軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それがあの子だもの

「見た? これが本当のお嫁さんよ!」

豊かな胸を大きく張って踏ん反り返る女性に対し、床に縫い留められた2人が怒りだす。

「あんな言い訳なら私にだって出来るぞ!」

「だぞ~」

「その出来ることをサラッとやるのが出来る女なのよ。つまり私!」

「ホリーはデカい女なだけだぞ!」

「だぞ~。半分~くらい~寄こせ~」

「ふん! これだからちっさい者たちは!」

ワシッと左右から胸を寄せてホリーは谷間を強調した。

「私にはこの胸と知恵で彼の力になれるの! お情けとその場の勢いでお嫁さんになった貴女たちとは違うのよ!」

「胸は関係ないぞ! それに私はそこまで小さくない!」

「裏切ったな~。レニーラ~!」

床に転がる2人がゲシゲシと蹴り合いを始める。

「醜いわ。所詮私と貴女たちとでは彼の妻としての年季が違うのよ!」

「一番長いのはノイエ」

「そっち! 余計なことを言わない!」

ビシッと指を向け、ホリーは壁に寄りかかっている褐色のリグを黙らせる。

「分かった。リグが彼のお嫁さんになればホリーの数少ない優位点が消える。さあリグ! 表に出て彼に告白するのだ!」

「嫌だ。彼とは友人だ」

床に転がっているレニーラにそう告げリグは欠伸を噛み締める。

「と言うか煩くて眠れない。そろそろ終わって欲しい」

「終わらないわ! この愚かなる馬鹿者たちに彼の妻であることとは何たるかを理解させるまではっ!」

「……真面目に魔法の勉強をしているファシーの方が彼の為なのかもね」

ブチっと何かが切れる音が響いた。

ワラワラと青い髪を蠢かせ……ホリーがリグに凶悪な顔を向ける。

「誰が、ですって?」

「ファシーだよ。今もアイルに頼んで自分に適した魔法を教えて貰ってるし」

「……」

偉そうに語る褐色の巨乳を削ぎ落す勢いで、髪を動かし移動を開始したホリーの足が止まる。

それは知らない話だ。

刻印の魔女に頼み魔法使いの適性を確認する紙を中に持ち込んで確認した結果……ファシーの魔法適性が操作系寄りの放出系だと言うことが判明した。

アイルローゼのような力技で無理やり適性の無い魔法を使っているのではなく、大変珍しい両方の魔法を使える素質の持ち主だったのだ。

ただその性格から操作系の方がファシーはあっているらしい。

自分とは違い能力で差を見せるあれにまた先を行かれるのはホリーは面白くない。

無意識に親指の爪を噛むホリーを見つめ、リグは素直な気持ちで口を開く。

「何よりホリーの愛情は重そう。胸と同じで」

「良く言ったリグ!」

「だぞ~だぞ~」

「……ふふふ。あ~っははっ!」

高笑いを発し、吹っ切れた様子のホリーが天井を見上げる。

「私の愛が重いですって? そんなわけ無いでしょう!」

両手を広げ独白する。

「私のは普通よ! 彼を独り占めして出来たら部屋に監禁して毎日愛でて居たいわ! もちろんそれだと運動不足になるから私が毎日ベッドの上で可愛がってあげるの! 彼は何もしなくて良い! 私が全部するし、私が居れば生きて行けるようにしてあげるから!」

「「「……」」」

流石の内容に全員が沈黙した。

『あれ?』と回りの反応に不安を覚えたホリーが首を傾げる。

「ねえホリー」

「何かしらセシリーン?」

「たぶんそれは重いを通り越して、心を病んでいる人の言葉だと思うわ」

うんうんとその他3人が頷くのを見て……流石のホリーも狼狽した。

「嘘よ……そんなわけ無いわ!」

若干涙を溢しながらホリーは駆けて行く。

残った4人はそんな相手の背中を見送る。

「ってホリー。この髪を解いてよ!」

「だぞ~」

青い髪で拘束されたレニーラとシュシュはどうにか床に打ち付けられていた髪を抜き、転がるように逃げて行ったホリーを追って行く。

ようやく静かになった場所でリグはコロンと横になった。

「寝たら戻って来たアイルに叱られるわよ?」

「ならセシリーンが見張ってて」

横にした体を起こしリグは軽く背伸びをする。

本当に豊かな胸がプルンと揺れる。けれど前と違い服を改造し胸を包む感じになって居る。

代わりにお腹が出て刺青と傷跡を晒すことになって居るが。

「ねえセシリーン」

「何かしら?」

「彼に服を弄られてから元に戻らないんだ。どうしてだろう?」

「そうなの?」

目の見えないセシリーンにはリグの服の変化が分からない。

代わりにリグは一度外に出た時のことを彼女に話す。

「……そうだったの」

「いつもならもう元に戻っているのに」

「そうね」

この場において服なども勝手に再生する。

服も傷も死体も、放っておけば直るのがここの仕組みだ。

「アイルが戻って来たら聞いてみたら?」

「ん~。良いや」

「どうして?」

軽く笑ってリグはコロンと横になる。

相手に背を向けて微かな声で呟いた。

「可愛いって……似合ってるって言って貰えたから」

「それは誰にかしら?」

「……」

相手の耳を忘れていたリグは頬を膨らませて拗ねる。

《知らない!》

心の呟きまでは相手には届かない。

けれどセシリーンは相手の心音から何となく答えを察していた。

リグから初めて聞く音は……まるで恋する少女のような軽やかな物だった。

「こんな魔法が良いの?」

「は、い」

「使いたいと言うなら止めないけど」

彼女の服のスカートに描いた魔法語をファシーは必死に見つめ覚える。

元々頭の良い子なのだ。

ただ色々な不幸が重なり……実力を、自分らしさを、表に出せなかっただけの存在だ。

「頑張りなさい」

「は、い」

余程集中しているのか返事も上の空だ。

その様子に軽く微笑みアイルローゼは魔眼の中枢に足を向けた。

「済まなかったな」

「……良いわよ」

声をかけて来たのは壁に寄りかかっていたカミーラだ。

ファシーの魔法の先生をしているが、彼女が持つ魔法は全てが攻撃に適した魔法だ。

「お前があれに魔法を教えるとは思わなかったが?」

「だから良いのよ。ただの気紛れだから」

「……そうか」

したり顔で笑って来る串刺しを軽く睨んでアイルローゼは足を動かす。

《本当にただの気紛れよ》

ただ彼女が弟子の妹だっただけだ。

気紛れは一度で十分かとも思ったが……どうも自分は色々と甘いとアイルローゼは心の中で息を吐いた。

戻りは別の道を通り散歩がてら歩いて行く。

と、知らない間に通路の一画が酷いことになっていた。

「グローディア。余り変な魔法式を描かないでくれる?」

「ん?」

半分寝ているような表情で元姫様がビクッと反応した。

「アイルローゼか」

「そうよ。……貴女は天才なのか凡庸なのか本当に悩まされるわね」

壁に描かれている魔法を見て術式の魔女は苦笑した。

ここまで大胆に既存の魔法式を変更できる度胸がグローディアの武器だろう。

失敗なんて微塵も恐れない。何より失敗などしないと言う強い意志を感じる。

「こことそっちは直した方が良いわよ」

「そうよね……」

頭を抱えて元姫様はコロンと横になった。

「ねえアイルローゼ」

「何かしら?」

「……私ってノイエに嫌われていないかな?」

「どうして?」

転がったまま膝を抱いてグローディアは左右に揺れる。

「だってあれに酷いことをしたし……嫌われることしかしてないし」

「なら一度外に出て聞けば良いのよ」

軽く笑い間違っている個所を消して描き直し……アイルローゼはまた歩き出した。

「たぶんノイエなら『お姉ちゃん』とか言って抱き付くわよ。それがあの子だもの」

(c) 2020 甲斐八雲