軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

良い夢を

「さあポーパル。日々培った覗き技術を発揮して、それなりに使える書類でも集めて来なさい」

「投げやり過ぎるだろう?」

「十分よ。変態なら隠されている物を暴くなんて楽勝でしょう?」

「私は覗きはするがそのようなことは専門では無いぞ!」

「……出来ないの?」

「「やらせていただきます!」」

ポーパルとその仲間たちが、全員で土下座して彼女からの依頼を引き受ける。

彼らは日々女子寮の風呂場を覗こうと躍起になっている集団だ。リーダー格であるポーパルは、仲間たちから『隊長』と呼ばれている。魔法使いであるが望遠系の魔法を日々研究し、その覗き魔法は軍の方から何故か高い評価を得て……彼らはその勢力を拡大して女子寮の風呂に挑んでいるのだ。

「頑張って楽し気な書類を探して来なさい。活躍次第では私が防衛戦で休む日を少し増やしてあげるわ」

アイルローゼからの提案に、土下座している男性たちがやる気を見せる。

「提案がありますっ!」

「……何かしら?」

「貴女様が防衛戦に参加せずにお風呂に入ると言うのはどうでしょうかっ!」

全員が土下座しているから誰の発言か分からないが、何人か額を地面に擦り付けて興奮を我慢している様子を確認し……アイルローゼは人知れずその者たちの特徴を覚えた。

「日時を指定せずにこっそりで良いのなら、活躍次第で考えるわ」

「野郎共っ! 俺たちの実力を見せる時が来たぞっ!」

「「おおっ!」」

数名の男子が飛び起きて駆けて行く。

はっきりと相手の顔を覚えたアイルローゼは、その目をまだ土下座しているポーパルに向けた。

「行かないの?」

「……落ち着いて考えると、自分の楽しみが少ないなって」

「…………誰が好み?」

「決まっている! リグ以外にっ!」

アイルローゼの足の裏が、変態の後頭部を踏みつけた。

変態たちの活躍によって副学院長派の大人たちの不正資料が数多く集まった。

「本当にあの大臣は無理ばかり言う」

深く息を吐き出し副学院長……タリーム・フォン・イッセルグは、貴族地区と呼ばれる場所を出て馬車で魔法学院に向かっていた。

付き合いのある大臣は、学院に対してプレートの作成を求め代金を支払う。しかしその代金は副学長である彼が決め、適正価格に僅か上乗せした分を徴集し、残りは全て大臣へと戻している。

古典的な不正であるが、古くから続くだけあって簡単で見つかりにくい。

しかし相手は出費がかさんでいるのか……最近の発注は随分と容赦がない。

《あの天才児がこれ以上の仕事を受ける気配は無い。ならば簡単な物を他の学院生に作らせ、あれには難しい物のみ押し付けるしか無いか……》

馬車の座席に深く腰掛け彼は息を吐いた。

プレートに術式を刻める者は何人か居るか、アイルローゼ以外に高度な術式を刻める者は学院には居ない。抜き出た天才であるアイルローゼが別格であり、高度な技術を持つ魔法使いは国が管理する『工房』の方で管理されるからだ。

国の高官たちはあの天才を手に入れたがっているが、学生と言う身分である以上手出しは出来ない。

《学院長が彼女を手放すとは思わんが……これからの対策は何かしら考えねば……》

思案し続ける彼は、不意に馬車が揺れ停車するのに気付いた。

「どうかしたか?」

外に居る御者に声をかけるが返事が無い。

不安に思い御者席側の後方にある小窓を開けて確認すると、中年の御者はカクンカクンと船を漕ぎ寝ていた。

「……魔法か」

皮肉気に鼻を鳴らし、彼は手近に置いてある杖を掴む。

魔道具である杖に魔力を流し発動状態にし、扉に鍵を掛けて馬車の中に籠る。

防壁を張ることの出来る杖があれば籠城できるはずだ。現在地が何処かは分からないが、しばらくすれば御者が起き出すかもしれない。起きなくても別の馬車が通りかかれば助けを求められる。

きつく杖を握り締め時間が経つのを静かに待つ。何度も唾を飲み続け、口の中が乾ききった頃に……ゴロゴロと車輪が回る音が聞こえた。馬車が来たのだ。

閉じていた扉を開き彼は外に出る。やって来た馬車の前に飛び出すと両腕を広げて停車させた。

「……危ないな~。どうかしたのか?」

「済まん。魔法の攻撃を受けて立ち往生していた。出来たらその馬車に乗せて欲しいのだが」

「それは……ちょっと待ってくれ」

御者が馬車の中に声をかける。中に居る主人に伺い出も立てているのだろう。

いつ攻撃が来るのか……ビクビクしながら待つと、御者が降りてタリームを馬車へと誘う。

「主人が『どうぞ』と言ってますので」

「助かる」

開かれた扉に対し、咄嗟に中へと入る。

空いている座席に腰を下ろし……深く息を吐いたタリームは、その目で馬車の中に居る主人を見た。

学院長と赤毛の天才児が揃って座っていたのだ。

「……学院長?」

「これはタリーム。災難であったな」

「……」

ニヤリと笑う彼に寒気を覚え、タリームは自身の腕を擦る。

「ちょうどお前を呼びに行くところだったのだよ」

「……自分をですか?」

「ああ。アイルローゼたちが学院内でしょうもない遊びをしてな。何でも教師や講師たちが隠している物を暴くという遊びだ」

「……」

驚愕した視線をタリームは赤毛の少女に向ける。

やる気の無さそうな様子で窓枠に肘を突いて外を見ている少女の顔が、微かに動いて彼を見た。

「個人の机の中などを暴くなど言語道断だが……面白く無い物が複数発見されてな。近衛の方に報告しなければいけないやら、国王様に報告しなければいけないやら、大変な事態になったのだよ」

「……そうですか」

理解しタリームはきつく杖を握った。

このまま魔道具を発動して2人の身動きを封じて逃げる。

単純だが効果的な作戦を考えだし実行しようとして……彼は急に呼吸が出来なくなるのを感じた。

いくら吸っても空気が胸の中に入って来ないのだ。

苦しさに喉を押さえて口の端に泡を浮かべる。

震える視線で実行したのであろう人物を見ると……アイルローゼが柔らかく笑っていた。

「良い夢を。目覚めてからは悪夢のような日々が待って居るでしょうけどね」

冷たく言い放たれた言葉を耳に残し、彼は深い暗闇の中に意識を落とすのだった。

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