軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ただの殺人鬼よ

「おう。アルグ」

「何だ? 帰ってんなら仕事を持ってけ」

「まだ終わってねーよ」

ひょいと僕の執務室の入り口から顔を覗かせたのは、南部に行ってる馬鹿兄貴だった。

「なら何よ? 今の僕は凄く忙しいんだけど?」

「それがか?」

「失礼な!」

作業の手を止める。

これこれクレア君。白いリボンは清楚な感じで良いが今回の趣旨は情熱です。

クレアが手に持っていた白いリボンを回収し赤に変更する。

「やっぱ遊んでるよな?」

「何を言う? 新作だよ?」

マネキンとなっているノイエから手を離す。

今日は朝から最新作のドレスを考案中だ。

雨期の時期はドラゴンの活動が減り社交界的な行事が多い。上級貴族たちから嫌われている僕ですらお声がかかるほどだ。まあ声をかけて来るのは癖の強い貴族たちばかりだけどね。

「誰かの嫁さんの実家主催の集まりとかにも呼ばれてるしさ」

「そんな話があったな」

「出ないんかい?」

「仕事だ。仕事」

そうなると誰が主催だよ? 義兄になるココノさん?

「赤いの着せるならリボン取った方が良いんじゃないか?」

やって来た馬鹿兄貴が、僕が持つ白いリボンを奪い取るとクレアの頭の上に置いた。

あら不思議? 人妻なのに幼さ倍増だ。

「で、何か用?」

「ああ。兄貴が呼んでる」

「仕方ない」

手を止めたついでだ、ちょっと陛下の元に行くか。

「ノイエもな」

「……」

絶賛仮縫い中の彼女もだと?

仕方なくメイドさんたちに頑張って貰い仮縫いを終わらせノイエも連れて行く。

「単刀直入に聞く」

「はい?」

お兄さまがすげー真面目な顔で告げて来た。

僕ってば何か悪いことをしましたっけ? 無意識でやっている可能性は否定しないが。

「ノイエの中に何人居る?」

「……何のことでしょう?」

不自然にならない程度で声が出た。

と言うか何故それに気づく? どうして漏れた?

ウチの屋敷のメイドさんたちの口の堅さは一級品だ。何よりセシリーンが見張っているから漏れる心配はない。手紙の類で告げられていたら終わるけど。

ポンと僕の後ろに立つ馬鹿兄貴が肩に手を置いて来た。

「今回の南部への査察でそれが見つかったのは知ってるよな?」

「知ってますね」

それとはノイエのアホ毛の上でユラユラと揺れている宝玉のことだ。

アホ毛が器用に宝玉を下から支えている。もう磁石の類で吸い付いているのかと思うほどの凄さだ。

「それを提出したのはミルンヒッツァ家の当主グロームだ」

「そうっすか~」

まるで僕が逃げ出すのを警戒するように馬鹿兄貴がガッチリと両肩をホールドして来た。

「彼は叔父の企みに協力し、例の施設を作る手伝いをしたそうだ」

「っすか~」

痛い痛い。肩が砕けそうだ。

折角治った右肩がまた壊れる。正確に言うとまだ完治はしてない。

「何でもノイエが居たロワール領に存在した施設の趣旨を知っていてな……お前たちの共和国での行いに感動していたよ。叔父が夢見た理想の形だってな」

「……」

ポンポンと肩を叩かれ解放された。

「アルグスタ」

「はい」

「どうせお前のことだから言葉に出来ない可能性がある。あれに脅迫されて口封じされているという可能性だ」

真剣な目を向けて来るお兄さまは、兄としてではなく一国の王としてこっちを見ている。

正しい姿勢なんだろうな。国王として国難となり得る危険を排除したいってね。

ただ問題は……僕が答えられないのは、どこまで話して良いのか決まってないからだ。

ノイエはもう自分の中に家族が居ることを知っている。

そして中の家族たちも何処か開き直って最近は姿を現している。

頑なに出て来ない人も居るし、出ることで辛さを覚える理由を僕は知った。

「ん~」

「何故悩む?」

陛下の問いに答えを出すのが難しい。

突然、隣に居るノイエが青くなった。

「口封じをしているからよ。シュニット国王」

「……誰かね?」

「私? 私の名はホリー。『死の指し手』とか呼ばれているただの殺人鬼よ」

「「……」」

馬鹿兄貴が陛下の横に移動する。

警護のつもりだろうが、本気のホリーは正直止められないよ?

「この子の中にあれ以外が居る。そう正解よ。だけど誰もがこの国に対して協力的とは限らない。私のような殺人鬼だって居る。それが何を意味するか分かるかしら?」

「……気分次第で我々の害となる?」

「正解よ」

クスリと笑いホリーが僕の腕に抱き付いて来る。

「私は彼に家族を人質に取られているから手を貸している。でも私のように首に縄を巻かれていない人の方が多いのが現実よ」

「余り詮索はするなと?」

「そっちの方が身のためね」

笑いながらホリーは宝玉を指さす。

「あれがどうしてこれを欲したと思う? あれならばこの宝玉を使ってより邪悪なことが出来るからよ。つまりこれは彼に対する脅しでもある」

「アルグスタが裏切ればノイエを消す気か? 自分たちも消えるだろう?」

「何を言ってるの? 私たちはもう処刑台の上から下に落ちて終わった人間よ」

冷たい声を発しホリーが僕の腕から離れる。

「共和国の一件はただ暴れられるからと全員の意思が一致した。だから暴れて……現在この中は比較的穏やかなの。その平穏に波風立てる気なら共和国での一件をこの国で再現する。分かったかしら?」

「ああ。分かった」

「なら」

「待ってくれ」

消えようとしたホリーを馬鹿兄貴が止める。

「お前たちはグローディアがどうなったか知っているのか?」

「……知ってるわ」

「彼女は今?」

クスリと笑いホリーが……悪い顔をした。

「教えてあげない。少しは頑張りなさい。近衛団長様」

やっぱりね。

色を消してノイエに戻る。

動じないノイエは僕との距離が近いと感じそのまままた腕に抱き付いて来た。

「そんな訳です」

「……そういうことか」

相変わらずのやり逃げを引き継ぎ僕はそう答える。

やれやれと言った様子でお兄様が頭を振り……馬鹿兄貴よ。そう渋い表情をするな。

「アルグよ」

「ほいな?」

「グローディアは中に居るのか?」

「彼女の墓の骨は何でしたっけ?」

「……別人の物だったな」

「ならそう言うことです」

増々渋い表情を浮かべ馬鹿兄貴が苦悩する。

と言うか僕も中の人たちが、体ごとノイエの中に取り込まれたと言うことを知ったのは最近なんですけどね。

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