軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まずはお前からだろう?

「……良いの。言いなさい」

「はい?」

そっと耳に届いた言葉に僕はチラリと横を見る。

何処か観念した様子の先生の顔があった。

俯き加減で辛そうな……。

「大丈夫。ノイエの迷惑にならない程度で……私が上手く対処するから」

「……」

「平気よ。ずっとこうだったから……昔から」

寂しそうに先生が笑う。

「分かっていたのよ。私の名を出せばこうなるって。だからグローディアは自分も一緒に罪を背負う覚悟で姿を現したの……あの日を引き起こした主犯と共犯者が責任を取るためにね」

目を閉じて先生はそう囁いた。

そっか。そう言うことか。

「だったら引くわけにはいかないね」

「馬鹿弟子?」

おっ! 貴重な先生の驚き顔をゲットした。脳内に焼き付けておこう。

さあ頑張れ僕。ここからが本番だぞ!

暴走従姉に視線を向ける。

正面から真っ直ぐと"交渉相手"を睨みつける。

「グローディア」

「……何かしら?」

「僕はアイルローゼの居所を知らない」

「……何を白々しく」

ムッとした表情を彼女は向けて来る。

たぶん『ノイエの中に居る』ということを濁らせて、適当に『居所を知っている』と言わせたかったのだろう。

けれどグローディアは基本的なことを忘れている。

「知らない物は知らない!」

「……どうして?」

「仮に知っててもお前に言うわけ無いだろう?」

「何ですって?」

ヤバい。グローディアの額に青筋が……本当に短気だな。

「お前はさっき何と言った? 僕と互いに見張り合うために結婚する予定だったと言ったよな? そんな人間に手の内を明かすわけ無いだろう? 寝言は寝て言えこの引き籠りがっ!」

「あん?」

おい王女。その言葉と目つきは完全にアウトだろう?

「お前は昔から引き籠ってばかりで有名だった駄目王女だろうが? ようやく外に出たと思ったら、宝玉とかわけの分からん魔道具を使ってこの大陸を支配しようとしている一味の掌の上で踊って家族を皆殺しだ。そんな馬鹿な存在に秘密を言うとか考えられないね!」

「……言いたいことはそれだけかしら?」

ゆらりと立ち上がった彼女の背後が……格闘技系のオーラ的な何かが見える気がするんですが気のせいですか?

議場の入り口から姿を現した叔母様がこっちを見て口を動かしてるな。

『ほ・ね・は・ひ・ろ・い・ま・す』

縁起でも無い事を言うなって!

「それにさっきも口を滑らしてたじゃん! そんな馬鹿に教える秘密なんてありませんよ~だ。や~い。ば~かば~か」

「それがこの世の最後の言葉で良いのね?」

力強く床を踏んで近づいて来る彼女が怖いです。

と、ノイエが立ち上がろうとするのを僕は制する。

馬鹿弟子だって師匠を護るぐらいはするのです。

「仮にこちらの手札を求めるなら……まずはお前からだろう? 違うかグローディア?」

「……」

その言葉に彼女は足を止めた。

《殺す。今殺す。四肢を引き裂いてこれでもかと言うぐらい残酷な方法で殺す!》

怒りに任せて歩くグローディアは憎き存在を殺す気で居た。

何よりあのアルグスタという存在そのものが気に食わない。

あのルーセフルト家の血筋と言うだけで万死に値する。

敬愛して止まないラインリアを暗殺しようとした一族の血だ。それだけでも許せるわけが無い。

にもかかわらずあれの精神は異世界人だという。

自分がやってしまった罪であったとしても異世界と名の付く物を信用なんて出来ない。

挙句にノイエと結婚して、名まで呼ばれて愛されているとか……やはり殺そう。殺してしまおう。そしてノイエには一生をかけて謝り続けよう。

覚悟を決めて、

「仮にこちらの手札を求めるなら……まずはお前からだろう? 違うかグローディア?」

心を冷ます言葉に足が止まった。

《ああ……嫌な物を見た》

目の前に居るのはいつも通りの馬鹿な存在だ。

けれど目が違う。

相手が子供だった頃……まだお城に居た頃に見た目だ。

全てを蔑み、全てをつまらなそうに見ていた目だ。

たぶんあれが『アルグスタ』と言う人物の本性であり本質なのだ。

だから嫌った。毛嫌いした。

王妃に『ディアは魔法の才能があるのね~』と言われ、喜んで勉強していた自分の努力を嘲り笑うように見えて許せなかった。

努力を踏みにじるようなあの目が本当に嫌いだった。

「お前は何が出せる? 仮に陛下の琴線を振るわせれば……アイルローゼの所在が明らかになるかもしれないぞ?」

「……そうね」

一度だけ目を閉じてグローディアは心を落ち着ける。

ずっと……施設から始まり、あの魔眼の中でも力による支配をし続けた弊害だと理解したのだ。

屈服させて従わせれば良いと思いつい高圧的な交渉をし続けた。

ここは魔眼の中では無い。

「私が提示するのは転移魔法」

数歩下がり議場内の目が自分に向くようにグローディアは立ち振る舞う。

王女らしくと学んだことが、こんな場所で活かされることに内心苦笑しながら。

「仮にアルグスタとノイエが魔法で王都と自治領を行き来できるとしたら……シュニット王よ。貴方が何度自分の胸に問うて生じなかった最良の答えが導けるかもしれないと思うのですが?」

クルリと振り返りグローディアは従弟である彼にその目を向けた。

「……怖かった」

ヘナヘナと腰から力が抜けて椅子に崩れ落ちる。

どうにか無事に座れたのは、隣からノイエが手を伸ばし支えてくれたからだ。

でも何故か彼女が抱き付いて離れない。その手を放してくれない。

「……どうして?」

「はい?」

「どうして庇ったの?」

僕の胸に顔を押し付けていた彼女が顔を上げる。

寂しくて辛そうな顔に……その頬をポロッと涙がこぼれ落ちた。

「だって先生ってばプレート刻むの嫌がるじゃないですか? たぶん嫌なんだろうなって」

「……」

術式の魔女と呼ばれている先生だけど、基本プレート作りを嫌っている。

必要な時は本当に渋々と言った感じで……でも何となく分かった。

『気分が乗らない』とかは全部言い訳で、本当は刻みたくなかったんだ。

「だからやりたくないならやらなければ良いんです。先生が辛くて心を痛めるくらいにしんどいなら、刻まなくて良いんです。でも全く刻まないのは困るんで時折やって下さい」

「……良いの?」

「はい」

それに先生を、と言うかノイエを込みで彼女たちをプレート作りの道具にはしたくないしね。

「やりたくないことは極力やらない。それを僕ら家族の合言葉にしましょう」

「……ノイエが知ったら喜びそうね。肉しか食べなくなるわよ」

「それは勝手解釈です。全力で修正します」

偏食はダメです。バランスの良い食事が大切なのです。

「でも」

「はむっ?」

スルッとノイエの腕が僕の首に巻き付いてその唇が封をして来た。

突然のことで閉じ忘れた視線の先に、グッと拳を握ってみせる叔母様の姿が。

それは良い。それは良いのだけど……何故かグローディアが振り返り氷の微笑を浮かべている。

もしかして……今日が僕の命日ですか?

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