軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ノイエに胸を枕にされないの?

「何なのだね……あの夫婦は……」

戻るなり崩れるように座り込んだエウリンカは頭を抱える。

とにかく疲れた。肉体的にも精神的にも、とにかく疲れたのだ。

ノイエは終始エウリンカの胸を枕にしようと抱きついてくるし、彼女の夫である人物は少しでも返事が気に食わないとノイエをけしかけてくる。

本当に夫婦そろって鬼畜の所業だった。

脅迫されてどうにか魔剣を作り出せば残った魔力は僅かで、話をしたら終わってしまった。

エウリンカは壁に寄りかかり大きく息を吐く。

ただ甘えてくるノイエは確かに可愛らしかった。

話に聞く幼い頃であればもっと可愛らしかったのだろうと思うと……自分が如何に周りを見ずに無駄な時間を過ごしていたのかと痛感させられた。

《うむ。もうノイエを魔剣にするなどとは二度と考えられないな》

あの愛らしさを失うことはできない。

自分がノイエの中に住んでいるという事実よりもそっちの方が重要だ。

《それにあの申し出も悪くない。うむ。悪くない》

無茶と脅迫ばかりの彼女の夫であったが、出来上がった剣に満足したのか報酬の提示をしてきた。それは……とにかく鉱物や宝石など『珍しい』と言われる物を手あたり次第集めておくという話だった。

それは魔剣を作り、やる気を失っていたエウリンカのやる気があっさりと復活するほどの提案だった。

あまりにも機嫌が良くなり最後は自らノイエを抱えてしまうほどに。

《どんな物が集まるが分からないが……もしかすれば今まで作れなかった魔剣が作れるかもしれない》

再度やる気を蘇らせてエウリンカは床に下ろしていた尻を持ち上げ、

「レニーラさんレニーラさん」

「ホリーさんホリーさん」

「なにっ!」

左右からの声にエウリンカは慌てて顔を上げる。

何故か両手を上げて不思議なリズムで踊る2人が居た。

「何かね?」

戸惑いながらも問うエウリンカに、踊りを止めて腕を組んだ2人がうんうんと頷く。

「エウリンカ~」

「どうして~」

「ノイエの~」

「枕に~」

「なれたのかな~?」

「……」

不可解な踊りを見せるのは、確かに胸の大きな2人組だった。

「私なんてね……リグとジャルスの次に大きいのに……こっちから抱きしめないと、枕にしてもらえないの」

「私なんて……胸の形とか自信あるんだけど……枕にしてもらえないんだ」

「……」

ジリジリと接近してくる2人にエウリンカの冷や汗が止まらない。

背中を流れ続け、とにかく不快感を押し付けてくる。

「「どうして枕になったのかな~?」」

理不尽な理由と不可解な踊りで迫ってくる2人の圧に押され、エウリンカは壁際へと追い込まれる。

目の前でワサワサと踊る2人につま先立ちになり壁に背を押し付ける。もう後退はできない。

「ノイエが勝手に……」

「「そうなんだ~」」

もうその返事は聞き飽きたと言いたげな表情を2人が向けてくる。

「あっあれだ。自分は仕事が終わったら素早く深部に戻らなければいけない。だからここでのんびりなどしていられないんだ」

「「へぇ~」」

左右に動く2人は聞く耳を持っていない様子だ。

だがピタリと踊っている2人が動きを止めた。

スススススと左右に分かれて道を作る。

「なら私が深部に戻る手伝いをしてあげるわ」

「……アイルローゼ」

穏やかで静かな笑みをたたえて歩いてきたのは魔女だった。

その登場にエウリンカは必死に身をねじり壁に張り付く。

「待ちたまえ! 自分は何もしていない!」

「どうしたの? そんなに怯えて」

静かな歩みで寄って来る魔女が怖い。とにかく怖い。

全身を震わせエウリンカは必死に吠える。

「本当に何もしていない! 彼に魔剣を作り戻って来ただけだ!」

「へぇー」

地を這うような冷たい声にエウリンカはますます怯える。

穏やかな笑みを浮かべる魔女は、壁に張り付くエウリンカの頭の横に伸ばした手を突いた。

壁ドンだ。ただ愛を語る様子には見えない。

「ノイエを恫喝して怯えさせていたわよね?」

「あれは……そういうつもりはなくて……」

あれは終始胸に顔を押し付けてこようとするノイエに対しての注意だった。

決して恫喝などと言う行為ではないのだ。

「何より」

グッと魔女が踏み込み顔を寄せてくる。

「私の目の前で彼の顔をその胸に押し付けるだなんて……万死に値するわ」

「あれはノイエがっ!」

「問答無用よ」

ニコリと笑う魔女に対し、エウリンカはその顔から血の気を失う。

必死に逃れようと左右を見るが、ホリーとレニーラが逃げ道を断っていた。

「早く深部に戻りたいと言ってたわね?」

「あっああっ」

「戻らせてあげるわよ。持って運べる大きさにして」

「止めて、あぎゃ~!」

断末魔を響かせ……エウリンカだった物が、とぷんと床の上で揺れる。

「シュシュ」

「は~い」

「この馬鹿を運んで捨てて来なさい」

フワフワと揺れ動きながらやってきたのはシュシュだ。

踊りながら魔法を使い、床の上に広がる染みを封印魔法の中に閉じ込める。

「いっくね~」

フワフワと踊りながら立ち去るシュシュを見つめ、アイルローゼはため息交じりに頭を掻いた。

忙しいのに無駄なことで時間と魔力を消費させられた。

「なら私はもう戻るから」

告げて立ち去る魔女を、踊っていた2人がその背を見つめて見送る。

「レニーラさんレニーラさん」

「ホリーさんホリーさん」

怪しげな踊りを止めて2人は恐怖から自然と抱き合った。

「アイルローゼの前で、やっはり胸の話はしない方がいいね」

「そうね。あの薄いのは……何気に自分の胸がないことを自覚しているから」

抱き合っていた腕を解いて2人はその場から逃げ出した。

1人残ったセシリーンは、クスクスと笑い声を立てる。

本当にここは賑やかで楽しい。

外では彼が手に入れた剣を掲げて浮かれ、その様子に嫉妬したノイエが襲い掛かっている。

今の様子から……たぶん彼は今夜も長い時を過ごすだろう。

「ん~」

「あら?」

寝声が聞こえてきてセシリーンは見えない目を向ける。

グシグシと目を擦りながら歩いて来たのはリグだった。

「呼んだ?」

「呼んでないわよ」

「そっか」

返事をしながらセシリーンは先の会話内容を思い出す。

特にリグの話はしていなかったはずだ。しいて言えば胸の話はしていたが。

のそっと歩いて来たリグはそのままセシリーンの傍に座ると、彼女の太ももを枕に眠りだす。

「リグは」

「……なに?」

「ノイエに胸を枕にされないの?」

「されてないよ」

ゆっくりと頭を持ち上げてリグは眠そうな顔を向ける。

「前に出たときは背後から抱きしめられて……揉んでたけどね」

「そうだったわね」

どうやらリグの胸はノイエの枕には適していないらしい。

ノイエの基準が良く分からず……セシリーンは思考を停止した。

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