軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

喧嘩はほどほどにしておけ

「アイル?」

「煩い化け物。黙ってて」

「……そう言うなら」

いつもながらのノイエの魔眼の中心部。

この場所に定住しているアイルローゼの他に、最近寄生したセシリーンの2人が居た。

ただ膝を抱いて隅で延々といじけているアイルローゼとは対照的に、慈愛に満ちた笑みを浮かべているセシリーン。それには訳がある。

厄介事を背負い込む習性のある魔女は、彼を救うために自分だけがノイエの中に居ると言い張り交渉事を全てやってのけたのだ。

その反動だったのか……いつもなら出ない時間に出て、ノイエの振りをして彼に甘えた。

いつも通りにノイエの振りをしたアイルローゼが彼女の夫であるアルグスタに色々と……そう。本当に色々とやった結果、自分の処理能力を超える状況に陥り緊急回避したのだった。

気が付いたらあんな状態に陥っている本来のノイエが動じることなく彼を受け入れているのが一番凄いと思うが。

「ノイエに感謝よね。普通……あんな状況で気が付いたら悲鳴の1つも上げるわ」

「……煩い」

「そう考えるとシュシュにも感謝しないと。ノイエをあんな風にした張本人だし」

「……」

答えるのも憂鬱と、アイルローゼは膝を抱いたまま左右に揺れる。

その様子を見てセシリーンは増々柔らかな笑みを濃くするのだ。

「あれ~? 居ない~か~」

「どうしたのシュシュ?」

「ん~」

天性の踊り子であるレニーラとは違い、ただフワフワと風に揺れるように揺れながら入って来る。

フワフワなくせっ毛の黄色い髪を弾ませて……何故かアイルローゼの隣で正座した。

「アイルローゼ~」

「……何よ?」

「エウリンカ~見て~ない~?」

その言葉に流石の2人も表情を正した。

「あのエウリンカ?」

「だね~。別の~人とか~知らない~し~」

「セシリーン?」

「ごめんなさい。彼女は何と言うか音を隠すのが上手で……また這って移動してるなら見つけるのは困難ね。全力で探して良いなら見つけられると思うけど?」

「止めて。ノイエの魔眼が耐えられないかもしれない」

膝を解放して立ち上がったアイルローゼは、魔眼の中心となる部分に腰を下ろした。

「本来ならグローディアとも話したい所だけど」

「あ~。グローディア~なら~両目を~抉られて~両腕を~折られて~徘徊~してたよ~」

「回収して来なさいよ」

「だって~声を~かけると~怒るんだ~も~ん」

「今のあれは全員が敵みたいなものだから」

やれやれと肩を竦めてアイルローゼは自分の視覚をノイエのそれと繋げる。

しばらくはドラゴン退治をしているから問題は無さそうだ。

「セシリーン。馬鹿弟子の方は?」

「……仕事をしてるみたいよ」

「なら平気ね。シュシュ」

「ほ~い」

「あれが変な気を起こす前に、また封印して奥底に捨てて来るわよ」

「ほ~い」

立ち上がると、またフワフワと揺れ出したシュシュを連れてアイルローゼは部屋を出て行った。

のんびりと鼻歌を奏でていたセシリーンは、不意にその気配を感じた。

全身から気怠さを出しながら歩いて来たのは……リグだった。

「あら? どうかしたの?」

「ん~。アイルが踏んでった」

「災難ね」

「うん。でも胸だったから平気」

「……」

人並みにはあるはずと自分の胸を触れて確認するセシリーンだが、相手は昔から大きいで有名だった異国の少女だ。

何と言うか……同じ舞台に立って戦うことが根底から間違っている気がしてくるほどに大きい。

「それで何か用?」

「ん~。アイルに見て貰わなきゃ」

「……」

どうやら確定で寝ぼけているらしい。

部屋に入って来たリグは、そのままセシリーンに歩み寄り……隣に座った。

「アイル。痛いのは嫌だ」

「そうね」

良く分からないがとりあえず手を伸ばし相手を撫でてみる。

指を這わせるごとにビクビクと体を震わせるリグが可愛くなって来た。

「アイル~。いつもと違う?」

「そう? こんな感じよ」

「ん~」

座った状態でカクンカクンと首を動かしだしたリグは、ゆっくりと上半身を倒し出す。

セシリーンは相手を誘導して……そっと自分の胸で彼女を抱きしめた。

「アイル~」

「なに?」

「今日は胸が大きい」

「……」

何となく勝った気がしてセシリーンは内心で拳を握っていた。

「リグは本当に良く寝るわね?」

「うん。ここなら痛く無いから。ずっと寝れる」

「そうね」

「うん」

施設に居た頃のリグは幻痛に悩まされていたと聞く。前からずっと抱えていた症状らしい。

本来なら『廃棄処分』になっていてもおかしく無かったのだが、彼女の持つ魔法は余りにも特殊だったために処理を免れたのだ。

それ以外にも『人質』としての使い道があったらしいが、セシリーンはそのことを知らない。

胸を枕に完全に寝てしまった相手を抱きかかえ……セシリーンはそっとリグの背中を撫でながら鼻歌を奏でる。

こうして誰かの為に鼻歌でも奏でるなんて、少し前のセシリーンだったら考えられないことだった。

「ゆっくり眠りなさい。ここは貴女に優しい場所だから」

「何してるんだお前ら?」

「……」

「……」

何気なく通りかかったカミーラは、それを発見してつい声をかけてしまった。

互いに向かい合うようにして床の上で前のめりで倒れている2人。ホリーとファシーだ。

珍しい組み合わせと、想像の出来ない状況につい口が動いてしまったのだ。

「負け、ない」

「私だって……!」

必死に立ち上がろうとする2人を見つめ、カミーラはうんうんと頷いた。

「喧嘩はほどほどにしておけ」

「アルグスタ様は」

「アルグちゃんは」

「「私の夫だから!」」

ほとんど魔力が切れている2人が同時で声を上げる。

しかし魔法は発動せず……前のめりで倒れると動かなくなった。

「旦那の奴……この2人に何をさせているんだ?」

呆れながらも今度酒でも飲みに外に出ようと思うカミーラだった。

(c) 2019 甲斐八雲