軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグさま~!

「今日はいっぱい休んで満足です」

「はい」

ノイエと並んでベッドで横になる。

夕飯も一緒に食べて、お風呂も一緒に済ませた。

これでもかといっぱい眠ったけど……それでもノイエを抱きしめて居たらまだ眠れる気がする。

と、ノイエが僕の顔を覗き込んでキスして来た。

「アルグ様」

「ん?」

「したい」

「明日いっぱいしよう」

「む?」

「今日はお休みなのです。だからノイエも今日は我慢」

「……」

「そうしたら明日はいっぱい頑張るから」

「本当に?」

「約束します」

「……はい」

またキスして来てノイエが僕を抱きしめて横になる。

ああ幸せです。この幸せの為に明日から頑張れる気がする。

「ノイエ」

「はい」

「大好き。愛してるよ」

と、またノイエが僕の顔を覗いて来た。

「好き、です」

「うん」

キスして甘えて来るお嫁さんが本当に可愛い。

「っく……かはっ」

不意に目を覚ましたノイエは苦しんでいる彼を見てそっと抱きしめた。

自分と同じで"怖い"のを見ているのだろう。

「大丈夫」

「ごめん……」

「ん?」

「ごめんな、さい」

「……」

怖いのが終わらないのか苦しんでいる彼が謝っている。

ノイエはそっと彼を放してその頬にキスをする。

「大丈夫。アルグ様は私が護る」

「ごめん……かあさん……」

「大丈夫」

もう一度キスをしてノイエは改めて彼を抱きしめた。

ここ最近何度も彼の口から聞く『かあさん』の言葉が気になっているが、それでもノイエは相手を抱きしめてこの時が過ぎることを願う。

きっと起きればいつもの彼だから。終わらない夜は無いのだから。

ゆっくりと身を起こしたノイエは、その手を壁に向け伸ばし魔法語を綴る。

壁に埋められている照明のランプに火が灯り部屋の中を明るくする。

座った状態で体を動かしベッドを降りると、前々から準備をしていた魔道具をベッドの下から引っ張り出した。

物理的に彼を殺そうとするのは不可能だ。ノイエの体が拒絶し、全く力を出せなくなる。

直接的な魔法攻撃で殺そうとするのも不可能だ。アイルローゼの『腐海』なら出来るかも知れないが、それほどの魔法を駆使しなければ出来ない時点でやはり無理だ。

だが今回の騒ぎで一つだけ可能性を見つけた。

彼には間接的な魔法なら使用できる。自分が施した『転移』の魔法は効果があった。

ならば出来るはずだ。自分は"あの日"を引き起こした張本人。召喚や召還に関してはあの天才的な魔女よりも研究と研鑽を繰り返した自負がある。

「殺せないのなら殺さない方法でどうにかすれば良いのよ。その為の準備はずっとして来たのだから」

ずっとずっと……仲間たちの協力が得られなかったあの日から、グローディアは1人で準備をして来た。

自分の秘密を白日の下に曝してしまう可能性のあるアルグスタを始末する。その為の準備を1人で。

アイルローゼは壁に寄りかかり目を閉じていた。

別に今日そんなことを望んでいなかったと言ったら嘘になる。

ただ自分の感情が他人のそれと同じなのか良く分からない。経験が無いからだ。

それでもあのセシリーンが指摘して来るのだからそうなのだろう。

自分はあの馬鹿な弟子のことが『好き』らしい。不本意ながら。

そっと膝を抱えて息を吐く。

何とも言えない感情に胸が押しつぶされそうになった。

この気持ちが、この胸の痛みが、人を好きになっている証拠だと言うなら自分はそうなのだろう。

いつもの癖で客観的に自分を見つめてアイルローゼは苦笑した。

ゆっくりと辺りを見渡し息を吐く。

ノイエの中に存在する明確な"部屋"は、普段アイルローゼが居る『魔眼の中心』だろう。

後は蟻の巣のような無尽蔵に伸びる通路だけがあり、各々が好きな場所を占領して部屋代わりに使っているのだ。

アイルローゼには特に定めた場所は無い。その時の気分で空いている場所を使うのだ。

と……自分の知らない魔力の流れを察して、アイルローゼは目を開いた。

「ノイエの魔力を使った魔法?」

目に映る魔力の流れからそう判断した。

そんなふざけた魔法を作り出す者が自分以外に……そう思った瞬間、胸の中で騒めいた。

「セシリーン! 誰が魔法を!」

あの化け物の耳なら確実に届くはずだ。そして彼女の声なら自分の耳に届くはず。

返事は……無い。

「くっ!」

言いようの無い不安に立ち上がり駆け出す。

良くは分からないが不安だけが胸の奥から溢れて出来る。

必死に足を動かしアイルローゼは普段居る場所へと戻った。

飛び込み視界に入ったのは、喉を押さえ床の上を転がるセシリーンの姿。

そして誰かがノイエの体を使っている。

見間違えることなど無い。彼女は自分とは共犯関係の大罪人だからだ。

「グローディア! 今直ぐその魔法を止めなさい!」

我を忘れアイルローゼは、棒立ちするグローディアの元へ駆け寄った。

「うにゅ?」

全身が焼けるように痛くて熱い。

誰の悪戯かと思ったら……辺り一面が物凄く明るくて、目が開けられないほどだった。

「って何事~!」

吠えてみるけど返事も無い。

たっぷり寝過ぎて変な夢……だとしたらこの全身が焼けるように痛い理由が分からない。

「ちょっ! 無理無理無理っ! 痛すぎるって!」

燃えてしまいそうなほどに体が痛い。

必死にベッドの上を張って移動すると、こちらに手をかざす人の姿があった。

金髪碧眼の……たぶんグローディアだ。

「何を?」

「貴方は邪魔なの」

そっと涙を溢しながら彼女が口を動かす。

「このままだと貴方の優しさで私の嘘が崩れ去る。そうなれば皆が危険に身を晒す。何よりリア伯母様もノイエもよ。私はそれを許せない」

歩いて来た彼女が足を振り上げて僕を光の中に蹴り戻す。

全身が痛すぎて相手の攻撃を避けられなかった。

「だから貴方には元の世界に還って貰うの。そうするしかもう方法が無いから」

「……嫌だ」

「どうして? 元の世界の方が」

「あっちにはノイエが居ない」

「……」

もう一度悲鳴を上げる全身を動かして光の外に出ようとする。

「ノイエの居ない世界なんて……僕は還りたくない」

「……忘れなさい。これは夢だったのよ」

「くっ!」

リグとは違い魔力の強いグローディアに対する妨害は流石のアイルローゼでも出来ない。逆に弾かれ床を転がった。

それでも魔女は顔を上げてもう一度グローディアに飛びついた。

「ふざけるな馬鹿王女! そんな魔法……ノイエが泣くだけでしょう!」

また弾かれて床を転がる。

こうなれば禁じ手を使ってもと魔女は自身の最大級の魔法を口にする。

「止めとけよ。そんな物を全力で使ったらノイエの魔眼が吹き飛ぶ」

横合いから伸びて来た手に自身の手を掴まれる。

視線を動かしたアイルローゼは彼女を見た。

「……カミーラ」

「全く……どうしてお前らはこうノイエを泣かせるんだ。後でお仕置きだからな」

長身の女性はそう言って笑うと、まだ片方しか回復していない右腕をグローディアに向けた。

「邪魔者は押し出すって言うのが昔からの相場だ」

彼女の魔法が解き放たれた。

「っ!」

身を折りそれでも初撃に耐えたグローディアは、最後の言葉を綴る為に両腕をベッドに向ける。

「やめ……ろ」

「ダメよ。貴方は本当に厄介なの。だから消すわ……邪魔をしないで!」

再びの攻撃に絶叫し、グローディアは最後の魔法語を綴った。

「還れ!」

「うっあ……ぁぁぁぁああああ~!」

光が強まり全てを飲み込む。

遂にカミーラの魔法で吹き飛ばされたグローディアは、ノイエの体を主に戻す。

目の前の事態を認識できなくても、ノイエは本能でそれを察した。彼の危機を。

「アルグ様っ!」

「来るなっ!」

光に飛び込もうとしたノイエが止まる。

彼の命令だったから反射的に従ってしまったのだ。

その結果……光が消えた。

「アルグ様?」

ペタンとその場に座り込んだノイエは、ゆっくりと"それ"を見つめてボロボロと涙を溢す。

彼はそこに居る。ただ居るだけで……彼らしさを微塵も感じない物体が。

「アルグさま~!」

ワンワンと幼子のように泣くノイエを慰める者などいなかった。

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