軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して妹を売り渡したりなど、

「良いのよ。私は本当のお母さんじゃないから、いつもいつも存在を忘れられてて……でもね? フレアは毎日お城に行っているのだから、少しぐらい思い出してくれても良いじゃないの? 貴方に提出する書類にだって気づいて欲しいから、いつも大きく名前を書いているのに。

それを見たスィークが鼻で笑ったから久しぶりに殴り合いの喧嘩をしたぐらいなのに……お母さんはいつもいつも頑張っているのよ。分かる?」

メイド長にマジ泣きされて訪れた王弟夫妻のお屋敷で、いつも通りに案内されたラインリア義母さんの部屋に入ると、彼女はしゃがみ込んでイジイジと床に『の』の字を書いていた。

「アルグスタに相談したいこともあったから我慢せずにお手紙出したのに……返事はイールアムからで『彼は現在奥様と2人で旅行に出ています』って。それを読んだ時の私の気持ちが分かる? 良く分からないけれど貴方が向かったらしい西の方角に一発やってやろうとしたらスィークとフレアに止められたの。何でも貴方は別の所に居るって……行き先まで隠してお母さん悲しいわ」

完全に拗ね拗ねモードだ。

ただこの1年でこの人の扱い方は分かった。このまま放置してみよう。

「ようやく帰って来たから私の所に顔を出してくれると信じてはや数十日。フレアにお願いしてお願いしてお願いして……ようやく来たと言うのに何でノイエが居ないのよ!」

「そっちかっ!」

つまり娘を愛でたくなったと言うのかこの義母さんはっ!

何よりフレアさんへのお願いって言葉が嘘だ。

今朝来た彼女は疲れ切った様子で僕に泣きついて来た。

『ラインリア様が今朝から拗ねて拗ねて手が付けられません。どうかお越しください』ってね。

「ノイエは朝からドラゴン退治ですよ。それが彼女の仕事ですから」

「良いじゃないの! 私は可愛い娘を定期的に愛でないと死んじゃうのよ!」

そんな死因は嫌過ぎる。でもノイエは本当に仕事中だからな。

あと少しすればまた雨期が来るけれど、それまでにドラゴンをたっぷり狩るんだと張り切っている。邪魔はしたくない。

「雨期になったら連れて来ますから」

「本当に?」

「……努力します」

ジロッと竜眼で見つめて来る義母さんが怖い。

若干ノイエは義母さんを嫌っていると言うか、避けている傾向があるから素直に来てくれないんだよね。

「どうせ口約束よ。お母さん……息子と娘にまで嫌われてしまったのね」

こっちの心を読んだのかと思うほど義母さんがズバリの言葉を言って泣き出す。

そんな目頭をハンカチで押さえて泣いた振りをしても……仕方ない。

ポンポンと耳の下を叩いてノイエが僕に施している『遠耳』の術式を起動する。

「ノイエ。ちょっとだけ来て」

仕事中だから本当にちょっとだけだ。

でもノイエが現れない。待てど暮らせど現れない。

「あれ? ノイエさん?」

術式の効果が切れているのかな?

この『遠耳』はノイエが僕に施す魔法だから勝手に効果が消えていることがあるんだよね。

と、顔を上げた義母さんが視線を鋭く動かす。やはり泣いた振りか。

「あっ」

窓の所……外に居たノイエはこっちに向かい小さく手を振ると消えた。

数瞬の差で負けた義母さんが窓を開け、ノイエが居なくなった場所を抱きしめる。

人間の動きを越えた超人の領域の動きを見た。

内容は義理の娘に逃げられた義理の母親の姿であるが。

グルンっと首を巡らせて義母さんが僕を見る。正直怖い。子供が見たら寝れない案件だ。

「ねえアルグスタ?」

「はひ」

「……お母さん知ってるのよ。貴方が何でもとても可愛らしい女の子を引き取って妹のように育てているって」

「……」

ノイエがダメだからってポーラにターゲットを変えたかっ!

だが甘い。こんなこともあろうかと、彼女はお城の執務室に置いて来た。

「本日は連れて来ていませんので」

「……」

両目を竜眼にした義母さんの気配がヤバい。

今なら軽い足取りで魔王でも殺してしまいそうにも見える。

「何より彼女は一般の出で……前王妃である義母さんと会うのは恐れ多いと」

「……」

ひたひたと近づいて来る姿が怖い。

でも本当にポーラは前王妃様と会うことを遠慮した。

『にいさま。どこにいくんですか?』『前王妃様に逢いに』『……』で、ブルッと体を震わせてポーラはソファーに避難すると、チビ姫の隣に座って計算のやり方を習い出していた。

隣のチビ姫が現王妃であることは、もうどうでも良いらしい。

「ねえアルグスタ?」

僕の頬を触れる義母さんが何故か耳の下を叩いた。

もしかしてこのスイッチに気づいているのか?

ドラゴンの力を宿しているから可能性は十分にある。

しかし僕は妹に優しいお兄ちゃんだ。決して妹を売り渡したりなど、

ポンポンと耳の下を叩いて遠耳を再起動する。

「ノイエ。お城に居るポーラを連れて来てくれるかな? ポーラが来るならノイエは仕事をしてても良いからさ」

「……はい」

窓が開いて小柄なメイドが投げ込まれた。って投げるなノイエっ!

しかし瞬間移動できるのはノイエだけじゃないらしい。

音も立てずに移動して居た義母さんがポーラを抱きしめ完全にホールドした。

「……にいさま?」

くるんくるんとノイエの超アクロバティックな動きで目を回していたポーラの視点が定まり僕を見た。

「ポーラ」

「はい」

「怖くないから怯えなくて良いからね」

「はい?」

気づいていないらしい。

でも流石に自分を抱きしめて居る人物が気になり、振り返った彼女は……義母さんの名誉の為に掘り下げないことにしよう。

ただズンと沈み切った前王妃を必死に励ます幼いメイドの姿を見て、何故だか僕はほっこりしてしまった。

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