軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お腹……空いた

ユニバンス王国王都ユニバンス

『膨大』

そう言っても良い書類整理が現在のフレア……フレア・フォン・クロストパージュの仕事だった。

一応所属は近衛の魔法隊のはずなのに、多くは雑用ばかり押し付けられている。

ロイール領で発見された施設に関する資料は他部署が引き取って行ったから今は手元に無い。それでも嫌がらせかと思うほどに書類が山積みされている。

「失礼します」

「どうぞ」

「これはフレア様」

やって来たのは古くからの知り合いであるコンスーロだ。

彼の……ハーフレン新近衛団長の副官であり、自分も信頼している相手だ。

急いで両手に抱えていた書類を置いて騎士の礼をしようとする相手をフレアは軽く制した。

「今の私は貴方様より地位で言えば下にございます」

「ですが貴女は……」

一瞬言葉に困った彼は苦笑した。

「クロストパージュ家のご令嬢ですから」

「ええ。でもそれを言えば、貴方様は場合によってはこの城で努めるメイドですら頭を下げなければいけなくなりますよ」

「そうなりますな。気をつけます」

相手の気づかいを若干煩わしく思いながら、フレアはまた追加された書類の山に息を吐く。

「あの人は私をこの書類で圧死させたいのですか?」

「苦情は承りました。ですが内容が内容ですので」

「分かってます。こんな物……他人には見せたくないでしょうね」

パラパラと指で軽く捲りフレアは改めてため息を吐いた。

王国南部の貴族たちの調査報告書が狂ったように届けられるのだ。

外敵は決して居なくなった訳では無いが、現在ユニバンスに攻め寄っていた大国たちは自国に侵攻して来たドラゴンたちに兵を動かせなくなっている。

外敵から内敵へと相手が変わり、結果として情報戦を求められることになった。

「信用されていると思えば悪い気もしないんだけど……」

またパラパラと指で書類を捲り、フレアは何とも言えない胸の内を口にする。

「捨てた女にここまで仕事を押し付けて欲しくないわね」

「……その苦情は、この武骨者の胸の内にとどめておきます」

「ええ。ありがとう」

何とも言えない表情で呟き、フレアは軽く頭を振った。

自分は彼に捨てられた女なのだ。何より自分は彼に相応しくないのだから……今の状況を喜び、そして彼により嫌われるように努力しなければいけない。

仕事を間違えて迷惑をかけて……と一瞬思いが巡ったがそんな考えは即座に破棄する。

自分の過ちで彼が困ることは許せない。もしそれで彼の命が危ういことにでもなったらどうする?

「さあ……楽しい資料整理でも始めましょう」

彼に嫌われたいのに、彼の為に完璧な仕事をする。

自分でも滑稽だと思いながらもフレアは仕事をし続けるのだった。

ユニバンス王国南部

「……結婚したい」

「隊長?」

突如として道の真ん中で倒れた相手に、隣に居た青年は呆れつつ深いため息を吐き出した。

また病気が発病したのだ。

「ミシュ隊長。無理を言わないで仕事して下さい」

「んなろう! 無理って何でよ!」

ガバッと起き上がり、ミシュと呼ばれた小柄な少女のように見える彼女が憤慨する。

「だって隊長……何十件と見合いで失敗してるじゃないですか? 前回の失敗理由は流石に全員で笑わして貰いましたけど」

「はっ! あんな顔だけ野郎なんか、こっちがお断りよ!」

「だからって、見合い相手に襲いかかって下着ごとズボンを脱がすのは……」

ジトッと見つめて来る部下に、ミシュは立ち上がり明後日の方を向いて口笛を吹く。

「それも男のあれを見て『えっ? 何かの病気?』って……名言過ぎて覗き見に行ってた奴らが、危うく笑いそうになったと言ってましたよ」

「顔は良くてもあれが小さいとかがっかりよね~。って何で上司の見合いを覗くかな?」

「どんな風に振られるか、全員で賭けをしていただけです」

「よ~し賭けしていた奴らを全員集めろ! あの馬鹿貴族のようにズボンと下着を剥ぎ取って私が直々に採点してやる~!」

両手を胸の前で握り、ガルルとミシュは吠えた。

「馬鹿言ってないで……どうやら出番らしいですよ」

「へいへい。って何でアイツ等必死に逃げて来るかな~」

「ルーセフルトは護りが硬いですからね。キツネ狩りに見つかったんでしょう」

「全く……とりあえず報告の回収を最優先」

スッと布を手にしてミシュは自分の顔を隠す。

「助けられそうになければ始末して顔を潰すこと。さあ狩りの時間だ」

告げて彼女は姿を消す。

ユニバンス国内に轟く『猟犬』と言う名の暗殺者。

高い暗殺技術と諜報能力を要するその存在は、作り話のように語られることが多い。

だが猟犬は実在する。

敵を屠り、必要とあれば味方も殺す。

決して尻尾を掴ませないその存在は、恐怖の対象とされている。

ユニバンス王国内、某所

ゆっくりと顔を上げ、少女は遥か頭上に存在する天窓に目をやる。

独りぼっちになってからもう何日とここに居る。

毒を飲まされ、体を刻まれ、魔法を使われ、腹を抉られ……それでも彼女は死ぬこと無く今日も地下牢で過ごしていた。

「……お腹空いた」

そう言えば彼女が何処からか食事を持って来てくれた。いつも優しくしてくれた。

彼女が居なくなってから何日過ぎたか分からない。騒がしいほど居た『みんな』も何処にも居ない。

「お腹……空いた」

ポツリと呟いて、その白い少女はツーッと頬に涙をこぼすのだった。

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