軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

腐乱死体

「色々と問題が起きているのは理解しているな?」

「分かっている。でもリグが必要なんだ!」

監視たちが使う通用口に張り付いたカミューは、不真面目な監視に向かい吠えた。

「ノイエが死んじまったらここの連中は終わるんだ! 良いからさっさとリグを出してっ!」

「……少し待ってろ。俺の権限で連れて来る」

姿を消した監視の様子からたぶんリグが出て来ると確信し、カミューは大きく息を吐いた。

術式の魔女が放った魔法は規格外だった。

どうしたら人の体をあんなにも酷い状態に出来るのか……カミューの魔眼ですら半分程度の式しか読み取れなかった。

何処の世に魔法の式に幻影の術を仕込んで部分的に隠すことを実行する魔法使いが居る?

けれどあの魔女は式を隠す技法まで自分の魔法に取り込んでいたのだ。

《本物の天才か》

大きく息を吐いてカミューは壁に背を預けてその場に座る。

あの魔法を食らったのがノイエだからまだ良い。

少なくとも危ない状況でも今はまだ生きている。

だが監視たちが騒いでいるのは二重にも三重にも施した魔法使い対策を、あの魔女があっさりと掻い潜って魔法を使ったことにある。

たぶん彼らは現在焦っていることだろう。

そもそも全てをあの魔女に任せていたのだ。そのしっぺ返しを食らっているだけであるが。

ギィッ

「……眠い」

「お前はいつも寝ているだけだろう?」

「そんなに寝てない」

目をグシグシと擦りながら出てきたのは、小さいのに大きいと評判な医者の卵と不真面目な監視だった。

「真面目に仕事をする気になった?」

どうやら同行するらしい監視に、カミューは小馬鹿にしたような笑みを向ける。

「この眠り姫は、本来なら現状外に出すことは許されないんだよ。出す条件として俺が全ての責任を背負う必要がある。不本意ながらな」

疲れた様子で頭を掻いて監視はため息を吐いた。

「確かリグはアイルローゼと仲が良かったと聞いたけど?」

「そう言うことだ」

けれどそんな重要人物をこの監視は外に出した。

余程の力を持っているのだろうとカミューは再認識し、そっとリグを脇に抱えた。

「また膨らんだか?」

「正直重い」

「それは絶対に私以外に言うな。全員がお前を殺そうとするぞ?」

「うん。分かった」

脱力して荷物と化すリグを抱え、監視を連れてカミューは急いだ。

「野戦病院か?」

思わず監視はそう呟いていた。

重傷者は1人と聞いていたが……どうやら違ったらしい。

何人か地面の上に引かれた布の上で横になっている。

「報告より数が多いな」

「ノイエが魔法を食らった後で騒ぎになった」

「そうか」

監視は苦笑して頷いた。

末の娘的な存在であるノイエを結構な数の者たちが可愛がっていることは分かっている。

その子が怪我を負っただけでこれほどの怪我人が生じる事態になるとは……主人が知ればきっと笑顔を見せていることだろうと予測できた。

まだまだ甘いが、この場に居る者たちは『ノイエ』を中心に纏まりつつあるのだから。

早速現場に投入されたリグが怪我人の周りを走り傷の具合を確認する。

大半が打撲で骨などに異常は無いが、しばらくは腫れと痛みが残りそうに見える。

「パーパシは?」

「向こうで怪我人を見てる」

「向こう?」

レニーラの声にリグはグルッと首を動かす。

が、カミューが掴んで位置を戻した。

「とりあえずノイエが優先だ」

「……あれを?」

若干現実逃避したかった腐乱死体……どうやらノイエらしい患者を見て、流石のリグも引いて居た。

左半身が酷い傷を受けている。顔は無事だが首から足先までが酷く焼き爛れた状態に見える。

近づいて確認すると……左手の指などは肉が落ちて骨が見えていた。普通に考えたら即死しているはずだ。けれどノイエはその口で木の棒を噛んで痛みに耐えていた。

何より気絶していないことに驚くが、気絶しても痛みで覚醒しているのかもしれないが。

「手の施しようがないね」

どんな医者でも匙を投げる状況だ。

リグの師である彼だったら……違った意味で観察していることだろう。

次に生かす為に次へ活かせる治療法を見つけるために。

「そう言わないで頑張ってよ。リグ!」

背後から抱き付いて来たレニーラは、そっとリグの耳元に口を寄せた。

「ファシーを向こうで治療してる」

「……何で?」

「元々これはあの子のプレートを取り出して修正する為なの」

自分も知らなかった計画だが『企んだのは元姫様』だとレニーラはリグに伝える。

「あの魔女がプレートを直している間……ファシーの両腕を縫合するまでリグには居て欲しいの」

「だからってノイエをこんな……」

呆れ果てるしかない。どう考えても狂っている。

けれどどんな傷でも治す祝福を持つノイエなら死なずに助かるかもしれない。

実際観察している限りノイエの傷は癒え始めているのだから。

「出来る限りはやるよ」

「お願い! もしノイエが治ったら私がリグの肩と胸を揉んであげるから!」

「肩だけで良いよ。もう大きくならないで欲しい」

「あん?」

凶悪な視線を向けて来るレニーラに震え、リグは息を吐いてノイエの手を取る。

確実に腐っている部分が治り出している。

『もしかしたらノイエは死なないのでは?』と思うほどに異常だ。

「布を熱湯に潜らせて持って来て。傷口を拭いて綺麗にするだけでも多少変わると思う」

「了解!」

飛ぶようにレニーラが駆けて行き、リグはそれを見送る。

不意に笑みが混み上がって来てリグは笑った。

本当にあの人は何処に行っても人助けをしてしまう性分らしい。

ただし完璧を求める魔女だから付き合う方も大変だろうが。

《大丈夫だよアイル。アイルが来るまでボクはここに居るから》

だからあの魔女はファシーのプレートを完璧に直してくれれば良い。

きっとノイエ辺りがファシーを救おうとしてこんな騒ぎを起こしたのだと、リグですら容易に想像出来たからだ。

辺りを見渡し監視は軽く頷く。

最初の評価を変え、数段評価の位置を上げる。

自分が思っているよりもこの場に居る者たちは連帯感を得ている。

《家族となり1つの目標を目指せば何でも成し得るか》

それが主人が夢見たこの大陸から争いを無くす方法だ。

この場に居る者たちが協力し、家族のように動けば……不可能なんて無くなるのだから。

《ならば今はこの子等の頑張りを黙って見て居るべきだろう》

他の監視たちが仮に騒いでもそれを宥めるのが自分の役目だと割り切って。

《割に合わない仕事だがな》

軽く頭を掻いて監視はまた苦笑した。

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