軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ノイエの家族たち

『あれ~?』

三つの頭を全て失っても動くドラゴンを見つめ、刻印の魔女はポーラの右目で首を傾げる。

頭を全て失えば機能が停止して終わるように……あっ!

『拙い。冗談で付けた再生機能外すの忘れてたかも?』

予定外だった。これではフェアじゃない。

『私の魔法だと……何であんな傍に居るのよあの馬鹿はっ!』

被害甚大だ。ここから高出力の魔法を使っても一緒に馬鹿が吹き飛ぶ未来しか見えない。

『まっ良いか。予定とは違うけど……十分な根性は見せてくれたし』

軽く指を鳴らし魔女はその封印を解除した。

ただ中枢に全員居ると暴走するらしいから……全員を深部に転送したが。

『力は使えるんだから十分でしょ?』

全部を聞いていたポーラは半眼の状態になっていた。

凄い力を持っているのは分かるのだが……どうやら右目の魔女は人としてとても駄目な気がするのだ。

ふと隣に立つ姉が一歩二歩と前に、外に向かい歩き出す。

「ねえさま」

「……」

呼びかけに反応し、顔を向けて来た姉は左を閉じては開くを繰り返している。

ポーラは反射的に閉じた右目をそのままに、左目で姉を見た。

「にいさまをたすけてください」

「……はい」

ドキッとポーラの心臓が激しく脈打った。姉が笑ったように見えたのだ。

本当に僅かだけれど……確かにそう見えた。

床を蹴り姿を消した姉は真っすぐ兄の元へ向かう。

また右目を開きそれを確認し……ポーラはクスッと笑った。

『何が楽しいの?』

「にいさまがあのすがたをみたら……」

『忘れてたわね』

刻印の魔女もクスクスと笑う。

今の妻の姿を見たら彼は……

『絶対に喜ぶわね』

「はい」

だってそれはご褒美の衣装なのだから。

何度か深呼吸をしたら、僕の頭上を絶世の美女がその顔を見せる。

いつも通りの無表情だけど……今にも涙しそうな表情だ。

「ノイエ」

「はい」

頑張って左手を伸ばしたら彼女が両手で掴んでくれた。

「家族は?」

「……いる」

「そっか」

当たり前だ。ノイエがここに居ると言うことは力を取り戻したのだから。

でも、だからこそ……聞かなくちゃいけないんだ。頑張れよセシリーン。

「ノイエ」

「はい」

「正直に答えて」

「……」

屈んだ状態で僕を見下ろすノイエが小さく首を傾げる。

「ノイエの家族がその目に居るって知ってるでしょう?」

「……」

ノイエは慌てて自分の左目を押さえた。

本当にノイエって素直で正直だわ。

「僕は左目とか言ってないよ?」

「……」

また泣きそうな顔をするノイエに僕を笑いかける。

「起こしてくれる? 立つのはまだ辛いから座ったままで良いから」

「はい」

彼女の手を借りて上半身を起こす。改めて座り直して……ってノイエさんは何故にもうミニスカメイド姿なのでしょうか? ありがとうございますっ!

突然土下座したくなったけど今は我慢だ。

「ノイエはずっと知ってたんだね? 自分の左目に家族が居るって?」

「……」

ちょこんと座ったノイエは何も言わない。

でも僕が見つめて待ち続けると……その口を震わせた。

「居ない。みんな居ない」

「ノイエ?」

ポロポロと涙を溢しノイエは言葉を続ける。

「居ない。居たら……また消える。だから居ない。居ないから……誰も居ないから……」

「馬鹿だな」

そっと腕を……左腕を伸ばして彼女を抱きしめる。

「知ってると気付かれたら消えると思ってたんだ?」

「……」

コクンとノイエが頷いた。

それが全て答えだ。だからノイエは知らない振りをずっとして来たんだ。

そうしないとみんながまた消えてしまうと……そう思い込んでしまったからノイエはずっと自分に嘘をついていた。

左目には誰も居ないと自分に言い聞かせ、悲しい嘘を自分に言い聞かせて来たのだ。

「でもずっと知ってたんだね? 左目にみんなが居るって?」

「はい」

「そっか」

片手でギュッと抱きしめて彼女の額にキスをする。

「今までずっと辛い思いをして来たんだね。でももう大丈夫だよ」

「大丈夫?」

「うん。僕はノイエとノイエの仲間とも家族だからね。ノイエの許可なく勝手に消えるようなことは絶対に許しません。もし消えたら引き摺り戻す」

「……はい」

たぶん理解してないの『はい』だな?

「つまりノイエの家族は僕が消させない。ずっとノイエと一緒だから『居る』ってノイエが思っても良いんだよ」

「……本当に?」

「うん。僕が許す」

今回結構死に掛けたし大変だったし……これぐらいの我が儘は許せと言いたい。

何よりずっとノイエを悲しませていたとか大罪だろう?

抱きしめて居る左腕を緩めて僕は今一度ノイエの右目を見る。

「今度ノイエを泣かせたら絶対に許さないから……勝手に消えるな。以上!」

宣言をしたら気が抜けた。

「アルグ様?」

「うん。ダメっぽい」

「アルグ様っ!」

全身から力が抜けてグッタリする。

慌ててノイエが抱きかかえてくれるけど、魔力も切れだし、空腹だし、そこそこ怪我だし……限界です。

「診療所に……」

僕を抱えて右往左往するノイエにそれだけ告げたら意識が飛んだ。

「ねえ?」

「何よ?」

「私たちが今までやって来たことって何だったの?」

ホリーの言葉にアイルローゼですら答えを持ち合わせていない。

ずっと必死に隠して来たのに当のノイエは知っていたのだ。こんな馬鹿な話は無い。

「ただ私たちがしなきゃいけないことはあるわ」

「そうだな」

ゾロゾロと深部から中枢に移動する集団は各々何とも言えない表情をしていた。

敗れて封じられ……そして全てを見聞きしていた。

外で彼がどれ程無茶をしていたのかを、あの刻印の魔女の目を介して全てだ。

「私が事務関係は全てやるから、全員私に魔力を預けなさい」

「それしか無いわね」

「別にグローディアがしても良いんだけど?」

「嫌よ。書類仕事は好きじゃないから」

「なら私が出るわよ?」

ホリーはそう宣言し中枢へとたどり着いた。

「待っていたよ。ノイエの家族たち」

「「……」」

そこで待ち構えていたのは栗色の髪と金色の不思議な模様を浮かべる刻印の魔女だった。

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