軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

才能を隠すのも問題よね

「はい。今日から少し真面目に勉強するわよ」

師であるアイルローゼの言葉に、椅子に座る弟子たち3人がその顔色を蒼くする。

真面目に授業を受ける態度に見えなくも無いが、どこか恐れられている気がしてならない。

「……何か言いたいことがあるなら言いなさい」

「「……」」

「質問を間違えたかしら? 言いたいことがあるなら直ぐに言いなさい」

柔らかく笑う彼女の様子とは違いその声は冷え切っていた。

恐怖に駆られてソフィーアとフレアが年長のミローテの肩を揺さぶる。

今にも泣き出しそうになった彼女は、怯えながら口を開いた。

「先生っ」

「何かしら?」

「先生が主導して……教師や講師たちを追放したという噂が」

「ああそれね」

軽い感じで言う師の様子に、少女たちは内心息を吐いた。

またいつもの噂が先走った感じで、

「やったわよ」

「「……」」

3人の少女が震え上がって抱きしめ合う。

「ただし学院長からの依頼よ。不正行為をしている人たちが増えたから一掃して欲しいってね」

「そうだったんですね」

「ええ。だから喧嘩を売られた腹いせでやったとかじゃないわ」

「そうですよね」

「ええ。やるなら陰でこっそりとやるわよ」

「……」

相打ちを打っていたミローテが凍り付いて、救いを求めるように年下の同級生たちに抱き付いた。

呆れた様子で肩を竦め、アイルローゼは息を吐く。

「まあ学院内の風通しが良くなったと思えば良いだけのことよ。恨まれるのは私だけだから心配要らないわ」

そう告げてアイルローゼは授業を始めることにする。

アイルローゼは最初から決めていた。

『仮に何が起きても弟子たちを巻き込むようなことはしない』と。

「あれだ~ね~」

「何よシュシュ?」

「どうして~ミャンが~講師に~なるかな~」

「実力はあるのよ。何より真面目だしね。一番の欠点である性癖を別にすればだけど」

「で~わたしが~学院生の~まま~なのは~なぜ~?」

「自分の胸に手を当てて良く考えなさい」

「アイルローゼ~より~大きい~よ~」

咄嗟に掴んだティーカップを投げつけようとするアイルローゼの近くから、シュシュがフワフワと逃げ出す。

言葉や動作がフワフワしている割には動き出しだけは速いのだ。

「シューグリットやポーパルも講師になってたわね」

「だね~。あの~お医者~さんも~だね~」

「彼の場合は遅いぐらいよ。もっと前から……でも彼が教えるべき物は魔法では無いかもしれないけど」

言いながら考えを改めたアイルローゼは息を吐く。

ポットを手に戻って来たシュシュが新しく紅茶を注ぐのを見つめ、魔女は寮の談話室内を見渡す。

学院長が押し進めている一定の教育を終えている者は、自身の研究を優先しても良いという方針によりサボる者が極端に減った。ただ全員が全員研究室を持つことなど出来ないので、種類ごとに学院生の中から講師を選びその人物を中心に活動することとなったのだ。

お陰で実験と称してあちらこちらで爆発事故などが増えているが、成果も増えつつあるので……学院長の財産が尽きるまでに何らかしらの対策を考えなければならない。

本来自分がやることでは無いと理解しているが、学院長室の机の上に山積みになっている請求書を見たら流石のアイルローゼも胸が痛くなったのだ。

「アイルローゼは~変わらず~術式の~研究を~続けるの~?」

「研究と言うよりプレート作りね。この学院を卒業するまでは延々と作り続けることになるわね」

「そう~か~」

「シュシュは封印魔法の研究をするのでしょう?」

「ん~」

何故かティーカップを手に、座ったままで彼女はフワフワと揺れ出す。

「研究~しても~これ~以上は~成長~しない~気が~する~」

「そうかしら?」

「うん~」

ふわりと立ち上がりシュシュが魔法語を紡ぐ。

机の上に置かれているポットを白い不思議な物体で包みこんだ。

「それは?」

「ん~。この中の~時間の~流れを~止めて~みた~」

「っ!」

ガタッと椅子を蹴飛ばしアイルローゼは食い入るように白い物を見る。

中がどうなっているのか分からないが、もし彼女が言う通りなら……これはもうとんでもない領域の魔法だ。

「シュシュ? 貴女……実は私以上の才能を持っているんじゃ無いの?」

「そんな~こと~ないよ~」

フワフワと踊り、落ち着きのないシュシュが揺れる。

「これだって~この~大きさが~限界~だし~ね~」

「でも魔力があれば大きく出来るのでしょう?」

「ん~。出来る~かもね~」

「何よ? 試したくないの?」

「要ら~ない~」

にへら~と笑ってシュシュは揺れる。

「余り~目立つと~アイルローゼの~ように~仕事を~いっぱい~やらされるし~」

「確かにね。言う通りよ」

「なら~今の~ままで~いいよ~」

あはは~と気の抜けた声を発して彼女は談話室を出て行く。

アイルローゼも立ち去ろうとしたが、机の上に置かれている物体が気になり椅子に腰かけのんびりとする。

しばらく……ティーカップの中身が無くなりだいぶ経ってから、白い物体が溶けるように消えてポットが姿を現した。

改めて手を伸ばしポットに触れると、時間の経過が無かったかのように暖かく……試しに注いだ紅茶からは確りと湯気が立ち上るのだった。

「……私みたいに悪目立ちするのも問題だけど、シュシュのように才能を隠すのも問題よね。本当に」

呆れながらカップの縁を指で擦り、アイルローゼは静かに笑った。

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