作品タイトル不明
なみだあめですか?
「はい?」
クレアの言葉に思わず聞き返す。
「話を聞いてましたか?」
「聞いていたから聞き返すんだろう?」
「……」
冷めたジトッとした目を向けて来るな。僕は上司だぞ?
ちょっとソファーに横になってノイエの太ももと言う膝枕を堪能しつつ、リスと遊んでいただけだろう。
毎晩お風呂でポーラによって洗われているおかげで、このリスの毛並みは触り心地抜群なのだ。
「ですから明後日、前王ウイルモット様の指示でウイルアム様の葬儀を行います」
「急だな?」
「……報告書を読んでますか?」
「その手の報告書は右から左ですが何か?」
「自慢しないで下さい!」
怒るなよ全く。上司だぞ?
つか車椅子のカラーリングが決まらず、ずっと延期されていたイベントだろう?
僕が悪いのではなく、車椅子を作っていた職人さんたちが悪いんだと思います。
「結果として何色になったの?」
「白と赤の二色で決まったそうです」
「……混ざらなくて良かったな」
老人がピンク色の車椅子とかに乗っていたら、事故に見せかけて僕がツッコミを入れていたかもしれない。何て恐ろしい。
「それで明後日なのは?」
「はい。ハーフレン様が明日お戻りになるのと、雨期も終わりかけですから」
「ドラゴンが暴れる前にやってしまおうって感じか」
雨が降る雨期は、本来嫌われるはずの時期である。
けれどドラゴンが居るこの世界では最も活動的な時期になる。
寒い時期が苦手なドラゴンたちが静かになっているうちに色々とやってしまおうと言う感じだ。
お兄様であるシュニット国王が忙しいのは、この時期を待っていた反帝国の国々が挨拶とかに来ているからだ。
『反帝国同盟』とかの成立を目指す国もあるらしく、その盟主にユニバンス国王を……とかなっているらしい。
けれど現状ユニバンスが戦争するとか無理です。
過去の戦争で人的損害が多かった我が国は、内政に力を注ぐ期間なのです。
「やるのは良いんだけど……」
「全員参加です」
「先に言うなよ」
腰に手を当ててクレアがプリプリと怒り出す。
「言いますよ。アルグスタ様は王族の一員として絶対参加が命じられていますからね」
「まあ叔父様の葬儀だから参加するけどね」
逃げる予定はない。ただ遺骨も無いらしい人の葬儀ってさ……何か引っかかるのよね。
「ならば葬儀の支度をするか」
「支度ですか?」
「そっ」
ノイエの太ももから頭を剥し、抱いていたリスをノイエに戻す。
決して逆らってはいけない相手だと理解しているリス……ニク(仮)はノイエの肩に乗って必死に顔を擦り付けて媚を売り出す。
見ている分には微笑ましいから許そう。
「ちょっと衣装の準備をしてきます」
「……ノイエ様のドレスですか? 間に合うんですか?」
クレアのツッコミに対し、僕はノイエに手を差し伸べ彼女が立ち上がる手助けをする。
僕の手を掴まず立ち上がることなんてノイエからすれば簡単だけど、彼女は紳士的に振る舞う僕の行為に付き合ってくれる優しいお嫁さんなのです。
「間に合わせるのです。簡単なことでしょう?」
「……」
呆れるクレアを残し僕らは部屋を出た。
「見事に雨だね」
「はい」
朝からシトシトと雨が降り続いている。
何となくもう一押しで雨が止みそうなのだけど、それでも降り続いている。
そろそろ雨期も終わりか。そうすればノイエもドラゴン退治に向かい体を動かすから……体調が絶好調な状態で僕に襲いかかって来るのだろう。
長い説得で最近は5日にひと晩はお休みを得られるようになった。
その日はポーラを呼んで家族3人で一緒に過ごす。
ただ何故かノイエがポーラの寝間着を脱がそうとする。
ポーラは君の姉たちでは無いとちゃんと叱るけど。
問題は顔を真っ赤にしながらポーラが抵抗しないことだ。
あの馬鹿賢者が余計なことを吹き込んでいる可能性がある。
今度引きずり出して道徳とは何かを叩きこむ必要があるな。
「にいさま」
「ん?」
そんなポーラが僕に声をかけて来た。
手続き上、ノイエの義妹であるポーラは王族の一員扱いとなるので絶対参加だ。
メイド服では無くちゃんとドレス姿で愛らしい。
「これが、なみだあめですか?」
「誰に習ったの?」
「ししょうです」
うむ。あの馬鹿賢者もたまにはいいことを言うらしい。
「そうだね。誰の涙かは知らないけど……きっとそうなんだろうね」
「はい」
僕の手を握って来てポーラは静かに参列する。
ノイエは隣りで……何も理解して無いな。
黒いドレスなのに肩にはリス。アホ毛の上には宝玉とか。
何処の大道芸人かと聞きたくなるしな。
「ほらノイエ」
「はい」
「始まるよ」
仮設で作られた壇上に車いすで運ばれて来たパパンが姿を現した。
左右には現国王と王弟が立つ。一応僕にも『壇上に登るか?』と誘いが来たが断った。
何故ならノイエと一緒に登ったらね……不敬とか言われかねないしね。
それにある意味喪主である叔母様もイールアムさんもこっちに並んでいる。
あくまで兄であるパパンが主催者であり喪主なのだ。
「今日はこのような雨の中、良く集まってくれた。弟に替わり礼を言おう」
日々ベッドの上の住人となったパパンの声は昔に比べると弱々しい。
それでも腹の底から声を発しているせいで聞こえ難いことはない。
「……だがこの雨は厄介であるな。まるで儂が涙を隠しているようでは無いか」
軽く咳き込みパパンは右腕を天に向けた。
ゴーンと銅鑼の音が響き……そして天に向かい彼は言う。
「弟の葬儀に雨雲など無用である!」
強い言葉を発して……その場の時間が止まった。
何を言ってるんだ? あのパパンは? 完全に滑ってるぞ?
ジト目で壇上を見ていると、周りからザワザワと声がし始める。
何事かと思えば雨が止んだ。雲が薄くなり……まさかの太陽だと?
「さあ儂の弟の葬儀を始めようじゃないか!」
ノリノリでパパンがそう告げる。
そう言えば前回の騒ぎの時に雹やら何やら降ったことがあったな。
たぶんこの国には天候を扱える人が居るのかもしれない。何て秘密の多い国なんでしょう?
「きゅ~」
全力で力を使ったフレアが目を回し崩れ落ちる。
「あらあらフレア、大丈夫かしら?」
「はい」
床に座り込んで呼吸を荒くするフレアに対し、留守番をしているラインリアは満面の笑みを向ける。
「でも心配要らないわ。こうやってエクレアは私が守っているから!」
「……そうですね」
そう。普段のラインリアなら『私も参列する』と我が儘を言うはずだった。
けれどスヤスヤと寝ている乳飲み子を抱いて離さない前王妃は、葬儀よりも孫を溺愛する方を優先したのだ。
「ラインリア様」
「何かしら?」
「そろそろ食事の時間ですので」
自分も食事を欲する状態だが、フレアは我が子が可愛くて仕方ない。
だから授乳を理由にひと時でも我が子を抱きたいのだ。
「大丈夫よ。今なら出そうな気がするの!」
「……出ませんから」
「出るわ! 絶対よ!」
胸元を開けさせラインリアは孫の口を胸へ誘う。
けれどやはり出るわけもなく……ペチペチと叩いて泣き出した孫を彼女は、涙ながらに母親へと引き渡すのだった。
雨期の終わり、晴天の中で王弟ウイルアムの葬儀は無事に終えた。
ただ終わって間もない時刻に北西より早馬が駆け込んで来た。
それは『キシャーラ軍が帝国軍の攻撃により敗走した』との報であった。
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