軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 2

「あめです」

義理の兄が経営している古着店を出た小さなメイドは、灰色の雲が広がる空を見上げる。

ポツリポツリと落ちる雫に、幼いメイドが悲しげな表情を浮かべた。

白い髪に赤い目……義理の姉である国の英雄と同じ色だが幼いメイドの場合は違う。

生まれ持っての色素不足。アルビノなのだ。

だから日光を浴びすぎると酷い日焼けをするが、この世界にはそんな知識は無い。

故に気持ち悪がられたりし、住んで居た村ではそれも理由に嫌われていた。

でも今は違う。

優しい兄と多分優しいのであろう姉たちと一緒に暮らしている。

屋敷のメイドさんたちも大変優しくて、一人でお風呂の時は皆が入って来て優しく洗ってくれる。

ただずっと洗われるので大変は大変だけれども。

空を見上げる幼いメイドは、軽い足取りで雫の中に身を乗り出した。

地面の上に出来ている水たまりを避けながら足を動かす。

日々の勉強や鍛練は少女を成長させている。

優秀な教師たちに囲まれ暮らす少女は、そんな教師たちからの評価が高い。

今も"天才"と称された舞姫から学んでいる『ステップ』を披露してみせる。

けれど雨が降る中では出歩く者は少ない。

軽く浮かれていたと気付き、少女は顔を真っ赤にして止まっている馬車の元へと急いだ。

「お帰りなさいませ。ポーラ様」

「はい」

閉じられていた馬車の戸が開きスルリとメイドが降り、出迎えてくれる。

彼女はまだ若いがとても優秀なメイドだ。

何より先輩として色々と手ほどきをしてくれる。

本当に優秀で、師であるメイド長をしていた叔母様からもそう言われている。

あの口の悪い……とても厳しい……真面目な叔母様の言うことだから間違い無いはずだ。

「お城に戻りますか? それともお屋敷に?」

「おしろにもどりたいです」

「分かりました」

柔らかく笑いメイドに頷されてポーラは馬車に乗る。

スッと無音で馬車へと入ったメイドと向かい合うように座った。

「せんぱい」

「何ですか?」

「せんぱいはどうしてめいどを?」

ガタゴトと車体を震わせ移動した馬車の中で、ポーラは素直に質問をする。

目の前に居る"先輩"はとても器用で頭も良く、何より綺麗だ。

兄に引き取られ王都に来てから何人も美人を見てきたが彼女は……きっと20人の中に入る。

当初は10人の内に入っていたが、ここ最近姉の姉たちが凄いのだ。美人だらけでビックリする。

「せんぱいはきれいですし」

「貴女のお姉様に比べれば全然ですよ」

「でもべんきょうもできます」

「……先生の元で学びましたからね」

「それは……わかります」

とても厳しい上官……先生を持つ身としては深く理解する。

「それに私は“メイド”としての仕事が好きなのです」

「すきなのですか?」

「ええ」

クスリと笑う先輩メイドに、ポーラは小さく首を傾げる。

自分もしているが決してメイドの仕事は楽ではない。

主人が悪ければ最悪な仕事とも言える。

ポーラの視線を察した彼女は、柔らかな表情を向ける。

「私は孤児なのです。ポーラ様も知っているあの場所で育ちました」

あの場所とは『王弟屋敷』だ。

ポーラは何度か出向き、その場所で何が存在しているのかを知っている。

「王妃様に恩を返すために私たちはメイドをするのです」

「そうですか」

「はい」

笑みをたたえる先輩メイドにポーラも笑顔を向けた。

「せんせい。きょうは?」

「ええ。どうやら貴女は槍術の才があると報告を受けまして」

「そうじゅつ?」

「それの先端に刃の付いた武器です」

「これにですか?」

手にしていた棒の先端をポーラは眺める。

刃の付いた武器はまだ危険だからと練習用の武器をひと通り学び……落ち着いたのが棒だった。

その棒を鍛練場で振るっていたポーラの元に、師である化け物……メイド神であるスィーク叔母様がやって来たのだ。

そしていつも通り、唐突に話しかけて来る。

「槍と言うより棒状の武器の適性があるそうです」

指された棒を見つめてポーラは首を傾げる。

「これですか?」

「そうです」

頷きスィークはそっと掌を差し出す。

何事かと覗き込んだポーラは、その掌に銀色の卵が乗っているのに気付いた。

「それはなんですか?」

「これは異世界の魔道具です」

「まどうぐ?」

「ええ」

差し出された卵をポーラは両手で受け取る。

「たまごです」

「そう見えますね。ですがそれはとても凶悪な魔道具なのです」

「きょうあく?」

「ええ」

そしてスィークは語る。

『それは持つ者が念じると自由に姿を変える魔道具と言われ、馬鹿な前王が秘密裏に入手したのです。ですがあれはそれの使い方を間違えていました。ええ間違えていたのです。

それで子を作れなくとも王妃と使い楽しもう……二か所を攻めて更なる扉をを開こうと、あの馬鹿は夢を見たのです。

ですがそれは姿を変えると言っても棒になるのみ。それも使用者の背丈以上に短くなりません。流石にあのお花畑を頭に宿す王妃ですら身の危険を感じ大事には至りませんでした。

そして報告を聞いたはわたくしは、それをあの種馬から奪い保管していました』

との話の内容だった。

ポーラとしては話の内容は耳に届いたが……その意味の大半は理解出来なかった。

とにかく大変難しい話を聞いた気がする。

『こほん』と咳払いをし、スィークは幼いメイドに目を向けた。

「それを握り念じなさい。『伸びろ』と」

「のびろ?」

命じられた通りにポーラが実行すると、手の中の卵が銀色の棒となる。

自分の背丈ぐらいに伸びた棒は驚くほどに軽い。

まるで羽毛かと思うほどに重さを感じない。

「のびました」

「そうでしょう。それを振るい学びなさい」

「はい。せんせい」

真剣な眼差しで自分の背丈ほどの棒を振るう幼いメイドをしばらく眺め、スィークはその場から離れた。

「先生。どうしてこちらに?」

「貴女ですか」

スッと姿を現したメイドに、スィークは厳しい視線を向ける。

「あの子から目を離さないように命じていたでしょう?」

「済みません。本来の仕事もありますから……鍛練を」

「貴女は本当に真面目な弟子ですね」

軽くスカートを抓んでメイドは一礼する。

「全ては先生の教えです」

「本当に……」

今迄に居なかった生真面目な弟子にスィークは笑みを浮かべる。

「ならばちゃんとあの子を護りなさい」

「はい。先生」

師の声にメイドも柔らかく笑う。

「ラインリア様からも同様のことを言われていますので」

と、普段見せる表情からは想像も出来ないほど暗い笑みを弟子が浮かべた。

「あの子に危害を加えようとする者があれば全て殺します」

彼女は護衛対象であるポーラを心底気に入っていた。

素直で優しい真っ直ぐな少女なのだ。

何より自分が孤児であると知っても態度に変化すら生じない。

自然体で純粋な相手に強い好意を……溺愛に近い感情を抱いていた。

故に許さない。

あの少女に害をなそうと企む存在は、雇い主ごと始末する覚悟で居た。

長い経験から全てを察したメイド長は……その口を開く。

「大変に良い心がけです。ちゃんと実行なさい」

「はい」

クスリと笑いスィークはその場を離れた。

ユニバンスの一部のメイドが恐ろしいのは……たぶんこれが原因である。

その日からポーラは槍術を極める勢いで棒を振るうようになったという。

後に彼女は自身の祝福を合わせて使うことを覚え……その攻撃力を飛躍的に伸ばすのだった。

(C) 2021 甲斐八雲