作品タイトル不明
それは知りませんでした
「あっ。アルグスタ様。おはようございます」
「……何よこれ?」
昨夜は肉体的な疲労を得なかったが精神的な疲労を得た。凄く疲れたよ。
けれど猫のように義母さんの膝に甘え続けるグローディアと言う貴重映像を見た。
夜明け前に義母さんは帰宅し、それまでずっとノイエの体を借りたグローディアが甘えていたのだ。
ただ夜が更け、深夜を過ぎ、空が明るみだして僕は焦った。
流石に半竜の姿を誰かに見られたら大問題な気がするので『もうそろそろ帰るわ』と言い出した義母さんに『馬車を出しましょうか?』と気を利かせた。
本来の姿に戻り、全力で逃れようとするノイエを抱えて頬擦りする義母さんは『大丈夫よ。凄い速さで帰るから』と言って窓から飛び出し消えた。
あのノイエですら目で追えなかった速度らしい。一般人には絶対に見つけられない。
で、徹夜を敢行させられた僕を尻目に、本日のノイエはベッドで横になりお休みらしい。
そして寝不足のままお城へ来た僕を待っていたのは、所狭しと置かれた包みだ。
執務室の床を占領するのかと思うほどに置かれている。それを整理しているのはクレアとメイドさんたちだ。
「全て一応アルグスタ様宛ですね」
「……」
『一応』という言葉に嫌な予感がして、包みを手に取り確認する。
僕宛だと言えば確かにそうなのかもしれない。問題は連名だ。
僕の名の横に『グローディア』とある。別の物には『アイルローゼ』と書かれている。
つまりそう言うことだろう。
「賄賂か」
「最近包み隠しませんね」
「何を隠せという?」
賄賂は賄賂だろうに。
手に取った包みを解いて中を確認する。
「宝石か」
グローディア宛には宝石と手紙が入っていた。
手紙の内容は……『今後とも良しなに』的な言葉だ。
「これって何処の馬鹿貴族?」
「失礼します」
クレアと一緒に整理をしていたメイドさんが、横合いから顔を覗かせ僕の手の内を見る。
「西部に属する上級貴族ですね。シュニット陛下との関りが少なく、何より最近は領内の運営も上手く行かずに税収入が右肩下がりとか」
「なるほどね」
だからグローディアを取り込んで……で、この馬鹿は議場でのグローディアの宣言を聞いて無かったのか? あれは羨ましいことに引き籠り宣言して見せたのだぞ?
「お兄様に何かあっても馬鹿兄貴が居るんだけどね」
「それにアルグスタ様も居ます」
「あれ? 僕ってあれより継承権、上だっけ?」
「はい」
知らなかったわ~。
と言うかあれの生存が明るみになると、王位継承権とかまた動くのか。面倒臭いな。
「ならこの馬鹿は、あと2人も死ぬのを待つわけか」
気の長い話だ。僕なら税収入の方をどうにかするな。
「アルグスタ様はこれから最前線に向かいますし」
「あ~。そういう判断ね」
せっせと賄賂を分けて置いているクレアの代わりに、メイドさんが受け答えをしてくれる。
最近ポーラにメイドの何かを教えている先輩メイドさんだ。
大変優秀だとポーラから聞いている。何となく叔母様と似た感じがして苦手意識を持っているけど。
そのメイドさんとの会話で理解した。
前線に出るのが確定している僕は死ぬかもしれない。なら後は陛下と馬鹿兄貴が死ねば……やはり気が長い。
「で、アイルローゼ宛は?」
手を伸ばしそっちも確認する。
中身は……黄金と手紙だ。
「……こんな馬鹿が居るからか」
手紙の内容は武器として使えるプレート作成の依頼だった。
昔からこんな依頼ばかりを受けていたのだと思うと、アイルローゼがプレート作りを嫌うのも分かる。あれだよ。先生にはこれから伸び伸びと自分が作りたい物を作って欲しいのです。人間ノンストレスで活動している方が良い物が出来ると思うしな。
そもそもこの馬鹿は先生に対してのプレート作りの基本を分かっていない。
黄金と一緒にプレートを入れて置けと言いたい。
何処かの貴族がお嫁さんの鎧を作るからって大量に集めて高騰したままって話だけどな。
あっ犯人は僕か。あはは。
「これってさ~。一応全部僕宛だよね?」
「そうですね」
ひと通り整理を終えたクレアが、パンパンと手を叩く。
汚れているわけじゃないけど、手を叩きたくなった気分だったのだろう。
「なら僕が持って帰っても問題無いよね?」
「……そうですね」
「なるほど」
賄賂と思わなければ、ただのプレゼントだ。
グローディアとアイルローゼの王都帰還を祝ってのお祝いの品だな。
「クレア~」
「はい?」
「グローディア宛とアイルローゼ宛で別けられる?」
「出来ますよ」
メイドさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら一息ついたクレアが『そんなの簡単です』と言いたげな視線を向けて来る。
ちょっと僕も紅茶が欲しいんですけど? ああ。立ちっぱなしが悪いのか。
椅子に座るとサッとメイドさんが紅茶を置いてくれた。
「別けますか?」
「別けて一覧作っておいてくれる?」
「分かりました」
指示を受けてクレアがメイドさんと一緒に包みの仕分けを始めた。
最初からある程度別けてあったのか速い速い。
それからボードを手にしてクレアがリストを作っていく。
「失礼するよ」
「お~。クロストパージュの種馬オヤジか」
「前王よりかは大人しいんだがな」
気の抜けた挨拶と共にやって来たのは、宮廷魔術師であるクロストパージュ家の前当主でありクレアの父親でもあるケインズのオッサンだ。
軽い足取りで部屋に入って来て、せっせと働くクレアの頭を撫でると勝手にソファーに座った。
「おいオッサン。我が物顔で勝手に座るな」
「気にするな。禿げるぞ?」
「禿げんわ」
本当にこのオッサンは色々と軽い。僕も立ち上がりソファーに移動する。
メイドさんが紅茶の準備をしてセンターテーブルに置いてくれる。
ただケインズのオッサンが尻を撫でようとする動きを見もしないで回避するとか……ポーラはどんな人を先輩にして学んでいるんだ?
何よりポーラはお城に来てないのか? 後で馬鹿兄貴の屋敷に回収しに行かないとな。
「で、何かご用で?」
「ああ」
尻さわりで空振りした手をカップに伸ばし、オッサンが茶を啜る。
「アイルローゼに1つ仕事を頼みたい」
「断る」
「速いな?」
「当たり前だ。そもそも陛下の許可を取って来い」
「あ~」
ガシガシとオッサンが頭を掻いた。
「これはあれだ。実は前に頼んだ物なんだ」
「はい?」
前に頼んだ? フレアさんの伝手か何かかな?
それだったら十分にあり得るな。
「ああ。アイルローゼが例の魔法で学院を去る前にな」
それは無下に断れないな。
先約だし、何より先生が受けた訳だしな。
「一応それでも陛下に確認を取って貰えます?」
「まあそうなるか」
渋々だがオッサンが納得してくれた。
「で、先生に何を頼んだの?」
「ああ……言えんな」
「言えよ。武器か?」
それかアダルトなあれか? それだったら僕もちょっと欲しい。
「武器では無いな。武器だと問題でもあるのか?」
「あるよ。アイルローゼはもう武器作りを受けないことになってます」
「そうなのか?」
驚いた様子でオッサンが顎を撫でる。
「なら大丈夫だろう。あれは武器にはならんな」
「だから何よ?」
「ああ。……ウチの妻は暑いのが嫌いでな。冷気の出るプレート作成を頼んだんだよ」
「あ~。あれは便利だよね」
「……あるのか?」
ジロリと睨まれた。
「部屋用じゃないけど、飲み物を冷やす用で作って貰ったね」
「……アイルローゼにか?」
「えっあっうん」
何故にそんなに睨むの?
「お前はあれが刻むプレートの価値を知っているのか?」
「高いのは知ってるね」
「違う。あれが実用的な物を作るのが大変珍しいんだ」
「なの?」
「ああ」
クシャリと髪を掻いてオッサンが呆れた様子で息を吐く。
「あれは武器以外だと趣味に走った変な物しか作らないで有名だったからな」
それは知りませんでした。
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