軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先生ですし……

フレアは現在勤めている屋敷から歩いて王城に向かっている途中だった。

前なら馬に跨り直ぐに辿り着いた場所であるが、今は乗馬も出来ず移動は徒歩だ。

ただ歩いた方が良いと周りからも言われているので、毎日散歩感覚で楽しんでいた。

いつも通りの景色を見つめ……とはならず、フレアは辺りを見て軽く自身の太ももに手を添える。

革製のベルトで太ももに固定してあるプレートを感覚だけで軽く叩く。

11年振りに出会った師である彼女の作品は、あの頃の物とは格段に変化していた。

何より冗談だと心の何処かで信じていた期待は裏切られ、本当に凶悪で恐ろしい術式なのだ。

《それでも感謝すべきなのでしょうね。この力を》

スカートの上から指を動かし軽くプレートに触れて魔力を流す。

一度見て覚えた魔法語も淀みなく発声し、フレアは魔道具『影』を起こした。

「本当にあの人は」

愚痴が止まらずフレアは視線を目の前へと向ける。

フラフラと動く男性が我が子を抱いてその身を盾にしようとしている母親に襲いかかろうとしていた。

自身も腹に子を宿すフレアとしては見過ごすことの出来ない場面だ。

迷うことなく男に右手を向けて放った。

「食らいなさい」

「がっ! あがっ!」

男の足元の影から『影』が生じ、足を伝って体へと這い上がると体を拘束して行くのだ。

包帯のように男の体を拘束した影により、身動きが取れなくなった彼は地面を転がる。

「ここは危ないので早く避難を」

「はいっ! ありがとうございますっ!」

何度も何度も頭を下げて来る相手を見送り、フレアは拘束されて転がっている人物を観察する。

目からは血を溢し、口からは大量の涎を溢れさせている。

傍から見ても常軌を逸している人物を見つめ、フレアはとりあえず手近な家の軒先から洗濯ロープを拝借して男を拘束し魔法を解く。ボロボロと崩れた影は地面へと落ち黒い染みを作り出す。

拘束した男を通りの端に蹴って転がし、フレアは改めて地面に残る黒い染みを見た。

野外においては師であるアイルローゼが新しく作り出した『影』は最強の部類に入る術式だと分かる。

新しい術式は、地面の中に存在する『砂鉄』と呼ばれる砂のような鉄に作用しそれを使役して扱う魔法なのだ。布と伸縮自在の骨組みとで作られていた前回の影とは恐ろしいほどに威力が違う。

冗談でレンガを穿ってみたらあっさりと貫通してしまったほどだ。

《先生ですし……》

その一言で納得し、フレアは城へと向かう道中で暴れる者を発見する度に拘束して行く。

ただ前の……"あの日"の嫌な記憶を抱いている者なのだろうか、一般人が剣を持って暴れている姿も多い。誰が襲いかかって来るのか分からないだけに全てが敵に見えているのだ。

「……」

何とも言えずフレアは息を吐いた。

自身は狂う方だったが、それを見ていた人たちもまた被害者なのだ。

故に誰も傷つけることは出来ず、無力化するだけでゆっくりと歩き城へと向かう。

と、不意に違和感を覚えて足を止めた。

ゆっくりと視線を巡らせると、通りの奥から嫌な気配を感じる。

慎重に足を進めフレアがそこを覗くと、特に人などは居らず……ただ地面に黒い染みが出来ていた。

《これは?》

地面に片膝を着いて黒い染みの部分を指で擦る。

汚れた指先を見つめ、経験から血の跡だと判断した。

《血痕から魔力を感じる?》

不可解な状況ではあるが、専門でないフレアにはそれ以上は分からない。

念の為、辺りを見渡し他に何か無いか確認して……その場を離れた。

当初の目的通りに城へと向かいながら暴徒を拘束する。

しかし彼女のその姿を見た者たちが後にこう語るのだ。

『静かに歩くメイドが男たちを拘束して回っていた』と。

慌てて耳の下を叩いてノイエを呼ぶ。

だが彼女が来ない。呼べばすぐに来るあのノイエがだ。

「くそっ!」

適当に量の多いお菓子を詰め込んで袋を背負うと扉へと向かう。

だが静かに行く手を叔母様が遮った。

「何処へ?」

「決まってる。ノイエの所だ」

「わたくしの話を聞いてましたか? アルグスタ?」

「ああ。でも行くよ」

不意に部屋の気温が下がった気がした。違う。目の前の人物が……怖くなったんだ。

自然と唾を飲み込み相手を見る。

ただ立っているだけの相手が怖い。目の前にライオンでも居るのかと思うほどに怖い。

「もう一度問いましょう。わたくしの話は聞いてましたか?」

ゾクゾクと背筋が凍えて膝から力が抜けそうになる。

殺意とかそんな風に呼ばれる物を体験できるなんて凄いな。でもっ!

パンッ! と両手で太ももを叩いて僕はスィークさんを見た。

「止めても行くよ。僕が行かないとノイエが危ないんだ」

「……どうしても?」

「ああ」

迷わず相手の顔を見ていたら、僕の視界の下の方で白い影が揺れた。

軽く目線を下げると、ブルブルと震えたポーラが僕の前に立って両手を広げて背中を見せていた。

「にいさまを、とおして」

恐怖でカチカチと歯を鳴らしているのにポーラは叔母様にそう言ってのけた。

不思議と元気が湧いた。こんなにも小さくて勇気のある少女が居るのだ。負けられない。

「行かせてください。ノイエの元に」

「……末恐ろしい兄妹ですね」

ふわりと一礼をし叔母様が道を開けてくれる。

僕は一歩踏み出そうとしてそれが出来なかった。

ペタンと座り込んだポーラが道を塞いでいるからだ。

「ポーラもここに残ること」

「でも」

「残るの」

グシグシと頭を撫でながら彼女に告げる。

「ポーラがここを護ってくれるなら僕はノイエの所に行ける」

「……はい」

渋々納得してくれた彼女の頭をもう一度撫で、僕は背負い袋を背負い直した。

「ならちょっとお嫁さんの所に行って来ます」

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