軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

米って知ってる?

「ひぐぁ……。いた、い。たすけ、て」

血に濡れた小さな手を伸ばし少女は必死に地面を這う。

何が起きたのか自分でも良く分からない。家の外で球遊びをしていたら、不意に桃色の何かを見て……気づいたらお腹や背中が焼けるように熱いのだ。

「いたい。たすけて……かあさん」

必死に必死に手を伸ばし少女はそれを見る。

薄汚れた布切れを纏った女性。彼女はその桃色の瞳で冷たく少女を見つめていた。

「たすけ……て」

伸ばす手が微かに震えて地面に落ちる。

動くことを止めた少女の口からは弱々しい息が続き、ついには完全に停止した。

それを眺めていた桃色の女性は、完全に死に絶えているのを確認し……自分の腕を斬る。

ボタボタと血を落としその傷跡を魔法で焼いて止血すると……その場から歩き出す。

ジャリッジャリッと地面を踏んで、自身が殺した少女の躯をそのままにして。

「意識不明者?」

「はい」

久しぶりに見た副官の顔はやつれ果てていた。

それでも報告書を持って来たと言うことは緊急を要する案件なのだろうと判断し、ハーフレンは受け取り目を通す。確かに報告では王都内で意識不明者が多数発見されているとある。

「変な薬か?」

「その可能性があります。ですから判断に困っているのです」

「なるほどな。昔のあれか」

思い出してハーフレンはやれやれと頭を掻いた。

その昔自身が部下たちを使い根絶やしにした薬がある。根絶やしにしたのは薬の製造方法で、薬自体は現在も裏で取引されているが……使い過ぎなければそれ程の問題は起こさないと判明している。

「またフレアにでも指揮を任せるか?」

「ご冗談を」

「ああ。冗談だ」

あの時は彼の婚約者であった少女が密偵を駆使して製造場所を特定し壊滅することが出来た。

それ以来この王都には何重にも『結界』と呼ばれる捜査網を敷いている。そう。敷いているのだ。

「この報告だけで犯人の目星は?」

「それが全くかからないので」

「大国の工作か、それともそれ以上に厄介な何かか」

腕を組んでハーフレンは椅子を回すと窓の外に目を向けた。

「貴族の馬鹿者の犯行もあり得るな」

「可能性は拭えません」

過去に何度もあった事柄だ。それだけに可能性は十分にある。

「コンスーロ。疲れているところ悪いが、こっちの方に人員を割いて探らせろ」

「分かりました」

一礼する副官に、ハーフレンは肩越しで彼を見た。

「もう少しすれば休めるはずだ。俺も少しは休みたいしな」

「……そうありたい物です」

流石に疲労困憊な副官からそんな言葉が聞こえて来た。

「子供を狙った殺人事件?」

「はい」

「何それ? 物騒な」

今日も元気にケーキを買いに行ったクレアとポーラが、お茶の支度をしながら出先で仕入れて来た噂話を披露し始めた。それが殺人事件とかどうかとも思うけど。

「何でも前から後ろから刺されて酷かったらしいです」

「うわっ何それ? 前からやって倒れた所を後ろから? ひどっ」

子供相手にそこまでするとか鬼畜の所業だな。

「ポーラも危ないからしばらく1人で出歩いちゃダメだよ?」

「はい」

「……わたしにはっ!」

何かしらの言葉を期待していたた様子のクレアをスルーしたらキレた。

「君には女性を護る騎士が居るでしょうに? 最近は嫁に食われる気の毒さんとか言われて居るみたいだけど」

「誰がそんなことを言ってるんですかっ!」

「主に僕?」

「この~っ!」

憤慨して腕をグルグル回して突進して来るクレアの頭に手を置いて接近を阻止する。

コントチックないつも通りのやり取りをし、4人前の紅茶の支度が終わった所で壁を押してチビ姫が飛び出して来た。

「ケーキの匂いです~」

「イネル君の分だから」

「ケーキです~」

聞く耳など無いと言いたげに勝手にソファーに座ってケーキを食べ出したよ。

クレアもポーラも見て見ぬ振りだ。相手が相手なだけに止められるのは僕だけなんだけどね。

「まっ仕方ない。ポーラ」

「はい」

「ひと口頂戴」

「はい」

ケーキをフォークで掬い切りしてポーラが僕の口にケーキを運ぶ。

そのひと口を味わい、僕の分のケーキをイネル君に回す。書類の集配に言ってくれているのにケーキ抜きとか悪いしね。

そんな訳で彼のお嫁さんに目を向ける。

「このケーキをイネル君に食べさせてやって」

「アルグスタ様は?」

「僕はポーラから貰った分で満足しときます」

何故かお子様たちが驚いているが……毎日ケーキとか正直重いからね?

最近の僕はお煎餅が恋しくなって来たよ。どうにかして小麦を主体にお煎餅チックな物は作れないか真剣に悩む時期に突入したのかもしれない。ただ小麦粉で作る煎餅ってあの薄っすら甘くて硬いヤツだった気がする。

つまり僕が食べたい煎餅は米が必要なのか。

「米って知ってる?」

「唐突に何を言い出すんですか? そもそも何ですかそれ?」

「知らないです~」

「しりません」

連敗だ。やはりこの世界に米は無いらしい。

いや待てよ? 確かこっちの世界にやって来た日本の国の人たちの集落があったじゃないか! 着物があったんだ……もしかしたら米だってあるかもしれない。

あとでモミジさんに聞いてみよう。そうしよう。

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