軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どっちが大切なの?

「邪魔をっ」

「良いから見てなさい」

僕の言葉を遮るようにポーラの姿をした賢者がそう諭す。

色んな感情が胸の中で渦巻くけれ、グッと我慢して飲み込んだ。

「……何を知っている?」

帝国軍師の声にノイエが軽く手を広げる。

「珍しい魔法を持っているから私が保護したの。でも偶然知ったのよ……何でもフグラルブ王国の一部の女性の子宮には、ある魔道具を動かす鍵が隠されていると。それだけよ」

フフフと笑ってグローディアは、その場でクルっと回ると背後に居る僕らに体を向けた。

「さあ帰りましょう。ここでの話し合いは終わりよ」

1歩2歩と歩き出す彼女に帝国軍師が口を開いた。

「待て……待ちなさいっ!」

「あら? 何かしら?」

優雅に振り返りグローディアは帝国軍師に目を向ける。

激昂していた表情はなりを潜め、忸怩たる思いという感じで彼女はノイエを見ていた。

「その人物を引き渡して欲しい」

「断るわ。私の可愛い奴隷だから」

「金なら幾らでも払う」

「無理よ。気乗りしない」

「……なら帝国を滅ぼす手伝いをする」

ちょっ! マジか?

余りのとんでも発言に流石のメイドや軍師の部下たちも声を失っている。

「で、そんな無理をするほど……あの刺青を持つ女性には価値があるの?」

「ある」

「へ~」

物凄く腹立たしく聞こえる『へ~』だ。

「なら渡せないわね」

「ぐっ!」

苦虫を万匹くらい噛み潰したような顔を軍師が見せる。

「頼む」

「嫌よ」

「どうしても?」

「ええ」

「分かった」

スッと帝国軍師の目が座り、今まで見せていた視線とは明らかに違う目をした。

「フフフ……ようやく本性を見せたわね?」

「ええ。本気で倒すべき……殺すべき相手と認識したから」

冷たい声を吐き出し、帝国軍師が乱暴にワインで濡れている前髪をかき上げた。

「狂った振りをしていれば大半の馬鹿が恐怖し私を避ける。どんな無茶な命令だって必ず従う。でも殺人が趣味なのは本当よ。私は人の命が無残に燃え尽きる様子を眺めているのが好きなの」

薄い笑みを浮かべて帝国軍師が両手を広げた。

「次は正式の場所で正々堂々と殺し合いましょう」

「それで貴女が勝ったら?」

「フグラルブ王国の女を貰う。もし渡さないのならユニバンスに乗り込み蹂躙する。見つかるまで1人ずつ殺していく」

「そう」

薄く笑ってグローディアが口を開いた。

「なら私が……私たちが勝った時は貴女の終わりだと思いなさい」

その声はとにかく冷たく響く。

「私が手足を凍らせて少しずつ砕いて殺しあげるから」

「ええ。楽しみにしているわ」

サッと身を翻し帝国軍師が天幕から出ていく。

その様子を見つめていると、ノイエの姿をしたグローディアが僕の前に来た。

「この馬鹿がっ! 相手の演技に乗せられてっ!」

「痛いっ! って演技?」

つまりどこからが演技だったんですか? ねえ?

ポカポカと殴って来るノイエの腕を掴んで止めたら爪先で脛を蹴って来た。

それはダメなヤツ。本気で痛いヤツだから。

しゃがんで脛を抑えると、慌てたポーラが駆け寄って来る。

「にいさま。へいきですか?」

「うん。平気」

ブルブルと震えて見えるのは気のせいです。痛くないです。嘘じゃないです。目の端の涙はただの汗です。

『はぁ~』と呆れた様子でグローディアがわざとらしいため息を吐いた。

「あの馬鹿軍師はこっちに手を出させようとしてたのよ?」

「……結構ギリギリなことをしてましたけど?」

『殺す』とか言いながら魔道具を使おうとしてたよね?

「それで攻撃されたの?」

「……されてませんね」

「それが答えよ。この馬鹿がっ!」

ポカっと頭を殴られた。ただ殴ったグローディアの方が痛そうにしているけど。

頭蓋骨は堅いから安易に殴っちゃダメだとその昔なんかの本で見た。たぶん漫画だ。

「殺すと言って未知の魔道具を突きつけられれば殺されないように反撃をする。たぶんあの2つの魔道具は身を守る道具よ」

「……なんか頭に来たな」

それが事実なら良い様に掌で踊らされたわけだ。度し難い自分の愚かさかな。

「分かったのなら今度から気をつけなさい」

言ってグローディアが大きくため息を吐く。

「まあ盤で負けた腹いせの行為でしょうけど……あの女はかなり厄介よ」

「分かりました」

「ならいいけど」

告げてノイエの雰囲気か変わる。無表情だけど可愛い僕のお嫁さんだ。

「アルグ様」

「なに?」

「……お腹空いた」

余りのマイペースぶりに僕も驚いたよ。

「はいはい。なら帰ってご飯にぃ~い」

顔を上げて気づいた。

とても穏やかな表場をしたヤージュさんの存在に。

「アルグスタ様?」

「……沈黙をお金で買いたいのですが、幾らなら応じていただけるでしょうか?」

これしかない。

もう色々とあれ~すぎるノイエを見られた。というかポーラも見られた。多分一番厄介な相手に見られた。

「そうですね」

考えている振りをして彼が腕を組んで首を捻る。

「自ら進んでキシャーラ様の為に融資していただけるというなら考えなくもないです」

「……戦後、オッサンを交えて金額は決めましょう」

「ええ。楽しみです」

最後の最後で帝国軍師に騙され、身内にまで負けた。

「無敗のアルグスタさんは、こんな負けなど認めな~い!」

認めたくない!

「うわ~。何これ?」

天幕を出たら帝国兵らしき人たちが全員地面の上をのたうち回っていた。

何があったの? 僕らより前に出た帝国軍師たちも流石に慌てて兵たちを見て回っているよ?

「ポーラさん?」

「がんばりました」

ギュッと両手を握りしめてウチの可愛い妹がそんなことを言ってくるのです。

頑張ったら大の大人たちをこんな風にできるの? ウチの子は天才か?

「偉い」

「はい」

何故かノイエが手を伸ばしてポーラを撫でる。

凄く嬉しそうなポーラが笑顔でノイエに抱き着いた。

どうやら今日の彼女は兄様より姉様に甘えたいらしい。

「で、ポーラ」

「はい」

「何したの?」

彼女の前に行ってしゃがんでその目を正面から見る。

アルビノ特有の赤い目をしてるが、この世界だと割と良く見る色だ。

「いえません」

「どうして?」

「……ししょうにおこられます」

しょんぼりしてポーラがそう告げてくる。

が、本日の僕は少し厳しいお兄ちゃんなのです。

「ポーラは師匠と僕の言葉……どっちが大切なの?」

「えっ?」

その切り返しは想定していなかったのか、ポーラが目を見開いて驚きの表情を見せる。

「どっち?」

「……にいさまです」

「良し。なら言えるね?」

「……かえったら」

「うん。なら帰ったらちゃんと説明すること。いいね?」

「はい」

少し厳しくそう言うと、ポーラはその目に涙を浮かべてノイエに抱き着いた。

こらこらノイエさん。どうして僕にそんな視線を向けるかな?

「ノイエも同じです。悪いことをしたらお姉ちゃんたちに怒られたでしょう?」

「……はい」

コクンとノイエが頷いた。

「赤い人」

「はい?」

「ここから先が無くなった」

スッスとノイエが自分の左ひじから指先までを指し示す。

あの~先生? 叱りつつ腐海はダメだと思います。

僕の気持ちが表情に出たのか、慌てた様子でノイエの表情が変わった。

「違うの! あれはノイエを唆したレニーラを叱って……で、少し脅そうと魔法を使ったら何故かノイエが彼女を庇おうとして!」

「ふ~ん」

「本当なのよっ!」

らしくないほど狼狽する先生の背中を押して、とりあえず僕らは馬車に乗った。

膝を抱いていじける先生の姿が可愛かったけど……本人にそれを言ったらまた叩かれそうだから我慢しておく。

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