軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隊長はとても現場を愛している人なのです

「ハーフレン様。私はノイエ隊長のお守り……んんっ。補佐をするという役目がございます。それなのにまた新しく少女の面倒を見ると言うのは、少々無理があると思うのですが?」

「だろうな。だがルッテは余所に預けられない。理由はノイエと同じだ」

「……その優位性を知られれば、確かに騒ぐ貴族も多いかもしれませんね」

近衛団長の執務室に呼び出されたフレアは、彼から伝えられた命令に軽く頭を振った。

あの隊長の世話をしていると言うのに、次は新人の面倒まで見ろと言う。

ただその新人の少女が持つ能力を知ればそれも頷ける。破格なのだ。

「失礼ながらこの少女のご家族は?」

「家族の方からは強い要望があってな……出来る限り娘の傍に居たいと言うことで、現在近衛の騎士が迎えに出向いている。そろそろ合流してこっちに向かい移動して居る頃だろう」

「そうですか。なら騎士区の方に住むことに?」

「そうなる。そうなるが……まあそっちは上との相談だろうが、問題は金なんだよな」

ガリガリと頭を掻いてハーフレンは書類を放り投げた。

騎士見習い程度ではそれほど多くの給金を出すことは出来ない。住まいの方は家族向けの大きな部屋を手配することは出来るが、生活費など諸々の諸経費をルッテの給金で肩代わりするとなると正直無理だ。

宰相である兄ならば融通を利かせてくれると踏んでいたが、その見込みが甘かったのだ。

『特例は許さない。どれ程優れていても特例を許せば真似る者が必ず出る』

その通りなのでハーフレンとしては反論は出来なかった。

悩んでいる彼の様子に……フレアは内心で息を吐き、迷いを払って口を開いた。

「でしたら1つだけ解決策がございますが」

「……聞こうか」

「はい。近衛以外で彼女の能力を使う場合は、別途で金銭を請求すれば良いのです」

とても貴族の令嬢とは思えない発言だった。

「お前……それは色々な所から反感を買うぞ?」

使えるモノはタダで使いたいのが人の常だ。貴族ならばその傾向が強い。

半眼を向けて来る上司に対してフレアはあくまで平然と口を開く。

「何を言います? 彼女はあくまで近衛の所属です。近衛の仕事の手を止めてまで手伝うのですから、それ相応の見返りを求めてもおかしくはありません。何より彼女の力は結構その食事を必要にするとか?」

「ああ。信じられないくらいに食らうな」

「でしたら必要経費と言いうことで徴収しても構わないはずです。多少それに上乗せしていても誰が気づきますか?」

「……そうだな」

『必要経費なのだから請求しても文句は言わせない。文句があるならルッテの力は使わなくて良い』と言うのがフレアの言葉だ。

正直に言えばルッテの目は独占したいほどだ。南部の監視にこれ以上の人材は居ないのだから。

「分かった。それで上に話をする」

「はい」

やんわりとフレアは一礼をした。

「ルッテの教育の件は任せる。騎士として最低限を学ばせ現場で使える程度に鍛えろ」

「分かりました。彼女はしばらく小隊の執務室の方で読み書きを覚えさせます」

「頼んだ」

「はい」

また礼をして出て行こうとするフレアに対し、腰かけている椅子の背もたれに寄りかかり天井を見上げたハーフレンが口を開いた。

「フレア」

「はい?」

呼び止められて振り返ったフレアは、間抜けな様子を晒す彼に少々呆れ、

「新年はどうだった?」

その言葉にフレアは息を詰まらせた。

分かっている。自分は彼に捨てられたのだ。何をしてても文句など言わせない。何より相手に嫌われると決めたのだから……だから正直に全てを言えば良いのだ。

「学院の方と王都を見て回っていました」

「……楽しめたか?」

「はい。隊長のお守りも無かったので羽を伸ばせましたし」

「そうか」

体勢を戻した彼は机の上の書類に手を伸ばす。

話はそれだけだと言いたげな相手の様子に、フレアはズキッと胸の奥を痛めながらも部屋を出た。

急いで……駆けるようにお手洗いに飛び込み、個室に入ると溢れる涙を必死に堪える。

分かっている。自分は捨てられたのだと……理解していても涙が止まらない。止まらないのだ。

「えっと……これを全部ですか?」

「そうよ。私は日々現場に出るからいつも教えられないの」

「これを……」

山積みされた読み書きの教本に、ルッテは背中を流れる冷や汗が止まらなかった。

良く分からない間に自分は"近衛"の所属となり、"対ドラゴン"の専門部署であるノイエ小隊に配属させられたのだ。

そう副官さんから説明をされたが、軍のことなど理解していないルッテとしては『わたし兵隊さんになったんだ~』ぐらいだった。

案内されたお城の中に存在するノイエ小隊の部屋には、金色の綺麗な髪をした女性が居た。

自己紹介を受けてその人が『フレア』と言う貴族の人だと知った。そして渡されたのは山のような教本だった。

「ルッテには普段祝福を使って貰い指定された場所を見て貰います」

「はあ」

「それが終わってからはとにかく勉強です。読み書きから計算など覚えて貰うことは多いので覚悟して下さい。良いですね?」

「……」

綺麗な顔をしていても大変に厳しい人だった。

ルッテはそれから空いているからと言う理由で、部屋の中に存在する一番立派な机で勉強をすることとなった。副隊長の2人よりも立派な机に『誰のですか?』と尋ねれば『隊長のです』との返事だ。

流石にそんな人の机を使うのは良くないとルッテにだって理解出来る。理解出来るのにフレアと名乗った女性はとても穏やかな表情を浮かべてルッテの肩をポンと叩いた。

「大丈夫です。隊長がここに来ることはほぼありません。何よりその机を使うことも無いでしょう」

「それは?」

「……隊長はとても現場を愛している人なのです。ええ本当に」

何故か視線を逸らしてそう言うフレアの様子が、ルッテはずっと気になった。

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