軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ころしてあげる

「何なんでしょうね~」

「ですね」

ノイエ小隊の待機所となっている王都の郊外で、ルッテとモミジは並んで木製のベンチに腰かけて空を見ていた。

空を覆っていた雪雲はだいぶ薄れ、最近は雨も降らない。

日照時間が増えたこともあって雪解けが進み、大地からは新しい生命が芽吹き葉を開いている。

そろそろ本格的に新緑の季節が来る。つまりそれはドラゴンの活性化が始まると言うことだ。

「気づけばこの小隊も人が増えて減って……わたしなんて事務の責任者ですよ? 狩人の娘なのに」

「お悔やみ申し上げます。わたしなんて実家から『これ以上は逆効果らしいので諦めなさい』と物凄く簡潔な手紙が届きました」

「あ~。それは何とも言えないですね」

「何ですか? ご自分がお見合いの方が上手く行ってるからって?」

「突っかからないで下さいよ~。これでも結構苦労してるんですから~」

ただ幸せそうにへにゃんと笑うルッテにモミジは結構本気でキレそうになっていた。

信じて貰えないだろうが……モミジは本気でアルグスタの愛人でも何でもいいから一緒になりたいと考えていたのだ。

「絶対に無理と言われた2人でもどうにかくっ付くのに……何でわたしだけ?」

「あ~。その無理をどうにかする人が敵に回ってるからじゃないですか?」

「……良いんです。どうせわたしなんて……」

また膝を抱いてメソメソと泣き出したモミジからルッテは視線を外した。

すると待機所の中心部分に存在する広場に白い少女が姿を現した。

真新しいプラチナの魔法鎧を身に付けたノイエだ。

キラキラと輝いて見える鎧は贅の限りを尽くして作られた一級品らしい。その金額を見た事務担当のクレアなど、ゼロの数を数える度におかしな奇声を発して……最後は何故か額を机に打ち付けていたと言う。

国の予算に匹敵すると言われるほどの装備を身に付けたノイエは……キョロキョロと辺りを見渡した。

「どうかしましたか? 隊長?」

「みんなは?」

「はい?」

「……呼ばれた気がした」

とだけ言って彼女はまた姿を消すのであった。

「……何なんだろう?」

休み明けの運動か何かかと結論を付けて、ルッテは軽く肩を回して本日分の仕事に向かうのであった。

ちなみにモミジはその日一日膝を抱いて『人生って何だろう?』と呟いていたらしい。

「それにしても数が多過ぎますね」

「はい」

眼前に並べられた資料の山を見たコンスーロは、何故か胸やけをした気分になった。

隣りに立つ近衛所属の魔法使いの少女は、顔色一つ変えずに次から次へと荷物を紐解いていく。

資料の山が終われば次に出て来るのは押収した実験道具とその材料だ。

「流石に全ては無理でしたが、種類ごとに少しずつ確実に集めて来ました」

「……人と家畜とドラゴンですか。これで何を?」

「たぶん家畜は餌だと思います。食い散らかした骨や皮の残骸も発見しました」

「ならそれを食したのは?」

「ドラゴンか人か……それかそのどちらでも無くてどちらでもある者かもしれないですね」

「……厄介な話ですね。これは」

頭は良いが無表情で仕事をする少女にコンスーロは息を吐いた。

どうやら自分はまだまだ休めそうにないと知り……少しだけ故郷に帰りたくなったのだ。

「歩け馬鹿共がっ!」

先頭を行く男が声を張り上げ地面を鞭で打つ。

パチッと弾けた小石が飛散するが、誰も気にした様子など見せずに黙々と歩く。

「この山を越えれば共和国領だ!」

大きく曲がった鼻を腕で擦り、まだズキズキと痛む肩に悩まされながら鞭を打つ。

パチッと音が響くごとにノロノロと"化け物"たちが前へと向かい歩く。

「俺はお前たちを売って地位と金を得る! お前たちは共和国できっと良い仕事を得られる! 全員が幸せになれるんだ! 死ぬ気で歩けっ!」

暴れるように鞭を打ち、鼻曲りの男は王都で得た屈辱を思い出していた。

自分を徹底的にいたぶった相手が許せない。

調べは付いている、あれがユニバンス一の厄介者と名高いアルグスタ・フォン・ドラグナイトだ。

「歩け歩け歩け! そして共和国でお前たちは完全体となってあの憎き小国……ユニバンスを護る王家の一族と何より白い小娘をぶち殺すんだ! 良いなっ!」

「「……」」

誰も返事をせず黙々と歩いている。

そのどれもが頭の天辺からフードを被ったローブ姿の者たちばかりだ。

ただ1人だけ鼻曲りの言葉に反応して歩みを止めた。

「またお前か! この桃色!」

フードの中からその桃色の髪を覗かせる人物に、鼻曲りは駆け寄った。

「歩けこの馬鹿がっ!」

振り上げた鞭が相手を打とうとした時、パシッと鼻曲りの腕を掴んだ。

その勢いでフードが外れ……汚れた桃色の長い髪を晒す。

「ころす……ころせばいいの?」

「……ああ」

「ころせばいいの」

鼻曲りは彼女が掴んでいる自分の腕を激しく振るって外す。

桃色の髪の隙間から覗かせる桃色の瞳は……ジッと鼻曲りを見つめていた。

「ころしてあげる」

壊れたように肩を震わせ、女性はケタケタと笑い出す。

「ころしてあげる。ノイエ。あなたがわたしにしたように……こんどはわたしがころしてあげる」

壊れた玩具のようにケタケタと笑う女性の声は、寂しくそしていつまでも響いていた。

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