軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

性悪の魔女が

「こんな場所に……哀れだな」

王都近郊の森の中で、彼はそれを見つけた。

死体だろうと近寄ってみれば、まだ固まっていない血が見える。けれど長くは無いとひと目で分かる。数多くの死体を見て来た彼の目はその分野に長けていた。

薬草を摘んで入れた籠を降ろし、彼は倒れている者の体を起こした。

呼吸は弱いがまだ止まっていない。けれど心臓はもう停止寸前だ。

「何か言い残すことはあるか?」

こと切れる前の患者に対し必ず言う言葉がそれだった。

今見つけた人物は彼の患者では無かったが、それでもつい習性で問うていた。

「ロイールりょう」

「ああ」

「ひみつの、しせつ……がある」

絶え絶えの息で男が言葉を綴る。

死んでいてもおかしく無いのに余程の執念なのだろう。

「どらごんを、たいじする、ものたちを……つくっている」

「本当か?」

それが事実であれば恐ろしい施設だ。

ただ彼はそんな施設を知らない。

王家との繋がりもある彼は、普通の者よりも多くを知っている。

そんな彼が知らないのだ。

「本当にドラゴンを退治するための施設なのか?」

「……」

問いに答えない。

力を失った視線が迷い、けれど燃え尽きようとしている瞬間……彼はその目を見開いた。

「助けてやってくれ! 全員が化け物になる前に!」

塊の血を吐き彼は大きく体を震わせると脱力した。

生命の営みが潰えたのを確認し……彼、キルイーツはそっとその死体を横たえた。

「伝えよう。この国で最も恐ろしい存在にな」

定期的に訪れる『メイド長』に伝えれば、彼女が全てを片付けると判断した。

結果としてキルイーツの判断は正しかった。

メイド長はちゃんと上に伝えたのだ。複数のルートと直接的なルートを用いて。

勿論報告を握り潰した者も居た。

その者たちは後に狩られることとなり、その役を担ったのがメイド長であるのは言うまでもない。

名も知られなかった密告者はこうして役目を終えた。

彼は墓も作られず、ただその遺髪が共同墓地の一画に納められただけだった。

「どうしたらノイエを救える?」

夜空を見上げカミューはそればかり考えていた。

自分が連れて逃げ出せば……きっと不可能だ。

この中に居る者たちで、自分以上の大罪人をカミューは知らない。

生きていると知られれば血眼になって王国中の密偵が自分を探すだろう。

2度も王妃を暗殺しようとしたのだ。3度目を狙うと誰もが考える。

適任はあの異国の彼女だろう。

この中で最も罪の意識が薄い。罪を背負っていない訳では無いが、彼女はその罪の償い方を知っている様子だ。頼めばノイエを連れてこの施設を出るだろう。

けれどそれだけだ。

罪を償ってしまえばきっと死を望む。

もう1人居る。あのフワフワとした魔法使いだ。

掴み所が無い割には封印魔法の使い手という色々と狂った存在だ。

あれならノイエを連れて上手いこと逃げてくれそうな気もする。

問題はノイエが余り懐いていないことか。

普通に馴染んではいるが、どうも豚小屋などに放り込み過ぎたのが原因でノイエが若干恐れている節がある。

「となると」

呟き残った1人に託すことを考える。

彼女の場合、生きていても邪険にされない可能性がある。

むしろ今からの王国のことを考えれば彼女の持つ才能は喉から手が出るほど欲しいだろう。

《問題は術式の魔女が乗り気では無いことか》

何処か彼女もここでの終わりを望んでいる。

《打つ手が無いのか?》

自然と胸が苦しくなる。

絶望が喉を、心臓を、鷲掴みにして締め上げて来る感覚に襲われる。

《私はあの子を救うことも出来ないのか?》

結局誰も救えず……こうして泣いてばかりのだと知らされる。

『ならば力を貸してあげるわ?』

「誰だっ!」

不意に頭の中に響いた声にカミューは辺りを見渡した。

近くには誰も居ない。居ないはずだ。

『久しぶりに声を掛けたら酷い反応ね? まああの頃に会話した記憶は私が改ざんしてしまったけれど……』

パチッと頭の中で指を弾いた音がする。

カミューは全てを思い出した。

《刻印の……》

『ええ。久しぶりね』

最悪な記憶が蘇り、カミューは自然と両目を閉じて自分の瞼の上から眼球を触れた。

生々しい痛みも思い出し、一瞬で気が滅入ったのだ。

《何で出て来た?》

『決まっているわ。貴女の残り時間が少なくなってきているから……新しい存在に宿ろうかと思って』

《ノイエかっ!》

『その通りよ』

クスクスと響く笑い声にカミューはその顔をしかめた。

最悪な存在に目を付けられた。けれど……気づいてしまったのだ。

この絶望的な状況を引っ繰り返せる最強の手札が今ここにあると。

『私に協力するならあの子をここから逃がしてあげる。貴女も一度は経験しているでしょう?』

《しばらくはノイエの面倒を見て……そして眠ると?》

『ええ。でもたまに起きて準備は進めるわ。あの子のあの有り余る魔力ならきっと私の力になり得るから』

《そう言うことか》

使えるから救う。自分の時と同じで利用価値があるからという理由だ。

《分かった。けれどノイエにどうやって移る?》

『本当ならもっと準備を進めてと考えていたけれどそれも無理そうね』

《つまり私と同じ方法か?》

『そうなるわ』

余りお勧めしない方法ではあるが、今のノイエになら問題は無い。

ただその様子を見るのは耐えられない辛さを覚えそうだが。

《分かった。手を貸す。だけど……こちらからも提案をしたい》

『提案?』

クスリと魔女が笑った。

『私の琴線を振るわせるようなことだったら乗ってあげるわ』

《知るかよ……性悪の魔女が》

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