ説明するような口調だった。

振り返ったフィストが視線を走らせる。派手な音がしたが、物は落とさなかったらしい。棚に載っていた物が倒れているが落ちていない。報告通りだ。

と思ったら、棚の上で倒れて転がっていた調味料の入った小瓶があっという間にアスターの頭上に落下した。ごつんっと小気味よい音が鳴る。棚を支えていたアスターが、ずるずると床に沈んでいく。

一部始終を目撃したフィストは、蹲って痛みを耐える男に哀れみの視線を向けた。

(こいつ……その内もう一回記憶喪失になるんじゃねぇの……?)

フィストが思わずそう思うくらい、アスターのうっかり度は高かった。

転んだりぶつかったり物が落ちてきたり。

それが全部うっかりなのだから、男……アスターのうっかりは筋金入りだ。むしろよくここまで生きて来られた。

落ちた調味料を回収し、損傷がないことを確認する。涙目で蹲るアスターの銀髪を慰めるように撫でてみた。たんこぶはなかった。

「怪我はないな。何よりだけど、その内やらかすぞ。常にルミネを抱っこしているつもりで行動しろよ」

「ははは……ルミネちゃんを抱っこしている間は、確かにまだマシだからね……」

脅威のうっかり者だが、何故かルミネを抱いている間はその頻度も減る。

乳児を抱き上げている緊張感から慎重になるのか、ルミネが豪運の持ち主なのかはわからない。だが今のところ、アスターがうっかりでルミネを傷つけた事はなかった。

「俺としては次こそは巻き込みそうで怖いから、抱っこはしたくないんだけど」

「は? 私の子が抱けないのか?」

「酔っ払いみたいな絡みやめて」

というかもっと用心して! と怒られるが、ルミネから離れた瞬間自分の脚に絡まって転ぶアスターを見ていると、いっそルミネを括り付ければうっかりはなくなるのではと思ってしまう。

棚を元に戻して、アスターの淹れたお茶で一服する。お茶を淹れる間にもお湯が跳ねて小さな火傷を負っていたが、味はとても美味しかった。

「それで、魔法使いからの手紙にはなんて?」

「アイツは別に魔法使いじゃないんだけど……まあ厄介事だよ」

どこからどう見ても厄介事だ。

今すぐ逃げろと忠告がないので居場所はまだ見付かっていないようだが、それも時間の問題だろう。フィストは今すぐ逃げるか、それとも迎え撃ち相手を納得させるか選ばなければならない。

ヤンデレ聖女に、勇者の子ではないと納得させる為に、どうしたらいいか。

(いや、リンジが心当たりないって言えば済む話なんだが……)

何故か否定せずフィストを探す為、聖女の勘違い度数は上がるばかり。

自分の子ではないと自分が一番わかっているはずの男が、何故一言も否定しないのか。

ワンチャンあるみたいな態度だから、ヤンデレ聖女の殺意が止まらない。むしろフィストに対する信頼があったからこそ、裏切られたと感じて殺意が高まるばかりだ。

(逃げない方がよかったか……? いや、その場に居たら相談する間もなくだったな……)

最終的に聖女の聖なる杖ではなく野営料理で使用する包丁で戦っていた聖女だ。フィストに子が居るとわかった瞬間、腹を掻っ捌かれていた可能性の方が高い。むしろそれを警戒しての逃走。

どうした物かと、フィストは温かいお茶を飲みながら遠い目をした。