軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そっちの方が良い気がしてきたよ

「帝国軍師からの使者ね」

前線の本陣に到着した僕らを出迎えたのは、キシャーラのオッサンだった。

彼はユニバンス王家の旗を掲げてから前線にて、慌ただしく動く帝国軍に睨みを利かせていたのだ。その甲斐あってかどうかは知らないが、今のところ小競り合いも発生していない。

この隙に領民たちを退去させているとか。本当に有能だな。戦争に関しては。

椅子に腰かける僕にオッサンが『どうする?』と視線を向けてくる。

「手紙とかは?」

「書簡で届いているぞ」

「だろうね」

受け取り一読すれば……分かり切った言葉が載っていた。

『今回の遠征は逆臣キシャーラの討伐であり、ブロイドワン帝国としてはユニバンス王国に対し敵対する意思は微塵もない。願わくば裏切者であるキシャーラとその家臣の引き渡しを強く要求するものである』とかね。

「ふむ。オッサンたちを引き渡せばこの戦争は終わるんだ」

「その手紙の内容が正しければな」

「あはは~」

笑いながら僕はその手紙をノイエに手渡す。

「なに?」

「破いて頂戴」

「はい」

書簡の包みごとノイエが引き千切って細かくしていく。

細かくなったゴミはヤージュさんが皿を運んできて、ノイエがその皿の上に全て乗せる。あとは普通に火をつけて終わった。

「せっかく頂いた手紙ですし……使者の人に返事持って帰って貰いましょう」

「ほう。どのような文章で?」

「決まってます」

紙とペンを……ここは敢えて挑発的に行こう。

ペンではなくて指先にインクをつけて紙いっぱいに文字を書く。

『寝言は寝て言え。馬鹿娘!』

完璧である。ここ最近でそこそこの力作だ。

「これを持って帰って……おひ」

「あん? 送り返すんだろう?」

のそっと天幕の外から許可なく入って来たのはオーガさんだ。

何故か中身が暴れる麻袋を背負っている。

「使者の人は無関係でしょう?」

「あん? こっちは戦争してるんだよ。死ぬ覚悟もない奴が敵の真ん中に来るなって話だ」

呆れ果てるヤージュさんが、僕の力作を持って麻袋に縫い付けた。

「敵陣のど真ん中に投げ込んでやるよ」

「……」

血走った眼をしている彼女は止まりそうにない。

彼女は麻袋を頭上で振り回し投げる気満々だ。

麻袋を背負って天幕を出るオーガさんを僕らは慌て追いかける。

流石に気の毒なのでチラッとノイエに視線を向けたら彼女が頷いた。

まさか僕の気持ちが伝わったのかな?

全力で振りかぶったオーガさんが袋を投げ飛ばす。と、ノイエが走り出して……袋を抱えて戻って来た。

「何すんだい!」

怒るオーガさんにノイエが首を傾げる。

「ゴミを投げるのはダメ」

「それは投げていいゴミなんだよ!」

「どんなゴミでも投げるのはダメ」

などと、ノイエとオーガさんが言い争い出した。

でも僕としては、いきなり振り回されて投げ飛ばされて九死に一生を得たら『ゴミゴミ』と言われる麻袋の中の人に同情したくなる。

「そんなゴミはさっさと投げてっ!」

「ダメっ」

実力行使に移行しだしたから……まあここは。

「ノイエ」

「はい」

「それをあそこの真ん中に置いてきなさい。それの置き場です」

「はい」

僕の指差した場所に、ノイエが移動して麻袋を置いた。

突然現れた存在に帝国軍の方でパニックが起きているが、ノイエは気にもしないで軽い足取りで帰って来る。

「アルグスタ様?」

「何でしょう?」

「……ユニバンス王家の血筋は、基本嫌がらせが好きなのでしょうか?」

ヤージュさんのツッコミに返す言葉もありません。

ノイエの容姿は有名だから、帝国軍だって今のが本人だと分かるだろう。

そんなユニバンスのドラゴンスレイヤーが帝国軍師を馬鹿にするような紙を張り付けた麻袋に使者を入れて置いていったのだ。

これ以上の売り文句と言うか煽りはないな。

「ふっ……ユニバンスに喧嘩を売るのが悪いんです」

「それらしいことを言って誤魔化してませんか?」

「気のせいです」

ヤージュさんのツッコミに対し、僕ははっきりとそう告げた。

何事もはっきりと断言することが大切だと思います。

ゴミの一件で怒り狂ったオーガさんが、ノイエに攻撃するのを止めていたら数時間が経過した。

ようやくあのオーガさんを捕縛し、顔だけ出して地面に埋めた。

昔フグの毒に当たったらこうしていた時代劇を見たけれど……あれって絶対に意味ないよね。だってオーガさんの怒気は全然抜ける様子が無いしね。

パンパンと僕は手を叩いて埃を飛ばす。

まだ地面を踏み固めているノイエを眺めているとヤージュさんがやって来た。

「アルグスタ様」

「ほい?」

「また帝国から使者が」

「……あれを見てこっちに来る人がいることに驚きだね?」

あの使者はそもそも無事だったのか? 僕なら発狂する自信があるぞ?

「それは断っても行っても『死ぬかもしれないから』という理由でしょう。まだこちらの方が生き残れる可能性があります」

「僕が居ればでしょ?」

「仕方ありませんよ」

苦笑しながヤージュさんは埋まっているオーガさんを見る。

「この戦いでこちらの者たちが多く殺されています。トリスシアと共に戦ってきた仲間がです」

「余計なことを言ってるんじゃないよ! ヤージュ!」

荒ぶるオーガがまた吠え出した。

「ああして照れるぐらいはするんですよ。彼女だって」

「本当に余計なこと、うごっ!」

照れているらしいオーガさんの口にノイエが無慈悲に丸太を突っ込んだ。

口封じにしては物理的すぎるが、あのノイエにそれほど煩いと認識されるとは凄いな。

「仲間を殺されるからそのやり場のない怒りをああして使者に対して……本人だって悪い行いだとは分かっているはずですよ。ああ見えて彼女は性根が優しいですから」

「ゴガガッ!」

口の端から木の屑が。

あのペースだと電動の鉛筆削りに押し込んだ鉛筆のように丸太が木屑になりそうだな。

ただノイエが2本目を準備している。意外と楽しんでいるな。

「それでアルグスタ様」

「はい」

「使者の方は?」

「は~。で、手紙は?」

「こちらに」

手を差し出すとヤージュさんが書簡を置いてきた。

封を切って中身を確認する。手紙だね。

「……会って話がしたいってさ」

「そうでしょうね」

ヤージュさんが呆れた様子で苦笑する。

「帝国軍師としては、未知数の貴方たちとは現状戦いたくないはずです」

「その言い方だと、いずれは倒す方法を考えつくかもって聞こえるんですけど?」

「私はあの女狐なら可能性はあると思っていますよ」

「意外と高評価だね?」

「性格は破綻していますが、その能力は高いですから」

ヤージュさんがそう言うなら確かに厄介な相手なのだろう。

ノイエを倒す方法なんて僕には思い……意外と倒せるかも?

何個か思いつくな。ただそれは僕だからで他の人には無理だ。

「一度くらいは会ってみてもいいかもしれないね」

「それはどういう理由で?」

「ちょっとした好奇心ですかね。それに」

チラリと視線を向けると、丸太をオーガさんの頭の上に落としたノイエが居た。

一瞬その目を青くした彼女がこっちに向かい歩いてくる。

「3日後」

「それで良いの?」

「十分」

何が十分なのか謎だけど、そう言ったノイエが僕の横に来て……両手で頬をガッチリホールドしてキスして来た。

物凄いディープキスを受けると、ふっと彼女の表情から柔らかさが取れて無表情になる。

一瞬止まったノイエだけど、そのまま唇を近づけて追い打ちして来たよ。

「なに?」

「キスしてから質問するノイエが凄いな」

「はい」

僕から手を離してノイエはまたオーガさんの前に戻り丸太を掴んだ。

もうそれを口に押し込めないで殴って黙らせたら? そっちの方が良い気がしてきたよ。

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