軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全力勝負!

「面倒臭い。魔力が枯渇するから嫌なのに」

背後から聞こえて来た言葉を確認できない。

こちらに向かい振るわれる尻尾から目が離せない。

あれ? 何かとってもゆっくりに見える。これがかの有名な走馬灯か?

人生の終わりをちょっぴり体験していると、尻尾の動きが止まった。

「団長代理」

「ふぁいっ!」

「私は今日で終わるから、報酬はちゃんと払え」

恐る恐る首を動かすと、石で出来た巨大な腕が尻尾を掴んで止めていた。

その巨人の腕の根元には……左腕を突き出しているイーリナの姿がある。

フッと息を吐いた彼女は、フードを跳ね上げ叫んだ。

「全力勝負!」

地面が揺れて彼女の元に土が集まる。

集まった土は形を作り……全長10mのゴーレムになった。

「あれが近衛魔法隊隊長の秘術『石像』ですか」

「何ですかそれは?」

「見ての通り自分の周りに土を集めて像を作りだす魔法です」

像と言うより子供の粘土細工にしか見えない。

そう言われると王都の内外で石の巨人が暴れたとか言う報告が何度かあったな。

あれの犯人はイーリナだったんだ。

造形は最悪だけどイーリナの魔法は強力っぽい。ノシノシと歩いて大恐竜に近づくと拳で殴り出した。

知らない間に巨人対恐竜の大戦争だ。目の前でなければずっと見てたい。

「ですがあれは勝てませんね」

「何故にっ!」

あわあわと騒ぎながら逃げて来たルッテが僕らの背後に隠れる。

それよりもあの威力なら勝てそうなのに……何故勝てない?

「彼女だと僅かな時間しかあれを形作れないとか。それと本当の意味で『全力勝負』なので魔力が枯渇したのち、回復するまで数日ほど要するとも聞きました」

解説役に回った叔母様の言葉に納得だ。

個人で扱える魔法じゃないと……ノイエの魔力量なら1時間ぐらい維持出来そうだけどね。

「そろそろ限界ですね」

叔母様の宣言通りにポロポロと崩れ出し、ボキンッと大恐竜を殴っていた腕が弾け飛んだ。

「って、回収~」

「仕方のない」

渋々と言った様子で、叔母様が祝福を使い崩れる石像の間からイーリナを回収して来た。

これでこっちは初日にイーリナと言う駒を失った訳だ。と言うよりせめて相打ちしてよ~!

「さあ頑張れルッテ!」

「無理です無理です!」

「と言ってもあれを倒さないとお見合いが未来永劫遠ざかるぞっ!」

マジ泣きしながらもルッテは爆裂の矢を撃ち続ける。

ダメージは少ないけれど積み重ねてどうにかするしかない。

「もう矢が無いですっ!」

「初日から全滅っぽいってどうなのさっ!」

叫ぶけれどどうにもならない。

イーリナに殴られたダメージが多少回復したのか大恐竜がまたゆっくりとこっちに尻尾を向けて来て……終わった。流石にもう無理だ~!

「うわ~。でっかいわ~」

「うむ。あの大きさは初見であるな」

「……」

頭の中でスタッフロールが流れ出したと思ったら、特典映像が始まっていた。

映画のマ〇ベル作品のあれって結構好きなんだよね。僕だけでしょうか?

何故にミシュとマツバさんがここに居るのか問いたい。

「って変態が居るっ!」

「誰が変態だっ! この上司っ!」

「そうである友よ。私は変態などでは無い」

変態って奴は自分は違うと言い張る物だ。

「どうでも良いから……マツバさん!」

「何か?」

全体的に細くてひょろっとした男性の彼だが実力だけならサツキ家最強らしい。変態だけど。

「あれを斬っちゃってください!」

「……気が進まんな」

ピンチなんです! 結構本気で!

だから僕は悪魔にでも魂を売ろう!

「あれを叩き切ったらミシュの実家に『ミシュとマツバさんを結婚させたいから許可を下さい』と手紙を書いて送ります」

「ちょっと待て上司っ!」

知るかっ! こっちは必死なんだ!

「上司であり、上級貴族であり、王族の僕がそれを書いて送ればミシュの実家は認めざるをっ」

「黙れこの糞上司が~!」

僕の襟首を掴んでグワングワンとミシュが揺さぶる。

だが時すでに遅しだ。カタナを手に動き出したマツバさんは今までに見たことの無いほど真剣な表情を浮かべていた。

「我が友アルグスタよ」

「おう!」

「私は遠き地で真に良き友と出会ったと思うぞっ!」

地面を蹴って動き出した彼が何をしたのか全く分からない。

ただ『断片』と言う言葉が聞こえて来たと思ったら……大恐竜が賽の目にカットされて地面に向かい崩れ落ちた。

化け物だ。まあドラゴンじゃ無いから皮膚とか薄いのかもしれないけど、あれを賽の目切りとかどんなファンタジーかと。

「約束は守ってくれたまえよ。親友」

「くたばれ糞上司~!」

輝かんばかりの笑みを見せるマツバさんと全力で泣き叫ぶミシュが騒ぐ中……とりあえずこれで初日は終了なのかな?

僕はその場に座って大きく息を吐いた。

「これが宝玉か」

届けられた物を手にしシュニットは何とも言えない表情を向ける。

初日と聞いていた今日は日の出前から起きて待機していたが……まさか本当に超大型のドラゴンが姿を現すとは思っていなかった。

だが叔母からの報告を信じれば、それはドラゴンでは無く大きなトカゲだという。

ドラゴンに対しては無類の強さを誇る弟も巨大なトカゲ相手では有効打も無く苦戦を強いられた。しかし幸運にも、ハーフレンの指示で王都に来ていた騎士を追ってやって来たサツキ家の長子の協力を得て討伐することが出来たという。

そっちの報告でも頭が痛いのに、南部からは異世界のドラゴンを呼び出す宝玉が届けられたのだ。

シュニットは前線で指揮を執る弟に対して『現状追い詰め過ぎるな』と言う指示しか出せない。

もし宝玉を使われれば退治できるのはアルグスタぐらいだ。しかしあと3日はこの地を離れることは出来ないのだ。

「厄介だな」

「それでどうするんです? 陛下?」

珍しい物が手に入ったと聞いて……などと言って顔を出した宮廷魔術師のケインズは宝玉を撫で回していた。

「調べるしか無かろう」

「学院に?」

「否」

それだけ告げてシュニットは宝玉に布を掛けた。

「それよりもケインズ。魔法戦士隊は?」

「一応早馬を走らせましたが……呼べても少数でしょうね。間に合うかも疑問ですが」

「そうか」

クロストパージュ家の魔法戦士隊は東部の守護が主な仕事だ。東部に散って警護をしている都合直ぐに数は集まらない。国王とてそのことに対し文句など言えない。

それでも報告を聞く限り初日から余りにも綱渡り過ぎる。

《泥の舟に乗っている気分だな》

苦笑しシュニットはため息を吐いた。

(c) 2020 甲斐八雲