軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

舞い上がった結果……

この場所には日々寝て過ごしている人物で有名なのが3人居た。

特に有名なのが『小さいのに大きい』と呼ばれていた医者の卵だ。けれど彼女は監視たちに連れて行かれてからどうなったのか分からない。

次いで串刺しカミーラだ。ただ彼女は朝夕は起きて鍛練しているから一概に寝てるだけとは言い難い。

そして最後の1人……それが狂人エウリンカだ。

「死んでる?」

「昨日までは生きていたはずだ」

ツンツンと枝の先でノイエが地面に倒れている女性の頬を突く。

枝の先が皮膚を突き破ってめり込まないからまだ腐っていないはずだ。

「腐ってない」

「その判断もどうかと思うぞ」

腕を組んで動かない化け物を見つめるスハは、ドカッとエウリンカの背中に足の裏を乗せた。

「起きなエウリンカ。ちょっと用がある」

「……何かな? いや起きている。待ちたまえ。だから起きているって」

グリグリとしばらく足を動かしスハは足を離す。

頭から太ももまで体の表面を土で汚したエウリンカは、口の中に入ったらしい土をペッペッと吐き出しながら頭を掻いて起き上がった。

「何事かね? ああ。スハか」

「悪いなエウリンカ。ちょっと聞きたい」

「……次からはもう少し普通に起こして欲しい」

だが普通に起こしたところで起きないのがエウリンカだ。

だからどんどん起こし方がぞんざいになる。

パタパタと手で土を払うエウリンカに駆け寄り、ノイエもまたパタパタと手を動かして手伝う。

「うむ。助かったよ」

「はい」

お手伝いをして満足気なノイエに、スハは呆れ果てたような視線を向けてため息を吐く。

「エウリンカ」

「何かね?」

「何でも良いから魔剣を一本どうにか出来ないか?」

「……無理を言う」

やれやれと肩を竦めてエウリンカは土の上で胡坐をかいて座り直す。

「まずこの首輪で魔力が封じられている。何よりこの場所には材料もない」

「分かっている」

言われなくても誰もが知っていることだ。

「それで魔剣は?」

「……無くは無いが」

やっぱりだ。誰もが魔力を封じられたこの環境下でこの化け物は化け物なのだ。

魔法学院時代からこの化け物の存在を知るシュシュが言うには、エウリンカは魔法使いという概念から逸脱した存在らしい。

つまり普通の魔法使いとして考えない方が無難なのだ。

「ただ照明替わりに作った光る魔剣くらいだ」

その長い髪の毛の間に無造作に手を突っ込んだエウリンカは、一本の魔剣を引き抜いた。

小振りの短剣だ。何の変哲もないごくごく普通の短剣である。

「それは?」

「だから光るだけの魔剣だ。魔力を流し込めばしばらく光る」

「それだとノイエの能力を調べられないんだよな」

予想と違い化け物が保有している魔剣はある意味で普通だった。

ただ魔力を流し込んだだけ光る魔剣など……ノイエならずっと灯しているかもしれない。

「他に無いのか?」

「無くは無いが……その子に使わせるのか?」

「そうだよ」

エウリンカの問いに、スハはノイエの頭を撫でながら答える。

「この子は魔力を増やす祝福を持っているらしい」

「魔力の増幅?」

ピクッと反応したエウリンカがノイエを見る。

「それともう1つ祝福を持っていて、そっちはどんな傷でも瞬く間に治る」

「ほほう」

言われてズリズリと胡坐をかいたままで移動して来たエウリンカが、ノイエの腕を掴んだ。

出しっぱなしの魔剣の刃をその少女の腕に置くと軽く引き斬る。

「ぃたぁ~い!」

涙声で絶叫するノイエの反応は正しい。

しかし腕を掴んで観察するエウリンカは暴れる彼女を逃さない。

ドクドクと出ていた血が止まり、しばらくすると傷すらも消える。傷口辺りを軽く撫でると痕跡すら残っていなかった。

「これは凄いな。うん凄いぞっ!」

突如としてテンションを上げたエウリンカは、立ち上がるとノイエの肩を掴みキスでもしそうな勢いで顔を近づけた。

「君はノイエと言うのか?」

「……はい」

はっきりと恐怖するノイエ、はエウリンカを恐れていた。

「あはは……ふははは……良いぞ。実に良いぞ。これはもう何と言うか大変に素晴らしい。そうだと思わないかね? スハ」

「私には分からないよ。ただノイエの魔力を生かせる魔剣が欲しいんだけど……出来るか?」

「任せたまえ。これほどの人材を前にして私の創作意欲は今上限を振り切った。何かしら素晴らしい魔剣を作ってみせよう!」

「ああ任せた」

言ってスハは静かに2人から……厳密に言えばエウリンカから離れる。

「それにしても実に素晴らしい。これほどの素材があれば……ふははは! 自分の創作意欲が胸の奥から湧き上がって止まらない。本当に素晴らしいよノイエ!」

「……怖い」

ふと発したノイエの呟きに、エウリンカの背後に立った人物は……どうやら可愛い妹をイジメているらしい存在の頭を後頭部側から掴んだ。

ギュッと力を込めると、たぶん狂った何かが詰まっているのであろうエウリンカの頭部が悲鳴を挙げる。

「ぬごっ! 今までに感じたことの無い激痛がっ!」

本当に感じたことの無い激痛に頭を巡らし背後を見ようとしたエウリンカは無理だと悟る。

「ウチの妹に何をしている? エウリンカ?」

「いや……ちょっと色々と舞い上がってしまってだな」

顔は確認できなかったが、声は確認できた。

その声の主はノイエを溺愛している"姉"の1人だ。

「舞い上がった結果……ノイエが痛いと叫ぶんだ。そうなんだ。何でだろうね?」

「落ち着き給えよ。カミュー?」

「今の私は普段の何倍も落ち着いている」

「そうか」

「怒りの余りに他の感情が追い付いてこないだけだけれど」

「それを落ち着きとは、みぎゃ~!」

らしくない悲鳴を上げてエウリンカは完全に沈黙した。

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