軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

若々しくてビックリした?

「とりあえず帽子が無いからスカーフ巻いて」

「迷惑をかけるね」

色の違うノイエの髪を隠すために、急いで彼女にスカーフを巻く。

この辺はまだ貴族地区の近くだから一般の人は少ないし大丈夫のはずだ。大丈夫かな?

「セシリーンが大丈夫って言ってる」

「……本当に便利だけどこっちの心を覗いてない? あの歌姫さん?」

「うん。だからみんなから怖がられる。セシリーンは」

「あ~うん。でもたぶん良い人だよ?」

フォローをしたらリグが呆れた感じの視線を向けて来た。

「……そう言って君はみんなに優しくするからノイエの中が大変なことになる。気をつけた方が良いよ」

「大変なの?」

確かに身に覚えしかないけどね。

うん。ホリーとファシーは嫁状態だし、レニーラは怪しく腰振って誘惑して来るしね。

はっ! まさかリグにまでフラグがっ!

「リグは大丈夫?」

「……何を期待しての言葉か分からないけど、ボクは大丈夫だよ」

普段の眠そうな表情をそのままに、リグがフニャッと笑う。

「君は友達だ。それともボクも恋人にしたいのかい?」

「出来たらこれ以上は……」

「そうだろうね。これで仮にボクが先に君の恋人になったらアイっ」

カクンと首が折れてリグがノイエへと戻る。

顔を上げたお嫁さんは、手でスカーフを確認してから僕の腕に抱き付いて来た。

「アルグ様」

「うん」

「次は?」

「……色々途中だったね」

切り替えが早いと言うか、ゼロからトップスピードに持って行くのが早すぎると言うか……違った意味でノイエの思考に驚くわっ!

怪しまない? 自分の髪に知らない間にスカーフ巻かれてるんだよ? 普通なら病気かホラーか時間停止を疑うよ?

「……とりあえず最後にあそこへ行きますか」

「帰らないの?」

「飽きた?」

フルフルと頭を振ってノイエが甘えて来る。

「一緒に居たい、だけ」

「そっか」

「はい」

微かに笑ってノイエが普段よりも甘えて来て可愛いのです。いつも可愛いお嫁さんですけどね。

「なら次の目的地へ」

「はい」

夫の腕に抱き付いているノイエがクスッと笑っていることに……アルグスタは全く気づいていなかった。

「ボク……思うんだ」

「何かしら?」

隣に居るリグにセシリーンは顔を向ける。

「夢の中でアイルが彼に対して注意していた言葉の意味を」

「ノイエが嘘をついているかも知れないって話?」

「……夢じゃなかったんだね」

天地が逆転した状態で、リグは深い溜息を吐いた。

「首の骨が折れてるよ」

「アイルの触れちゃいけない乙女心を触れようとしたからよ」

「だからってボクの頭を掴んで投げる?」

「乙女は怖いのよ」

クスクスと笑い、リグと入れ替わってノイエの振りをしている魔女を見る。

彼は全く気付いていない。だからこそ彼女も回数を重ねるごとに調子に乗っているのだけど。

「あれでまだ彼のことを何とも想っていないと言うアイルが凄いと思う」

呆れながらリグは体勢を戻し座る。ただ首の骨が折れているせいで頭は座らないが。

「大変ねリグも。彼のことは少なからず好きでしょう?」

「……友達で良いよ。好きになっても何したら良いか分からないしね」

頬を軽く赤くする褐色の相手にセシリーンは言葉を続ける。

「ホリーとファシーと同じことをすれば良いのでしょう? 彼に甘えればしてくれるわよ」

「……それをするのが恥ずかしいから友達で良いんだよ」

顔を完全に真っ赤にしたリグは、立ち上がると折れた首を押さえて外へと向かい歩き出す。

「行ってしまうの?」

「うん。満足したし疲れたからしばらく寝るよ。お休み」

「はいお休みなさい」

優しく手を振ってセシリーンは遠ざかるリグを見送った。

父親代わりの人物に感謝の言葉を口に出来たことを凄く喜んでいる彼女の足取りは、今まで聞いたことが無いほどに軽やかで心地が良い音をさせていた。

心地良い音色の余韻を楽しんだセシリーンは、ゆっくりとその顔を魔女へと向ける。

ノリノリでノイエをしている魔女を見つめる歌姫は……口元を押さえクスクスと笑う。

それは悪魔が獲物を見つけたかのように軽やかな笑みだった。

「色はこっちが良いかしら」

「あまり派手なのは」

「ならこちらで」

「……最初の物で良いです」

選択肢が白か黒かの2択だった。

今から訪れる場所を考えると、流石に黒いドレスを着て行けないフレアは白を選ぶしかないのだ。

渋々着替え、スィークの案内で廊下を進む。

勝手知ったる他人の家だ。子供の頃暮らしていた我が家でもある。

だからこそ言いようの無い不安に狩られる。

そっと胸元に手を当てフレアは歩きながら何度となく呼吸を整えようとする。

緊張で口の中が乾き、何度も舌を動かし潤いを求める。

飲み水が欲しくなった頃……その扉の前に辿り着いた。

「入りなさいフレア」

「はい」

開かれた扉を抜け中へと入る。

部屋の中央に天井から四方に布が垂れされ姿隠しをされている。隠されているのはベッドだと理解出来た。

「フレア」

「はい」

一歩踏み出そうとした彼女に扉の横に立ったスィークが声をかけた。

「驚かないこと。そして相手に危害を加えないことを誓いなさい」

「え? あっはい」

注意と言うより警告の言葉にフレアは身を引き締めた。

「もし約束を破るようであれば背後から首を落とします。その時は気合を入れて魔法を使いなさい」

「あの時の魔法は私のではなくて……良いです。頑張ります」

相手に背後から剣を突き入れられたことを思い出し、フレアは全身を震わせた。

あの時は暗竜と名乗っていた者の力に飲み込まれ、体の大半が暗闇だったから無事だった。

今もし全力で伝説の暗殺者と呼ばれる最強の警護人に首を狙われたら、半ばまで切られるかもしれない。

色々と諦め、覚悟を決めたフレアはベッドに向かい歩み出した。

「もうスィークは……フレアを脅し過ぎです」

「っ!」

姿隠しの布を手で払い姿を現した者の声ははっきりと覚えていた。

だが見せたその姿は……正直良く声を上げなかったと冷静な自分が褒めてくれる。

竜人と言われた存在が、ラインリアの声を発していたのだから。

「久しぶりねフレア」

「ラインリア様?」

「ええ」

クスリと笑い彼女はその顔に笑みを浮かべる。

「若々しくてビックリした?」

「……はい」

頷くしかフレアに選択肢が残って無かった。

(c) 2019 甲斐八雲