作品タイトル不明
懺悔なさい。私の気が済むまで
「本当にあの馬鹿は……」
「あは~。レニーラが~真面目に~言われた~ことを~するなんて~奇跡だと~思うよ~」
フワフワと踊るように歩くシュシュは、ノイエの目から見える外の様子を眺めていた。
外に出たレニーラがとても気持ちよさそうに踊っている。
その噂を聞きつけ何人か訪れたらしいが『外に出たい』と言うのは極少数だ。
「これは~とても~悲しい~魔道具~だね~」
「そうね」
アイルローゼもそれを認める。
外に出れるのは確かに凄い。けれどそれは未練を増幅させるだけの物だ。
1日だけ外に出れてどうなる? 結局自分たちはノイエが死なない限り消えることも出来ない。それだったら……そう考えた者は多いはずだ。
「シュシュ」
「ん~?」
「貴女も外に出るくらいなら消して欲しかったと思う方かしら?」
ピタッと足を止め、シュシュはゆっくりと振り返った。
「それが出来たら楽なんだろうね。でも私はあの日いっぱい殺した。まだまだ生きて行けた人たちを殺した」
寂しげなシュシュの表情は泣き顔にも見える。
「だから私は少しでも長く生きる。長く生きて色々な物を見て……いつか死んだ人に、その人たちが生きるべき世界の話を聞かせたいから」
「壮大な野望ね」
「だね~」
またフワフワを再開し、シュシュは軽やかに揺れる。
「でも~私は~ノイエと~そう誓った~から~だから~頑張って~生きるん~だよ~」
「そう」
流れるようにフワフワと漂いシュシュは出て行った。
と、顔を覗かせたファシーがトコトコと歩いて来て……セシリーンの膝を枕に横になった。
ただ自己主張の乏しい視線がジッとアイルローゼを見つめる。
「出たいの?」
「次は、ホリー」
「何よそれ?」
戯れで声をかければ何故か震えながら返事を寄こす。
少しイラッとしたが、それを察して怯える彼女を庇うように歌姫が手を伸ばす。
「イジメないで。アイルローゼ」
「……」
セシリーンは母親のようにファシーを抱いて庇い出した。
「それよりさっきの『次はホリー』って?」
「……」
完全に怯えてしまったファシーは、セシリーンの胸に抱き付いて沈黙した。
「で、何で?」
「……分かったわよ」
答えないなら保護者が答えろと視線で脅され、セシリーンは代弁に応じる。
「ホリーが脅して回ってるのよ。『次は自分だから邪魔をしたらどうなるか分かっているでしょうね?』って。分かりやすいでしょ?」
「ええ。分かりやすすぎて、次に会ったらもう一度地獄を見て貰おうかしら?」
ため息を吐いてセシリーンは、パキパキと指を鳴らし物騒な気配を漂わせる魔女からファシーの視線を隠す。
前回宝玉の完成に向けてアイルローゼがこの場を離れた隙にホリーが勝手に外に出たのだ。
『糖分が欲しかったのよ~』と戻って来てから必死に命乞いをしてどうにか救われたが、糖分以外の物を全力で吸収していたことをセシリーンは知っている。
話がこじれ、尚且つホリーが動けなくなると事務仕事の代役に難が生じるので、セシリーンは何も言わず沈黙を保った。
結果としてホリーは液状化を免れた。
「違った意味であれほど元気で居れるレニーラやホリーの性格は羨ましくなるけれど」
「そうね」
セシリーンの愚痴にアイルローゼも相槌を打った。
「ちょっと待て」
「何だい。旦那君?」
「何を企んでいる?」
仕事を終えて帰宅してお風呂やらを済まして寝室に来たら2人に掴まった。
ポーラに聞けば上手いこと人払いをし、食事やらお風呂やらを済ましてくれたそうだ。もう本当に立派なメイドだな……悲しいことに。
右肩がまだ残念な状況なので僕の抵抗はとても弱い。
寝室に入るなりノイエに掴まりベッドに運ばれレニーラに馬乗りされたらおしまいだ。
「何って……分かっているでしょう?」
胸を抱き寄せながらレニーラが艶めかしく腰を振り出す。
「分かるが分からん。と言うかノイエの前で何を考えている!」
このお馬鹿がっ! お嫁さんの前で僕を襲おうなどノイエが許す訳……あの~? お嫁さん?
僕らの横にちょこんと座るノイエは無反応だ。
まるで姉弟喧嘩を見つめるかのような感じだ。
「うふふ……ノイエっ!」
「はい」
ビシッとレニーラがノイエを指さした。
「前から思っていたのよ! ノイエの腰の振り方が甘すぎるって!」
「っ!」
アホ毛を『!』にしてノイエが衝撃を受けている。
と言うか腰の振りが甘いってナンデスカ? ノイエはいつも凄いですよ? 具体的には回数ですが……。
「もっとこうノイエなら滑らかに腰が動かせるはずなのにっ! それでも私の弟子なのっ!」
「……」
アホ毛がしょんぼりしてノイエが負けを認めた。たぶん。
「お姉ちゃんが見本を見せるから、しっかり学んで旦那君を喜ばせるのだ! 返事は!」
「はい!」
両の拳を握ってやる気を前面に出すノイエが違った意味で怖い。
あれ? 気づけばこれは……もしもしレニーラさん? 何故に服を脱ぐのですか?
ノイエさん。ここはお嫁さんとして……そんなにしっかり見つめて学ぶ気満々ですね!
「ってらめぇ~!」
レニーラの恐ろしい本気を味わい、それからノイエへの特訓へと続いた。
僕の人権ってどこにあるのですか?
「あ~。腰が……何より歩きにくい」
戻って来たレニーラは腰を押さえて蹲る。
頑張り過ぎたのは認めるが、歩きにくいのは想定外だ。
何かがずっと入っているような気がして……少しすれば元に戻るはずだ。
それがここの仕組みだ。
「でもいっぱい踊れたわ~」
満足だ。これ以上の満足など、
「それは良かったわね? レニーラ」
ポンと肩に置かれた手。優し気な言葉。
腹の底から湧き上がる言いようの無い恐怖に、レニーラは震えだした。
「遊び惚けて私が頼んだ依頼はどうしたのかしら?」
「えっとそれは……次、頑張るので!」
「却下よ。次は無いわ」
ギュッと肩を掴まれレニーラは、自分の顔から血の気が失せるのを感じた。
そっと近寄りレニーラの耳元でアイルローゼは唇を動かす。
「懺悔なさい。私の気が済むまで」
「いやぁ~!」
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