軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私? 私も化け物よ

最初に迷うことなく名乗りを上げたのは舞姫だった。

魔法も術式も何も無い彼女から奪える物など無いはず。

けれど舞姫は一歩も譲らなかった。

『もしかしたらこの踊りの才能をノイエに渡せるかもしれないでしょう!』と。

あり得ないと分かっていたが、彼女が強く願うのだから仕方ない。

『何より私はノイエの初めてを独占する女なのよ!』と声高らかに本音を宣言したら、複数の攻撃を受けて本気で泣いていたが……それでも彼女は最初に消えた。

死体すら残らずレニーラは消えた。

『さあ……次は誰が逝くの?』

そう告げた時のカミューの顔は現役時代に戻っていた。

暗殺者として生きていた頃の彼女ならば、たとえ苦楽を共にした人たちとて迷わず殺せるのだ。

《魔力が足らない。正直辛い》

眩暈にも似た症状に襲われながらもカミューは魔眼を行使していた。

彼女の手により半数の者が殺され、殺して回る本人は魔力切れで朦朧としている。

「あは~。これで~やれる~?」

「知るか馬鹿っ」

「シューグリットは~言葉に~気をつける~べきだよ~」

気の抜けた会話が聞こえて来たと思えば、学院出身の魔法使い3人が何かしていた。

フワフワと動いている黄色いのはいつも通りだ。

棒を握って2色頭を殴り飛ばそうとしている青いのは……ある意味でいつも通りだ。

ぼんやりと目を向けていたカミューはそれを思い出す。

前から思っていたが、あの2色頭はどうやってこんな物の無い場所で髪を染めているのだろうか?

思考が迷走する状態でカミューは近づく地面に気づいた。

「まだ終わりじゃ無いだろう?」

「……ジャルスか」

「しっかりしなよ。お前が始めたことだ」

腕を掴まれ持ち上げられる。

気難しい相手に抱きかかえられ、カミューは苦笑した。

「ノイエが甘えそうな胸をしているな」

「あれは誰にでも甘えるだろう?」

「そうだな」

言われればそうだ。ノイエに遠慮などと言う考えはない。

「甘えられたのか?」

「……追い払っても甘えて来て嫌なガキだったよ」

「そうか」

「本当に嫌なガキだ。捨てた記憶をほじくり返して行くんだからな」

「ああ。でも胸に頬を摺り寄せて来るノイエは可愛かっただろう?」

「それはまあ……」

返事を仕掛けてジャルスは口を閉じた。

引き攣った笑みを浮かべるカミューを投げ捨ててやろうかと思ったが、背後から抱きかかえ直してじゃれている3人に目を向けた。

「さっさと魔力を渡して逝きな」

「あは~。わたしは~長生き~したかった~んだよ~」

「諦めな。私たちは罪人だ。長生きなんて出来やしない」

冷たい目を向けジャルスは言葉を続ける。

「ノイエの一部になって生きられると思えば良い」

「あは~。ジャルス~から~そんな~言葉を~聞くだ~なんて~」

「喧嘩売ってるんなら買うよ?」

「その喧嘩は私が買うから!」

横から口を出して来た青髪のミャンにより話し合いが混沌とする。

「うるせえな! さっさと魔力を寄こせよ!」

「「「……」」」

真面目なことを言って来る男に、3人は渋々魔力を渡す。

彼の魔法は『魔力操作』と呼ばれる特殊な物だ。これを使えば魔力を直接操れる。

狂暴な力を持つ魔力は魔法として扱わなければ使用者に牙を向けるが、シューグリットはその魔力を制御するのだ。

それでも繊細な操作が必要であり、一歩間違えれば大怪我を負う。怪我を恐れずに使うことが出来れば強力な武器に出来るが……実用的には不可能と言われている。

魔力を拳に纏わせ相手を殴れば、拳ごと殴った相手との接触部分が弾け飛ぶと分かっているからだ。

「あ~。気持ち悪い」

「ちゃんと立て」

「ええ」

魔力を注がれジャルスに腕を掴まれたカミューはどうにか立ち、その内の提供者の2人に目を向けた。

幼馴染の2人は仲良く手を握り地面の上で転がっていた。

「それで良いの?」

「どんと~こ~い」

「だね」

「……そう」

満足気に笑う2人に魔眼を使いカミューは飲み込んだ。

死体は残らなかった。

「悪いけどシューグリットは最後の方だから」

「わぁってるよ」

不貞腐れたように唾を吐く彼に苦笑し、カミューは視線を向けた。

片膝を着いて座るジャルスも魔力をくれた様子だ。

「貴女もノイエの一部になってこれからを見ると良いわよ」

「そんな趣味は無いよ。私が欲しかったのは強いって証だ」

「だったらあそこに居るカミーラに挑めば?」

「化け物に勝てるものか。私が挑むのは人の領域での最強だ」

「そう」

目を向けカミューは彼女を見た。

「なら大丈夫よ。たぶん貴女は人としては強いから」

「お前は?」

「私? 私も化け物よ」

告げてカミューは魔眼を使う。ジャルスの死体は残らなかった。

最後となる魔力は、スハとシューグリットからだった。

2人とも魔力を寄こすとあっさりと死んでみせた。

「カミーラ。もう良いよ」

「そうか」

警護の為に残っていた串刺しは、持っていた棒を消して土に戻す。

軽く髪を掻き上げ……何も言わずに歩いて行くと、茂みに隠れていた存在を引っ張って来た。

「忘れてたわね」

「ああ。これは残しておいても害は無さそうだが」

地面にうち捨てられたエウリンカを見つめカミューは苦笑する。

「このまま消しましょう。起して説明するのが面倒だから」

「そうか」

魔眼がエウリンカを飲み込んでいる隙に、カミーラはまた何か拾って来た。

脇に抱えて来たのは……泣きながら笑う少女だった。

「ファシーはどうする?」

「死んじゃえば……」

カタカタと震える少女は、ポロポロと涙を落とす。

と、横合いから手が伸びて来て少女に見える存在の頭を撫でた。

「死にたいそうよ。ノイエに悪いことをしたから……あの子の役に立ちたいって」

目を閉じて語るのは歌姫だった。

「そうか」

カミューも手を伸ばしファシーの頭を撫でてやる。

「なら次の機会があったらノイエに謝ると良い。あれはきっとお前の言葉なんて覚えていないだろうけどな」

「……は、い」

ファシーが消え次いで歌姫も消えた。

「行くか?」

「ああ。もう良いだろう」

カミーラも不器用に笑い飲まれて消えた。

(c) 2020 甲斐八雲