軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ここで会ったが百年目だ!

窓の外から差し込む月明りに見える女性の姿。

フードを被っていないローブ姿の彼女を見てノイエは『カミュー』と呼んだ。つまりあれが"魔眼使い"のカミューと言うことだ。

そうか。

今にも駆けて行きそうなノイエを抱きしめて押さえる。

普段ならあっさりと引き摺られて行くのだけど、魔法を失っているノイエの力は年相応の女性並みだ。

「アルグ様?」

「ちょっと待っててノイエ」

「……はい」

僕の制止を受け入れてノイエがその場で立ち止まってくれた。

そう。目の前にはあのカミューが居るのだ。

全力で右手に魔力を注いで駆け出した。

「ここで会ったが百年目だ! 往生しろや! この嘘吐きがっ!」

全力でハリセンを振りかざし僕は渾身の一撃を放った。

馬鹿な。この世の中、何かが間違っている。

「アルグ様っ」

必死に彼女の足にすがり付いてノイエが引き剥がそうとしてくれるが、グリグリと僕の背中を踏みつけるカミューの爪先がマジで痛い。

「魔法使いがどうしてこんなに強いんだよ~!」

不条理だ。世の魔法使いって普通格闘技とか出来ない人たちじゃん! 僕の周りってなんちゃって魔法使いばかり居て、普通に強いんですけど!

このやり場のない怒りは何処に持って行けば良いんでしょうか?

「あん? 舐めるんじゃないわよ?」

「ぐおっ……」

出ちゃう。何か僕の口から飛び出しちゃう。

「カミュー」

ノイエが声を上げると一瞬だけ爪先が緩んでまた突き刺さる。

ごめんノイエ。君の優しさが今の僕には激痛を伴う拷問と化します。

「私は魔法使いじゃない。魔眼使いだ」

「ぐおおっ」

爪先がっ! 何か絶対踏んじゃいけない場所をグリッと圧迫してませんか?

「何よりお前は弱すぎる」

事実を語るな。だがひょっとしたら勝てるかと思ったんだ。

グリグリと圧迫して来る爪先がようやく背中から退いた。

床の上で伸びているとノイエが僕を抱きしめ、その目はカミューを見つめる。

初めて見たカミューは赤茶色の髪をした女性だ。何よりその目は……ノイエと色が違う?

ノイエの手を借り支えて貰いながら体勢を起こしカミューを見る。

見間違いでは無い。やはりノイエの目と色が違う。

「その目は?」

「……ノイエに魔眼を渡したんだ。だから自前の目だよ」

こちらの意図に気づいたのかカミューはそう言う軽く僕を睨んだ。茶色の目で。

その返事を聞けば納得だ。でも何か腑に落ちない。

「時間が無い。質問は今度にして」

口を開きかけた僕を制して彼女は言う。

だったら僕の背中を踏みつけてグリグリなんてしなければ良い。

「要点だけ言う。今のノイエは、その魔眼は機能していない」

「……どう言うこと?」

「ノイエの左目に封じていた全てを右目が乗っ取った」

意味が分からん。

「右目が乗っ取るってどういうことだよ?」

「そう言うことよ。ノイエの右目には魔眼を作った者が宿っていると伝えられている」

「その言葉を先に言えよ」

説明不足でって、何か狂暴女が踏みつけて来たんですけど!

「あん? 生意気言うなよ? ノイエの目の前だから我慢しているけど……居なかったら気が済むまで殴ってやるんだからな」

血走った目でカミューがそんなことを言い出しました。

僕が何をしたと言うのか問いたい。色々と言ってきた気もするが言葉だけだ。心の狭い奴め。

「それでノイエを元に戻す方法は?」

「右目に居る制作者をどうにかするしかない」

「納得だ」

納得したが方法がまるでありませんな。

「ちっ。もう時間だ」

舌打ちをしてカミューはこちらに背を向け歩き出す。

一瞬彼女を追いかけようとしたノイエが、僕の身を案じて動けなくなる。

そうか。僕を痛めつけたのはこういう訳か。

「ノイエ」

「はい」

「良いから行け」

「でも?」

「行け」

「……はい」

僕を床に降ろし立ち上がったノイエが急いで駆け寄ると、カミューの背に抱き付いた。

「お姉ちゃん」

「……放しなさいノイエ」

「いや」

振り返りノイエの手を払いカミューはまた歩き出す。

振り払われた手を見つめ、ノイエはまたカミューに抱き付いた。

「どうして?」

「……」

「お姉ちゃん。どうして?」

「……」

「消えないって言ったのに」

何も答えず立ち止まったカミューは、一度その顔を天井に向けると深く息を吐いた。

「我が儘を言わないの」

「いや」

「仕方ないのよノイエ。今の私はこの時間を作るので精いっぱいな問題児なのだから」

こちらに顔を向けたカミューは、何とも言えない表情をしていた。

泣いているような苦しんでいるような……ただ見てて寂しさだけを感じる。

「ノイエ」

「はい」

優しい口調で彼女はノイエに語り掛ける。

「これぐらいで泣いてたら、これからの苦難は乗り越えられないわよ」

「……泣かない」

「出来ないことは口にしないの」

軽く笑ってカミューはまたノイエの手を振り解いた。

「あれはグローディアが呼びだしたモノを使って私の代わりを探している。見つかれば私は用無しということで消される。それまでにどうにかなさい」

「本当に無茶を言う」

「無茶じゃ無いわ。やるのよ」

何このパワハラ? ブラック企業もビックリなんですけど?

と、カミューは僕を見て……ニヤリと笑った。

「今回は特別。だから次に逢った時は」

一度言葉を切って彼女は真っ直ぐ僕を見た。

「お前の命日にしてやるから覚えておけ」

はい。全力で忘れようと思います!

物騒な言葉を残しカミューはまたカーテンの裏へと姿を消す。

追いかけたノイエがカーテンを捲るが、彼女の姿は何処にも無かった。

「って、何がしたかったんだよ? あの狂暴女は……」

うむ。あの女狂暴につき、もう二度と出て来なくて良いです。

「教えたかったんだろう。魔眼のことを君に」

「ふえ?」

ノイエの声に目を向けると、彼女の髪が綺麗な栗色に変化していた。

ゆっくりと振り返ったノイエは目を閉じていて……

「そして私の存在もだ。分かるかな?」

クスクスクスと笑うノイエは別の誰かになっていた。

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