軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三食昼寝付きで良ければ

「……」

連れて来られたのは頭からフード付きのローブを被る人物だった。

偏屈者感が半端無いが、何よりどこか小柄で女性にも見える相手にハーフレンは言いようの無い不安を覚えた。

「こちらが国軍所属、魔法使いイーリナです」

「紹介ご苦労。後はこっちでやる」

「はっ」

一礼し、シュゼーレの部下である騎士が仕事に戻る。

野外練習場で国軍一の変人魔法使いと2人きりになったハーフレンは、とりあえず挨拶から始めることにした。

「俺は近衛団長ハーフレンだ」

「……」

返事は無い。

一応王子を相手にその態度は許されないことであるが、事前に相手のことを聞いていたからハーフレンは不問に付した。

「イーリナと言う名からして女か?」

「……」

「まあ能力があれば男女など問う状況でもないしな」

何より現在のユニバンスは人材不足なのだ。

男女の違いなど気にしてなどいられない。求められるのは能力と人格だ。

「とりあえず聞こえているか?」

「……」

返事は無い。

流石に怪しみハーフレンは相手のフードに手を伸ばす。それが原因で聞こえていないのかと思ったからだ。

と、相手の手が動き伸びて来たハーフレンの手を払った。

「これに触れるな」

「喋れるのか」

「……口を開くのが面倒臭かっただけ」

とんでもない言葉を聞いた気がした。

敬意を払わないどころの言葉ではない。相手によっては大問題な発言だ。

「お前……良く今まで不敬罪に問われなかったな?」

「何度も問題になったが、その都度何故か相手が訴えを取り下げた」

「そうか」

普通に考えて、恥をかいたと思った貴族が訴えを引き下げるなどあり得ない。

「何かしたのか?」

「特にはしてない。ただ相手の屋敷で魔法の練習をすると相手が訴えを下げる」

「おい?」

「気にするな。禿げるぞ」

言いたい放題言ってイーリナはスタスタと歩き出す。

慌ててハーフレンは彼女の後を追った。

「何処に行く?」

「近衛団長がこんな場所に来たのだ。今度こそ不敬罪で処刑でもされるのだろう。それならば訴えた相手を教えて欲しい。面倒臭いが行って魔法の練習をする」

「つまり相手の屋敷に乗り込んで脅迫して取り下げると?」

「仕方がない。本当に面倒臭くて行きたくはないけれど」

スタスタと歩いて行く相手を見てハーフレンは悟った。これは本格的に面倒臭い相手だと。

「今回は不敬罪の類では無い」

ピタッと足を止めイリーナは停止する。

「近衛の魔法隊の隊長を任せる人物が居なくて、能力だけならばとお前を紹介された」

「近衛の魔法隊か」

クルッとその場で反転し、フードで隠れた相手の顔がハーフレンに向けられた。

「三食昼寝付きで良ければ引き受けよう」

「仕事はしろ。それが最低条件だ」

「チッ」

「舌打ちするか? 間違っていないだろう?」

「私に仕事をさせようとするその考えが間違っている。私はずっと働かずに楽がしたい」

「……」

一歩踏み込みイーリナがフードで隠れた顔を向けて来る。

「私はずっと楽がしたい」

「何故2回言う?」

「大切なことだからだ」

「……」

流石にイラッと来たハーフレンは、内心の感情に動かされて手を動かす。

素早く動いた彼の手は、イーリナのフードを跳ね上げ彼女はその素顔を晒した。

丸顔の童顔。綺麗と言うより愛らしい感じのする顔立ちだ。

「なっなっなっ」

言葉と体を震わせ、慌てた彼女は顔を真っ赤にしながらフードを目深にかぶり直す。

「何をするこの変態っ!」

「顔を見ただけだろう?」

「それを怒っている。女性の素顔を覗き見るなど変態の所業だ。許せん。絶対に許せん!」

ビシッと彼女はハーフレンを指さした。

ただまだ慌てているのか発する声は上ずったままだ。

「三食昼寝と二度寝付きだからな!」

「要求が増えたな」

「慰謝料込みだ!」

「慰謝料って……」

古い言葉が出て来た。

相手が魔法使いであれば、三大魔女が残した言葉を知っててもおかしくないが。

「と言うかお前の能力次第だな。使えん奴なら近衛には要らん」

「ならば使えるのであればこの要求を飲むと言うことか……悪くない」

「勝手に解釈するな。人の話を聞けよ?」

スタスタと歩き間合いを取ったイーリナは、ボソボソと呟きだした。

魔法語だと理解したハーフレンは、『能力だけは』と言う彼女の実力を知ることとなる。

「失礼します」

「……」

ノックと挨拶をし覚悟を決めて部屋に踏み入る。

近衛の資料室と化している部屋に踏み入ったコンスーロは、部屋の主が放つ恐ろしいほどの気配を目の当たりにして、回れ右をして立ち去ろうとする本能をどうにかねじ伏せた。

「失礼ながらフレア様?」

「……」

書類整理をしているはずだ。彼女は書類整理をしているはずなのだ。

それなのにどうして彼女の足元には細かく千切られた紙が散乱しているのだろうか?

ただ書類の類を破っている訳ではない。書類から得た情報を書くための用紙を破いているのだ。

破く紙が手元から無くなったのか、彼女はペンを掴むと白紙の紙にとある人物の名前を延々と書きだす。用紙全てを名前で埋め尽くすと、クツクツと恐ろし気な笑みを溢して破きだす。

どうやら余程……魔法隊の隊長に彼女以外の人物が就任したことが許せないと見える。

抱えていた書類をそっと置き、コンスーロはその書類の山の上に1枚の紙を置いた。

『フレア・フォン・クロストパージュは本日付で情報処理担当とする。近衛団長ハーフレン・フォン・ユニバンス』

こんな物を彼女が見たら……背筋を冷たくし、コンスーロは静かに部屋から脱出した。

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