作品タイトル不明
俺は王になれたんだ……
「街の衛兵は?」
「全力で妨害してるはず」
「なら本家屋敷を固められる前に突入する」
指示を飛ばしハーフレンも他の者たちに混ざって路地を走る。
決起集会までやってみせた者たちの本拠地とは思えないほどに警備は緩い。それだけに『罠なのか?』と不安を覚えるが、分家屋敷に居た者たちは全員始末した。あのエルダーもだ。
「駄犬」
「何だよう?」
「警備が薄い気がするよな?」
「だね~」
横に来たミシュは進行方向に背を向け走る。
本当に無駄に優れた身体能力を誇る馬鹿に、ハーフレンは言いようの無い気持ちを抱く。
「一応北のエーバの街に人が集まっている気配が見えるから、あっちを主戦場にしようと思っていたのかもね~」
「国軍を相手にか?」
「戦術の類を私に聞くな。専門家に聞け」
もっともな意見だ。
一応戦略と戦術を習っているハーフレンは自身の頭の知恵を絞る。
エーバは街をグルッと高い石壁で覆っている。そうなると敵の考えは籠城だ。
ただ籠城をするなら援軍が無ければ意味が無い。ずっと包囲されて食糧が無くなれば後は酷い未来が待っているのだ。
「大国が動くか……」
「かな~? まあエルダーを殺しちゃったんなら分かんないよね~」
『犯人はお前だ』と言いたげな馬鹿の視線を睨み返す。
「エルダーを生かしておく方が厄介だ。アイツの部下は何処に潜んでいるか分からない。生け捕りにしたのに逃げられでもしたら後悔してもしきれないだろう?」
「ま~ね」
素直に認めミシュは体ごと正面を向いた。
「とにかくさ~。仕事してからおかしな点は調査しようよ。私は眠い」
「食い過ぎだ」
「これが無いと働けないのよ」
取り出した干し肉を齧ってミシュは一段と速度を上げる。
通りの角から出て来た衛兵らしき者が立ち止まると同時に首を飛ばして地面に崩れた。
「急ぐぞ」
露払いをミシュに任せ、一団は本家屋敷である街の奥へと急いだ。
「分かっているのか! 私はタインツである! ルーセフルト家の当主であるぞっ!」
遠くで騒いでいる初老の男が、後ろ手に縛られてズルズルと運ばれて行く様をハーフレンは何とも言えない目で見ていた。周りの部下たちも大半が彼と同じ目をしている。
全裸の筋肉質な男がどんな言葉を言っても威厳は無い。見てて辛くなって来る。
「何か着せてやれ」
せめてもの情けと思い、ハーフレンは部下に指示を出す。
だが全員で顔を見合わせ、部隊長の1人が口を開いた。
「総隊長が『私が必死に働いているのにメイドと乳繰り合ってるとかどうなの? ねえ? どうなの? こんな爺は辱めを受ければ良い。もし服を着せる奴が居たら私が夜這いに行くからな! 覚悟しろ!』とのことなので」
「……」
私怨染みたと言うか、私怨の塊の言葉にハーフレンは頭痛を覚えた。
そんなことを平気で言うからあれは男受けが悪いのだ。
黙って立っていれば……特殊な性癖を持った貴族の誰かが興奮することも十分にあり得る。あくまで可能性だが。
「なら口に布でもかませておけ。煩くて仕方ない」
「分かりました」
命令に従い部下の1人が騒ぐ老人の元に走る。
と、黒くて小さな人影が現れ……嫌がる部下に何やら手渡した。
眺めていると部下がタインツの鼻を抓んで口を開かせる。
必死に抵抗する老人は『その糞尿臭い布は何だ! そんな物を口になど、もごもご……』と断末魔を心の声で響かせ完全に沈黙した。
「離しなさい。わたくしは国王陛下の側室である。そんなわたくしに触れるなどっ!」
一難去ってまた一難。次は陛下の側室であるトパーズが姿を現した。
年の頃は30半ば。薄衣の寝間着姿な彼女は、金に物を言わせて磨き上げているその容姿から色香をまき散らし……加齢による衰えをあまり感じられない。ただキツイ目つきを見る限り、父親の趣味では無いと一発で理解出来る。
父親である陛下は、全体的に優しくて柔らかな感じの美人が好きなのだ。それと尻に対して以上にこだわるが。
「離しなさいっ! 離してっ!」
抵抗する彼女の服装は余り宜しくはない。服が乱れ、こぼれ落ちてしまいそうな胸の様子に流石のハーフレンも部下に言って上着を掛けさせる。
売れ残り出しているミシュの妨害も無くトパーズの肩に上着が掛かった。
と、彼女の目がハーフレンを見た。
「そこに居るのはハーフレンね。この者たちに言いなさい。わたくしが誰であるか」
決して小さくない胸を張りツカツカと歩み寄る彼女に対し、控えている部下たちがスッと前に出る。
黒装束の壁で進路上に出来たのを見つめ……トパーズは足を止めた。
「ハーフレン。この不作法の者たちを退けなさい。わたくしは」
「元側室のトパーズだろう?」
投げ捨てるように彼女の言葉を遮りハーフレンは告げる。
「……もと?」
理解出来ない様子で呟くトパーズにハーフレンは真実を告げる。
「再三の登城命令に従わなかった貴女を、陛下は側室の地位から外しました。
その書状は……たぶん今日明日にでも届くかもしれませんね」
「……そんな」
力無く膝から崩れ落ちた彼女をハーフレンは部下に命じて運ばせる。
トパーズ宛の『側室の地位はく奪する』といった内容の書状はハーフレンが持っている。ルーセフルトの決起を宰相である兄に伝えた時に『持って行け』と言われ手渡されたのだ。
父親の恩情でその地位にとどまっていたと言うことに気づかない相手にかける情けなどハーフレンは持っていない。
「馬鹿旦那」
「せめて若旦那と呼べ」
「へ~い」
不意に横合いから現れたミシュにハーフレンは視線を向ける。
「見つけましたよ。生きてました」
「そうか。それで?」
「抵抗も無く拘束しました。ただ」
「ただ?」
「離れの部屋に突入した時にメイドが抵抗しましてね。部下が数人やられました」
「そうか」
大切な駒なだけにメイドの振りをした護衛でも置いていたのだろう。
ハーフレンは軽く目を瞑り黙祷とすると、目を開けて最も信頼している部下に命じる。
「拘束して馬車に放り込んで王都に急ぎ運べ」
「……会わないの?」
「俺はこれから後始末だ。それに一度しか顔を見ていない弟など会っても意味は無いだろう?」
「ん~。まっいいか。もう遅いし」
「どう言う意味っ」
意味が分かった。
左右を部下に挟まれ連れられてくる青年が居た。
手には拘束具がはめられ俯いて歩く彼の金色の頭髪がその顔を隠している。
ハーフレンは口を開かず、やって来る部下に顎をしゃくって通り過ぎるように指示した。
自身の横を過ぎる弟に思う部分もあるが、それでもハーフレンは何とも言えない気持ちを飲み込む。
「……」
ふと何らかの呟きを聞き、振り向けばそれが弟からだと知る。
「俺はやれたんだ……俺は王になれたんだ……」
呼吸するかのように呟かれる言葉の内容を知り、ハーフレンは弟から視線を逸らした。
たぶん育った環境が悪すぎたのだろう。自分のように『自由過ぎる生活を送っていれば』と思う。
ただやり場のない想いが込み上がり、無性に会いたくなった。
彼女に。
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